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ウサ耳生活  作者: heavygear
18/19

閑話2 やれやれ

今回はサギ始点



 サギはドワーフ族の行商人だ。

 故郷ゴーダを中心に西へ東へと一族を率いて商売をしている。


 主に取り扱う商品は酒。

 ゴーダの廃坑にて栽培されたグラグラヨイダケから造られた強い酒ラオを売っている。

 運ぶのは大変だが、商売としては悪くない選択だ。

 大酒呑みで知られるドワーフ族の商人が売る酒である。

 不味い訳がない。

 独特の苦味があるが、呑兵衛は皆、このラオを旨くて強い男の酒と言う。

 そして、エールの四半分程の少量でしっかり酔える。

 ラオに呑み慣れると、ナーベル族の造るエール等、ただの酸っぱい水みたいなものだ。

 ドワーフ族でなくとも買い手は次々に現れる。

 当然、面白いほどよく売れた。


 しかし、不思議と大儲けはしていない。


 それは何故か?


 運搬に人手が要る?


 樽や瓶での運搬は大変な作業だから、当然だろう。

 街を一歩外に出れば、荒れた道が多い事。

 荷馬や荷車を使っても、楽に運搬出来るものじゃない。


 移動は危険が多い?


 それもある。

 例え街道を移動しても、賊や獣は呼びもしないのに出てくるものだ。

 街から町、町から村と旅すれば、危険も増えてゆくだろう。

 護衛を雇うのはタダではない。

 優秀な者程、支払う報酬は高いだろう。


 だが、そんな理由で大儲け出来ないなんて事は、ラオを安値で売らない限りありえない。


 ならば、どうして?


