閑話1 小さな巫女
今回の主役はブライ
オイラの名はブライ。
鉱山都市ゴーダの警備役人ゴーライの息子さ。
オイラの親父は、斧と盾の扱いがすげー上手くて、すげー強いんだぞ。
しかも、若い頃はオーク族の盗賊団をたった二人で打ち倒し、領主様から警備役人の偉いさんにしてもらったんだ。
自慢の親父さ。
盗賊団の退治には、神殿の頑固ババアが付き合ったんだってさ。
あのババア、何時も口煩いだけでオイラは嫌いだ。
だけど、癒しの魔術が使えるから、ゴーダの連中はあのババアに頭が上がらないんだってさ。
でも、よくあのババアを連れて行けたね。
いくら癒しの魔術が使えるからって、棺桶に片脚突っ込んだババアだぜ。
『盗賊退治が終った後じゃねぇと役に立たないんじゃねぇか?』
そんな事を聞いたら、親父にぶっ飛ばされちまった。
親父曰く――。
『このぉっ戯けがぁっ!
タマモ様ぁな、戦神ダレイトス様ぁに御仕えするぅ巫女様ぬわんだぞぉっ、おいっ!
怪我ぁ治すだけでぇなぁく、戦士の加護ぉ与えてぇ下さるぅのだぁっ!
オラッチがぁ盗賊ぅをぉバラせた(殺せた)ぁあんは、ダレイトス様ぁとタマモ様ぁのぅ御蔭だぁ。
お前ぇも真の戦士を目指すぅなぁら、戦士の加護ぉ与えてぇ下さるぅ巫女様ぁ見つけろ。
腕っ節ぃだぁけじゃあ、そん辺んのぉ兵士とぉ変ぁわらんわっ!』
――だってさ。
鍛えるだけじゃ駄目なんだって。
オイラも親父みたいなすげー強い戦士になりてぇのに。
簡単になれねぇのな。
だから、オイラ、神殿に行ってオイラの巫女様を探したんだ。
そうしたら、ババアに鼻で笑われちゃった。
『度し難いクソガキだねぇ』
――だとさ。
神殿で一番偉いのは頑固ババアだから、誰もクソガキ呼ばわりされたオイラの巫女様になってくんねぇんだ。
悔しいけど、オイラ一生懸命頑固ババアに頭下げたね。
戦士として認めてくれって、ね。
ババアからの返事は滅茶苦茶痛ぇ回し蹴りだったよ。
このクソババア、見た目と違って親父並みに強ぇじゃないかっ!
詐欺だ。
結局、ババアにボコボコにされて、オイラは神殿から蹴り出されちまった。
家に帰ってから、オイラはベッドでいっぱい泣いた。
すげー悔しかった。
認めてもらえなくて、ババアに蹴られまくって、さ。
その後は、親父に頼んでいっぱい鍛えてもらった。
いっぱい勉強もした。
いつか頑固ババアに戦士として認めてもらうために。
34歳になった時、親父から外で鍛えろって言われた。
色んな人間に逢って、もっとデカイ男になれって。
ようは武者修行だ。
オイラ、親父を越えるに戦士なるって、戦神ダレイトス様に誓ってゴーダを出た。
まずは乗合馬車に乗って、隣の街に旅立ったんだ。
そこはヒョロリとしたノッポのナーベル族ばっかりの場所だった。
酒場で一杯ひっかけてたら、クーレンタ王国つー国に魔物がわんさか出る地下迷宮があるって話を聞いたんだ。
これは天啓だと思ったさ。
魔物を退治して、名を馳せる機会だってね。
オイラはすぐに旅立とうとした。
そしたら、運が良いことにクーレンタ王国を目指してる隊商が居たんだ。
そん人達に相談したら、護衛してくれるなら一緒に行こうって話になったさ。
ツイてる。
オイラ、護衛しながらいくつもの街や村を観光出来たんだ。
でも、狼ぐらいにしか遭遇しなくて、護衛はすげー退屈だった。
物語の英雄みてぇに悪党やオークのゴロツキなんかをバッタバッタやっつける機会があると思ったのに残念だ。
クーレンタ王国まであとちょっとになって、オイラ護衛をクビになっちまった。
付き合いの長い傭兵がこの町にいるから、ここまでで良いってさ。
じゃあ、しょうがねぇ。
旅費はあるから、オイラは自分の足で向う事にした。
オイラと同じように、武者修行で地下迷宮に向うヤツもいっぱい居た。
不思議な事に、一人旅はオイラだけみてぇだ。
なんでだ?
