表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
130/151

第百四話「持ち出すもの」

「さて、ユウキ。一つ貴様に言っておくことがある。よいか?」


「何?」


 今はリウンに我慢してもらう形になってしまったが、森の魔女の聖域から出発しようとした矢先、ウェニアが何かしらの指示を出そうとしてきた。


「貴様の魔力を大量に使わせてもらう」


「僕の魔力を?どうして?」


 どうやら、ウェニアは何かしらの大規模な魔法を使うつもりらしい。

 既にリウンの母親の「超越魔法」は消失している。

 一体、何を目的にして、どんな魔法を使うのかわからずに彼女に訊ねた。


「この家にあるこれからの旅に役立つものを我の空間に収める」


「え!?」


 ウェニアはこの家にあるものを持ち出すと告げてきた。


「何を驚く?

 これから、食糧なしでこの森を抜けるつもりか?

 何よりもこれだけの食糧を野晒しにして捨て置くつもりか?」


「いや、まあ確かにそうだけど……」


 リウンの家を滅茶苦茶にしたのに食糧を持ち出すことに罪悪感を感じると共に、食べ物を粗末にすることへの抵抗感が鬩ぎあい、無理やり納得をすることは出来た。


「それに食糧が時として金銀に勝る価値を示すのは貴様も見ただろう」


 ウェニアはリストさんの村で見られた人々の心の荒み具合を例に出し、これからの戦略を優位に持っていくことを示した。

 実際、ルズは金貨に目を奪われたが、その後にリウンの家の食糧を略奪しようとしており、その際に村の人々は小麦を奪うことでリナたちにしてきた蛮行を正当化しようとしてきた。

 ああなったのは村に食糧がなかったのも大きな理由だ。


「それにこの食糧を市で取引していけば、自然と周辺の国々の経済は混乱する。

 その理由は分かるよな?」


「うん。僕の世界でもそういうことは習うから」


 ウェニアの言わんとしていることは需要と供給のバランスを少し不安定に変えることであることは理解できる。

 この世界は悲しいことに戦争の真っ只中だ。

 そうなると物資が足りなくなることは火を見るよりも明らかだ。

 つまりは供給不足となり自然と物価は高くなる。

 そんな時にいきなり大量の物資を市場に持ち込む人間が現ればどうなるか。


 ……あれ?


 ウェニアの意見を単純に受け入れようとした時にとある疑問が僕の脳裏に浮かんだ。


「ちょっと待った。

 仮にお金の価値が下がっている時にここで僕たちが食糧を増価させたら、お金の価値が上がるし、食糧の価値は下がるんじゃ?」


 ウェニアが相手の市場経済の崩壊を目的としている場合、ここで僕らが市場に食糧を持ち込んだら、経済活動を活発化させて逆に相手の市場を安定させることになって逆効果になりそうな気がしてしまったのだ。


「?

 貴様、貨幣の基となる金や銀が無限にあるとでも思っているのか?」


「え?」


 しかし、僕の疑問に対して、何を言っているのか分からないといった顔で返してきた。


「……!?

 まさか!?いや、そのことは後でゆっくりと話す。

 それよりももう一つ、この家から持ち出していくものがある」


「う、うん。

 それは?」


 しばらくして、ウェニアの顔に驚愕の色が浮かんだ。

 けれども、それを置いて彼女はもう一つ持ち出していくものがあると説明し出した。


「この家にある森の魔女の書物だ」


 それは森の魔女、リウンの母親の残した多くの本だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