 答えはサギ一族の運営方法である。




 『足るを知る』




 この言葉がサギ一族を縛っていた。

 なんとも商人に似つかわしくない言葉だ。

 だが、この言葉を先祖代々守る事で、サギ一族は余計な厄介事を回避していたのである。

 荒稼ぎしないので目立たず。

 誠実な商売を心掛けているので、行く先々で疎まれる事も少ない。

 裕福でないから、規模の大きい賊に狙われる事も少なく済む。


 ラオという主力商品があるからかもしれない。

 絶対に売れるからこそ、サギ一族は他の行商人達のように無理や無茶をしなくても良かったのだ。




 あまり裕福ではないサギは、鉱山都市ゴーダ周辺で一角の人物として知られていた。


 誠実な商売人であり、彼は若者の世話をよくするので有名だった。

 誰でもという訳ではないし、必死に頑張っている若者が困っている時にそっと手を差し出す程度である。

 別に恩返しを期待している訳ではない。

 しかし、恩を感じた若者は、何時か彼に恩を返す。

 ただ、それだけだ。

 それ故、サギは信頼と信用のある人脈が広い。

 職人だったり、農夫だったり、はたまた高名な騎士や魔術師であったりと、色々だ。

 そして、困った時はお互い様と助け合えるのである。

 サギが助ける場合が少々多いが、それでも彼は見えない利益を多く得るのであった。

 強かな男である。


 サギは、これはという人物を見抜くのが上手なのだ。

 要は青田買いが上手い商人である。




「馬~鹿息子にぃ~あったら頼む~ぅ」

「うむ」


 ゴーダの街にラオを仕入れに訪れた時、警備役人のゴーライが来るなりこう言った。

 世間知らずの悪ガキが一人旅をするので、もし出会う事があったら助勢して欲しいと……。

 サギにとってはよくある頼み事だ。

 それに戦士として有名なゴーライの頼みでもあるし、ゴーライの息子に会ってみたくもあった。

 サギはゴーライの頼みを受ける事にした。


「但しじゃ――」

「解ってぇ~おる。お前さんのぉ目にぃ適わぁければ~、放っておいてぇ~良い」

「うむ」


 言いたい事だけ言うとゴーライは帰った。

 手土産としてだろうか、ハーブ入りの旨いラオを一瓶だけ残して。




 仕入れを終えた翌日、老齢な鍛冶師ハンマが弟子を1人連れて相談に来た。


「おう、クソジジィ」

「なんじゃね、クソジジイ」


 互いにクソジジイ呼びしながらも、2人は互いに笑顔だ。

 相談事は、そろそろ独り立ちを控えた弟子に、広い世界を見せて欲しいといった無茶なお願いである。


 隊商を組んでの行商とはいえ、安全ではないのだ。

 賊の放った流れ矢に当たって死ぬ等珍しい事でもないのだと。

 それでも城壁に守られた土地から出る覚悟はあるのかと、サギはハンマの弟子に訊ねた。


 答えはそれでも外を知りたい、であった。


 弟子はトギと名乗り、しばしの間世話になると頭を下げる。

 しかし、鍛冶道具というのは重く嵩張るものだ。

 燃料代もかかるし、なにより炉は場所を取る。

 ところが、トギは鋳掛け仕事であれば荷は少ないと笑って言った。

 サギはトギの言葉に驚き、彼に問う。


『鍛冶師の誇りはないのか?』


 と。

 鉄を打ち、鋼を鍛える鍛冶師は皆、誇り高い。

 彼等鍛冶師にとって鋳掛け仕事とは、技術のない者が小遣い程度の金でする安い仕事でしかないのだ。

 それなのに、トギは態々鋳掛け仕事を行うと言う。

 サギが鍛冶師の誇りについて問うのは当然の事であったのだ。


「皆は鋳掛け仕事を馬鹿にするけど、彼等の仕事は大切な事です。

 皆が皆、高価な鍋や包丁を簡単に買い換える訳ではないのですから。

 それと仕事に貴賎はないでしょう?

