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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
91/375

第88話 D.E.M. 1 ~過去編~

---佐倉桜 視点---


― 約1年前 ―


 あの魔王討伐作戦から一月経った…… 今、トゥエルヴはお祭りムードだ。

 人類に仇なす2魔王、


 第11魔王 “影鬼” レイド・ザ・グレムリン・フォース


 第8魔王 “侵略者” ウォーリアス・アンダー・ザ・ワールド


 コイツ等が倒され、世界中が祝賀ムードだ。

 最近ではあの日の事を『大変革(レヴオル・シオン)』と呼ぶらしい、一体誰が名付けたのやら…… 神那クンが静かに喜びそうな名前だ。

 そう、一部を除いてだが、人々は大いに沸きかえっている。


 しかし喜んでいるのはシニス世界の住民ばかり、私を含めトラベラーは失意のどん底だ……


 有るべきハズのモノが無かったからだ。

 魔王城・クレムリンの地下にあるハズだったゲートが消失していたのだ。


 先日、調査隊が戻ってきた。

 トラベラーが寄り集まった何とか機関とかいう秘密組織、調査専門ギルド、開発専門ギルド、ガイアの学術系大学の研究者、獣衆王国からも調査員が出て、なんと大森林からも耳長族(エルフ)の魔法学者が派遣されたらしい。


 それだけの人達がクレムリンの調査に向かった…… しかし何も分からなかった。

 何故ゲートが消失したのか? もう二度と現れないのか? つーか、私は帰れないのか?


 現状では「帰れない」だ。


 バカな…… あんな死にそうな目に遭ってまで頑張ったのに……


 誰かに「お前何にもしてねーだろ!」と言われた気がした…… 空耳かな? 神那クンの生霊かな? 確かに私は何の役にも立たなかった! 魔王レイドに投石したくらいだ! しかも届かなかった! 遊び人より役に立たなかったかもしれない! でも死に掛けたのはウソじゃない!

 魔王ウォーリアスの謎の攻撃で潰されかけた! 死ぬかと思った!


 ジークさんが言うには、あれは恐らく魔王ウォーリアスのギフト攻撃。重力を使ったモノだという…… 乙女の体重を増やすとは万死に値する! あのブサイク魔王! 死んでザマーミロだ!


 とにかく! 誰が何と言おうと、私は魔王と戦った! そして生き残ったのだ!


 …………


 そう、数少ない生き残りになったのだ……


 最終的な作戦参加人数は4112人、内 生還したのは僅か610人、そして行方不明者が2人…… 神那クンと琉架ちゃんだ。当初行方不明者はもっと多かったが、結局二人以外は死亡が確認された。

 生き残ったのはたったの610人。その七割は再起不能とまで言われる重症者だ。

 とても喜んでいる場合じゃない…… せめて魔王ウォーリアスが現れなければここまでヒドイ事にはならなかっただろう…… あのブサイク魔王! 地獄に落ちろだ!


 とにかくウチのギルドは死者こそ出なかったものの、要のツートップを失ったわけだ……

 私の推理が正しければ、彼らは神隠しに遭った…… つまり今頃、デクス世界で英雄様になってるハズだ! なんで私を連れてってくれないのか? くそぅ! 今度神那クンに会ったらシャイニングウィザードの刑だ!


 そして我がギルドに漂う空気は、未だにお通夜状態。みんな落ち込んでいるが普通に振る舞っている、二人は死んでいないのは確かなのだから。

 ただ一人だけ…… 白ちゃんの落ち込みっぷりがハンパ無い。

 もともと口数の少ない子だったが、最近は殆んど喋らない…… このまま失語症になってしまわないか心配だ。


 今にして思えば、神那クンがシニス世界出身者ばかり仲間にしたのは白ちゃんの為だったのかもしれない。

 ミカヅキやミラちゃんが白ちゃんの心のケアをしている。タイミングは違ったけど、いずれ来るであろう別れに備えて…… 私は彼の事を見くびり過ぎてたのかも知れない……

 てっきり美少女に囲まれていたいからとか、そんなゲスな考えで綺麗所ばかり集めているのかと思ってた。

 或いは白ちゃんを連れて帰って嫁にするつもりかも……なんて思ってた……


 恥ずかしい…… 私の方がよっぽどゲスだった……


 でも何でだろう? 今私が考えた事は間違いでは無い気がする……

 もっとも今となってはその答えを知る術は無い……


 これから一体どうなるんだろう? 何をすればいいんだろう?

