第九十二話「壊れる仮面」
「リナ。
後少しで出発だから、準備して」
「うん」
リウンの出してくれたこの家で最後になるであろう朝食を食べ終えて、リナに出発の準備をすることを僕は促した。
この家を出てどれだけの危険地帯を歩くことになるんだろう?
リウンの家と言う絶対的な安全地帯を飛び出すことは少なくてもこの森を抜けるまでリナやリウンたちを危険地帯を歩かせることに他ならない。
この森がリウンの母親の「超越魔法」によって魔物がいないはずの外側にも追いやってしまっていることから間違いなく、数日間は危険地帯を歩くことになる。
絶対に守らないと
そんな森にリザやリナといった既に約束で旅をすることになっている面々だけでなく、僕のわがままでリウンすらも連れていくことになるのだ。
今まで、安全なこの家に住んでいたのにその安全を取り上げることに他ならないことだ。
命や実の安全だけは守り抜くのは僕が出来る最低限の誠意だ。
「どうした?
浮かない顔をして。
いや、それはいつも通りか」
「……長い間、こんな感じで生きてきたからね」
ウェニアはいつも通りの暗い表情を僕がしていることを指摘してきたが、こればっかりはしばらくは変えられない。
両親や妹の前じゃ心配をかけたくないから多少は誤魔化しの表情をしていたが、僕みたいな中途半端な人間は笑顔などの前向きな表情や、無駄な争いを生みかねない不遜な態度を取ることが出来ない。
こんな風に誰もがそうなるのは当然だという半ば諦めた表情をするのが僕にとっての当たり前なのだから。
そんな染み付いた小賢しさがのしかかってくる責任の影響ですぐに出てしまっているだけだ。
割とウェニアと出会った時に見せたのが久しぶりの本音かもしれない
ウェニアと初めて会った時に感情のままに叫んだのは今思えば、長い間忘れていた心のままの行動だったのかもしれない。
『生きたい』。
『どうして自分がこんな目に』。
『死にたくない』。
『ふざけるな』。
そんな風に心の中で蓋をしていた言いたかったことをあの時、僕は言えた。
言っても無駄だと勝手に決めつけていた賢い諦めをみっともなく感情的に捨てることが出来た。
「そうか。
一言言っておくが、弱くはなるなよ?
貴様は我が剣を与えた臣下なのだからな」
まるで僕の過去を覗いたかのように僕が諦めを越えて、弱くなることを妥協しようとすることを彼女は許さなかった。
「分かってるよ、
それだけは絶対に」
それに対して、僕はそうはならないとはっきりと答えた。
今までの僕なら、自分が自尊心だけが傷つけられるぐらいなら妥協していた。
だけど、今の僕は弱いことが許されない。
やるべきことを諦める弱さは罪でしかない。
「何より約束したからね。
ありがとう」
「フン。
分かっているのならば、よい。
では、リウンの説得は任せるぞ」
「うん」
最後の発破をかけたことに満足したウェニアに背中を押されて僕はリウンの下へと向かった。
今年最後の投稿です。
更新ペースが遅れて申し訳ありません。
来年もよろしくお願いします。
 