 ですから、自分の行動は間違ってはいません。

 後は、見聞を広めるのに、鋳掛け仕事が丁度良いと思いました

 他の技術で造られた品を触れる機会がありますからね」


 大した男だと、サギは関心した。

 サギはトギをすぐに招いた。




 トギを加えたサギ一行は、ヨシィサを目指してゴーダの街を出た。

 ヨシィサはクーレンタ王国との交易で大きくなった街だ。

 ゴーダからヨシィサまでは、しっかりした街道が間にあるので、今回はそれを利用して進む。

 旅慣れないトギが参加しているという理由もあったから、そうした。


 サギは二頭立ての馬車を3台率いている。

 荷車を牽くのは、牛みたいにズングリとしたドワーフウマ達だ。

 このウマ達は、足は遅いが力は強い。

 荷運びに最適なウマ達であった。


 移動が遅い分、狙われ易くなる。

 護衛もしっかりと用意した。

 一族の男から2人。

 身体の大きなウドと、目端の利くボーエンだ。

 2人共本業は戦士ではないが、腕っ節はそこらの兵士よりある。

 雇い入れたのも2人。

 両手持ちの戦斧を持ったキータロと、星球棍の使い手オウハだ。

 2人共に馴染みの護衛でとても頼りになる。


 4人の護衛に守られながらの行商の旅がこうして始まった。

 サギは穏やかな気持ちで手綱を握る。




 街道沿いに点々と存在する村や里に時折立ち寄り、仕入れと販売を繰り返して、行商の旅は続く。


 貧しい土地では、ラオはあまり売れない。

 それにサギはラオだけを商いしてる訳でもない。

 売るものは色々あった。


 それは旅をして得た話だったり、塩や香辛料、頼まれた作物の種等、多岐にわたる。

 自分が生まれ育った場所から外へ出た事のない人は多い。

 だから、皆、行商人達の語る話を楽しみにしていた。

 村や里では自給出来ない品を持ち運ぶのも、彼等行商人達の仕事だ。

 余程のヘマをしない限り、邪険に扱われる事はない。


 売るものは話題や商品だけではない。

 修理作業の請負だってやる。

 今回はウドとボーエン、新たに加わったトギが活躍した。

 トギは当然、鍋や包丁の修理だ。

 ウドとボーエンは本業が車輪職人だったので、車輪だけでなく水車の修理を請け負ったりも出来た。

 今回は、車輪や水車の修理はなかった為、活躍したのはトギだけだ。


 他には、妻のエーコが織る鮮やかな服や、娘のケーコが作るボウズと呼ばれる肉饅頭もあった。

 但し、この2人が活躍するのは、余裕のある都市や外食出来る環境になってからだ。

 普段は、皆の世話をしたり等して、役に立っている。




 一月も過ぎると、背の高いナーベル族の集落が徐々に増え始めた。

 ドワーフ族の勢力圏から出たのだ。

 ここからは気をつけて行商しなければならない。

 サギはしっかりと手綱を握った。


 ナーベル族の街へと辿り着く。

 門を抜け、街へ入り、領主へと挨拶を済ませる。

 領主に税としてラオの大樽2つを渡して、商いの開始だ。


 エスタと呼ばれるテントを借りた場所に張り、屋台を組む。

 鋳掛け請負いと車輪修理請負いの立て札を置いた。

 着いたばかりで、すぐ仕事はしない。

 修理の予約だけ受けるのだ。

 本番は明日以降。

 まずは、今日一日休んで英気を養うのである。


 翌朝、本格的に商売開始だ。

 ラオの量り売りを主軸にしての商いが始まる。


 ラオの販売以外も始める。

 蒸篭でボウズを蒸し、ケーコ夫婦がボウズを売る。

 その横で、エーコは洋裁請負いの立て札を置き、客が来るまでケーコ夫婦を手伝う。

 鋳掛け仕事は、トギだ。

 ウドとボーエンは仕事が入るまで、他の応援に加わる。

 護衛は交代で、屋台とエスタ周辺の警備だ。

 孫のウッソが少々退屈そうだが、彼は皆で交代して面倒をみた。


 大儲けとはいかないが、商いは順調だ。

 これといった面倒事も今の所はない。

 サギは平穏無事に過ごした事を、天秤の女神セレスティアと旅人の守護者風神ヘルヴァリに祈り、感謝を捧げた。




 商いを始めてから3日が過ぎた頃。

 鉄兜と鎖帷子を身につけたドワーフ族の若武者に出会った。

 ゴーライの息子ブライだ。

 故郷の味がもう恋しくなったのか、ボウズを馬鹿みたいに買い込んで食べていた。


「大した食いっぷりだが、お前さん。

 そんなに食うて、旅費は大丈夫なのかの?」

「おうっ!

 親父がいっぱいくれたんで平気だ」


 なんとまあ無防備な言葉を吐く若武者だ。

 一人旅で己は金を持っていると堂々と吐くとは……。

 これでは狙ってくれと言っているも同然だ。

 それとも、賊を返り討ちにする自信と実力があるのだろうか?

 少々危うい若武者である。

 ゴーライの頼みもあった事でもあるし、サギは道中付き合わないかと誘ってみた。


「クーレンタ王国を目指してるのかっ!?

