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ウサ耳生活  作者: heavygear
19/19

雇われ治癒術師始めました

今回のウサ耳は旅にグルメに温泉だっ!




 ラフー生活281日目、おまけのブライと一緒にサギさん一行に加わった。


 幼いゆえ保護された俺だが、無駄飯食らいの居候ではない。

 『ナ』が『ニャ』にならない限り使える治癒術師としてちゃんと働いている。

 問題は、街中でそうそう怪我人や病人なんかが出ない事かな。

 基本、ウッソくんと遊んだり、一緒に勉強とかお手伝いをしています。


 人に囲まれての日常生活万歳!

 さらば、サバイバル生活よ!


 と、ウッソくんとまったりしているとサギさんから一言。


 魔術師になるのが珍しいビスタ族の俺が治癒魔術を使える事を、人に言い触らさないよう注意された。

 ヨシィサに住むナーベル族至上主義な天秤教徒に目を付けられると、大変な事になるかもしれないからだ、と。

 彼等はナーベル族こそが種族の上位者であり、他の人型種は劣等種だと決め付けているらしい。

 そこに治癒魔術を使えるビスタ族が下手に近付いたら、どんな危害を与えられるか解ったものではない。

 魔術を使える事から妬まれる可能性があるから注意しなさい、である。


 魔術師という者は、その持てる力から妬まれる事が多い。

 誰でも持てる力ではないからこそ、恐れられ、妬まれるのだ。

 うん、気をつけよう。


 考えてみると、魔術師って大変だよなぁ。


 大陸では魔術を使える者が少なく、権力者や組織の多くは優秀な術師を常に求めているとか……。

 魔術師を多く抱えるイコール大戦力の確保だそうだ。

 そりゃ、目の色変えて抱え込もうとするよ。


 詠唱1つで百の兵を倒し、詠唱1つで百の命を救う。

 魔術師1人が100の兵力と言われる由縁だ。

 実際の所、百人力相当の術者はそう多くはないらしい。

 精々十人力程度ぐらいとか、なんとか。


 う~ん、『ライトボール』は兎も角として『シャイニングレーザー』は絶対人前で使わない方が良さそうだ。


 これ、冗談抜きで100人くらいの兵隊さん達を消し炭にするぐらい威力があるからなぁ。

 『シャイニングレーザー』は、直径約1メートルの極太レーザー照射だよ。

 直線状にあるもの全て高熱で焼き尽くす狂気の砲撃で、さらに照射中は角度を変える事が出来るぶっ壊れ性能付き。

 左右に軽く動かすだけで、簡単に扇状の焼け野原作っちゃうからね。

 敵味方が入り乱れる乱戦状態で使ったら、間違いなく敵味方構わず焼き払っちゃうだろうなぁ。

 いざという時以外、危なくて使えない。

 それこそ、オーグルやドラゴンに襲われでもしない限りは使えん。


 魔術師の次に優遇される者は、闘士だ。

 別名で『真の戦士』と呼ばれる者達。

 種族の限界を超えた肉体や能力を持つとか、なんとか。

 魔術師が自身や周囲の霊素マナに働きかけて超常の力を発現させるのに対し、闘士は全ての生物が有している命素オーラを利用して種族の肉体限界を凌駕する。

 所謂、『気』とかってヤツ。

 聞く話によると、素手で岩を砕いたり、常人では振れない重量級の武器を振り回したり出来る連中のようだ。

 これも魔術師同様に十人十色で、個人差が激しいみたい。


 俺がこの目で見た闘士は、今の所ブライとキータロさんぐらいか。


 ブライは『目』が強化されてるようで、相手の弱点らしいところが見えるっぽい。

 キータロさん曰く、あの投げナイフの腕前はそれが関係しているそうだ。

 笑える事に、ブライは自分が闘士に片足突っ込んでいる事に気が付いてないらしい。

 なんともブライらしいなと思う。

 と、なると、オーグルにぶっ飛ばされても生存出来たのは、闘士の才能があったからか。

 やるなブライ。


 キータロさんは、怪力の持ち主だ。

 人の胴体を真っ二つに出来そうな分厚くて大きい戦斧を、軽々と片手で振り回せる。

