色々足してこけたゲーム
パソコンのモニターでウサ耳幼女が斧を手に悪役をバッタバッタと倒している。
空飛ぶウサ耳幼女は、斧で近付いて来た敵を殴り、離れた位置に居る敵には光の玉をぶつけ、前へ前へと進んで行く。
『夢幻狂想曲』
このゲームのタイトルだ。
アクション・ゲームとロール・プレイング・ゲームの要素を追加したシューティング・ゲームである。
つまり、基本はシューティング・ゲーム。
攻撃範囲拡大や飛び道具強化、移動速度強化等をするパワーアップ用アイテムは、道中見つかる宝箱や倒した敵が落としたりする金貨や宝石等で、『不思議なお店』で購入するシステムとなっている。
上手な攻略法は、スタートから中盤までパワーアップなしの状態で兎に角貯金しまくり、終盤まで使える高価で高威力のパワーアップ用アイテムを買う事。装備が強力になっているので、中盤からはかなり楽に敵を殲滅出来るようになる。
当然、襲い掛かる敵のほとんどを無視したあげく、パワーアップなしで各ステージのボス戦をしなければならないという苦行が付く。
40過ぎのおっさんである俺には、この攻略法は無理。
選択出来るキャラクターによっては、最初のステージのボスまで持たないです。
難易度を最低の1レベルまで下げれば、キャラクター次第でギリギリ可能といったところか。
ネットの動画サイトなんかで上手なプレイヤーさんのリプレイを見たけど、キャラの操作が最早芸術的過ぎて、おっさんには到底真似出来ません。
ゲームがマイナーだった所為か最高難易度6のリプレイしか見つけられなかったんだよね。
それに元々、シューティング・ゲーム得意じゃないし……。
しかし、良い参考にはなった。
良いゲームだと今でも思っているんだけど、流行らなかったのが残念である。
ストーリーは、ファンタジー世界を滅ぼそうとする悪の大魔王を倒すというシンプルなもの。
まぁ、シューティング・ゲームで長ったらしい説明をしても誰も覚えないか。
それと、敵が特徴的だったのが印象に残っている。
ガーゴイルとかドラゴンに混じって侍や忍者が登場したりとかね。
説明書を読んでも、大魔王の配下に似非日本風キャラが多数出現する理由は不明だ。
海外に売るのを意識したのかな?
選択出来るキャラクターは4人。
若き聖騎士スペード・ソード卿。
甲冑に身を包み、剣と盾で武装した攻守のバランスが取れた青年。
飛び道具は剣から出る三日月形の衝撃波。
ぶっちゃけ主人公。
怪盗クローバー・ステイブ。
シルクハットを被ったタキシード姿のナイスミドル。
飛び道具にカードを使い、接近戦ではステッキを軽快に振るう素早いキャラ。
移動速度と飛び道具の連射性能は4人中トップクラス。
打たれ弱いけど動作が軽いので扱い易いのが特徴。
森の乙女ハーティア・チャリス
弓矢と短剣を装備したエルフの女狩人。
怪盗クローバーに次ぐ素早さを持ち、飛び道具の連射性能は低いけど有効射程は4人中トップクラス。
さらに、パワーアップ用アイテムである武器と防具以外とは別に魔法を多く装備可能な万能タイプ。
世の男性プレイヤーさんの多くが使用するであろうキャラ。
明らかにヒロイン枠。
小さな勇者ラフー/古強者ディスク
海外版だと髭もじゃ小人なドワーフの爺ちゃんで、国内版だとウサ耳幼女な獣人。
製作者コメントを読むと、『ジジイだと日本じゃ不人気になりそう』なのでと、上司から女の子に急遽変更させられたと愚痴が載っていて笑える。
ついでに、グラフィックを全部書き換えるのが面倒なので、一部差し替えをした結果、獣人の幼女になったとコメントには書かれていた。
