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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第一章「王との契約」
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第十話「命の選択と王の支配」

「何をしているんだ貴様は?」


「あ……」


 僕が大トカゲの傍らで少しでも大トカゲの苦しみが和らげばいいと思ってさすっているとようやく魔王がこの部屋に辿り着いた。


「ふん……」


 そんな僕の行動を目にして魔王はその意味が理解できたらしい。


「おい。なぜトドメを刺さないのだ?」


「………………」


 魔王は既に死にかけている大トカゲを未だに殺そうとしない僕に対して残酷な質問をぶつけて来た。


「見た所、そいつは貴様が与えた(・・・・・・)苦しみで今にも死にそうだ。

 いや、それどころか苦しくて今にも死にたいだろうな。

 なあ?どうして貴様はその苦しみを絶ってやらないのだ?」


「そ、それは……」


 魔王の言う通りだ。

 確かに大トカゲに命を狙われ、魔王が僕を強化したとしても大トカゲを痛めつけ、瀕死にしたのは紛れもなく僕だ。

 それなのに僕はただ慰めるように大トカゲのことを撫で続けている。

 いっその事、息の根を止めてやった方が大トカゲにとっては救いかもしれない。

 そんな中、僕は


「……なあ、こいつを回復させてやらないか?」


「はあ?」


 自分でも支離滅裂だと理解しながらも魔王に大トカゲの回復を頼んだ。


「どうしてだ?」


 魔王はそんな僕にかなり冷めたような視線を向けて来た。

 明らかに僕の心意を見据えたうえで。


「……一か月後に連中が来るし多少の足止めにはなるだろ……?」


 それでも僕はさも合理的な理由があるように提案して見せたが


「フっ……やはり、貴様は馬鹿だな」


「うっ……」


 魔王は当然の如く、そんな虚飾に満ちた言葉など無視した。


「貴様、先に我に対して『どうしてテロマを殺さなかった』と言う割には……

 なぜそいつを殺さんのだ?」


 魔王の言う通りだ。

 僕はこいつに対して、甥である勇者を殺さなかったことを贔屓だと非難したに等しい。

 『命を狙われたのに』と言う同じ理由なのに。

 いや、それ以上に僕は


「貴様とそいつは他人どころか、人と獣の違いがある。

 我と血の繋がりがあったテロマと異なるのだぞ?

 なぜ殺さん?」


「………………」


 一方的な加害者で面識もないどころか、対話も無理な大トカゲを庇っている。

 これは明らかに僕の方が愚かだ。

 僕は答えること、いや、何かを口に出すことすら出来なかった。


「先程、貴様は我を「博愛主義」等と詰ったが我からすれば貴様の方こそ、そうとしか見えんぞ?」


「ぐっ……」


 魔王は次々と僕の矛盾を突いてくる。

 過去の僕の言葉をそのまま返す様に。


「うるさい……」


「………………」


 そんな魔王の言葉による拷問に対して僕は


「うるさい……!!」


 怒鳴って黙らせようとしてしまった。


「仕方ないだろ!!怖いんだから(・・・・・・)……!!」


「………………」


 命を奪う(・・・・)

 そんなことをしたことがない僕にはそれがとても怖くて仕方がなかった。

 いきなりこんな世界に連れて来られて戦いを強要されて、

しかも役立たずだと言われて馬鹿にされて、殴られ、さらには見捨てられた。

 そんなの平和な世界で生きて来た僕には耐えられないことだ。

 いつも僕が食べていた肉や魚、野菜、ご飯が生きていることだって知っている。

 それでも実際に自分の手で命を奪うのは怖いんだ。

 自分の言っていることが綺麗事だと理解しても。


「……それに聞こえたんだ……」


「……ん?」


 それに僕にはこのまま大トカゲを死なせたくない理由がもう一つあった。


「『憎い』て……」


 僕は聞いてしまったのだ。

 あの大トカゲをの『憎い』いう叫びを。


「……おい、貴様何を……」


 魔王は戸惑う。

 ああ、きっとこいつには聞こえなかったのだろう。

 あの声が。


「こいつは『憎い』て言いながら僕を襲って来たんだよ」


「『憎い』だと……?