 丁度いいや。

 オイラ、すげーツイてるっ!」


 ヨシィサまでしか行かないのに、この若者は勝手に勘違いしている。

 クーレンタ王国に続く街道を通ると言うただけなのに……。

 ゴーライも抜けた男であったが、ブライはさらに抜けた若者であったようだ。


 ブライを護衛として加え、サギ一行の旅は続く。

 道中、餓えた狼の群れに襲われたが、5人の護衛が居たので問題なく追い払えた。


 なるほど、未熟なれどブライは立派な戦士であった。

 特に投石の腕が素晴らしい。

 狼達をドワーフウマに近づけさせないよう、百発百中の正確さで狼の顔に当てるのだ。

 長方形の大きな盾の扱いも上手い。

 守るだけでなく、縁で打ち払ったり、狼の突撃をいなしている。

 戦斧の出番はほとんどなかったが、あのゴーライに鍛えられたのだから、それなりの腕はあるだろうとサギは思った。


 ただ、最初に感じた印象がサギを落胆させた。


 この向こう見ずな若武者は、ゴーライ以上にオツムが弱い。

 下手をすると幼い孫のウッソに劣る始末だ。


 向上心はあるようだが、武に傾倒し過ぎていて、他が疎かになっている。

 確かに実力はあるが、それだけの若者だと、サギは思った。


 武者修行も物見遊山の感覚である。

 これでは、危険の多い地下迷宮等に行かせる訳にはいかない。

 間違いなく、隙が多過ぎて早死にするであろう。


 ゴーライには悪いが、ヨシィサで別れよう。

 サギはそう思った。


 そして、ヨシィサでブライと別れた。

 少々世間の荒波に揉まれて、自身を改めよと願いを込めて……。


 ブライが仲間を見つけて旅立ったと聞いたのは、その3日後であった。

 やれやれ、なんとも無茶をする。

 サギはブライが生きて帰れるよう、戦神ダレイトスに祈った。




 ヨシィサでの滞在はゆったりしたものであった。

 一番売れるラオの宣伝を控えめに商いをしていたので、売り切れるまで日にちが掛かったのだ。


 この街には、ナーベル族以外の人型種を劣等な亜人と見做す天秤教徒が多い。

 それ故に、騒動が起こり易かった。


 やれ、亜人の作った得体の知れない酒だとか。

 やれ、泥を食らう卑しい連中だとか。


 と、言い掛かりを付けてくるのである。

 気の短そうなブライが残っていたら、殴り合いの大喧嘩が始まりそうな罵倒を受けた事もある。

 その為、販売所は天秤教徒があまり訪れない広場にしていた。

 この広場は大通りから離れているため、これまた売り上げが悪くなる原因でもあった。

 ただ、ラオにしてもボウズにしても、しっかりとした商品だ。

 まったく売れない訳ではない。

 出来れば天秤教徒達に寛容さが欲しいものだと愚痴を零す程度である。




 ラオも売り切り、ゴーダ向けの商品を仕入れていると、ブライがエスタへと顔を出した。


 サギはブライの姿に驚き、あぁやはりとため息をついた。

 酷い格好だ。

 ゴーライより貰ったと自慢していた兜と戦斧は失われ、輝いていた鎖帷子は見る影もなくボロボロになっている。

 鎖帷子の下もボロボロだ。

 ズボンは泥の染みで茶色く汚れ、左足のブーツは裂けてスリッパのようになってしまっている。

 5人のナーベル族を仲間にしたというのに、何故か連れているのは小汚い毛皮を纏ったビスタ族の少女が1人。

 大方、心無いナーベル族に騙されて、逃げ帰って来たのだと、サギは思った。

 ビスタ族の少女もどうせ奴隷で、ブライが蛮勇を発揮して勝手に連れ出したのだろう。


「やれやれ、厄介事を持って来おってからに……」

「ん? なあなあ、悪いんだけどメシ食わせてくれ」


 サギはブライの物言いにうんざりした。




 ブライの連れてきた少女は小さい子であった。

 おそらく、5~7歳ぐらいだろう。

 服もそうだが、なんとも疲れた感じの少女である。

 今まで碌な物を食べていないのか、食事を与えると泣きながら食べ始めた。


「うみゃー……むぐ……うっ、うぅ」


 餓えた孤児や奴隷を何度も見た事があるサギだが、この少女はそれらではないと感じた。

 まず、食事作法がしっかりしている。

 空腹ゆえ多少ガツガツしているが、匙を使って汁物を食すし、餓えた孤児に多く見られる無理矢理口に詰め込んで食べ散らかすような無体はしない。

 それに何より驚いたのは、箸を使いこなしている事だ。

 この辺りで箸を使うのはドワーフ族ぐらいである。

 しかも、ドワーフ族であるブライより上手いし、満腹になったら食後の礼もする。

 この少女はかなり上等な教育を受けていると、サギは確信した。




 少女は余程辛い目にあったのであろう。

 妻のエーコが抱擁すると、堰を切ったように大泣きし、そのまま泣き疲れて眠ってしまった。


 ブライ曰く、少女は戦神ダレイトスに仕える巫女らしい。

 そして、癒しの魔術が使えるそうだ。

 どうにも信用出来ない。

 癒しの魔術を使える幼子だと?

