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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第七十九話「獣が迫る」

 何だ、この叫びは?


 突然、森に響き渡った獣の叫び。

 これはリザが巨大な時に出していたものと変わらない程の緊張感をもたらした。


「ちっ……!

 どうやら、この森が変わっていると言えども魔物の本能には忠実か」


「……どういうこと?」


 やはり、この声の持ち主は魔物らしいがウェニアに何か思うところがあるらしくそう告げた。


「魔物は魔力の消耗を避けるために本能的に森の奥などの魔力に満ちた空間に住み着くか、徘徊する。

 だが、この森の性質からここは魔力が比較的に薄い」


「……!まさか」


「魔物が厄介なのはそういうことだ」


 ウェニアの言わんとしていることが理解出来た。

 ただ本能のままに行動する。

 それが魔物らしい。

 生きるためではなく、ただそこにいるだけ。

 あるのは飢えを満たすだけ。

 それ以外はどうでもよくて本能とすら言ってもいいのか分からない程に本能のままに行動する。

 虫ですらこうはならないだろう。


「加えて、魔力が本来ならば濃いであろう場所には巨大で強大な魔物が住み着く」


「!」


 この叫びがもたらした恐怖と緊張は間違っていなかった。

 やはり、この雄叫びは今までこの森で出くわした魔物の中でも巨大な個体のものらしい。


「奴らに釣られてきたな」


「え?」


「奴らは血を流している。

 それに奴らの仲間は魔物に襲われて死んでいる。

 それらを辿って、件の魔物はここに迫ろうとしている」


「マジかよ」


 リザと同じくらいの魔物がどうしてこの場に来ようとしているのかという事実を知り僕は余計に腹が立った。

 本当にこの男たちは何処まで色々な人間に危害を与えれば気が済むのだろうか。

 今回は多少とはいえ、被害者な一面があったがそれすらも元を辿れば結局はこいつらに原因がある。


「グルアアアアアア!!」


―喰ラウウウウウウ!!―


「!」


「ひっ!?」


 例の魔物の声が先ほどよりも大きくなっていることから、近づいて来ているのは明白だった。


「……リザ。

 下がってて」


「キュ!?」


―エ!?―


 予め僕はリザに後ろに下がる様に言った。

 恐らく、これから戦うことになる魔物は今まで戦ってきたこの森の魔物よりも圧倒的に強いだろう。

 しかも、大きさも段違いだ。

 生き物にとって大きさと言うのはそれだけで大きな武器になる。

 それを僕はリザと戦って教えられた。

 もし今の大きさのリザが戦闘に巻き込まれたら、一溜まりもない。

 だから、彼女にここから離れていて欲しい。


「キュル……」


―分カッタ……―


 僕の指示を聞くとリザはリウンの家の方へと下がってくれた。


「……ウェニア。どうするの?」


 リザが下がってくれたのを見て、ウェニアに僕は指示を求めた。

 戦いのことに関しては僕よりも彼女の方が圧倒的に優れている。


「……敵がどういったものかまだ分からん。

 だが、これだけは言える。

 我の魔法に使える魔力は少ないぞ?」


「あ!?

 回復で使っちゃった?」


 まだ魔物がどんな奴なのか分からないことで戦術を立てられずにいたが、それでも自分の魔力が少ないことを彼女は伝えてくれた。


「恐らくだが、強化魔法で身を守りながら放てるのは残り三回が限界だろう。

 それ以上は流石の我でも強化魔法も切れる」


「……ごめん」


 彼女が魔力を使ってしまったのは僕が怪我をしてしまい、リナが気に病まず、リウンに心配をかけないするための気遣いだった。

 僕が結果的にリナを傷付ける様な真似をしたことでウェニアを傷付けてしまった。

 優しさが原因でウェニアが追い詰められているのだ。


 落ち着け……!何か考えろ!

 ウェニアがしてくれたことで彼女が追い詰められることなんてあっちゃいけないんだ!


 彼女が恐らく、善意でしてくれたことで危険に陥りそうになっていることへの悔恨と罪悪感で胸が締め付けられそうになっているのを必死に我慢しながら僕は活路を模索した。


 もうリストさんみたいなことは……!!


 自分のウジウジした独り善がりな後悔でリストさんの様に守れない人間が出来るなんてもう嫌だ。

 後悔や懺悔なんかただの自己満足なための言い訳に過ぎない。

 だから、考えるしかない。


「……ユウキ。

 安心せよ。我とて自分のことは自分で守れる。

 そこまで気にするな」


「!」


 そんな風に後悔を抑えようとしているとウェニアが声を掛けてくれた。


「だから、貴様の好きな様にせよ。

 我を舐めているのか?」


「……ごめん。ありがとう」


「フン」


 今の彼女の一言で大分、気持ちが軽くなった。

 そうだった。

 彼女は強い。

 僕が多少ドジってもそれを気にしない程に立ち回れるぐらいは彼女は難無く出来る。


「……だが、問題がある。

 どうやら、魔物は一体ではなさそうだ」


「え!?」


 ウェニアの口から魔物が例の個体以外に複数体いることが言及された。


 マズいな……

 ただでさえ、リザみたいな大きな相手がいるのかもしれないのにそれ以外に魔物がいるなんて……


 大きい魔物だけなら何とかなるかもしれない。

 しかし、通常の個体が何体かとなるとウェニアを危険に晒すことになる。


「……ユウキ。

 耳を貸せ。お前に策を授ける」


「!

 分かった……教えて」


 そんな中、ウェニアが何かを思いついたらしく僕に耳打ちしようとしてきた。

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