 別のゲートを探す? 探すのなら他の魔王城か? それってどこにあるの? 一番堅実なのは大空洞の魔王ウォーリアスの城かな? 炭鉱族(ドワーフ)は大空洞を閉ざしたって噂があるが、交渉は出来るはず。だってブサイク魔王はもういないし。

 このネタで白ちゃんを慰めてみよう、ゲートを見つければ大好きなおに~ちゃんに会えるよって。

 白ちゃんも元気になる、私も希望が持てる、一石二鳥だ!


---

--

-


「…… ゲート?」

「そう! それを見つければ神那クンや琉架ちゃんに会えるよ!」

「…… おに~ちゃんに…… 会える?」

「うんうん♪」


 白ちゃんがうつむいて何か考えてる…… 何か脳内シミュレーションしてるのかな?


「うん…… 白、がんばる!」


 キュンとキタ! 白ちゃん超カワイイ! あぁ~この子、嫁にしたいわ! あ! それイイかも!

 あんなゲス男の嫁にするのは勿体無い! 白ちゃんは私の嫁にしよう! なんて言ったっけ? こういうの…… NTRだっけ? ネトラレじゃなくってネトリか?

 私に新たな目標が生まれた! 神那クンが残していったハーレムパーティーを全員寝取ってやる! フハハハハ! 私を置いて帰った報いを受けるがイイ!

 彼の悔しがる顔が目に浮かぶ!


 …… なんて出来もしない目標を立ててみた。私には彼の様なハーレム(マスター)の才覚は無いから徒労に終わるのは目に見えてる。 更に行ってしまえば私はレズビアンじゃない!

 要するに私は…… いや、私だけじゃない、ギルドのみんなは何か目標が欲しいんだ。


 一番みんなが一致団結できそうなのは、やはり神那クンと琉架ちゃんに会う事か…… 特に女子メンバーは神那クンに……だな。

 くそぅ! あのモテ男め! 彼が何故ここまでモテるのかさっぱり分からない! 少なくとも私の扱いは雑だった気がする…… もしかして私をギャグ要員か何かだと思っていたのでは?


 心当たりがあり過ぎる!


 どうやら私もあの男にもう一度会わなくてはならないようだ! 絶対にシャイニングウィザードを決めてやる!!

 そうと決まれば、まずはシャイニングウィザードがどういう技か調べるところから始めるか!



「今戻ったぞ」


 D.E.M. のギルマス代理、ジークさんが戻ってきた。

 彼には作戦の事後処理のゴタゴタをすべて押し付けてしまった…… 本当に居てくれて良かった、ブツブツ文句を言いながら嫌々やってた誰かさんとは大違いだ。やっぱり大人は違うな。


 そう言えば今この人はハーレム状態なんだよな…… にも関わらず、神那クンが必死に隠していた発情のニオイが全く感じられない。コレも大人の余裕だろうか? そう言えばこの人って今いくつくらいなんだろう? 30代後半~40代前半くらいだろうか? もっと若くも見えるが、もっと歳にも見える、老人級の落ち着きを醸し出してるから。


「お帰りなさいませ。是非このアーモンドコーヒーをお召し上がりください」

「ふむ? アーモンドの匂いはしない様だが?」

「大丈夫です。飲めばその内匂ってきます」


 最近ミカヅキの悪い癖が再発した。今日は青酸系の毒物かな?

 今日も元気にジークさんの命を狙っている。本当に殺す気があるのかは疑問だけど……

 やはり仕えるべき主を二人同時に失ったのが不味かったのか? ここの所 大人しかったのに、もしかしたらアレはただの暇つぶしなのかもしれない。なかなかにスリリングだが。


「まずはお前が一口飲んでみろ」

「………… 主にお出しするモノにメイドが口を付けるなどあってはならない事です」


 主とか思って無いクセに…… どうやら今日も失敗らしい。



「あら? ジーク様、お帰りなさいませ。本日もギルド会議ご苦労様です」

「うむ、そういうミラこそ、今日も病院であろう? そちらに比べれば大した労働では無い」


 ミラちゃんが帰ってきた。彼女は貴重な治癒魔術師だから、戦争で負傷した人たちの治療に毎日出かけている。特に増魔(チャージ)を併用した治癒魔術は世界最高レベルの回復魔法だ。


