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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
88/375

第85話 SS ― ダブルエス ―


 懐かしい…… ここに帰ってくるまでずいぶん時間が掛かってしまった……

 ギルドセンター本部…… 我が野望の原点!

 そう、全てはココから始まった! 一度は諦めかけた野望の再出発点はココこそが相応しい!

 再び自分の理想を掲げるために 絶対天国成就のために ガイアよ! 私は帰ってきた!!

 ただいま記念に核の花火でも打ち上げたくなった。


「ここがギルドセンター本部か……」

「そこにある受付用紙に必要事項を記入して、カウンターに提出すれば手続きは終了。ただしお前らは先に被害者救済機関本部へ行って被害者登録をしてからにしろよ? 西の政治区にある高層建築物だ、見れば分かる」

「先に登録する理由は?」

「お前ら今夜どこに泊まるつもりだ? そういうのも手配してくれるんだよ」


 異世界初心者を救済機関に押し付ける、ここからは俺の仕事じゃない。


「おにーちゃん、私は?」

「伊吹は俺が後で連れてってやるよ」


 まずは未来のお義姉さん達を紹介してやろう…… と、思ったんだが様子がおかしい。


「ねぇ神那、この時間ってこんなに人少なかったっけ? 何か活気が無いよね?」


 そう、さっきから気になってた。人が少ないんだ。

 いるのは如何にも新米って感じの冒険者見習いばかりだ。

 戦争やってるって話だし、どこかの戦場へ駆り出されてるのか? まさかウチの嫁もか? ジーク!! テメェコラ!! 女の子を戦場へ追いやるな!! 戦争は全部お前一人でやれ!!

 て、魔王討伐戦にみんなを連れてった俺に言えたセリフじゃないな。


「琉架はどうする? じーさんに会いに行くか?」

「うんん…… 今はきっと大忙しだと思うから我慢する。私が行ったら仕事どころじゃ無くなっちゃうから」


 その様子が簡単に想像できる…… 確かに仕事どころじゃ無いだろうな。あのゴリラの事だ、きっと一人琉架祭りとか始めるぞ。その姿がリアルに脳裏に浮かぶ。

 一人で羽目を外すならまだマシ、下手したら女神再臨記念で明日から一週間祝日! とか言い出しかねない……

 せめて巨人族(ジャイアント)のゴタゴタが片付くまでは待ったほうが良さそうだ。



 そんな時、カウンターの奥から大勢の人が出てきた。

 何やら慌ただしい様子だ、その集団の中心に居る人物が周りの人間に指示を出している。


「あなたはすぐにステーションに向かって下さい。もう増援部隊が到着している時間です。人員のリストと先ほどの戦闘の報告を受けてきてください。

 あなたは街の損害を、あなたは被害者を調べて19時までに報告してください。

 それからあなたは…… …… ……!?」


 目が合った…… よく知ってる人だ……

 我らがギルド『D.E.M.』の毒舌美人オペレーター リルリット・ロックウッドさんだ!


「………… え? うそ……」


 リルリットさんは手に持っていた書類を全て落として、ただ茫然とこちらを見ている。


「ちょっ……!! 主任!! 何やってるんですか!? ……って、主任?」


 リルリットさんがカウンターを飛び越えてこちらに駆けてくる、とうとう待ち望んでいた瞬間が来た! 感動の再会で抱き締め合うシーンだ! あの豊満な胸を持つナイスバデーなお姉様を合法的に堪能してやる!


 スカッ……


 リルリットさんは俺を素通りして琉架を抱き締めた……

 うん……まぁ、分かってたんだけどね…… リルリットさんってそういう人だもん。ある意味期待通りだよ。期待を裏切ってくれる事に一縷の望みを掛けたんだけど、やはり叶わなかったなぁ……


「おにーちゃん…… 手、広げて待ってたのに…… カッコ悪いよ?」


 伊吹がわざわざ俺の心の傷口に塩をすり込んでくる…… ならばリルリットさんの代わりに伊吹に俺の愛情溢れんばかりの抱擁を受け止めて貰おう。


「ぎゃぁーーー!? なんで私を抱きしめるのよ!? このシスコン! 人前でするなっていつも言ってるでしょ!!」



---



 ギルドカフェ「坩堝(るつぼ)


 いつものカフェのいつもの席…… 一年振りだと新鮮に感じる。


「一年振りになりますが、よく無事にお戻り下さいました。出来れば一年前に言いたかったですけどね」


 ギロ……


 なぜ俺を睨む? 俺の所為じゃ無いぞ?