 魔物が……?」


 珍しく魔王が驚いている。

 どうやらこいつもそれを知らなかったのだろう。


「……なんで襲ってきたこいつが『憎い』なんて思うのか、僕には理解できないんだよ……」


 「憎い」と言う感情は普通、被害者や弱者が持つべき感情だ。

 なのに大トカゲは自分よりも圧倒的に弱い僕に対してその感情を向けて来た。

 これは明らかにおかしい。

 そして、理解に苦しむ。


「その訳を考えるのを止められないんだよ……僕は……」


 これだけは言いたかった。

 きっと、このまま大トカゲを死なせたら僕は一生罪悪感に苦しむし、後悔すると思う。

 『痛い』と言うだけならきっと割り切ることが出来たと思う。

 でも、『憎い』と言うなら必ず何かしらの理由があるはずだ。

 そんな感情を持つ理由も分からないのに殺すのは嫌だ。


「……仮にそやつを助けたとしてその「答え」を探し出せるのか?」


 魔王はどうやら僕の話を信じてくれているが同時に僕の大トカゲを助けたいという動機の合理性を求めて来たが


「……いや、きっとそれはないよ……」


 きっとそんな「答え」は見つからないだろう。

 それぐらいは僕だって理解している。


「……一月後に強くなった貴様を見捨てた連中が来るのだぞ?