「ジーク…… 質問していい?」

「お? 白よ、ようやく喋る気になったのか?」

「ん…… 質問、魔王城の場所知ってる? ……クレムリン以外」


 うん、どうやら白ちゃんもゲートを探すならそこがイイと思ったらしい。


「ふむ…… 古代エルフの廃都、キング・クリムゾンは第7魔王の居城だ。位置はアルテナが知っているが行く事は出来ないな。

 それと、獣衆王国の王城はかつて第9魔王の居城だったという伝説がある。ただし眉唾だ。狂った魔王が城を持っていたとは思えんからな。

 第4領域の魔王城についてはミカヅキの方が詳しいんじゃないか?」


「………… あそこは「まともな鬼族(オーガ)」しか近付けません」


「第6領域は……」

「うちも同じです、近付けるのは人魚族(マーメイド)だけでしょう」

「むぅ……」


 はて? それではミラちゃんの父親の先代勇者はどうやって行ったんだろう? たしか魔王を倒そうとして返り討ちにあったとか…… たまたま男漁りに地上に来ていたところに出くわしたのかな?


「後、位置が確かなのは……我々も目撃した第2領域、浮遊大陸ラグナロクくらいか。

 第10領域・大氷河は人の身で窺い知る事は出来ない。

 ただし大空洞の魔王城なら炭鉱族(ドワーフ)と話を付ければ至れる可能性がある」


「ん…… トゥエルヴには無いの?」

「伝説では地下あったとか、ピラミッド型の魔王城だったとか言われている。しかし魔王大戦の前には失われていたらしい」


 大戦前に? 魔王大戦で失われたんじゃないんだ……


「やっぱり大空洞……」


 白ちゃんが立ち直った。この子……結構単純だった。


「それはそうと、何やらよからぬ噂が流れていたぞ?」

「よからぬウワサ?」

「うむ、『沈黙の魔王』が動き出したというものだ」

「ち……沈黙の魔王が……?」


 沈黙の魔王…… て、誰?


「第10魔王の事だ、しかしその名を知る者はいないと言われるほど、表舞台に出てこなかった魔王だ。

 ただ一つ確かな事は、機人族(イクスロイド)出身の魔王である。ということだけだ」

機人族(イクスロイド)出身の魔王……か」


 機人族(イクスロイド)って何だっけ?



機人族(イクスロイド)


 生まれつき体の一部が欠損し、代わりに魔力体で構成されている種族。欠損位置はは個体により様々で、生まれ持った肉体が少ないほど高い魔力を宿している。

 しかし魔力体は実際の肉体の代わりとして使うにはあまりにも不安定であるため、それを補う為に魔力で作動する「からくり」を身に纏っている。


 正直、学校でもあまり教えてくれない種族なんだ、と、いうより知っている人がほとんどいない種族だ。

 あまり強くない種族だと思われてるが、果たしてそうだろうか?

 トラベラーの私から言わせてもらうと、機人族(イクスロイド)ってかなりヤバイ気がする。だって、サイボーグとかアンドロイドみたいなのでしょ? 超強そうなんですけど……


「まぁ、中央大陸北部が支配領域の魔王だ。トゥエルヴがすぐにどうこうなるというモノでも無いがな」


 はぁ…… せっかく好戦的な魔王が二人いなくなったと思ったら、いきなりニューフェイスが出てくるとかヤメテよ! そういう奴等は勝手に潰し合ってくれればいいのに!