女を一人連れた五人組みにそう訊ねた。
そしたら、地下迷宮にゃあ魔物が居るだけでなく、罠やら目くらましの魔術がかかってる場所があるみてぇで、そういった知識がねぇとすぐ死んじまうってさ。
オイラ一人じゃ手に負えねぇや。
そしたら、ヨナタンって名前の戦士が一緒に挑まないかって誘ってくれたんだ。
地下迷宮に挑む人数は六人が良いらしいからだって。
きっと六星神様達にあやかってんだな。
格好良いっ!
ダレイトス様の加護あれ!
皆良い奴だ。
リーダーは大剣の使い手ヨナタン。
オイラを誘ってくれた男だ。
元狩人のヨッヘム。
弓の名手でヨナタンの相棒。
魔術師のネーポムク。
攻撃魔術は苦手だけど、目くらましの魔術とかが得意ですげー賢い。
ドワーフ語やエルフ語もペラペラなんだぜ、すげーよ。
オイラ、この辺りで使われてるナーベル・シラー語が少ししか話せねぇからネーポムクがいねぇと会話に困るんだ。
すげーありがたい魔術師だ。
女戦士ズージ。
ネーポムクの嫁さんで、小剣の二刀流が得意。
料理も上手だ。
鍵師ウド。
こいつだけはちょっと嫌いだ。
天秤教徒だから、オイラをドワーフじゃなくドヴェルグ(短人)って小馬鹿にするんだ。
でも、こいつがいねぇと、鍵やら罠に対処できねぇからオイラ我慢した。
ネーポムク曰く、複数で組むことをパーティを組むっていうらしい。
六人パーティの誕生だ。
この日は酒場でパーティ結成を祝してパーティになった。
洒落てる。
でも、ちょっと騒ぎすぎちゃった。
皆の路銀が心許ないみてぇだ。
オイラは護衛の仕事をした後だったから、余裕があるけど、他はそうじゃねぇみてぇ。
クーレンタ王国行きの隊商の護衛をしようにも、オイラ達と同じ様な奴らがすでに受けてて仕事がないときた。
こいつは困った。
そこで、リーダーのヨナタンが口利き屋に聞いて仕事探しだ。
翌朝には、流石リーダー、頼りになる。
『霧の大森林』に住むオーグルを狩る依頼を見つけてきた。
アイツら人喰いだから、街道周辺に出張って来ねぇように間引きするんだとさ。
だったら兵隊でも出しゃあいいじゃんかと思ったけど、そーされっとオイラ達の仕事がなくなっちまう。
まっ、ケチな盗賊退治を受けるよりオーグル退治の方が箔がついて良っか。
オイラがすげー男だって、皆に教えてやるぞ。
んな訳で、オイラや皆の実力の確認も兼ねて、『霧の大森林』へと向う事に決まった。
すげーワクワクしたさ。
人喰いオーグル退治なんて、親父でもしてねぇからな。
でも、ちょっと怖ぇな。
だって、オイラ、馬鹿みてけ図体のデケェヤツと戦った事なんてねぇんだもん。
そん事を、皆に尋ねたんだ。
そしたら簡単な作戦を、ヨナタンとネーポムクがすぐにたてちまった。
すげー頭良いな。
ヨナタン達と一緒ならどんな相手も怖くない!
待っていろ、オーグル!
準備を整えて、オイラ達は『霧の大森林』へと向った。
この冒険でオイラ、森ってヤツを舐めてたと嫌というほど思い知らされたよ。
道は悪いし、井戸はねぇし、食い物探すの難しいで、皆の足を引っ張ちまった。
元狩人のヨッヘムやズージに頼りっぱなしで恥ずかしいや。
川を拠点にして、周囲を探ったけど、オイラにゃ魚ぐらいしか見つけられねぇ。
悔しいなぁ。
森と川を行ったり来たりして四日が無駄に流れちまった。
五日目だったか、ヨッヘムとウドがオーグルの足跡を発見した。
デカイ足跡だ。
ドワーフが丸々入りそうなくらいデカイ。
追跡の始まりだ。
早く見つかるといいな。
そうしたら絶対、オイラの戦斧で活躍するぞ!