 仮にそやつを足止めにすると言うことは貴様はそやつに二度も死の苦しみを与えるのに等しいのだぞ?」


 魔王は合理的に、快楽的に、心理的に僕が大トカゲを助けることで起こる未来を突き付けて来た。

 ああ、そうだ。

 仮に僕が大トカゲを助けても次に来るのは魔物を殺すことに何も思わない、いや、それ以上に楽しみを覚える奴らが大トカゲを嬲り殺しにするのかもしれない。

 あいつらには魔物を狩るという大義だけでなく、普段何とも思わなかった僕の敵討ちと言うものまで加わっている。

 良心の呵責もなく大トカゲを殺すだろう。

 特に鈴子達のような普段僕と仲が良かった連中が自分に言い訳をしたいから徹底的にやるだろう。

 そちらの方がもっと残酷だろう。

 それを僕は大トカゲに味合わせようとしているのだ。


「ここで貴様のような「命」を重んずる人間が介錯してやった方こそ、「慈悲」と言うものじゃないのか?」


 魔王の言う通りだ。

 確かに魔王の力を借りて、僕が殺した方があいつらに殺させるよりも大トカゲを苦しませずに死なせることが出来る。

 「安楽死」。

 中学の道徳でも高校の倫理でも学ぶ議題。

 既に末期となった患者の命をせめて苦しまないように行う悲しい救い。

 今まであまり本気で考えたことがないけれど、これがここまで辛いことなんて思いもしなかった。


「僕は―――」


 魔王の言葉を受けて僕は答えを出そうとした。

 大トカゲを今、殺して楽にするか。それとも、今、助けて苦しめるか。

 真逆の選択肢とその結果。

 僕が選んだのは


「―――それでも、助けたい」


 無責任な後者であった。


「……なぜだ?」


 魔王は僕のことを睨んだ。

 ああ、自分でも解っている。

 これが偽善で怖さ故のことであることぐらいは。


「わからないよ……

 理由なんて、特にない。

 あるとしても、命を奪うことが怖いとかただ少しでもこいつには生きていて欲しいと思っただけだよ……」


 僕のやったことはただの我が儘だ。

 ここで助けたとしても大トカゲが一か月後に死ぬ。

 それもあの外道にも等しい連中の手にかかって。

 そちらの方が地獄なのに。


「……その恨みも背負うよ……」


「……何?」


 僕は震えながらそう言った。

 きっと大トカゲはそんな「生」を背負わせた僕を憎むだろう。

 でも、それは覚悟している。

 自分がどうしようもない人間だと理解しても。


「……まあ、よい。

 確かに貴様の言う通り、こやつは足止めにはなるだろう。

 回復させるもの(やぶさ)かではない」


「……本当か!?」


 魔王は僕の願いを聞き容れてくれた。

 だが


「……だがな……

 貴様のその甘さはいづれ、貴様を後悔へと導く。

 それだけは覚えておくがいい」


「……ああ」


 魔王は忠告した。

 これから先、僕が、いや魔王がするのは戦争に等しいものだ。

 その度に相手に同情をかけたり、殺さずにいたらきっとそれは味方を殺すことになるだろう。


 ……結局、僕も連中と同じと言うことか……


 僕はクラスの連中を馬鹿にしていたが、実際には僕自身も覚悟が足りなかった。


 いつか……僕も相手の命を奪う時が来るのか……


 手が小さく震えて来て、また吐き気が襲いそうになり、胸が苦しくなってきた。

 他者の命を奪うことがここまで恐ろしいと思いもしなかった。

 法律なんてなくてもこんなに恐いのになぜ人は人を殺せるのだろうか。

 いや、でも理解できる理由はあるのだろう。

 人間も動物に過ぎないと割り切ればいいのだろうか。


「ふん。貴様はやはり、貴様は面白いな」


「……え?」


 魔王は僕の甘さを見て気に食わなそうな顔をしながらもまたもや僕のことを愉快そうに見た。


「……怒っていないのか?」


 明らかに不機嫌だと思うが僕は訊ねた。


「……ああ、怒っているさ」


「……やっぱり……」


 魔王は素直に怒っていることを認めた。

 ただ明らかに怒っているのに怒っていないと言われるよりは幾らか怒らせた側の人間としては気が楽だ。


「だが、それでもやはり『楽しい』と言う感情の方が上回るさ」


「……楽しい(・・・)?」


 僕は魔王が何故そう思うのか理解できなかった。

 だが、僕はその理由を求めたことに後悔することになった。


「ああ……もしお前が自らの手で他の生命を奪う時やお前をそこまで動かす動機がどんなものだろうと考えるだけで楽しく仕方ないさ」


「なっ!?」


 魔王はとんでもないことを言いのけた。

 こいつは僕が他者の生命を奪う時のことを考えてそれを楽しみだと言ったのだ。

 悪趣味なんてレベルじゃない。

 なぜそんなことを楽しめるのか理解できない。


「生命を奪うことを見て楽しむって……お前……!」


 僕は思わず反抗した。


「ほう?では、お前は自分が殺されそうになっても相手のことを尊重するのか?

 今回のように」


「ぐっ……!そ、それは……」


 僕はその答えを出すことが出来なかった。

 今回のように迷いを抱き続けたら僕はいつか命を落とすことになるだろう。

 それに下手をすれば魔王が僕に愛想を尽かすことも考えられる。

 何度も僕の我が儘が通るとは限らない。


「だからこその楽しみなのだよ……

 いや、もっと(・・・)楽しみになった」


「……『もっと』……?」


 魔王は意味深な言い方をした。


「ああ……

 どうやら貴様は敵であろうと相手が苦しむことに苦痛を感じるらしいな。

 その貴様が他者の生命を奪った時、果たして貴様は苦しみを忘れられずにいられるのか?

 それともただの殺戮の機械に成り果てるのか?

