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ウサ耳生活  作者: heavygear
14/19

ようやく人里

ウサ耳幼女とドワーフ戦士のほっこり旅




 ラフー生活269日目、ドワーフ族の戦士ブライと旅を始めて2日目。


 もう食料危機です。

 塩とハーブぐらいしかありません。

 ついでに水も心許無い。

 今日も、採集しながらの移動と相成ります。


 朝食はヤマリンゴ風味付きハーブティーでお終い。

 なお、このハーブティーの作り方はとても簡単。

 ミント等を煎じたお湯をヤマリンゴジャムが入っていた容器に入れ、容器にこびり付いたジャムの残滓を溶かすだけ~。

 甘酸っぱいハーブティーの出来上がり。

 さあ、思う存分飲むが良い。

 水腹で空腹を誤魔化すのです。

 あぁ、固形物食いたい。

 



 あっという間に夕方。


 今日は疲れた。

 空腹も手伝って、グッタリ状態。

 なんでこうなったかというと、原因はブライ34歳。


 川が近付いたからか、それともこの辺りがそういう土地かは知らないが、ブライの道案内で真っ直ぐ進んでいたら、沼地に嵌った。

 俺は尻尾飛行でホバリングしながら移動出来るけど、ブライはそうじゃない。

 そう、ブライが嵌ったのである。

 地面が大分ぬかるんできたので俺は一旦迂回しようと言ったのだが、そうならなかった。

 まあ、迂回を宣言するタイミングが遅かったって言い訳もある。

 運が良いのか悪いのか、雉っぽい鳥が近くで羽を休ませていたのですよ。

 俺だったら無視するんだけど、ブライは違うんだな。


 この阿呆たれ、『捕る』って言うと同時に突っ込みやがった。


 俺がやった石包丁を投げナイフ代わりにして、見事鳥を射止めた事は褒めよう。

 だが、自分が進む場所をもう少し考慮して貰いたい。

 ここは沼地側だ。

 そして、ブライは鎖帷子を着た重量級キャラ。

 はい、泥に下半身がズッポシ嵌ってしまいました。


 その後、彼を引っ張り出すのが大変だったよ。

 まず、俺個人の腕力だけじゃあ無理。

 そこで、ロープを渡すんだが、長さが足りない。

 このままでは不味いと、木の枝を斧で次々と切り落とし、彼の側まで運び、即席の足場にする。

 これが兎に角疲れた。

 即席の足場にブライが乗っても、彼は重いのでズブズブ沈むだけである。

 最終的にロープを使って、彼を上に引き上げるように飛び、足場への負担を抑え、固い地面まで引っ張った。

 救助が終った頃には、2人揃って泥塗れ。

 滅茶苦茶疲れた。

 ついでに鳥は石包丁ごと泥の中。

 ブライが酷く落ち込んだ。

 しばらく反省してくれ。


 夕飯はハーブティーでお終い。


 寝ている間中、互いの腹の虫が鳴いていて物悲しかった……。

 グスンッ。




 ラフー生活270日目、ダメンズと旅を始めて3日目。

 ようやく川に辿り着いた。

 イメージ的には山奥の渓流といったところか。

 大小の岩がゴロゴロ転がる岩場、苔、水辺の植物が川を彩る。

 川の流れは急で、ゴーゴー流れていた。

 川幅はあまり広くないが、所により深そうである。

 それと、川魚も泳いでいた。


 まずはメシだ!


 釣竿でも自作しようかと俺が考えてたら、ブライは岩場へノシノシと歩み出した。

 そして、大きな石を1つ持ち上げると、デイッと投石。

 大きな石は、ゴワンッと川から顔を出していた岩に命中した。

 その後、プカ~ンと川魚が5~6尾浮かぶ。


 あぁ、ガッチン漁だっけ?


 大きい音で気絶させて魚を取るってヤツ。


「オデ、任せるっ! 捕る、一杯っ!」

「……」


 自信満々のブライさん。

 なるほど、確かに着眼点は良い。

 だがしかし、流れが急な川である事を忘れてはいないか?

 気絶した魚達はドンドン下流へ流れて行く。

 流される魚を君はどうやって回収するんだい?

