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ウサ耳生活  作者: heavygear
4/19

極太レーザーは危険

溜めて撃つ!

出来れば狙え




 ラフー生活四日目、自身に与えられた能力を調査する。


 昨日は飛行能力があるのに驚いた。

 ゲームのラフーと同じように飛べるとか、誰が想像できよう。

 だが、飛べるという事は、ゲーム同様の能力を他にも得た可能性もある訳だ。

 昨日は結局、焼きヤマリンゴ作成に時間を費やしたので、他の検証はしていない。

 だって、火熾すの時間かかるんだからしょうがないじゃない。


「今日も元気出して頑張りゅじょーっ!」


 酸っぱいヤマリンゴを朝食にしてから、俺は声を出して自分を奮い立たせた。

 空元気でも元気です。

 ナ行だけでなく舌足らず気味なのはご愛嬌である。




 適当に拓けた場所に赴き、検証開始。


「まじゅは、ショットにしよぉっ!」


 ゲームでのラフーの基本飛び道具攻撃は光弾である『ライトボール』だ。

 まずはこれが出来るか試そう。

 5メートル程離れた場所にある適当な岩を標的にした。

 左の掌を岩へと向け、光弾よ出ろと念じる。


「ライトボールッ!」

 

シ~~~ン……


 掌から光弾は出ない。

 気合が足りなかったか?


「ライトボールッ!!」

 

シ~~~ン……


「ライトボールッ!

 ライトボールッ!

 ライトボールッ!

 ライトボールッ!」


シ~~~ン……


 空は飛べるのに、何故か光弾は出ない。

 やり方が悪いのだろうか?

 ゲームでのラフーを思い出してみる。


 ……うん、『ライトボール』なんて言ってないや。

 第一、シューティング・ゲームで一発一発飛び道具を発射するのに掛け声なんかしないよな。

 やり方を変えよう。

 このままだと痛い子に思われてしまう。




「でって、でれれれーれー♪ でれれー♪ でってれーー♪ ユア・ファイティンッ! んごおっ!!」


 俺は兜を被り、斧を右手に持ち、ゲームのBGMを口ずさんだ。

 そして、軽く助走しながら尻尾を左右に振ってジャンプ!

 身体がフワリと浮き、宙へと飛ぶ。

 ゲームスタート時だと、2フレーズ後に雑魚敵登場。

 そこへラフーはファースト・アタック。

 イメージするんだ。

 きっと出来る。


「でーれってー♪ でーれってー♪ チュンッ!」


 左手を前に突き出すと同時に光弾の効果音『チュンッ!』を発した。


チュンッ!


 出たっ!!

 出ましたよっ!!


 通常ショットの『ライトボール』が!


「やったあぁ!」


ボコッ!


 俺の喜びを他所に、『ライトボール』は進行方向状にある木に当たり、鈍い音を発てた。


「さっきの感触を思い出しぇ!」


 再度BGMを口ずさみながら、検証再開。


チュンッ!


ガキャッ!


 今度は苔生した岩に着弾。

 大人の握り拳大の凹みを岩に刻んだ。

 岩を粉々に粉砕出来なかったが、意外に殺傷力がありそうである。


「もう一回っ!」


 三回目は、前に進まず滞空状態のまま、先程の感覚と感触を思い出しながらリプレイ。


チュンッ!


バキャッ!