4人中最弱の戦闘力という性能のおかげで、結局不人気キャラになっていたようだが……。
俺が今使っているキャラクターが、このラフーだ。
身体が小さいから被弾率が低いのは良いが、動きがトロくて使い勝手が最悪という難易度を無駄に上げるだけのキャラである。
なんでこんなキャラを使っているのかというと、俺は別にMとかケモナー等の理由ではない。
断じてない。
ないったらない。
大事な事なので3回言おう。
このキャラは大器晩成タイプだから使っているのだ。
『夢幻狂想曲』の基本攻略法は、敵を倒すのは当然として、金貨や宝石等を集めてパワーアップ用アイテムや魔法を『不思議なお店』で購入する事。
要するにお金持ちになれば強くなるのだ。
で、ラフーとディスクは最強装備を集めた場合、4人中トップクラスの戦闘力を持つキャラクターに生まれ変わるのである。
そこまでの道のりが多少険しいのは、まあ仕方ないけど。
ま、成長する様が他のキャラより楽しく感じられるキャラなのだ。
個人的には、海外版のディスク爺ちゃんのグラフィックが好きなのだけど、海外版に切り替えると表示されるセリフや文字が英語になってしまうので、仕方なくラフーのまま遊んでいる。
ちなみに、このゲームがゲームセンターに配備された頃というのが、格闘ゲームが家庭用含め全盛期で、ついでに高性能な家庭用ゲーム機が流通し始め、ゲーセン離れが始まりだした頃。
はい、こけました。
世界観が解り易いファンタジー作品で、初心者でも2ステージまでなんとか進められる気軽なゲームだったんだけどなぁ。
高性能ハード機が出回り、お家で出来るRPGや格闘ゲームの種類が増えたから対抗出来なかったんでしょうね。
1年持たずにあちこちのゲームセンターから次々と消えて行きました。
当時、仕事帰りにかなり散財して遊んだ俺にとって、それは哀しいというより寂しい出来事でした。
と、まあ十年以上前の思い出だったのですが、なんとつい先日、PC用ソフトになった『夢幻狂想曲』がダウンロード販売されていたのです。
懐かしさから、思わず買ってしまいました。
で、当時を思い出しながら遊んでいる訳です。
『フシャア~ァッ!!』
おっと、回想しているうちに第10ステージのボス戦に突入しそうです。
さっきの威嚇するようなボイスは、ボス戦が近いという合図みたいなものですな。
ディスク爺ちゃんだと、
『GO TO HELL!! GAHAHAHA!!』
と、かなりイカしているんだけどな。
「ふぅ。あと2ステージかぁ」
久しぶり過ぎてかなり腕が衰えていたけど、なんとかボス戦を勝利。
雷鳴轟く森林地帯の第11ステージに突入します。
画面スクロールを出来る限り遅く進め、登場する敵キャラを討ち漏らしなく撃破し、ドロップする金貨や宝石等を集める。
「よしよし、なんとか取りこぼさずに進んでいるぞ」
口調は軽いが、手に汗握って必死な俺。
ステージ中盤前に登場する『不思議なお店』にヒィヒィ言いながら、ラフーを誘導します。
「えっと……っ!? やったっ! 所持金だけで『古の戦斧』が買えるっ!」
ラフーとディスク用の最強武器『古の戦斧』と、上級回復魔法『スグ・ナオール』を購入。
上級回復魔法『スグ・ナオール』は、ダメージを回復するだけでなく、状態異常を起こす毒や麻痺等も一緒に治療する攻略に欠かせない魔法だ。
最終ステージは、毒状態等の状態異常を起こす攻撃をする敵が多数登場するため必須と言ってもよい。
拾ったアイテムをここで換金して、他の装備を購入するのも考えたけど、最強防具『英雄の腹帯』を買うには予算不足。
最後に登場する『不思議なお店』まで我慢した方が良いだろう。