 ドスドス走って追いかけてるようだけど、足元がデコボコしている所為で全然追いついてないよね。

 せめて、下流側で捕れるようなんかしてからやりなさいよ。


 ……結局、俺が飛んで回収した。


 ブライさん34歳の好感度がストップ安です。


 なお、回収した川魚はスタッフが美味しく頂きました。

 内蔵を抜いて、塩とハーブを塗りこみ、しっかり火で焼いてから頂きました。

 大変美味しゅう御座いました。


 ……。


 腹が満たされたので、ここでアレを行いたいと思います。

 アレって何だ、だって?

 決まってるでしょ。


 風呂だっ!


 いい加減臭いんだよ、ブライがっ!


 ……ってな訳で、早速浴槽造りを始めます。

 幸いな事に、ブライが小振りのスコップを所持していたので、渓流近くに穴を掘っていただく。

 その間に俺は川で洗濯だ。

 ちなみに、俺達の作業中の姿は、ほぼ裸状態です。

 腰に手拭い巻いてるだけ。

 ここで、魔物とかに襲われたら最悪だろうけど、そん時はそん時という事で1つ諦めた。


 キマダラゴケ大活躍。

 石鹸代わりに使える苔を持っていて本当良かったよ。

 最初に自分のシャツとズボンをさっさと洗い、近くの木に張ったロープに干す。

 次は、ダメンズの分。

 にゃははっ、水が滅茶苦茶濁りよるわ。

 キマダラゴケはまだまだ大量にあるから、しっかり洗ってやろう。




 ……。




 お風呂シーン?

 んなもんカットだ。

 髭モジャとケモガキの入浴シーンを見て誰が喜ぶんだ?

 あっ?

 ケモナーは喜ぶ?

 んじゃあ、カットで良いね。


パチパチパチッ……。


 焚き火を囲んで、ハーブティーでまったり一息。

 下着とズボンだけ、火の側で乾かします。

 キマダラゴケのおかげで悪臭が取れたので、フンドシみたいなブライの下着が目の前に吊るされても気にもなりません。


 まあ、俺が女子という事でブライはあっち向いてます。

 一応紳士のようだ。

 これで、俺に欲情するロリコンであったら速攻見捨てようと思います。


 ハーブティーを飲み終わった後は、俺は尻尾のお手入れ。

 ブライは剣を砥石で磨いていた。


 互いに会話はない。


 気まずいんだ、これが。


 ブライは失敗続きが原因で無言。

 俺はというと、ここでフォローする言葉を吐いたら益々ブライの『巫女様』呼びレベルが上がりそうな気がするので無言。

 けっして、しっぽのおていれにむちゅーになってるわけではない。




 その後、再びガッチン漁で魚を確保。

 半分は野草と一緒に煮込んでスープにし、残り半分は普通に焼いて晩御飯にした。

 寝る前に、明日の予定を相談する。

 するんだが、未だ失敗を引き摺ってるのだろうか、ブライはハイハイと返事しただけであった。

 水辺の食べれる野草集めと、魚の確保、飲み水の確保等話したのだが、大丈夫だろうか?