オーグルの脛をこいつでぶっ叩いてやる。
二日ぐらい森へと入り込んで、ようやくオーグルを見つけた。
狼を頭からバリバリ齧ってやがる。
なんて凶悪そうなヤツだ。
ここで退治するぞ。
そして、皆にオイラがすげー戦士だって認めさせてやるんだっ!
ヨナタンの指示で、オーグル退治が始まった。
オイラとズージは木の影を利用して、オーグルの背後に回りこむ。
ヨナタンは残りの仲間の壁役で残った。
オイラとズージが背後に回りこんだ所で、ヨッヘムとウドが弓でオーグルを射掛ける。
矢を射られたオーグルがガオーッて雄たけびを上げ、ヨナタン達に向った。
今だ!
オイラとズージは茂みから飛び出した。
それと同時にネーポムクの目くらましの魔術がオーグルを襲う。
ヨナタンも大きな剣を両手に構えて飛び出した。
目くらましの魔術にやられたオーグルは目が見えなくなってまって、ビックリしたみてぇだ。
デタラメに太い腕を振り回して、飛んでくる矢から逃げようってしてた。
飛び出したオイラ達をほったらかしてんだぜ。
こいつは絶対に勝てる!
オイラは大盾を使ってオーグルのブンブン振り回される拳を受け流して、作戦どーりに戦斧を脛に叩き込んだ。
ドスッと会心の一撃っ!
なめした皮みてぇに分厚い皮膚なんか関係ねぇとばかりにオイラの戦斧はオーグルの脛に深く食い込んだ。
ドブ川みてぇな臭ぇオーグルの血しぶきがあがる。
オーグルはギャッと悲鳴を上げてドスンッとすっ転んだ。
バキンッ!
オーグルのクソッタレめっ!
脛に食い込んだままのオイラの戦斧を、転んだ拍子に道ずれにしてぶっ壊しやがった。
怒ったオイラは大盾の堅い縁を何度もオーグルに叩き付ける。
戦斧の仇だ。
後は、皆で斬って、叩いて、突き刺して、オーグルに止めを刺した。
被害はオイラの戦斧を除けば、圧勝だ。
オイラ達は勝利の雄たけびを上げた。
ダレイトス様の加護あれ!
仲間と一緒だったけど、あの何度殴りつけても倒れないしぶといオーグルをオイラはやっつけたんだ。
こん時のオイラは勝利に酔ってた。
うん、オイラだけでなく皆も酔ってて、オーグルから戦利品を剥ぎ取る事に夢中になってた。
だから、ヨッヘムに教えてもらった事をすっかり忘れてたんだ。
『森や草原といった自然では小さな油断が死につながる』
って、大事な教えを……。
ガサリッ!
戦利品を剥ぎ取り終った瞬間、背後の茂みから物音が聞こえた。
えっと思った時には、茂みから巨大な腕が飛び出し、ヨッヘムの頭がバキャンッと割れた。
オーグルの仕業だ。
まだ居たんだ。
茂みから飛び出して来たのは3体。
うち1体は丸太みてぇな木の棍棒を持ってやがる。
頭割られたヨッヘムがグラリと倒れた。
その近くに居たネーポムクもオーグルの真っ黒い鉤爪に背中を引き裂かれた。
「ぐあっ!」
「っ!? ネーポムクッ!」
「あんたぁっ!」
「くそっ!」
ヨナタンとオイラは、ネーポムクを守るため急いでオーグル族3体の前へ駆け出した。
オイラは大盾を振り回して、ヨナタンは大剣を振り回して、牽制した。
ウドも弓を使って、転んだネーポムクにオーグルが近付かないよう必死だ。
「撤退するっ! ネーポムクを回収しろっ!」
「おうっ!」
「あんた、しっかりっ!」
「早くズラかる準備をしろっ! 矢が尽きそうだっ!」
男3人での牽制は上手くいき、ズージはネーポムクを抱え上げて後ろに下がった。
ズージはすげー勇気の持ち主だ。
棍棒と鉤爪を掻い潜って旦那を助け出したんだから、さ。
「う……ぐぅ、光の精霊達、我が霊素を糧に我が敵達を眩ませっ!」
ローブを血塗れにさせながらも、ネーポムクは得意の目くらましの魔術をオーグル達に放った。
オーグル達は一瞬バカみてぇにボーッとしちまってる。
でも、それでネーポムクの顔色はさらに悪くなった。
かなり無理しちまったと思う。
「い、今のうちに」
「あんた、なんて無茶をっ!」
「急げよっ!」
「ブライとオレが殿っ! ウドッ! ズージを手伝えっ!」
ネーポムクはもうフラフラで、ウドとズージに支えられないと歩けなくなっちまっていた。
なんだよ、これ?