 但し、時間制限があるらしく、普段は命素オーラによる強化を抑えて、両手持ちで使っているそうだ。

 こういったコントロールが出来て、闘士と名乗れるらしい。

 キータロさんが他に見せてくれた技は、皮膚の硬化だ。

 グッと打撃を受ける構えを取ると、身体の表面が鉄のように堅くなった。

 凄いと思ったが、キータロさん曰く、この程度は闘士なら出来て当たり前の初歩的技術らしい。


 ブライにこれらの技術を教えてあげないのか訊ねたら、笑いながらこう言った。


「テメェで気付かねぇアホウが悪い。

 それにあのアホウは、なんだかんだ言ってもゴーライのガキだ。

 そのうちテメェで気付かぁ。

 ついでによぉ、下手な事ぉ教えちまったら、おれがゴーライの旦那に殺されっちまわぁ」


 ってな訳で、ブライの成長を願って教えないそうだ。

 なるほど、ブライは愛されてるねぇ。

 初日にブライをボコボコにしたのキータロさんらしいけど……。




 そんなこんなで、賑やかで楽しい数日を過ごしていたところ、全員集合のため呼ばれた。


 サギさん曰く、ヨシィサでの販売と仕入れが終ったので、荷物を纏めて出立しようとの事だ。

 そして、俺をどうするかの話し合いもあった。

 出所不明の怪しいケモナー幼女だもの、一族を預かるサギさんからすれば勝手に連れて行くという判断は難しかろう。

 しかし、エーコおばさんを筆頭に、同情的な意見が多く出た事もあり、俺の保護はしてくれるそうだ。

 但し、鉱山都市ゴーダにある戦神ダレイトスを祀る神殿までと言われた。


 治癒魔術を使える事、持ち主を選ぶ武器、魔法の収納鞄と、俺が心無い人達に狙われる理由がありまくりだからだ。


 ゴーダの戦神神殿ならば、ブライ経由のゴーライのコネで保護してもらえるだろうとの事。

 確かに、俺がサギさんの元に残っても、騒動の種にしかならないだろう。

 俺はサギさんの判断に従う事にした。

 サギさん一行の善意にドップリ嵌るのは甘えだしね。

 これぐらいで丁度良いと思う。




 ラフー生活283日目早朝、サギさん一行と共にヨシィサを出立。


 さらば、ヨシィサ。

 もう二度と来ねぇよ、バーカ。

 天秤教の連中なんて大嫌いだっ!

 バーカッ!


 外側の門を抜けて、俺は背後の街にアッカンベェをした。

 横でウッソくんも同じ事をしていて、ほっこりした。

 天秤教徒が多い所為で、ヨシィサの街をほとんど出歩けなかったし、心無い罵声を浴びたりもしたのだ。

 悪印象も持っても仕方ないと思いませんか?

 うん、持つよね。

 ウッソくんなんて、この街に来た当初、ナーベル族の子供達に泥団子をぶつけられたそうだ。

 しかも、泥団子の中に石が混じっていたとか。

 なんて酷い事をするんだ。

 可哀想に、傷付いたウッソくんはエスタ(ドワーフ族のテント)からほとんど離れなかったらしい。

 下手に離れたら、何されるか知れたもんじゃない。

 大人達の側で退屈そうにしていた訳だ。

 それに、隊商に同年代の子供がいない事もあり、寂しかったんだろうな。

 よしよし、俺が一緒に遊んであげるから元気だそう。


 ブライ?

 彼は護衛として一緒に行動してますよ。

 と、一応報告。

 戦神神殿に保護をお願いしてもらうために同行が正しいかな。

 相変わらず俺の事を『巫女様』呼びだ。

 サギさん一行もそうなので、もうどうしようもない。


「にゃふ~~ぅ」


 あぁ、草原を走る風が心地好い。

 それに馬車での移動に心躍る。

 なんてファンタジー!

 ドキドキワクワクってなもんです。

 幌の上にウッソくんと一緒に寝転んで、流れる風景を楽しんでるからねっ!

 やっふうっ!


「あんまりはしゃぐと落っこちるえ」

「にゃっ、らいじょーぶっ!」


 キャッキャッとはしゃいでいたらエーコおばさんに注意されちゃった。

 尻尾飛行でフワリと飛べるからね、俺。

 あっ、そう言えば尻尾飛行の事、教えたかな?