 俺と琉架と伊吹、そしてリルリットさんはカフェのいつもの席に座り、あまり美味くない紅茶を飲んでる。

 ちなみに伝説(レジェンド)君たちは被害者登録に行っている。登録にはかなり時間が掛かるから再びここへ戻って来るにはだいぶ掛かるだろう。


「しかし帰還早々やってくれましたね? いえ、良い意味で。巨人族(ジャイアント)が突然消えたと思ったら、あなた達のおかげでしたか」

「そうそう、リルリットさんには言っておかないとだけど、彼らは操られてただけだから洗脳が解けるまで封印してるんだ、その事を関係各所に伝えといて欲しい…… 後あの周辺、立ち入り禁止に」

「封印?……とは?」

「地下20メートルに生き埋め」


「………… エグい事しますね?」


 やっぱそう思うよな…… 俺だって生き埋めにされたら何日耐えられる事やら……


「大丈夫です、操られているおかげで、彼らは心神喪失状態です。心に傷を負う事は無い……ハズです」


 少なくとも…… 操られた上に人族(ヒウマ)を虐殺しまくり、その果てに力尽きて自分たちが殺され、さらにこの事件が新たな戦争の火種にされるよりは遥かにマシだろう。


「はぁ…… 相変わらず規格外というか何というか…… 分かりました。封印場所近辺への立ち入り禁止と、巨人族(ジャイアント)に関する悪感情が広がらないよう手を打っておきます」

「お手数かけます」


 リルリットさんには迷惑を掛けるなぁ、いつかまた迷惑料を払わないといけないかも。



「サクラさんの推理では、お二人は神隠しに遭われたのではないかと仰ってましたが…… 実際の所どうなのですか?」

「あ、はい、私と神那はあの時、神隠しに遭いました。気付いた時にはデクス世界へ戻ってました」


 サクラ先輩が推理した? あの先輩が? まぁ、ああ見えてあの人成績優秀者だったし……


「それでまた神隠しに遭って、こちらに戻ってきたんですか?」

「あはは…… はい、3回目です」

「そうですか…… それでカミナ君は向こうで美少女を補充してハーレムメンバーを充実させようと目論んでるんですね?」


 リルリットさんが伊吹を見ていう…… 彼女の頭の中で、俺はどういう人間としてカテゴライズされてるんだ?


「この子は霧島伊吹、れっきとした俺の妹です」

「という、設定なんじゃないですか? 白ちゃんみたいに……」

「実妹です」

「ホントに? 義理の妹とかじゃないんですか?」


 どうやら俺の言葉は一切信用してくれないらしい…… 何故こうなった?

 確かに白は妹というより嫁だ。しかし伊吹は…… いや、まてよ? 確かに主人公の妹は義妹である確率が高い! まさか俺が知らないだけで、伊吹とは血が繋がっていない!?

 そうだ! 俺の様な天才美少年があんな平凡な家庭の出であるはずが無い! 俺の本当の両親はどこかの国の王様だったり、伝説の傭兵なんじゃないのか? 琉架がスーパーサラブレッドなら俺にだって優秀な血が流れている可能性が……


「いえ、実の兄妹です。昔戸籍謄本で見ました」


 少しくらい夢を見させてくれてもいいんじゃないのか? 妹よ……

 実は偉大な血族の出身だったとかさ…… 何と言ってもウチって庶民だから……

 こうなったら先祖に期待するしかないな…… まてよ? そういえば昔じーちゃんが言ってたな、ウチは由緒正しき農民の家系だと…… 隔世遺伝すら否定された!