オイラ達はさっきまで勝ってたじゃねぇかっ!
なんで、尻尾巻いて逃げてんだよ。
「不味いっ! 効きが悪いのがいるっ! 何してる、急げっ!」
「えっ?」
オイラが呆然としちまってる間に、棍棒を持ったヤツがやって来ていた。
咄嗟に大盾をオイラは構えた。
でも、怪力のオーグルが振るう棍棒に、大盾もオイラの左腕も耐え切れなかった。
ドギャッ!!
「っ!? ぐわあああぁっ!」
痛ぇ。
すげー痛ぇ。
オイラの左腕はグシャグシャになっちまった。
大盾もきれーにぶっ壊されちまった。
腕は千切れてねぇけど、使い物にならなくなっちまった。
畜生っ!
「ブライッ! ズージと変われ!」
痛む左腕を庇いながら、オイラはノロノロと無事な右腕でネーポムクを支えた。
その時には、目くらましが切れた残り2体がやって来ている。
もう、駄目だ!
勝てない。
「うおおおおぉっ!!」
ヨナタンが必死に大剣を振り回して、オーグル達に向う。
ズージが応援に駆けつけようとするけど――。
「ぐはっ!」
「きゃああぁっ!」
――間に合わなかった。
鉤爪であっけなくヨナタンが死んじまった。
ズージも胸を切り裂かれちまった。
「っ!? ふ、光の精霊達、我が霊素を糧に我が敵達を眩ませっ!! ゴフッ!」
自分の命を削るような声が響く。
重症のネーポムクだ。
青い顔が真っ白になっちまってる。
「くそっ! 矢が」
ウドは矢が尽きてしまっていた。
「と、とにかくズラかるぞ」
目くらましが効いてるうちに、オイラ達4人は逃げ出した。
すげー惨めだ。
ヨッヘム、ヨナタン……。
どれだけ走ったか覚えてない。
ただ皆疲れきってた事だけは覚えてる。
「ハァハァ……、ふ、二手に……わ、別れましょう」
「あんた」
今にも死にそうな表情でネーポムクが言った。
もうズージと自分は走れない。
このままでは足手まといとなり、皆助からないと……。
オイラは泣きながら、ウドと逃げた。
囮になった夫婦の事より、自分の命を心配したからだ。
ネーポムク達の悲鳴が遠く聞こえた。
ゴメン、ゴメンよ。
ネーポムク、ズージ……。
生き残ったのは、オイラとウドだけになっちまった。
オーグルはまだ追いかけてきやがる。
しつこい。
追っ手は棍棒を持ったオーグルだ。
斧も盾もないオイラじゃあ、もうどうしようもない相手。
ウドはまだ怪我1つない。
オイラは覚悟を決めた。
ウドの盾になる。
怖ぇけど、ネーポムク達の勇気に応えるんだ!
親父、お袋、オイラ、ここで死ぬよ。
足の早いウドを逃がさねぇとして、オーグルが棍棒を投げつけようと構えた。
オイラはウドの盾になるばく、木の根を台にして蹴り、宙を飛ぶ。
ギュンッ!
空を切り裂く棍棒。
オイラは棍棒に身体を投げ出した。
ドガンッ!!
すげー鈍い音と衝撃だ。
あまりもの痛みにオイラは一瞬意識がぶっ飛んぢまった。
ハッとしたと思ったら、すぐ目の前にウドの背中。
「ちょっ!」
振り向くウドの驚いた顔は上下逆さまでなんかおかしかった。
ドーーーンッ!!