 うーん、どうだったかな。

 後で確認しよう。


「にゃーおっ!」

「なおーっ!」


 大空に向けて吠える。

 ウッソくんも楽しそうに吠えた。


 しかし、なんというか気持ちよい。

 草原を3台の馬車で移動するというのは。

 しかも、その馬車の幌の上だ。


 ゆったり流れる景色に感動しないで、どうする?

 いや、感動するね。

 例えそれが、サギさん一行が見飽きた光景だったとしても、だ。


 青空に流れる雲の動きを追うだけでも楽しい。


 この日は、幌の上でウッソくんと一緒に笑いあった。

 元気になってよかったね。




 ラフー生活284日目早朝、雨が降った。


 ザーザーと降る大雨だ。

 エスタの天井にバシバシと叩きつけるような雨音が響いていた。

 幸い、街道沿いにある休憩施設の近くにエスタを設置しているので、危険度は少ない。

 問題は移動に難ありって事だろう。


 しかし、旅慣れたサギさん一行だ。

 この大雨を利用して、ガシガシ洗濯したり、裸になってゴシゴシ垢を落としていた。

 洗濯はまあ良いとしてだ。

 雨を風呂代わりにするのは如何なものだろうか?

 間違ってはないと思う。

 だが、目のやり場に困る。

 ズングリムキムキマッチョなドワーフの親父共の裸体を見て、何が楽しい?

 え?

 男衆が終ったら、交代で俺もですか?

 耳と尻尾が雨で濡れるの凄い嫌なんですけど……。


「ふにゃぁ~」


 残念、エーコおばさんとケーコさんは逃げられない。

 捕まって、お外で身体を洗う事となりました。

 全開シャワーな雨が結構冷たいです。

 泣いていいですか?

 よくこんな事して風邪を引かないな?

 流石ドワーフと評しておこう。

 クシュンッ!




アオーンッ!


 雨雲が去った夜中、どうやら狼の群れが近付いてたらしい。

 俺がらしいと言うのは、どうも熟睡してたから。

 これはいかん。

 かなり危機感が薄れている。

 しっかりせねば。


 狼退治にブライ達男衆が大活躍だったそうだ。


 翌朝起きたら、7頭の狼の死体が並べられていたので、ビックリしたよ。


「オデ、頑張った」


 アチコチに噛み傷や引っ掻き傷を負ったブライがそう言った。

 ウドさんとボーエンさんも負傷していたが軽症。

 聞くところによると、一番前に立ち、多くの狼達を引き付けて戦ったからだ、と。

 無茶しやがって。

 当然、『スグ・ナオール』で怪我の治療だ。

 

「巫女様、皆を褒めて下され」


 治療を優先していたら、サギさんからの一言。

 要は武勇を褒めろである。

 言われなくても、守ってくれたんだから褒めるよ。

 でも、『命大事』。

 感謝の言葉は治療の後で、ね。


「戦う者にょ守護者でありゅ戦神ダレイトスよ。

 彼等を褒め称えよ。

 みにゃの命を守りゅため闘いの場に立った彼等を褒め称えよ。

 勇気ありぇ。

 希望ありぇ。

 こりぇきゃらも困難を払わんきょとを祈り、きゃんしゃしよう。

 彼等の勇気に感謝を。

 戦神ダレイトスの加護がきょれかりゃも汝を救わん。

 きゃんしゃを……」


 治療を終えた彼等の前で、感謝の祈りを捧げる。

 噛みまくりなのは今更なのでご勘弁を。

 まるで神官みたいな事してるけど、これも俺の仕事と思ってやった。

 この人達は信心深いので、こうしないといけないっぽい雰囲気なんです。

 普通に『ありがとう』じゃダメなのかねぇ。

 ちょっと恥ずかしいです。


「うぐっ……ううぅ……ぐぅっ。


 うおおおおおおおおぉんっ!!


 やっと……やっと……ううぅっ」


 祈るように感謝の礼をしたら、突然ブライが大泣きした。

 泣くような事なの……あぁ、守れなかった仲間達の事を思い出したのか。


「ありゅがとぉ、ブライ」

「うおおぉぉんっ!」


 そっと肩に手を置いたら、さらに号泣である。

 気持ちは解らんでもないが……。


「みょう、無茶したりゃダメりゃよ」

「うん、うん」


 ブライが泣き止むまで、ずっと付いてあげた。

 よく頑張ったね、ブライ。


 なお、狼達の遺体は毛皮と肉に分けて、スタッフ一同でいただきました。

 あんまり美味しくなかったですは蛇足かな?