 両親と家を失ったという話は、身なりから判断出来るのだが……。


 逃亡奴隷でないだけマシな話か。


 ブライから詳しい話を聞こうと思っていたら、この若者は酒を呑んで既に酔っ払っているではないか。

 やれやれ、明日の朝にでもするか。

 サギは首を振ってエスタに戻ろうとしていた。


「――んでな。見て驚け」

「む?」


 酔ったブライが武勇伝を語っていたのはいいが、彼の手にある物を見て、サギはエスタに戻るのを止めた。

 少女が背負っていた鞄だ。

 どこの名工による品だか解らぬが、間違ってもブライの鞄ではない。

 人様の鞄を勝手に扱うとは、マナーのなっていない若者だ。

 1つ注意してやろうと、サギはブライへと足を向けた。


「あれ? あれあれ? なんで出ないんだぁっ!?」


 ブライは鞄を逆さにして、必死に鞄を振っている。

 まるで始めから空っぽのように、鞄からは何1つ零れ落ちる事はない。


「こん中にオーグルの角、入れたのにっ! なんで出ないっ!?」

「「「ガッハハハハッ!!」」」

「っ!」


 酔ったブライを笑う男衆と違い、サギは驚いた。


 オーグルの角と言えば、かなり大きい代物。

 それがあの小さな鞄に入る。

 まさか……。

 魔法の収納鞄なのかと、サギは驚いたのである。

 しかし、いくらブライが鞄を振っても何も出ない。

 酔っ払いの戯言か……?


「あーっ! もう、畜生っ! 巫女様じゃねーと取り出せないのかよっ!」

「わーった、わーった。オーグルやっつけたんだ。凄いねぇ」

「「「ワハハハッ……」」」

「くそー……っ!? そうだ。巫女様の斧、すげーんだぞ」

「はいはい」


 オーグル退治をブライの嘘だと笑う男衆。

 なにせ、証拠となるものがないのだ。

 疑って当然である。


 仕方なく斧へと話題を変えるブライであったが、手にした斧はあかがねの一品だ。

 鞄同様に名工の作であると素人目にも解るが、所詮は赤銅。

 切れてもすぐに刃こぼれしてしまうだろう。


「いいか? よーく見ろよ」

「そんなナマクラ、どうすんだ?」


 ブライは竈にしているブロック状の石を1つ取って、彼等の前に置く。

 そして、石を断つべく振りかぶった。


ジャキンッ!


「いってえぇ~~~っ!!」

「「「「っ!!?」」」」


 斧を振り下ろさんとした瞬間。

 ザクリッという音が、ブライの手から聞こえた。


「いてえぇ~っ!」


 よく見ると斧の表面に夥しい数のスパイクが飛び出ているではないか。

 手がザックリと刺され、ブライの手は血塗れだ。

 かなり痛かったのだろう。

 ブライはヒーヒー言いながら、斧を手放した。


ジャキンッ!


 ブライの手から離れると、トゲはフッと消えた。


 これはまさか……。


「選ばれし武器だ」


 男衆の誰かがそう呟いた。

 人ではなく、武器が使い手を選ぶ魔法の武器だ。

 持ち主以外が使おうとすると、使わせないよう抗う。

 強い魔法の加護が掛かった武器に、そういった能力がある事をサギ達は知っていた。

 ブライが持ち主である少女の許可なく使おうとしたらから牙をむいたのだ。


 このような斧を持つ少女は一体何者だ!?


 サギ含め男衆は驚いた。

 だが、その前に――。


「何をしておる! ブライを押さえんかっ!」


 サギは男衆にブライの拘束を命じた。

 手の怪我については自業自得だが、魔法の品を持つ少女について詳しく聞く必要があると、サギは悟ったのだ。

 それに、この若者は何かにしろ迂闊過ぎる。

 これ以上騒がれても困るのだ。


「やれやれ、とんだ厄介事を運んで来たようじゃぞ、お主の息子は……」


 男衆に取り押さえられるブライを見ながら、サギは深くため息を吐いた。




ブライの株ストップ安

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