 細い木の枝に命中。

 枝はあっけなく折れて下へと落ちてしまった。


 成功例が出た為、取りあえず痛い子は脱却出来たようだ。

 ホッと胸を撫で下ろす俺でした。


 その後、数十回程実験をしてみた。

 BGMを口ずさまずにやってみたり、斧を持たずにやったり、飛ばずにやってみたりと、やり方を多少変えてみる。

 どれも成功だ。

 回数をこなして行くと、なんとなくだが『ライトボール』の事が理解出来てきた。


 まず、腕は張り手を出す前の状態にする。

 『ライトボール』を出そうと念じると、胸の辺りがポカポカしてきて、そのポカポカが胸から移動を開始。

 ポカポカは胸から肩、肩から腕、肘、掌へと流れて行く。

 掌からポカポカが光の粒子となって放射される。

 放射された光の粒子は、掌から数センチ離れた空間で野球の硬球程度の大きさの光る玉へと変化。

 光る玉を掌で押す。

 『チュンッ!』と効果音を発して射出。

 光弾の射出速度は、たぶんそこそこ速い……と、思う。

 スピード計る道具ないし、ね。


 『ライトボール』単体の検証は取りあえずここまでとしよう。

 適当に撃ちまくったので周囲がボコボコになっているので、お片付け開始。

 折れた枝や岩の破片を一箇所に纏めておきます。

 俺、裸足なんで足元の掃除大事。




 昨夜同様、焼きヤマリンゴを作成し昼食にする。

 ……肉類食べたい。

 出来れば塩気が効くとなお良い。

 ないもの強請りだけど……欲しいなぁ。


「こにょ胸のポカポカが魔力のみにゃもとかにゃ?」


 食休みしながら、子供の胴体ぐらいある馬鹿みたいに分厚い手引書を広げて読む。

 サイズが大き過ぎて、持って移動は無理の『冒険手引書』は、生き抜くために必要なバイブルである。

 送り主が戦神ダレイトスでなければ、滅茶苦茶信仰するわってくらい貴重な品だ。

 俺的に言わせてもらうとすれば、戦神ダレイトスは祟り神!

 これ以上祟られないよう、気をつけて生きる所存である。


 で、手引書を広げたのには理由がある。

 この世界の魔法について何か載ってないか調べる為である。


「っ!?」


 1ページ目からページをゆっくり捲り、俺は驚いた。


「……目次がちゃんとある」


 手引書を読んだ当初は適当に捲って、必要な項目を探していたので、これには驚いた。

 この世界への呼びかけとかいい加減な癖に、である。

 目次を探さなかった俺も大概であるが、ここでは目を瞑ろう。


「えっと……第三章・魔法について……っと、あった♪」


 読んでみて更に俺は驚いた。

 この世界に住む魔法に携わる者達の一般常識のみならず、魔法の仕組みやその効果、魔術師達の繁栄と衰退等、簡単な歴史背景付きで解り易く記されているではないか。

 『第四章・旅の食事と宿』は、すごい適当加減だったのに……。

 何この差は?


「うにゅう」


 読み進めると、意外に面白い。

 戦神の割りに魔術や魔法に対する考察がしっかりしているのだ。


 攻撃型の魔法は喰らうとヤバイと載っているのは、喰らった経験でもあるのだろうか?

 もしかして、戦神ダレイトスは魔術や魔法の神様と敵対してる?

 と、思うくらい何故かしっかり書き込まれていた。

 まあ、第一章からきちんと読んでないので、後で読めば解るかもしれない。

 今は魔法について軽く勉強だ。

 『ライトボール』を放つ時のポカポカについて是非調べたい。


「……っと、あった♪」


 軽く流し読みする事数十分。

 霊素マナ命素オーラについての項目を発見した。

 命素については今回は見送り、霊素に注目する。

 俺の予想通りか、どうやら胸のポカポカが魔術や魔法を行使するエネルギーたる霊素マナらしい。




 手引書を参考に読み進め、『ライトボール』発動を再度考察しよう。


1、『ライトボール』を発動させるため、エネルギーたる霊素を心臓にて活性化させる。

2、体内の経路を巡回させ、霊素を一箇所に集め、体外へ放出。

3、世界に呪文等で語りかけ、自身の霊素と周囲の霊素を収束し、『ライトボール』を発動。


 大雑把に纏めると上記のようになるらしい。

 しかし、俺の『ライトボール』は通常の魔術や魔法と少々違いがある。

 まず第一に、言霊とも呼べる呪文を必要としない。

 これは、攻撃型の魔術や魔法に特化した術者に極稀にある事と記載されていた。

 要は体内に攻撃型の術式があるので、呪文の詠唱を必要としない特異体質だという事。

 早い話が、体内に魔術を行使する銃や大砲が埋まっているみたいなもんだ。

 これにより、俺は『ライトボール』を特異体質で発動出来るっぽい。



 

