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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第百二話「行動の結果」

 リウンの口から出てきた言葉は僕を責めるものでもなく、恐怖から来る拒絶のものでもなかった。

 ただ僕を心配するものであった。

 その言葉が信じられず、彼の顔を眺めたが、しかし、言葉とは裏腹に彼の顔には恐怖と悲しみが浮かんでいた。


「どうして?」


 僕はその言葉の意味を求めた。

 そんな言葉を投げかけられる資格など僕にはない。

 その証拠にリウンは僕への恐怖や悲しみを抱いているはずだ。

 恐らく、怒りの感情も。


 いや、分かってる……分かってるけど


 本当はどうしてリウンがそんな言葉を僕に投げかけてくれたのかは僕は知っていた。

 だけど、それを受け容れてしまえば僕はただの卑怯者になる。


「だって、お兄さん。

 辛そうだから」


「う」


 やっぱり、そうだった。

 リウンは住む場所、いや、それ以上に母親との思い出が詰まっている家を壊されたのに僕を心配してくれた。

 きっと、今の僕は子供に心配をかけさせてしまう様な表情をしてしまっているのだろう。


 こうなるのは目に見えることじゃないか


 リウンがこんな反応をするのはよく考えてみれば簡単に想像出来ることだった。

 この子は自分が辛い時でも、誰かが辛そうならば自分のことを我慢して相手を思いやれる子だ。

 そんな優しい子供なのだ。


「……ダメだよ、リウン」


 だけど、僕はその優しさに甘えたくなかった。


「怒りたい時や悲しい時はちゃんと怒らないと。

 僕は君の家を壊したんだ。

 だから、君は怒っていいんだ」


 このままリウンの優しさを理由に彼の怒りや悲しみに蓋をすることなんて在ってはならない。

 それは彼が本当に辛い時に誰かに助けを求める弱さ(強さ)を奪うことになる。

 優しい子だからこそ、この子はちゃんと自分の心の声を誰かにぶつけることが必要になるはずだ。

 少なくても、僕みたいになってはいけない。


「できないよ!!!」


「………………」


 リウンは僕の言葉に強い怒気で否定した。


「だって……!!だって……!!

 お兄さん、本当に辛そうなんだもん!!

 お母さんの魔法がお兄さんを殺そうとした時でも、お兄さんは僕に優しかった!!

 なのに怒るなんて……!!

 うぅぅ………………うわあぁああああああああああああああああああ!!!」


 リウンは優しさから生じる理性で僕のことを憎むことが出来ないことを伝えようと必死になるが、それでも、涙が自然と出てきて大泣きするしかなかった。

 それは怒りの感情を知らず、慣れていない彼なりの僕への怒りだろう。


「ごめん。本当にごめん」


 それを見て、僕はただ謝るしかなかった。

 こんな子供を泣かしてしまったことへの悔しさで涙が出てきそうになるが、堪えることにした。

 それが唯一、今僕が出来るケジメだと思ったからだ。


「こうするしかなかったんだ。

 ごめん」


 他に方法はなかったのかと今更になって、意味のない問答が浮かんできたが、やはり、これしか本当にこれしか方法がなかった。

 目の前の優しい子の涙を見て、この子が何時かは向き合わなくてはならない罪とも言えない罪を、悪意や欲望から生じるであろう弾劾から守る方法はこれしかなかった。

 この子は優しすぎる。

 仮令、相手が完全に悪くてもそれを真に受けて言い返せない子だ。


 どうして、これしかなかったんだろう


 母親の願いと彼の未来。

 その二つを大事にしたかった。

 たったそれだけだったはずなのに今、目の前に居るのはただの泣きじゃくる子供の姿だ。


 僕もきっとこんな感じで見捨てられたのか?


 そんな風にこの方法しかったなかったという行動の結果を見て、自分が見捨てられたのも同じ理由なのかと僕はふと思ってしまった。


 最低だ。本当に最低だ


 自分が憎んでいた人間と同じ行動をしたことへの自己嫌悪が頭に過った。


 せめて、ちゃんと向き合わないと


 僕にはもうそれしか出来ることがないだろう。

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