 まあ、さっさと眠って気分を変えて欲しいものだ。




 ラフー生活271日目、ダメンズと旅を始めて4日目。

 川を拠点にして食料と飲み水の確保を始める。

 要は予備の確保だ。

 常に食材が採れると思ってはいけない。

 川の近くなので水は兎も角としても、食材確保は大事。

 ブライはさっさと街に行きたがったようだが、そんなのしらん。

 お前は森で何を学んだんだと訊ねたら、シュンと落ち込んで、ガッチン漁をノロノロやり始めた。

 手のかかるドワーフさんである。




 ラフー生活272日目、ダメンズと旅を始めて5日目。

 街を目指すべく、川沿いに南下する。

 昨日、食材の予備は3日分くらい溜まったので移動開始だ。


 食材等が腐らない無限鞄があるからこそ、しっかり溜め込む事が出来るし、いざという時に困らないで済む。

 準備大事。

 焦っても良い事ないよ。


 歩きながら食材を適度に確保しつつ移動する。

 途中で見つけた野いちご美味しかったです。




 ラフー生活275日目、ダメンズと旅を始めて8日目。

 川の流れが若干緩やかになってくると、木々の数も空くなり、草原に到着した。

 ようやく森を抜けたのだ。

 嬉しくもあり、また哀しくもある。

 森と川の恵みよ、ありがとう。


 ブライも街が近い事を実感したのだろう、急に元気になった。

 そういや君、シティボーイだったね。


 太陽と川で位置を確認しながら、俺達は歩き始めた。

 森とは違い、空気が乾いているような気がする。

 まあ、俺が最初に居た場所がジメジメしていただけで、そう感じるのかもしれない。


 木々が蓋をしない世界はとても広く感じる。

 青い空、流れる白い雲。

 どこまでもどこまで、大空は続いて見えた。

 ピーッと甲高い鳴き声を発てる鳥の姿もある。

 凄く高い位置を飛んでいるので、どんな鳥かは解らない。

 猛禽類じゃない事を祈ろう。


ザアアァー……。


 空を見上げていると風が吹いた。

 少し強い風だが、とても気持ちよいものに感じる。

 草の匂いも不快に感じない。

 これは開放感だろうか?

 それとも……。


「行く、近く、ある、道」


 ブライ曰く、近くに街道があるっぽい。

 しかし、何故ブライは俺の大分先を歩いてるんだ?

 ……あぁ、そうか。

 何時の間にか俺は立ち止まっていたようだ。


「疲れ? 休む?」

「らいじょーびゅっ」


 ボーッとしていたので、ブライに心配をかけてしまった。

 不覚。

 だが、気持ちは嬉しく思う。

 そうだよな、ブライは仲間だもんな。

 お言葉に甘えて、少しだけ休憩をする。

 なんだかホッコリした。


 道中、ブライが野ネズミを確保。

 やるじゃん。

 俺の方は野生のハーブをいくつか確保して終わり。

 一応野ウサギを見つけたのだが、ここは見逃してやった。

 今日はブライに華を持たせておこう。


 お昼に野ネズミを塩とハーブで味付けして焼く。

 ウメーウメーとブライがほとんど食べた。

 ……やれやれである。


 夕方近くになり、道らしきものを発見。

 草が少なく、土が剥き出しになっており、そこには2本の浅い溝が刻まれていた。

 浅い溝は南と東に伸びている。

 あぁ、轍か。

 馬車とかあるんだろうなと、今更ながら気付いた。

 人里が近付いたんだと思うと、ちょっぴり感慨深いものだ。

 1年半もの間、人間社会から離れてたからなあ。


 ここで野営をしようかと訊ねると、ブライは首を横に振った。


「ある、休む、場所。ある、先」


 野営する為の場所でもあるのか?

 ふむ、ここで疑う必要も特にないので、俺はそれに従う事にした。


 すっかり陽も暮れた頃、箱型の建物に辿り着く。

 無人の小屋だ。

 土台は石で、屋根は木。

 壁は漆喰で固められているようで、案外しっかりした造りをしている。


「安全、ここ。使う、ただ」


 ニコニコ顔のブライに手を引かれ、建物の中に入る。

 当然、中は真っ暗だ。

 しかし、ドワーフ族のブライにはこの程度の暗さは平気らしい。

 俺も夜目は利く方だが、ほとんど光源がない室内には利かないんだな、これが。


「まっきゅら……? えいっ」


 ライトボールを掌に出して光源にする。

 ブライがライトボールにビックリしてたが無視した。

 こいつに説明するのが面倒くさいからね。


 分厚い木の扉には鍵がなく、内側から閂で閉じるようになっていた。

 中を覗くと、レンガを組んだ竈と煙突だけ。

 窓はあるけど小さくて、空気の入れ替えぐらいにしか役に立たなそう。

 少しかび臭い。


 なるほど、街道を旅する人達が利用する休憩所なんだな。

 そう納得してから、俺はライトボールを小屋の外に捨てた。


 ……外は完全に陽が落ちてますね。


 俺は室内に居るブライを生暖かく見つめてから、宿営の準備にかかった。

 こういう所が甘いな、ブライは。


 『野営は早めに』


 旅の基本ですよ。

 薪とか集める時に陽が暮れてたら危ないでしょ?