「そういうリルリットさんは出世でもされたんですか? さっき、主任って呼ばれてましたよね?」

「色々あったんです…… 大変革(レヴオル・シオン)以降、本当に色々……」ハァァァ~~~


 そう言って彼女は溜息をつく…… 余程お疲れのようだ、そう感じさせる深い溜息だった。


「疑問なんですけど、ここに来るまでにも何度か耳にしたソレ、『大変革(レヴオル・シオン)』って一体なんですか?」

「あぁ、デクス世界には伝わってないんですね? 大変革(レヴオル・シオン)とはあの日…… 魔王討伐作戦のあの日の事です。

 より厳密に言うと、あの日から今まで現在進行形なんですが……

 2400年振りに世界の歴史が動いた日、歴史的一日という意味でそう呼ばれるようになりました」


 …… 現在進行形の大変革(レヴオル・シオン)…… ねぇ……


「それでリルリットさん、みんなはどうしてますか? 無事……なんですよね?」

「あぁ、そうでした! お二人は既に戦争の話を聞き及んでますよね?」

「はい…… 大変な事になってるみたいで……」

「ギルド『D.E.M.』のメンバーは現在、中央大陸の最前線にいます」


「………… はぁ!?」

人族(ヒウマ)のギルド、つまりここのギルド組織は大変革(レヴオル・シオン)で優秀な人材を多く失ってしまった為、D.E.M. は引っ張りだこなんです」

「いや、ちょっと待って、D.E.M. って降格されたんじゃないの? 何で最前線に送られるんだよ?」

「降格? 何の話ですか? 昇格の間違いでは?」

「?? 昇格?」


「ギルド『D.E.M.』は、最強のギルドとして世界唯一の『SS(ダブルエス)』ランクに昇格しました」


「…… はぁぁぁ~~~!? SS? そんなのあったの?」

「D.E.M. の為に作られたランクです。当然でしょう? 魔王殺しを2人も輩出してるんですから。お二人の功績ですよ?」


「え?…… あの…… 魔王殺しって何の事? その言い方じゃまるで…… おにーちゃんとお姉様が魔王を仕留めた様に聞こえるん……ですが?」


 今まで黙って聞いていた伊吹が口をはさむ。


「私も現場にいた訳では無いので、ただ、生き残りの皆さんがそう証言してます。実際どうなんですか?」


「どう、と言われても…… 魔王を仕留めた現場には俺と琉架以外の目撃者はいなかったからな…… 魔王レイドに関しては死体すら残さず吹き飛ばしたし……」

「おにーちゃんの話、本当だったんだ…… てっきり病が再発したのかと思ってた」


 くそぅ! 妹の兄に対する評価には常に黒歴史が付いて回る! 封印したい歴史の暗部を掘り起こさないでくれ!


「いや、そんな事はどうでもイイ。俺のよ……ゴホン! D.E.M. のみんなの事だ!」

「そうでしたね…… 現在、第9領域(レイガルド)には、中央大山脈越えのルートで第10魔王の鉄機師団が攻め込んでいます。

 そして第11領域(ムックモック)側からは、妖魔族(ミスティカ)・ヴァルトシュタイン家の私兵が押し寄せています。

 獣衆王国・ガイア連合軍は北からの鉄機師団の対応に当たり、D.E.M. がヴァルトシュタイン家の対応に当たってます」


「え? D.E.M. だけで?」

「いえ…… 他にも少人数ですがSランクギルドが二つと、Aランクの助っ人が2名ほど…… 古来街道大要塞がありましたから…… ですが……」

「ですが?」

「お二人はご存知ですよね? あの要塞は1年に1回、強制的に破壊される事を……」


古代人形(エンシェントゴーレム)……? まさか……」

「はい…… 先日破壊されました」


「こんな所で茶飲んでる場合じゃ無かった!」


 駆けつけた時にはジークしか生きてなかったとか絶対嫌だぞ! 今すぐ駆けつけなければ!

 ………… しかし、どうやって?


「現在、船は一切使えません。唯一の移動手段であるホープも、あと2週間はガイアに戻ってこないでしょう」


 いきなり詰みだ! 船が使えないのはどうでもいいが、ホープがいなきゃ海超えなんか出来ないぞ? それとも擬似飛行魔術で渡れるか? 流石に厳しいな……


「噂ではトゥエルヴの何処かに『炭鉱族(ドワーフ)の抜け道』というものがあると言われてますが……」


 炭鉱族(ドワーフ)の抜け道? もしかして中央大陸地下まで続いているのか? 確かにそんなものがあっても不思議じゃないが……


「誰もその場所を知りません。少なくともトゥエルヴに住む炭鉱族(ドワーフ)は誰も知りませんでした」


 そんなもの探している暇はない……

 こうなったら一か八かで飛んでみるか? いやダメだ! 俺一人ならともかく、そんな命がけの手段を琉架にやらせる訳にはいかない…… 

 だったら最初から俺一人で行くか?

 …… 琉架が許してくれないだろうな…… くそっ! どうする?


