第八十話「負けたくない」
今年一年、ありがとうございました。
少し忙しくなり執筆が遅滞して申し訳ございませんでした。
来年もよろしくお願いします。
皆様にとってよい一年であることを祈っております。
「グルァ!!」
―喰ラウ!!―
あと少し……!!
既に何度も何度も巨大な魔物の攻撃を躱し、その度に周囲の他の魔物を斬り殺すことをまるで作業の様に繰り返し続けた。
作戦通りに魔物の数を減らし続けた。
だけど……こっちも息がやばいな……!!
魔物数は減っている。
けれども、だからと言ってこっちが消費した体力が戻る訳でもない。
どうやら、魔力を消費して身体能力が上がっても体力の限界が増加する訳ではないらしい。
体力テストでシャトルランで喉がカラカラになる前の状態に似た感覚だった。
大丈夫だ……!
まだ……!!
それでもまだ気力で粘れた。
どれだけ苦しくてもその先が負けではないのなら、まだ戦えた。
何よりも諦めることで負けて後悔なんかしたくない。
後悔と比べたらこれぐらい……!!
リストさんを守れなかったことの後悔を思い出して、それと今の息苦しさと比べたら軽いものだと自分に言い聞かせた。
あんな思いするくらいなら、こんな息苦しさを受け入れるぐらいなんてことはない。
それにこれぐらいのことはしないと……!!
本来ならば戦う必要なんてなかった。
そもそもリウンの家の周辺には魔物は近寄れない。
だから、ただ逃げるだけで良かった。
この選択を選んだのは僕なんだから!!
リウンとリサに二度と近づけない為に確実に連中の命をこの森で始末する選択肢を選んだのは僕だ。
ウェニアが口に出し、それに従った。
どれだけ憎い相手でもその相手の命を奪う手段を選び、実際に相手が命を落としている。
だから、最後までやるんだ!
こんな考え自体が狂っているなんて百も承知だ。
悪人だから、罪を犯そうとしたから殺しても、死んでもいい。
そんな言い訳すら僕には出来ない。
ただ一度やると決めてしまった以上は自分が綺麗なままでいるのは僕には無理だ。
「グルァア!!」
―喰ラウ!!―
「っ!!」
もう数えることも不要になった巨大な魔物の薙ぎ払い。
今まで通りに回避した。
その直後だった。
「ユウキ!!」
「!」
遂にその時が来た。
「っああああああああ!!」
剣を真横に構え、その刃を巨大な魔物の右腕へと僕は押し当てた。
そして、そのまま
「グァアアアアア!?」
―喰ラウ喰ラウ喰ラウ!?―
テロマの剣の魔物への切れ味を利用して思いっ切り足腰に強化魔法を施し、そのまま魔物の後ろと真っ直ぐ進むことで魔物の右腕と右足を切断した。
このまま……!!
その後、僕は作戦通りに今からウェニアが行う仕上げの為に今度は反転しようとした。
「……うっ!?」
「!?」
だけど、反転した直後、その後にすべきことを直ぐに行えなかった。
「ユウキ!?」
「ぜぇー!?ぜぇー!?」
胸が……!?
こんな時に限って、いや、先ほどまであった緊張が緩まった結果、呼吸のペースが乱れて呼吸器系への負担が大きくなったことで戦闘を続行することが困難になった。
う、動け……!!
今まで、魔物とあれだけ戦ってきたのにどうして今になってこんなことが起きるのか。
あと一撃。どれだけ苦しくてもあと一撃加えなければ負けになる。
まだリナに話すことが出来てないんだ!!
もし今、死ねばあの子は僕と話すことが出来ない。
そうなればきっと彼女は後悔する。
それは負けだ。
だから、負ける訳にはいかない。
『魔族や幻想種といった高い魔力を有する者は回復魔法を使っても保有する魔力が新たな細胞を形成し、老いが早まることはない。
だから、人間や他の生き物よりも長く生きられるのだ』
「!?」
負けたくない。
そんな時、ウェニアがしてくれた「回復魔法」の説明を思い出した。
なら……!!
考えるよりも先に頭に浮かんだとあることを意識して実行した。
「っう~!!」
「!!」
喉と胸に意識を集中させ、苦しくなっているであろう呼吸器系にウェニアに教えてもらったよう炎の魔法の時のことを思い出しながら鉄を打ち直す様にイメージし、再生、いや、以前よりも強く作り直す様に魔力を込めた。
「ぐっ!!
あああああああああああ!!!」
「!?」
「グルァ!?」
―喰ラァ!?―
胸と喉に激痛が走っているが、呼吸の乱れが治ったことで当初の予定通りに再び足腰を強化しながら魔物の背中へと肩からぶつかった。
右腕と右足を失った魔物は僕の本来の全力以上の体当たりを受けて魔物の体勢は崩れた。
そのまま、魔物と僕の身体が宙に投げ出された瞬間だった。
「……よくやった!」
今度は僕の方が待たせてしまったが、この瞬間を彼女が見逃すはずなどなく、彼女は恐らく腕を前へとかざしただろう。
「グルァ!?」
―喰ラウ!?―
「ギィア!?」
―喰ラウ!?―
「ガッ!?」
―喰ラツ!?―
彼女が魔法で作り出した突風。
その風圧により、僕を含めたこの場にいる全てのものが押し出された。
当然、僕が体勢を崩した魔物も。
『よいか?
巨大な魔物はその重量から今の我では吹き飛ばせん。
だから、何としても体勢を崩せ』
ウェニアの僕一人に対して出した指示は全部で三つだった。
一つ目は単純に魔物の数を減らすことだった。
魔物の数を減らすことでウェニアの突風の魔法で確実に全ての魔物を吹き飛ばす。
その為だった。
二つ目は倒さなくてもいいから、巨大な魔物の体勢のバランスを彼女が来た時に崩すことだ。
「グルァアアアアアアアアアアア!!」
―喰ラウ喰ラウ喰ラウ喰ラウ!!―
「ちっ!?」
魔物に体当たりしたことで先に地面に落ちた僕は巨大な魔物は確かに吹き飛ばされたが、それでも目的の場所まで飛ばせそうになかったことを把握した。
やはり、あの大きさのものをただ僕の体当たりとウェニアの一瞬の突風だけであそこまで運ぶのは無理だった。
だけど、
「っあああああああああ!!」
「ギィ!?」
―喰ラウ!?―
僕はそれを把握することが出来たことでウェニアの突風を追い風にして再び足腰に力を入れて地面を蹴って、そのまま魔物の胴にテロマの剣の刃を突き当てた。
『それとだ。
もし、それでも巨大な魔物を例の地点に運べないと思った時は貴様がトドメを刺せ』
ウェニアの最後の指示は単純に僕が魔物にトドメを刺すことだった。




