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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第七十八話「呆れ」

「キュル……」


―ユウキ……―


 僕はどうしても訊ねたかった。

 はっきり言えば、目の前の他人にばかり責任を求めて罵詈雑言を投げつけ、簡単に相手を傷付けることが出来る人間なんかに訊ねるべきじゃないのは理解しているつもりだ。

 それでも訊ねなければならないと感じてしまったのだ。


「あ?

 なんでそんなことを訊くんだ?」


 男の一人が面倒臭そうを通り越して忌々しそうにそう返した。


「あなた達は一人の女の子から父親を奪う様なことをしたんですよ?

 なのにそれに対して、何とも感じないんですか?」


 一瞬、その言葉に呆然としそうになったがけれども、感情を抑えながらも今度は具体的にわかりやすく彼らに訊ねた。


「んなもん、ルズさんが勝手にやったことだろうが!?」


「そうだ!

 俺たちは何も悪くねぇ!」


「何で俺たちがそんな風に言われなきゃならねぇんだ!」


「………………」


 質問がまたしても悪かったのだろうか。

 こいつらはリストさんが死に、リナが父親を奪われたことに自分たちが無関係だと本気で思っているらしい。

 どうして、こうまで自分たちが不幸になっていることばかりを嘆いて、しかもそれの原因が自分たちにあることを理解していないのだろうか。


「大体、あんな奴―――」


「……もういい」


「―――は?」


 どうでも良くなって何かを言おうとしてきた彼らの言葉を遮った。

 自分から訊ねておきながら、馬鹿だと思う。

 けれども、もう彼らからは何も期待できることなどないだろうと勝手に判断させてもらった。


「どっかに行けよ」


「な、なに!?」


 目の前のこいつらの存在が不快だ。


 とっととここからいなくなれよ……


 こんな奴ら、リナとリウンに近づけてはいけない。

 父親を失って悲しんでいるリナの視界に何の後ろめたさも罪悪感も持っていないこいつらが入ってリナが傷付くことなんてあってはいけない。

 優しいリウンがこいつらの欲望のせいでこれ以上、外の人間や世界に対して怖がることなんてあってはならない。


 ……ごめん、父さん


 同時に僕は父さんに謝罪した。

 ここで彼らを放っておけば、魔物に襲われるか野垂れ死にするだろう。

 そんなことすらどうでも良くなってしまった。

 だけど、それは人を助けることを職務とする消防士の父親の息子である僕が目の前の命を自分の感情だけで見捨てようとするということだ。

 そのことに対して、申し訳なさがあった。


「この野郎!!」


「生意気言いやがって!!」


 僕の言葉に彼らは反感を覚えて怒鳴ってきた。

 僕が剣に手をかけようとした時だった。


「貴様らは本当に愚かだな」


「!」


「何だとぉ!」


「あぁん!?」


 そんな一触即発の空気の中、ウェニアが落ち着いた声で呆れながらそう言った。


「丸腰の貴様らが剣を持っている其奴に勝てると思っているのか?」


「!?」


「……!」


 ウェニアはそう言って、こいつらに自分たちが丸腰の状態である事と対照的に僕が武器を持っている事実を突き付けた。


「……この剣は鋭いぞ?

 何しろ、三日前にあの男の首を切り裂いた時に刃こぼれ一つ残さずに済んだのだからな」


「う……!?」


「そ、それは……!?」


 加えて、彼女は三日前にルズを殺した際に見せた剣の切れ味を思い出させた。

 それによって、こいつらは恐怖し出した。


「それに……

 どうやら、今、此奴は頗る機嫌が悪い。

 貴様らのことを容赦を加えることなくその剣の錆にするであろうな?」


「ひ、ひぃ!?」


「あ、ああ……」


 最後に彼女は僕がこいつらに対して、殺意に等しい感情を抱いていることを告げた。


「ウェニア……まさか……」


 どうして彼女がこんなにもまどろっこしいことをしているのか不思議に思いながらも僕はある仮説を立てた。


 脅して追い返そうとしている?


 彼女の目的は恐らく、このままこいつらを脅してこのまま追い返すことだろう。

 相手に自分たちとの力の差や相手にとっての実際にあった恐怖、そして、それを行うことへの躊躇のなさを突きつける。

 確かにこれだけで相手はほぼ無抵抗になるだろう。


 あの城での僕だな……


 不本意であるが、目の前のこいつらにウェニアがしようとしていることは僕が実際にあの城で味わった出来事だ。

 自分より強い力を見せつけられ、抵抗すればそれによって痛めつけられ、それに対して相手が全く躊躇しない。

 それらを身を以て僕は経験したからこそ、ウェニアがしていることが効果的であることを僕は感じる。


「返り血を浴びた姿を彼奴らに見せるつもりか?」


「……!」


 ぼそっと彼女はもしこのまま僕が戦った場合にリウンとリナに見せてしまう光景を指摘してきた。

 彼女の言う通り、返り血を浴びた僕を見てしまえばまだ子ども、それも先日に父親を殺されたリナと外の世界の人間を恐れるリウンを怯えさせてしまうことは容易に想像できることだった。


「……ありがとーーー」


 彼女が僕を止めてくれたことに対して、感謝しようとしたときだった。


「ガルァアアアアアアア!!!」


ー喰ラウ喰ラウ喰ラウ!!!ー


「!?」


 今まで聞いたことがない程の咆哮が森の中から響き渡ってきた。

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