 まあ、無限鞄にゴッソリ薪を入れてるから大丈夫だけどさ。


 焼き魚と魚のスープを食べて就寝。

 あぁ、小屋とはいえ屋根のあるまともな場所で久しぶりに眠れる。

 おやすみ。




 ラフー生活276日目、ブライと旅を始めて9日目。

 朝食を済ませ、小屋を軽く掃除する。


「ない、掃除?」

「……」


 俺が片付けている姿を不思議そうな顔で見るブライくん。

 こいつ……。

 怒っていいよな。


「ブライ」

「お、応」

「しぇー座」

「?」

「きょきょに、座りぇ」

「お、応」


 ふむ、どうやらドワーフ族には正座の文化があるらしい。

 おほん、それは兎も角としてだ。

 説教しようか。


「いいでしゅきゃ。きょきょは――」


 ここは、皆が使用する所です。

 貴方だけの場所ではありません。

 汚したら綺麗にする。

 常識ですよ。

 貴方は汚い場所を使って気分が良いですか?

 嫌でしょう?

 だから、次に使う人が気持ちよく使えるよう掃除するんです。

 皆がそうするから、私達も気持ちよく使えるのです。


「――解りましゅたか?」

「お、応。すまない。オデ、する、掃除」


 うむ、しっかり反省してくれたようだ。

 しかし、まだ終らんよ。


「ていっ」


 ブライの足の裏をチョンッと突く。


「っ!? СБρθっ!? СБっ……СБρθっ!」


 にゃはは、お前さんの足が痺れていたのはお見通しだっ!

 しばらくの間、床で悶絶してるが良いわっ!

 あーっ、スッキリした。


 しかしまあ、手のかかるヤツだ。

 ついでに、黙って突っ立ていれば、頼りがいのある男に見えるだけとか、性質が悪い。

 憎めないヤツではあるけど、何時までも一緒だと、こっちまで馬鹿に見られそうで嫌だ。

 街に辿り着いたら、お礼を貰ってさっさと別れるのが吉ですな。

 無責任?

 んな事ないない。

 ギブ・アンド・テークです。


 俺、傷治す。

 ブライ、街に案内。


 食事の件とか考えると、どう考えても俺側の利益が少ないが、そこは我慢しようじゃないか。


 こちとら見た目が子供ですから、早いうちに街で生活基盤作る必要があるんですよ。

 ダメンズにダラダラ関わってる暇なんて無い。

 ついでに俺、巫女様じゃないから!


 冷たいヤツと思われるかもしれないけど、それはそれです。




 ブライが回復してから出発。

 相変わらず何を勘違いしてるのか、ブライは俺を『巫女様』呼びで誉めちぎる。

 ダメだこいつ、早くなんとかしないと……。


 ため息を零しつつ、道沿いに歩く。

 よく晴れた空、澄んだ空気がとても心地好い。

 草原の遥か先に山が見え、また広大な森が姿を現す。


「ある、近く、街」


 山が見えるのが目印なのだろう。

 ブライはニコニコとした表情で先を指差した。


 2時間程歩き続け、一旦休憩。

 昨夜の残りを昼食にして、再出発。

 幸運な事に、獣等に襲われる事なく、黙々と歩き続ける。




 森から川、川から草原、そして……。


 人の手によって作られたものが視界に映る。

 柵と塀だ。

 木の柵と土の塀で、街全体を覆って防御しているのだろうか。

 どこまでも続く木の柵と、土を盛って作られた塀が見えた。


「街、ヨシィサ。多い、来る、去る、人」

「ヨシィサって街のにゃまえ?」

「応」


 うんうん、と俺の問いに頷くブライ。

 彼曰く、人の出入りが多い街。

 もしかして、交易地だろうか?

 ふみゅふみゅ、なるほど。


 だったら……。


 まともなご飯が食べられるっ!!


 米は無理でもパンは食べたい。

 それと、チーズとかの乳製品っ!

 塩気の効いたベーコンやハムも捨てがたいが、ちゃんとした野菜をしっかり食べたいっ!


 あぁ、どれだけこの日を待ちわびたことか……。

 ジュルリッ。

 おっと、涎が。


「にゃははっ! 早きゅ行きょぉっ!」

「っ、応っ!」


 俺達はヨシィサの入り口目指して駆けた。




前書きのアレな


ウソだ

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