RPGもそうだけど、装備を強化するのってワクワクするね。
後、ついでにいうとPC版はアーケード版と違い、お店に入っている間は時間制限がないので、この間を利用してトイレに行ったりドリンクタイムが出来る。
俺はこれを利用して、お店に入る度に小休止を取っていた。
40も過ぎると集中力が続かんとです。
汗を拭き、目薬を点して、ペットボトルのお茶を飲む。
猫背気味の姿勢で凝り固まった身体を解したりと、おっさんになったなぁとちょっと傷心。
「ネットのリプレイ動画のおかげだねぇ」
苦戦する場面は多々あったが、意外に健闘出来たのは、ゲームの購入前にリプレイ動画を観たのが効いてるのだろう。
おかげで、序盤に沢山の戦利品を入れられる『無限鞄』を入手出来たし、3の倍数ステージおきに宝箱が置いてある隠し部屋の場所とかもリプレイ動画で確認出来たのが良かった。
『無限鞄』がないと銀の水差しや銀食器といった売却用アイテムを多数持てなくなるのだ。
宝箱を開けても、荷物がいっぱいだと持ち運べず、折角見つけたお宝を諦めなければならないのである。
初期に購入するには高額な『無限鞄』が、まさかあんな場所に隠されているとは知らなかったので、以前は諦めるか渋々購入していた。
その所為で、武器や防具、魔法といった装備も中級レベル品しか入手出来なかったのだ。
結果、後半戦に突入すると戦力と財布がカツカツで苦戦しまくった挙句ゲームオーバーである。
リプレイ動画を観る以前は『無限鞄』の隠し場所に気付かず終いだった為、当時は所持金が中々貯まらないので、『どう貯めたら最強装備が揃うんだ?』と悩んだものだ。
『無限鞄』がなくても普通に攻略出来るのだけど、ラフーとディスクは身体が小さい為、売却用アイテムや傷薬等の消耗品を持ち運べる数が4人中最小という欠点があり、『どれを持ってゆくか』で悩み、難易度が更に倍率ドンである。
当時はネットで攻略サイトを探すという考えも思いつかなかったからなあ。
インターネットが普及し始めた頃だし、まあ無かった可能性の方が大きいか……。
以前は最終ステージ中盤までしか進められなかった。
しかし、今回は違う。
装備をきちんと揃える事が出来たのだ。
ビックリするほど攻略が進む。
強くて倒し難いリザードマンのサムライやバードマンのニンジャが、装備が良いので普通に撃破出来ちゃう。
特に第8ステージのボスであるダメージ毒と麻痺毒を使うカブキショーグンをノーダメージで倒せたのは、リプレイ動画の攻略を参照したからこそだ。
『無限鞄』がなかったら苦戦するか、装備不足でラフーが倒されていただろう。
こうして、おっさんの俺がコンティニューなしで進められるとは、リプレイ動画様々だ。
ピロリンッ♪
当時を振り返っていると、ゲームのBGMに割り込むようにメールの着信音が響いた。
「あれ? (ゲームの)起動中は(メールの)受信音が鳴らないはず……」
アーケード用をPC対応にしているから普通はプレイの邪魔をしないようプログラムされていると思うのだが……。
はて?
マウスを動かして『夢幻狂想曲』の画面を一旦縮小し、メールの確認をする俺。
「えっと……なになに」
送り先は『剣と魔法の異世界案内』と表示されていた。
「……夢幻狂想曲をダウンロードしたから、他のゲームの販売促進ってところかな?」
取りあえずウィルスチェック。
異常なし。
ファンタジーを題材にしたゲームは好きなので、一応確認してみる。
『はじめまして
私はテイルバーグランを見守る一柱
戦神ダレイトスだ
想像力豊かなニホン人を勧誘したい
アマテラス他多数の許可も得た
後は君しだい
……』
なんだこのメール?