 ラフー生活297日目、行商の旅は順調そのもの。


 途中、2つの村に水や食料の都合で立ち寄ったりもしたが、特筆すべき問題はなし。

 平和な旅だ。

 あの樹海での日々はなんだったのか、と言い難い気持ちになる。

 こんな事なら、冬越しをせずさっさと森を突破すればよかったと後悔した。


 まあ、大勢での移動だ。

 そうそう襲われる事もなかろう。


 この後の予定は、3つの街を巡ってから鉱山都市ゴーダに向かうとの事。


 楽しみであり、また不安でもある。

 俺のような怪しい人を受け入れてくれるだろうか?

 少し心配。


 まだまだノッポのナーベル族の勢力圏内なのも不安の一部だ。

 流石にこの辺りまで旅すると、天秤教徒はゼロではないが少なくなっていた。

 立ち寄ったのが農村だった事もあり、歓迎の方が多かったかな。


 それと、道中の事だが、俺は今ドワーフ語の勉強をしている。

 鉱山都市ゴーダ周辺はドワーフだらけなので、必死に勉強中であります。


「みさいる?」

「みっそぃる」


 発音難しいね。

 今のは大豆から作られたドワーフの調味料ミサイルの発声練習だ。


 味噌です。


 ありがとうございました。


 醤油があるんだから、味噌もあるだろうと思ったら、あった。

 色が若干黒くて、水分が少ない八丁味噌っぽい。

 聞くと熟成に2年も掛かる貴重品だとか。

 発声練習の後、僅かに残っているのを見せてもらったのです。


 おぉっ、久しぶりに味噌汁を味わえるかもしれない。


 そう思った。

 この流れなら思うよね?


 残念~、見~てるだけ~。

 ショボーン。


 ゴーダ周辺に辿り着いたら味わえるかなぁ……。

 え?


 これは付けて食べるものだって?

 溶かして汁物にしない?


 ガーンッ!


 味噌汁文化がない……だと。

 ショボーン。


 い、いや待て。

 まだ残念がる場合じゃない。


 ないなら作れば良いじゃない。


 よしっ、ゴーダに到着したら絶対ミサイルを買おう。


 ……しかし、すごい名前だね。

 ドワーフの味噌は。


 空耳じゃないんだけど、『ミッソ』って聞こえるんだよねぇ。

 紛らわしい。


 後、ドワーフの醤油は『セウユ』でした。


 ドワーフの食品の名前、なんか変。

 肉マンも『ボウズ』だしね。


 あっ、エーコおばさん。

 今日も『ボウズ』ですか?

 そうですか。


 美味しいんだけど、流石に毎日だと飽きる。

 よく飽きないもんだ。

 逆に関心する。


 主食なのか、『ボウズ』?


 う~ん、ドワーフの食文化は謎が多い。

 お米もあるらしいが、見た事ない。

 まあ、この辺りは地球で例えると北部だから米作し難いだろうなと思う。

 何時か白くてふっくら炊けた温かいお米のご飯食べたい。




 ラフー生活302日目、行商の旅は順調そのもの。


 早いもので、後2ヶ月ちょっとで、俺がテイルバーグランに拉致られてから1年か。

 感慨深いものがある。

 考えてみると、あまり思い出したくない事ばっかりだな。

 うん、思い出すの止めよう。

 恥ずかしいです。

 にゃふにゃふ。


 サギさん曰く、明日辺りには、大きな街に立ち寄れそうだとの事。


 ヨシィサではほとんど観光が出来なかったから、次の街は是非とも色々見てみたいものだ。

 ブライも居るし、エーコおばさんやウッソくんも居る。

 楽しめると良いな。


 嫌な事、辛い事、いっぱいあったもんな。


 それでも俺は生き残らないといけない。

 大陸の危機が迫っているんだ。

 戦神ダレイトスから強制的に与えられた試練だけど。

 何時か戦わきゃいけない。


 それに、お世話になったサギさん達が不幸に見舞われる事のないよう微力を尽くさなきゃ。

 男が廃るってなもんです。

 あっ、今の俺、女か。




 地球に居るであろう両親よ、俺はテイルバーグランで生きてます。

 そちらもどうかお元気で。

 俺はラフーとして精一杯生きて行きます。




すまん、温泉はウソだ!

はははっ、(シャワーと)すり替えておいたのさ!

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