「ぐわぁっ!」
「ぎゃああああああぁっ!!」
棍棒に吹き飛ばされたオイラはウドにぶつかっちまった。
上も下も判んねぇほど宙をクルクル回って飛ばされちまったみてぇだ。
グニャリと景色が歪んだと思ったら、オイラは何時の間にか気を失っていた。
生きてる。
ズキリとした痛みでオイラは気が付いた。
すぐ側には、うぅっと唸るウドが倒れてる。
運が良いのか悪いのか、オーグルは近くに居ねぇ。
オイラはウドを起こすと、互いに身体を支えながら、大きな倒木に逃げ隠れた。
なんとか応急手当をするけど、オイラは重症だ。
ウドは打撲が酷いのか、薪をいくつか拾い集めた頃にはピクリとも動けねぇ。
背負い袋も破れてた。
最悪だ。
食料と水の大半を失っちまった。
こんな辺鄙なとこだ。
当然、助けなんて来ねぇ。
血をいっぱい流しちまったせいで、火を熾す気力も、街まで歩く体力もねぇ。
食い物もねぇ。
水もねぇ。
後は、死を待つだけか……。
オイラ、何やってたんだろう?
親父を越える戦士になる?
ハハハッ、もう無理……かな。
オイラ、舐めてた。
森も、世の中も、なにもかも……。
大して強くもねぇのに、オイラ、何やってんだよ。
何やって……。
あぁ、だんだん寒くなってきた……。
ダレイトス様、こんなオイラの事、認めてくんねぇだろぅ……な……。
なんだろう?
暖かい。
とうとうオイラ死んぢまったんかな?
「大丈夫でしゅきゃ?」
舌足らずな可愛い声が聞こえた。
天の御使いか?
オイラはなんとか、無事な右目を開いた。
開いた?
そっか、オイラ、まだ生きてるんだ。
目の前に居たのは、毛皮のボロっちぃコートを羽織った少女だった。
それもビスタ族の幼い子供。
なんで、こんなとこに?
幻覚でも見てんのか、オイラ?
困った。
この子、ドワーフ語が喋れねぇぞ。
助けてくれたみてぇだけど、どうしよう?
驚いた事に、このビスタ族の少女。
オイラよりも小っせぇのに、癒しの魔術が使える!
すげー!
うん、すげー助かった!
ダレイトス様はオイラをお見捨てになんねぇでいてくれたっ!
だってこの子、ダレイトス様の巫女なんだぜ。
兜や腰帯にダレイトス様の紋章が刻まれてるんだ。
なんたる奇跡!
……。
ウドの馬鹿野郎っ!
巫女様に乱暴働くなんて、なに考えてやがんだっ!
……でも。
やっちまったよ、オイラ。
巫女様を助ける為、ウドの馬鹿野郎を殺しちまった。
オイラの仲間、これで皆死んぢまった。
勇敢なリーダー、ヨナタン。
弓の名手、ヨッヘム。
賢い魔術師ネーポムク。
女戦士ズージ。
大馬鹿野郎のウド。
……皆、良い奴だったのに。
戦神ダレイトス様、オイラ、これからどうすれば良いんだ?
色んな事がいっぱいあって、色んな事が頭ん中でグチャグチャになって、オイラ、どうしていいか解んねぇよぉ……。
……。
オイラ、悪ぃ事をした。
償わねぇと、きっとダレイトス様はオイラをお許しになんねぇ。
助けてくれたのに、オイラ、小さな女の子にいっぱい失礼な事を聞いちまった。
ラフーって名前の小さな女の子は、家族を失った可哀そうな子だ。
小せぇのに、たった1人で、オーグルやらがうろつく森に逃げ延びてきたらしい。
オイラ以上に不安で怖くて堪らなかっただろうに……。
ダレイトス様はこんな小せぇ子に何かの試練をお与えになってるときた。
頼れるヤツもいないだろうに、不憫で堪らねぇ。
それ以上に、オイラよりも大変な道を歩いてやがる。
情けねぇ。
オイラはなんて情けねぇんだ。
しっかりしろ、ブライ!
お前は、親父を越える戦士になるんだろ?
今度はオイラが誰か――いや、巫女様を助ける番じゃねぇのかっ!?
そうだよ、今度はオイラがこの小せぇ巫女様を助けるんだ。
頼りねぇかもしんねぇけど、オイラ決めた。
決めたぞ。
小せぇ巫女様を守るんだ!
きっとそれが、仲間殺しの罪を償う光になるっ!
オイラ、頑張る!
頼りにしてくれ、巫女様。
見た目おっさん、中身は背伸びする少年。
わかりづれーなドワーフw