 ……考えると結構怖いな。

 いや、勇者らしい能力を与えられたと考えよう。

 迫り来る大陸の危機がなにかは解らないが、どうせ戦神ダレイトスが俺をそこに導くに違いない。

 荒事に巻き込まれたくない俺の気持ちを無視してだ。

 サバイバル技術含め、自身の能力を鍛えておく必要はある。

 だって、まだ死にたくないもん。



 魔法の考察を一旦中止し、『冒険手引書』を『無限鞄』へと仕舞う。

 ラフーボディの力を把握するべく、再び『ライトボール』の練習をした場所へ俺は向った。


 シューティング・ゲーム『夢幻狂想曲』とどこまで同じ事が出来るか試す為に

……。


「う~みゅ、ちょっと緊張しゅりゅー」


 鬱蒼とした木々に侵食された石壁を前に俺は緊張した。

 『ライトボール』が使える以上、その上のアレも使える可能性があるから、と。


 『夢幻狂想曲』はシューティング・ゲームである。

 基本はラフーの『ライトボール』等のショット攻撃である。

 斧や剣といった近接攻撃もあるが、今回は置いておく。

 さて、このショット攻撃に話を戻そう。

 ゲームの基本は、進行方向にバンバン撃って敵を撃破する事だ。

 弾丸がただ真っ直ぐ連射するだけだったら、近接攻撃が追加されてもプレイヤーはすぐに飽きると思う。

 で、『夢幻狂想曲』の場合は2つの強化方法がある。

 一つは、ショット攻撃をパワーアップさせる『魔法』の使用。


 もう一つは、ショット攻撃を溜めて行うチャージ・ショット攻撃である。


 今の俺は、このチャージ・ショットを試そうとして緊張しているのである。


「……と、取りあえずやってみりゅきゃ」


 古の戦斧を腰のリングに差し、両の掌に意識を集中してみた。


ポウンッ


 両の掌に『ライトボール』が2つ現れる。

 問題はここからだ。

 俺は、この2つの『ライトボール』を両手で挟み込むようにして、1つの『ライトボール』へと合わせる。

 1つに合わせるのに多少の抵抗があるが、球状に留まる様念じながら行った。

 後は、この1つに合わさった『ライトボール』を更に圧縮する。

 暴発したらどうしようかと不安になるが、弱気を必死に押さえ込み、極限まで『ライトボール』を圧縮しようと念じた。

 すると……


キュイィィィンッ……


 ピンポン玉サイズまで一旦縮んだ『ライトボール』がチャージ・ショット名『シャイニングレーザー』へと変化し始める。

 俺の体内を巡る霊素が、小さくなった光弾にギュンギュン流れ込み、押さえる両手がブルブル震えだした。

 それと同時に俺の周囲に漂う霊素が光の粒子を伴いながら光弾に流れ込んだ。


ィィィンッ……


 霊素がドンドン圧縮され、手の中の光弾はまるで暴発寸前の爆弾だ。

 身体から霊素が失われ、呼吸が苦しくなってくる。

 溜めはここまでが限界かもしれない。

 俺は両手で押し出すように、光弾を前方の石壁へと向け、叫んだ。


「シャイニングレーザーッ!!」


 瞬間、閃光が俺の視界を塞いだ。


ゴバアアアアアアアアアァッ!!!!


 轟音が響く。


「っ!」


 目を瞑り、両手を前にしっかりと突き出す。

 感じるのは、倦怠感と開放感。


「……おわった?」


 未だチカチカする目を瞬きしながら、ボンヤリした視界で前方を見た。


「へっ?」


シューッ……


「にゃっ? ちょっ!? ふぇっ、えええええぇぇっ!?」


 目の前の石壁に穴を開ける程度だろうと俺は考えていました。

 岩を砕けない『ライトボール』が岩を砕くレベルになるだろう程度に、です。


シューッ……

メキメキメキッ……

バキッ……

ガラガラガラッ……


 なんという事でしょう。

 『シャイニングレーザー』は、直径約1メートルの大穴を石壁に開けるだけでは飽き足らず、その後方にある木々や石材までポッカリと貫通させてるではありませんかっ!

 数本の木が倒れ、岩は割れました。

 高熱も伴っていたのでしょう、『シャイニングレーザー』によって抉られた岩肌が真っ赤に溶解していますし、湿気の少ない箇所からは火の粉が少々上がっております。

 足元に視線を向けると、『シャイニングレーザー』の通り道だとハッキリ解る焼け焦げた一本道が出来ておりました。


「にゃ……にゃははは、は……にゃんだこりぇ?」


 乾いた笑いをしながら壁の向こうで現在進行形で起こる惨状を眺めて立ち尽くすのでありました。


 湿気の多い森だからか森林火災に発展しなかったのは幸いであると、言っておきます。

 はぁ~、『シャイニングレーザー』の練習は危険。

 発動に失敗して暴発しなくて良かった。

 本当。




「うにゃぁ。メチャクチャににゃってりゅ……」


 正気に返ってから、尻尾フリフリ飛行状態で破壊後の様子を確認。

 倒れた木を住処にしていた生き物さん達には大変申し訳ない気持ちである。

 石壁を越え、倒木を越え、『シャイニングレーザー』がどこまで破壊したか調べます。

 100メートル程度でしょうか?