 それを考えると気になって仕方ないのさ」


「……僕は……」


 魔王の言いたいことは解かる。

 「殺し」の苦しみから解放されること。

 それは「殺し」そのものを楽しむこと、「殺し」を正当化すること、「殺し」そのものに何も思わないのどれかだろう。

 僕だって生きるために他の生命を奪うことが必要なこと位は理解できている。

 だから、「殺し」と言うのは生命にとって切っても切り離せないものだろう。

 だけど


「……わからないよ」


 そんな風に僕は自分の罪から逃れられる自信がなかった。

 今の僕は答えを先延ばしにしているだけだ。

 でも、何時かはその時が来た時は僕はどうなるのだろうか。

 どんな「答え」を出すのか自分でもわからないのだ。


「そうか……

 いずれにせよ、貴様の至った「答え」については我は増々興味を抱く。

 いい詩を奏でてくれよ?」


「……やっぱり、お前は悪趣味だな」


 魔王の物言いに僕はうんざりした。


「ははは、すまんな。

 何せ貴様のような感性の持ち主は初めてだからな。

 新鮮で仕方ないのだ」


「……初めて?」


 何を以って新鮮なのか僕は理解できなかった。


「命を奪うことにここまで重く受け止めるとは貴様、随分と変わっているな?」


「仕方ないだろ……そう言う暴力とか殺生とかとは無縁の世界で生きて来たんだから……殺すとしても虫とかぐらいだったんだから……」


 それは環境の違いだろう。

 そもそも、命の重さがこうまで違うなんて僕は考えることも出来なかったのだから。

 今になって、僕は自分が恵まれた環境の中で生きていたことに気付いた。

 食べ物に関しても他の誰かが生命を奪ってから食卓に並べてくれる。

 自分が情けなくなってきた。


「ほう?随分と夢のような世界だな?

 戦はないのか?」


「……え?いや……」


 魔王はとても興味深そうに訊いた。

 ただ『戦はないのか?』と訊いてきたことに僕は少しこいつに人間味を感じた。


「……僕の国じゃ何十年もないけど他の国じゃ沢山起こっているよ……」


 僕は素直に答えた。


「そうなのか……」


 魔王はそれを聞いて少しがっかりした。


「……意外だな……お前ががっかりするなんて」


 僕は魔王のその反応に以外さを感じた。

 こいつの悪趣味さと「覇道」とかの口振りからてっきり、僕はこいつが戦争狂だと思っていた。

 しかし、今のこいつの反応は「平和」に何かしらの興味を抱いているように感じたのだ。


「当たり前だ。

 戦がないと言うことはそれだけ優れた統治が形成されているということだ。

 王ならば、興味を持って当然だろう」


 どうやら魔王からするとそれは王としての当然の価値だったらしい。

 確かに「王」がそう言った姿勢を見せるのは民にとっては幸いなことだろうが、この魔王の場合は「王」としての在り方を芸術にしか思っていない可能性が考えられる。

 つまり、民を自らの政治を彩る材料としか見ていない可能性もある。


「……少しでもお前に優しさを期待した僕が馬鹿だったよ……」


 僕は何処までもgoing my wayな魔王にがっかりした。


「……『優しさ』だと?