ゲームの販売促進にしてはなんか痛いぞ。
『……
おぉ、なるほど
それが君の望む“新たな姿”か
よかろう
しばし待て
……』
ん?
なんかおかしい。
まさか悪質なウィルス入りか、これ?
開いたメールが何故か閉じない!
しかも、こちらの事が解った上で話しかけているように文章が流れやがる。
相手はストーカーか?
しかし、心当たりは欠片もない。
不気味でしょうがない。
いかん。
早くなんとかしないと俺のパソコンが危険だ……。
『……
他の神々にも確認が取れた
君の“新たな姿”に近しい種族もテイルバーグランに多く居るので
問題ない
言語の読解能力もプレゼントしよう
これでOKだ
では、準備はよいか?
【YES】/【NO】
……』
「なんだこれっ!?」
悪戯にしては性質が悪過ぎるメールに、俺は慌てた。
回線を閉じようと試みたり、強制的に電源を落とそうとしたが、俺のパソコンはまったく言う事を聞いてくれない。
「っ!?」
席から立とうとしたら、どういう事か身体がPC前からまったく動けなくなっているではないか!
まるで下半身が金縛りにでもあったかのようだ。
「くっ! う、腕までっ!?」
何時の間にか腕の自由が制限されていた。
マウスをイエスかノーに動かす事しか出来なくなっているっ!
『……
早うせんか!
【YES】/【NO】
……』
なんなんだこれは!?
恐怖のメールか?
呪われるのか、俺は?
血の気が引く程の異常事態に、背筋が物理的に凍りそうだ。
『……
早うせい!
貴様を送る時間がズレるではないか!
【YES】/【NO】
……』
「うぁ」
さっさと【YES】を選べと言うかの様に文章が変わる。
しかも、何故かキレ気味だ。
怖い。
どうしたらいいんだ?
『……
早うせぬかっ!
このままでは私の出番が減るではないか!
【YES】/【NO】
……』
キレたのか文章がちょっとおかしくなった。
意味がわからない。
あなたの出番ってなんですか?
『……
早うっ!
早うっ!
【YES】/【NO】
……』
なんか焦っているみたいだ。
怖過ぎる。
早く対処しないと、パソコンどころか俺の方も危険だ。
どうすれ……あっ!?
そうだ。
【NO】を選択すればいいんだ。
それが良い。
うん、そうしよう。
『ひどい。もう一度聞きます。準備はいいですね?』と再選択肢が出ない事を祈ろう。
では早速【NO】を選択し……。
プ~ンッ
と、こんな時に腹立たしい事に、蚊の登場である。
恐怖に慄く俺の姿をからかうように、このクソッタレな蚊は俺の顔近くを飛んでいた。
やめろ!
後にしてくれ!
後で殺虫剤かけてやるからっ!
「……ふがっ」
なんという事だ。
クソッタレな蚊は俺の鼻の穴へとダイレクトアタックをしかけ……。
「……ヘッ! ブシュッ!」
カチチッ!
「あっ」
クシャミの所為で【YES】がクリックされちゃったーーっ!!
ま、まずいよ、これ。
キャンセルか再確認は……。
ドッカーーーーンッ!!!
突如、凄まじい爆発音と激しい閃光が起こった。
クリック直後にだ。
なにがなんだかさっぱり解らない。
ただ理解出来た事は、俺の身体が何かに引っ張られている事。
先程同様に身動き出来ないままで、だ。
しかも、指先すら動かせなくなってしまっている。
どうなっているんだ?
そして、身体の感覚がドンドンなくなってゆくのが判る。
目も耳も機能していない。
引かれる感触以外の全てが失われてゆく。
俺は、天と地ともしれない場所に引きずり込まれてしまうのか!?
冗談抜きで、あのメールは『異世界』への招待状かもしれない!
誰か助けてくれ!
このままでは……。
うわあっ!
だ、誰か……。
助……。
た……。
……。