 まず、ホープが戻って来るのを待つ…… コレは論外。


 炭鉱族(ドワーフ)の抜け道を探す…… ヒントも無しに見つけられる筈が無い、そもそも本当にあるのかすら怪しい……


 伊吹の『世界拡張(エクステンド)』で俺の『跳躍衣装(ジャンパー)』を極限まで強化して飛ぶ…… 最大射程20メートルちょっとの跳躍をどれだけ強化すれば隣の大陸まで届くんだよ? 無理だ。


 第6魔王の配下に襲われるのを覚悟の上で船を出すか? その場合48時間以上も寝ずの番が必要になる、もしかしたらずっと戦闘を強いられるかもしれない…… 船に乗った時点で俺は戦力外だから琉架の負担がとんでもない事になる…… そもそも船に乗りたくない…… 却下だ。


 だったら擬似飛行魔術で飛んでいくしかないか…… このプランは船を出すより厳しそうだ。何故ならこの世界の空は「空の魔物」に支配されてると言っても過言じゃない。

 ドラゴンやガルーダみたいな魔物がそこら中に居る。この世界に飛行機や気球が存在しないのは、その「空の魔物」が原因だ。この世界で空を飛ぶには要塞龍レベルの強さが必要なんだ、もちろん魔王である俺と琉架にはそれだけの強さはあるが、擬似飛行魔術を維持したまま何十時間も魔物の相手なんか流石に出来ない……


 …………


 ヤバイ…… ホントに手が無い……


「神那ぁ……」

「分かってる……」


 ここで考える事を放棄するのは愚か者のする事だ、今ある方法は全てダメだ…… なら新しい方法を考えろ!

 例えばどっかでドラゴンを一匹捕まえて、調教して乗せてってもらうとか…… ドラゴン調教の方法を教えてくれる人を探す所から始めないといけないな…… うん、却下!


 土魔術を駆使して地中を掘り進み、自力で中央大陸までトンネルを作る…… 何百kmあると思ってんだ! そんな事出来っこない! 子供でも分かる無茶苦茶プランだ…… うん、却下!


 ヤバイ…… 脳の働きが低下してる…… 無茶苦茶なプランばかり浮かんでくる。

 俺はいつの間にか店内をぐるぐる歩き回っていた。窓から見える外の景色はだいぶ薄暗くなっている、そろそろエネルギー補給をした方が良さそうだ……


 そんな時、何気なく空を見上げた……


「あ? あ! ああああぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!」


「か…神那!?」ビクッ

「うぉっ!? おにーちゃんが壊れた?」

「カ……カミナ君?」


「あった!! 海を渡る方法が一つだけあった!!」

「ホ……ホントに!? どうやって!?」


 窓の外、空を指差し一言……


「友達に助けてもらう!!」


「…………」

「…………」

「…………」


 沈黙…… あれ? 何で反応無いの?


「おにーちゃん…… あのね? 脳内のお友達は現実では何の助けにもなってくれないんだよ?」ホロリ


 伊吹が涙ながらにとんでもなく失礼な事を言う。確かに俺は友達が少ない…… てか、ほとんどいない。更に言えば、脳内にお友達など飼っていない。居るのはかつて封印した俺の別人格……もう一人の自分(設定)くらいだ。


「カミナ君…… きっと疲れてるんですね? 今日はもう休んだ方が良いですよ?

 そうだ! SSランクのD.E.M. は最上階のフロアが与えられてそこへ引っ越したんです。

 お二人の部屋もギルドの皆さんが「いつ戻ってきても良いように」って、引っ越し済みです。

 ゆっくり…… うっ! ゆっくり休んでください……」ホロリ


 リルリットさんにまで失礼な言葉を吐かれた…… いや、ちょっと待て! 聞き捨てならない言葉を聞いたぞ? 引っ越した? 俺のお楽しみ部屋はどうなった!?

 いや…… それこそ後で良い! 今は……


「ん~~~?」


 琉架が俺の隣りへ来て、窓の外、空を見上げる。


「あれは……もしかして…… スカイキングダム!?」


 そう、何の偶然か、首都ガイアの上空には巨大な雲の塊が浮かんでいた。

 あれこそが魔王の居城! かつて俺と琉架が散々探し回るも、ついに見つける事が出来なかったスカイキングダム!

 あそこには俺と琉架の友達がいる。


 第5魔王“風巫女”ウィンリー・ウィンリー・エアリアルだ。


 仲間達との再会の前に、古い友人との再会が果たせそうだ。




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