 ……そんなものの奴隷になってたまるか」


「……『奴隷』?」


 魔王はとても気になることを言った。


「よいか?臣下や民にとって、優しい……いや、都合のいい王とはそれは人形に等しいだけだ。

 それは「奴隷」と変わらん。

 臣下や民は多くいる。そして、その欲は千差万別。

 その一人一人の願いを叶え続ければ「王」どころか「国」そのものを何れ壊すことになる。

 そして、臣下や民は己の願いや欲が叶わぬとなれば、「王」を殺し、新たな己らにとって都合のいい「王」を建てる。

 だが、それすらも仮初に過ぎずまた殺す。

 「国」も「民」すらも滅ぼすのだ」 


「………………」


 魔王の暴論に等しい「民」への見解に僕は言葉を失いつつも聞き入ってしまった。

 魔王は民を見下している。

 しかし、それはある意味人の本質を見ての事だろう。

 実際、人間が全て無欲とは限らない。

 確かに魔王が言うように一人一人の要望を叶え続ければ、何時か「国」と言う人々の住む土台そのものを滅ぼすことになりかねない。

 さらに自分たちにとって不要な道具としての「王」を殺すことになるのは目に見えている。

 スケールは遥かに劣るけど学生の悪ふざけがいい例だろう。

 集団で熱狂している時はそれが悪いことであっても不利益なものであっても理性を忘れてしまう。

 なぜなら、それが楽しいから。

 そして、それを良心から止めようとする人間を彼らは邪魔者扱いして潰そうとする。

 それが自分たちの欲望を邪魔するものだから。

 魔王が「奴隷」と言うのも肯ける。


「だからこそ、「王」は誰よりも己の在り方(・・・・・)を示さなくてはならん」


「……己の在り方(・・・・・)?」


 魔王はさらに言葉を重ねた。


「所詮、総ての臣下や民に賛同される(まつりごと)など不可能だ。

 むしろ、それが可能と考えるのならばそれは思い上がりに過ぎんよ。

 ならば、己の在り方(・・・・・)を貫けばよい。

 そして、その王の姿に魅せられた者と共に覇道を貫けばよい」


「……お前を支持しない奴はどうするんだよ」


 僕は魔王のその鮮烈な姿に少しばかり惹かれそうになったが、直ぐに我に返って魔王の独裁者染みた、いや、確か王様は立憲君主制じゃない限りは全て独裁者だったので独裁者そのものの発言に対して従わない者はどうなるかを訊ねた。


「去りたい者は去らせればよい。

 言ったであろう。「覇道」とは己に従いたくない者は好きに去らせるものだと。

 仮に歯向かうのならば倒すのみだ」


 何という暴論だろうか。

 これが僕の世界で、現代の日本だったら確実にこいつはバッシングを喰らって政治家を辞めさせられるだろう。


「……自分と同調しない奴は生きていく価値がないと言うことか?」


 僕は魔王が自分に従わない者は切り捨てていくのかと疑問に思い訊ねた。

 すると


「阿呆か?なぜそうなる。

 我は去りたい者は去ればよいとも我の覇道を阻むのならば打ち倒すとも言ったが、我の支配を受け容れるのならば我に不満を抱いていようが我は何とも思わんよ」


「……それって……」


 魔王は切り捨てるのではないらしいが、だからと言って特別扱いもしないとも口に出した。


「……だからこそ、我は政には最善を尽くすつもりだ。

 我の支配を受け容れるのだ。我の支配の恩恵は余すことなく総ての民や臣下に及ばせるつもりだ。

 尤も法には従ってもらうつもりだがな」


「………………」


 魔王の言葉はやはり矛盾していた。

 いや、それは『言葉の意味』がと言う意味ではない。

 魔王の言葉には冷たさと暖かさと言う真逆の双方が共存している。

 魔王は自らに不満を覚えている者であっても排除するつもりはないが、だからと言って優遇するつもりも慈しむつもりはなく、ただ同じ民(・・・)としか扱わないと語ったのだ。

 そして、自らの行う政治はそんな己に対して不満を覚える人間に利することがあっても、それが自らの総ての民への恩みの雨になるのならば躊躇いもなく奮うと言った。

 民をどこまでも民としか見ず、臣下を臣下としか見ない。

 完全なる公平。

 それは時として冷徹であるが、慈悲深くもある。


「この話はよいか?」


「……ああ」


 とりあえずわかったことはこのウェルヴィニアと言う女以上に王に相応しい王はいないと言うことだ。

 こいつにとっては民や臣下、己の政治、国は道具に過ぎない。

 しかし、それらすらも守るべきものだと自負しそれらを必要だと言うことも理解している。

 少なくとも裸の王様(・・・・)じゃないのは確かだ。


 ……でも、どうしてこういう奴が稀代の大悪党みたいになっているんだ?


 だがそこで生まれたのは一つの疑問だ。

 実際にこいつが統治したのならば、きっとそこには結果的に多くの救われた民がいたはずだ。

 それなのに王国側から評価は明らかに矛盾している。

 とても「悪逆非道」とは思えない。


 いや、待てよ……

 もしかすると、三国志で曹操が悪役扱いされているのと同じなんじゃ……


 よく考えてみれば僕の世界でもこう言った歴史のレッテル貼りは多くもあった。

 それも織田信長や曹操とかの「改革」を行った人間に限って。

 それにウェルヴィニアを「悪」として扱っているのはあの王国だ。

 となると、過去に世界を征服しようとしたウェルヴィニアのことを「悪」と刷り込むことをしようとしていた可能性も考えられる。


「さて、回復させるか」


 そう言って魔王は大トカゲの近くに寄った。

 僕はそれを見つめながらこいつに拾われて多少は良かったと感じた。

 少なくとも、無自覚に人を苦しめたり、他人を悪役にする奴らよりはこいつのようにそれを自覚しながらも背負い続ける奴の方が仕え甲斐を感じたのだ。

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