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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第九十八話「暗闇の中の光」

「君のお母さんは君と同じかそれ以上に森の外を怖がっていたんだ」


「お母さんが?」


 リウンの母親が残した日記。

 そこに書かれていたものはリウンと同じかそれ以上の森の外への恐怖と息子への愛情だった、

 ウェニアに朗読してもらった日記の後半の部分において、森の魔女は自らが愛した人物、恐らく、リウンの父親の行方を捜す為の旅に出ようとしていたことが記されていた。

 その中には彼女がこの森に百年もの間、隠れ住んでいた動機が彼女がリウン以上に森の外の人間から受けたこの世界の悪意であったことが示されていた。

 森の魔女は「魔族の子」として、幼少期に実の親から捨てられた後、同じ様な境遇の孤児たち共に彼女が言う先生と呼ばれる人物に拾われ育てられたらしい。

 しかし、そのささやかな平穏すらも外の世界の悪意によって残酷に奪われてしまった。

 それは目の前で外の世界への恐怖に怯える我が子が抱く以上の恐怖だった。


「そんな、お母さんが……だったら、僕だって……!!」


 リウンは母親が自分以上に外の世界を恐れていた事実を知ると、さらに外の世界に出ることが出来ないと訴えようとした。

 自分に『外の世界の人たちを助けて欲しい』と言っていた優しく強い母親ですら恐れていた。

 それは余りにも十分過ぎる理由だ。


「君のお母さんはそんな怖い世界を知っていても君が何時か森の外を自分の目で知ることを願っていたよ」


 それでもなお、森の魔女は我が子が森の外の世界を知ることを最期まで願っていた。

 この森の「超越魔法」にしても、リウンが自分が不在の間でも安全に暮らせるようにしていただけだった。

 絶対に安全な森の中に自分が閉じ籠ることは自分が選んだ道であることを自覚し彼女は諦めていた

 そんな自分を連れ出してくれるであろう愛する人間を失ったことで僅かな希望すらも彼女は同時に無くした。

 けれども、その未来を我が子に押し付けるようなことは彼女はしなかった。


「彼女は外の世界に怖い人がいることも知っていたけど、だけど、森の外の人たちを憎んだりすることはなかった。

 そして、君のお父さんとも出会うことが出来た」


「!?」


 リウンの母親は森の外に出ること出来なった。

 それでも、外の世界にいる人々の善意があることを理解してもいた。

 何よりも彼女は大切な人々を奪われながらも、憎む理由が十分にある外の世界の人間である愛する人と出会い、リウンを授かることが出来た。

 彼女は恐怖や悲しみ、憎しみ、怒りがありながらも、決して、外の世界の人々を全て同じに見なかった。


「リウン。

 もし、まだ嫌なら今はここにいてもいい。

 でも、何時かは君は外の世界を見なくちゃいけないんだ。

 最初から決めつけちゃだめだ」


「お兄さん……?」


 仮令、連れ出すことに失敗したとしても、リウンは何時かは外の世界を自分の目で見なくちゃいけない。


『……でも、ケルドさんみたいに私やお父さんに優しくしてくれた人たちはいたよ?』


 リウンよりも世界の悪意に晒され続けたリナは悪意だけがこの世界に存在するわけではないことを教えてくれた。

 僕自身もこの世界で受けた仕打ちがあったけれど、リストさんやケルドさんと言った人々の善意に触れることが出来た。

 それは紛れもなく、リウンの母親が感じていたものだったはずだ。


「リウンは僕やウェニア、リザ……それとリストさんが怖い?」


「!?」


 そして、リウンもそのことを知っているはずだ。

 僕はこの世界の住人ではないし、ウェニアが千年前の人間であるし、リザが魔物であるとしても、彼はこの数日間、僕たちのことを恐れなかったはずだ。


「そんなこと……ないよ!!」


 リウンが重々しい声音で答えた。


「お兄さんたちがあんな人たちと一緒のはずがないもん!!」


 はっきりと彼は自らの母親を奪った人間と僕たちが違うことを告げた。


 もう迷う必要はないね


 リウンがそう思ってくれている。

 リウンの母親の願いを知れた。

 リナやケルドさん、そして、リストさんが教えてくれた光は確かに存在する。


 君を必ず外に連れ出す!!


 先は自分が失敗してもリウンが外の世界を知ることのきっかけになればいいという後ろ向きな考えが過ったけれども、今はそうじゃない。

 彼を連れ出すことへの迷いは完全に吹っ切れた。

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