 抉れた後と焦げ臭い匂いがする箇所を見る限りは……。


「……おっきいにゃぁ」


 90メートル地点に到着すると、何十という数のヤマリンゴの木々が巨大なドームを形成していた。

 『シャイニングレーザー』は、このドームの一部を貫通し、穴を2つも開けていた。


「?」


 このヤマリンゴのドーム、何か変だ。

 ドームの外側に、ヤマリンゴの実が1つも生っていない。

 鳥等に食べられたにしても、1つ2つは実の食べかすを見かけるだろうに、それがない。

 変だ。

 なんだろう。

 ちょっとドキドキする。

 ヤマリンゴのドームを住処にする生き物とか居るのだろうか?


「もしも~し?」


 興味が湧き、ぽっかり開いた穴から、ドームの内部を観察。


「ありぇ?」


 腐葉土と化した落ち葉がドームの床に積もっているだけで、生き物の気配がまったく感じられない。

 俺が開けた穴以外の光源がないのも、ちょっと気になる。

 恐る恐るドームの天井を確認。

 もしかすると、蝙蝠とかが居るかもしれないからね。


「ありぇ? ありぇりぇ~っ?」


 蝙蝠どころか虫の気配すらないぞ。

 しかし、こう暗いと内部の調査は難しそうだ。

 懐中電灯が欲しい。




「御宅拝見~」


 うんうん呻って、『ライトボール』を射出しないよう掌に留め、灯かり代わりにする。

 便利だな、これ。

 ただ、気を抜くと、チュンッと飛んで行くのが欠点だけど。


「おぉっ!」


 天井の様子が判らないと思ったら、ヤマリンゴの幹と枝が複雑に絡み合って天井をかなり低くしていたよ。

 ドームの上部は、隙間がほとんどない程にヤマリンゴの幹と枝がみっちり詰まっていたのだ。

 これじゃあ、気配もなにもあったもんじゃない。


「んにゅ~~?」


 絡まった枝の中心部へと視線を向ける。


「ヤミャリンゴ?」


 そこには真っ白なヤマリンゴの実が1つだけ生っていた。

 日に当たらなかったから白くなったのかな?

 俺は飛行状態のまま白いヤマリンゴの実へと近付く。


「うにゃあ。いい匂いりゃっ!」


 今までに嗅いだ事のない甘酸っぱい香りが鼻を擽った。


「そりぇに……おっきいっ!」


 スイカサイズもある。

 どうする?

 勿論、持って帰ります。

 不味かったら森にポイしればいいや。




「いっただっきみゃ~~しゅっ!」


 軽く表面を水洗いし、俺は白銀に瑞々しく輝く巨大なヤマリンゴの実へ齧りついた。


「…………」


 ……。


「うみゃいっ!!」


 涙が出た。

 美味しい。

 美味しい以上のコメントが出ない。

 溢れる果汁はまるで芳醇な蜂蜜の如く、シャキシャキと小気味良い果肉の歯ごたえも素晴らしい。

 喉を通り抜ける度に、元気が沸いてくる。

 涙が止まらない程旨いっ!

 当たりだ。

 大当たりのヤマリンゴだ。

 ラッキーだ。

 明日はホームランだ!

 訳の解らない事ばかりで辛い事もいっぱいあったけど、全てはこの美味しいヤマリンゴの実に出会う為だったんだ。

 美味しい。

 美味しいよぉ。

 ……。




「うっ!?」


 食べ終わってしばらくすると、突然の腹痛発生。

 剣山で内蔵の内側からザクザク刺されるような痛みだ。

 あまりもの痛みで、寝床に寝転がり、呻く。

 生汗がダラダラ流れ、吐き気と頭痛までしてきた。


「はっ、はりゃがぁっ!」


 痛みがだんだん激しくなり、呼吸が荒くなる。

 いかん、熱も出てきた。

 食べ過ぎだろうか?

 いや、食べ過ぎにしては苦し過ぎる。

 身体に力が入らない。

 頭がクラクラする。

 なんだこれ?

 どうなってるんだ?


「ひぅっ!?」


 うあぁ、お腹ががが……。


ギュルルルルルッ……


 うあぁ、もうダメだ。

 このままじゃ……。


 うあぁっ!!




 ラフー生活四日目は、突然の腹痛によって終った。


 教訓、様子のおかしいものは口にしないようにしましょう。


 用足しにも行けず、自身の漏らした糞尿の匂いに包まれて俺は意識を失った。


 異世界生活は黒歴史生産効率高いよなぁ……。



汚ねぇオチだ

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