 そんなニュースが流れた、僅か一週間後の出来事だった……


 第6魔王が動き出したのは……



---



「皆様、本当に申し訳ありません!」


 ミラちゃんが深く頭を垂れる。


「いや、ミラちゃんが頭を下げる事じゃないよ」

「しかし、お母様が仕出かした事は世界中に影響を与える事です」


 確かに…… 世界中の海を支配している第6魔王は一番戦争とかしちゃいけない人だ。ミラちゃんの言う通り世界中に影響が出る。それも悪影響がだ。

 飛行機が存在しないこの世界では、アルカーシャ王国みたいな資源の少ない島国はかなりヤバイ事になる。


「ふむ…… ホープを出すか……」

「へ?」

「船が使えないのなら、物資や情報を運べるのはホープしか残っていない。

 元々は勇者の為のモノをこんな形で使いたくなかったが、致し方在るまい」


 そうか…… 今運送業とか始めれば一財産築けそうね…… ウチのギルドはお金持ちだから必要ないけど……


「何とかして…… お母様を止めないと……」

「ふむ、気持ちはわかるがどうやって?」

「う……」

「第6魔王の居城は海の底だ、普通の人間では辿り着けまい。もちろんミラ一人で行くことは認められない」


 ミラちゃんが一人で出向いたらほとんど自殺だ。そんな事はさせられない。


「そんなに結論を急ぐ事も無いだろう、世界の情勢は動き始めたばかりだ、「急いては事を仕損じる」という言葉もある。まずは見極める事だ」


 さすが大人だ…… 実に説得力がある。


「お前達に何かあったらカミナに再会した時、俺は殺されるかも知れないからな。

 特に白は……」

「? ……白?」


「うむ、何せ白の事を自分の嫁と口走っていたくらいだからな」

「!?」


 あのアホギルマス! 白ちゃんに唾つけてたのか!?


「白が…… おに~ちゃんの……」


 あぁ! 白ちゃんがニヤニヤしてる!? あんな顔初めて見た!


「それは…… 聞き捨てならない言葉ですね……」

「ジーク様? カミナ様は白様だけに言及しておられたのですか? 他には何か仰ってませんでしたか?」


 ミカヅキとミラちゃんが怒ってる? いや、焦ってるのか? 白ちゃんに先を越されたから?


「う…うむ、その時は白だけだったが言葉のニュアンスにミカヅキとミラの事も含まれていると…… 俺は感じた」


 今、この人事実を捏造しなかった?

 どちらにしても不用意な発言だった! 大人なのに! 当事者抜きの修羅場なんて面白くないじゃん! どうせなら神那クンがいる場でやって欲しかったな!


「そうですか…… では、真偽を確かめる為にも、どうしてもマスターにお会いする必要がありますね」

「そうですね…… 出来れば私もカミナ様本人の口から嫁宣言して欲しいですわ」


 こ……これは! 面白くなりそうだ!


 みんなの胸に新たな目標が生まれた瞬間だった。


---

--

-


 その後、世界情勢は混迷を極める。


 トゥエルヴの国軍と獣衆王国軍が、第10魔王の軍に対応している僅かな隙に、妖魔族(ミスティカ)のフリードリヒ・フォン・ヴァルトシュタインとかいう伯爵っぽい名前の人がクレムリンを占拠しやがった。


 魔王に近い性質を持つという妖魔族(ミスティカ)は、トラベラーの私からは吸血鬼っぽい印象を受ける。

 とにかくコイツの所為で、中央大陸は連合軍と第10魔王、そして伯爵の私兵。三つ巴の戦争状態になってしまった。

 さらに第6魔王は大森林の耳長族(エルフ)と戦争状態、ガイア政府は耳長族(エルフ)と同盟を結ぶが、こちらはこちらで手一杯の状況だ。


 その頃、我ら『D.E.M.』には『SS(ダブルエス)ランク』が与えられた…… 歴史上唯一、魔王殺しを成し遂げた最強ギルドと言う事で…… ハッキリ言って面倒事を押し付ける為のだけの称号の様な気がする……

 その証拠に、ガイア政府が所蔵する神器や貴重な魔道具を自由に使用できる権利が与えられた。

 まるで破格の待遇を与えてやるから働け! って言われている気分だ。


 私だって人類の危機なら働くよ、ただ、魔王殺しを成し遂げた二人は居ないんだから、あまり過度な期待はしないでほしい。


 その後、世界中のあらゆる場所で、傭兵の様に戦闘に参加、神隠し調査を行う。未だに第一目標である神那クン、琉架ちゃんとの再会の目処が立たない…… せめて調査に集中できれば、何かしらの進展は得られたかもしれないのに…… この世界情勢では文句も言っていられないか。


 我らD.E.M. はトゥエルヴの切り札的な存在になっていた。与えられた任務に失敗したことが無かったから…… さすが私が立ち上げたギルド! 実に優秀だ!

 しかし、おかげで無茶なお願い事も増えてきた…… 今私たちがしている仕事は起こってしまった事件の後処理に過ぎない、根本的な解決方法が見つからないのだ…… いや、方法はあるが実行できないのだ。


 いずれ魔王討伐を命じられるのではないかと心配している……




 もうじきあの日…… 『大変革(レヴオル・シオン)』始まりの日から1年が経とうとしている……


 世間では第二次魔王大戦と呼ばれるようになったこの戦乱は、いつまで続くのだろう?

 花も恥じらう乙女の私たちが戦場の最前線で年を取っていくとか勘弁して下さい!


 何か変化が欲しい…… 『大変革(レヴオル・シオン)』の様に世界を変える変化が……




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