第百話「終わらせる意思」
この声が僕の僅かに残っている迷いから生じた幻聴なのかはわからない。
責めている様にも、単純に言葉通りに僕の答えを求めている様にも、ただ僕を止めたい様にも、その全てにも聞こえてきた。
―あなたのしようとしていることがあの子の幸せになの?―
その言葉にこの聖域を壊そうと握っていた力が少し抜けた。
―あの子が怖がることをするということはあなたもあの男たちと変わらないのじゃないかしら?―
声はただ庇護するべき存在を、いや、愛する存在を守りたいだけだった。
それは当たり前すぎた理由だった。
「………………」
その問いかけに一瞬だけ、僕は言葉が詰まった。
だけど
「その理由はあなたが一番知っているはずだ」
すぐにその言葉を言うことが出来た。
守りたいという願いも、見送りたいという願いも同時に存在していていい願いだ。
この声も結局、最初は我が子が巣立つまで守りたいというものが最初の願いだったはずだ。
その機会をただ永遠に失ってしまっていただけだった。
この声は彼女の心残りなのかもしれない。
だから……
この声が本物の彼女のものであるのかはわからない。
それでも、それが嘘でも本物でも僕がすべきことは決まっている。
その願いを繋げたいから!
彼女が世界の重圧や残酷さを理解しながらもただ我が子が答えを見つけてくれることを単純に願った。
その願いを今でもいいから繋げたい。
「リウン」
僕は再び自分の意思で剣に力を入れ直した。
その僕の意思に呼応して、「テロマの剣」の刃に青白い光が宿りだした。
「一緒に行こう!」
リザの時と違って、彼の意思に反した言葉だ。
それでも、僕は彼の母親の願いとそれを繋げたいという僕自身の願いのためにその言葉を貫きたかった。
―……あの子をお願いします―
そのまま僕はその声が聞こえた方向へと「テロマの剣」を振りかざした。
―ごめんね。リウン―
直後、青白い光が剣から放出され、その光は斬撃となった。
―さようなら―
その我が子に聞こえない別れの言葉と共にまるで空間に裂け目が出来たかの様な感覚が家屋に響き渡った。
それはまるで、この聖域が終わりを迎えることを告げる鐘の音にも感じられた。




