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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
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第83話 シニス世界の悪夢


 俺達は外界から隔絶された陸の孤島のような村、「楽園村」を後にした。

 今にして思えば、あの時の俺は焦り過ぎていたのかもしれない……


 久しぶりのシニス世界。


 仲間たちに会えるという喜び、そして彼女たちが今まさに危機に陥っているかもしれない! ならばこんな所で足を止めている場合ではない!

 そんな焦りが俺の判断を鈍らせた……


 俺は忘れていたんだ、この世界が決して甘くないことを……


 魔王を倒し、その力を継承した俺に、もはや敵に成り得る者はいないと慢心していた。

 もし敵がいるなら同格の魔王くらいだ! そしてそんな存在といきなり出会うなど有り得ない!


 俺は心の中でピンチに陥った仲間たちの元へ颯爽と駆け付け、格好良く助け出し、俺に対する好感度を更に倍にしようとゲスい計画を立てていた……

 コレはそんな俺に課せられた試練だったのか…… それとも罰か?


 俺はこのラフティングによる脱出を選択したことを激しく後悔することになる……

 俺は何故こんな無茶な脱出方法を選んでしまったのだろう…… 何故冷静な判断が出来なかったのだろう……


 驕り高ぶった人間は天にも届く塔を築き、神の怒りに触れたという……


 これは謙虚さを忘れた俺に、神が下した罰なのだ……








「ぐ…ぐはぁっ!!!!」

「か……神那ぁ!!」


 今、俺は死に掛けている……

 もはや立ち上がる事も出来そうにない……

 俺は…… ここで死ぬのだろうか? 嫁達との再会を目の前にして? 嫌だ! 死にたくない!


 目の前に迫るリアルな死……

 死神が今すぐにでも俺に止めを刺そうと、その手を首に回し圧迫してくる……

 どうやら俺はここまでの様だ…… ははっ…… 魔王殺しの英雄、新魔王、しかしその最後は何ともあっけないモノだったな……


「神那!! お願い!! 死なないで!! しっかりして、意識を保つの!!」

「ご……ごめん…… 琉架…… 約束……守れなくて……」


「………………」


「ダメ!! そんなこと言わないで!! 約束したでしょ!!」

「お……俺の想いは…… いつまでも……君と共に……」


「………………」


「ダメ!! ダメ!! 私を一人にしないで!!」

「お……俺…… 琉架のコト…… ずっと……ずっと…… ぐふっ!!」


「………………」


「いやぁ!! かみなぁーーー!!」



「あの…… それいつまで続けるの? 死ぬ訳ないでしょ? 船酔い如きで」



 そう…… 俺は船酔いで死に掛けていた……



---



「ち…違うの! 神那の船酔いってホントにヒドイの! 前にも何度か見た事があるけど、今回のは以前の物とは比べ物にならない程ヒドイの!」

「いや…… だから…… お姉様落ち着いて、人は船酔いでは死なないから」


 コレは俺のミスだ、完全に忘れてた。

 狭い箱という密室に詰め込まれての激流下り。俺が酔わないハズ無いじゃん。

 しかも今回は琉架のフトモモというご褒美タイム無し…… 仏の居ない地獄に迷い込んだ様なモノだ。むしろよく生きて帰って来れたな……


「あぁ、ゴメンね、ゴメンね神那、私が覚えてさえいれば!」

「うぷ…… 泣かないでくれ琉架…… 琉架は……何も悪くない…… うっ!」

「うん、お姉様は何一つ悪くないよね……」


 今回はこらえきれずにちょっと吐いた……

 もちろんその痕跡は全てアスポートして隠滅した。あの精神状態で良く成功させたと自分を褒めてやりたい。

 てか、魔王って状態異常の耐性をデフォで持ってるんじゃないのか? 魔王の力 役に立たねー!!

 何より納得いかないのが、兄の死にそうな様子を冷静な目で眺めている妹の存在だ! なんで俺が死にそうな目に遭ってるのに伊吹はピンピンしてるんだよ! 同じ遺伝子を持っていて何故ここまで違うのか? 納得いかん!


「おーい、周囲の魔物を片付けてきたぞ。そっちは……大丈夫じゃ無さそうだな」

「なんて情けない! それでも男か?」

「私は少しだけ安心した、ちゃんと弱点が有るんだって」

「先輩のアレはきっと何かの制約だ。苦しみの対価に力を手に入れたに違いない!」


 チーム・レジェンド+αが帰ってきた、周囲の魔物討伐と偵察に行って貰ったのだ。

 コイツ等が居て良かったと初めて思ったよ。ずいぶんと好き勝手言ってくれるが……


「ここから30分も歩けば大きな町に着く、アレが恐らく防魔衛星都市・アフロディテだろう。

 そこまで歩けるかい? それとも黒田先輩におんぶしてもらおうか?」


 天瀬先輩からのご提案、それに対する黒大根先輩のお答えは……


「けっ! 冗談じゃねぇ!」


 あぁ、俺も全くの同意見だ。冗談じゃ無い!

 琉架が支えてくれれば、たとえ死に掛けでも俺は立ち上がる力を得られるんだ! 黒大根に用は無い。



---



 琉架と伊吹に支えられ、防魔衛星都市・アフロディテに入る。全ての建物が白一色で統一されており、その名に恥じない美しい街並みだ。

 そんな美しい街並みとは裏腹に、街には冒険者の姿が多く見られる。活気があると言うよりも、どこか物々しい雰囲気だ。


 もうじき日も暮れる…… 今日はココで一泊だ。


 全員分の宿代を琉架が捻出してくれる、お代はハンカチ一枚。

 デクス世界に帰還した際、琉架が身に着けていた神聖銀(シルラル)製の繊維で作られていた服をバラして仕立て直したものだ、それをご家族に持たせている。

 折角のお爺様からのプレゼントだが、あんなアイドル服を日常で着用する訳にはいかないからな。


 以前、1万人難民事件の直後、銀相場が荒れたため対策として銀よりも遥かに高価で買い取ってくれる場所も多い神聖銀(シルラル)製品を持ち歩いているのだ。

 また神聖銀(シルラル)は浄化の能力を備えているため汚れても自然に綺麗になり非常に丈夫だ。ハンケチーフを噛んでキーーーって引っ張っても、決して破ける事は無い。

 今の俺に財力があれば琉架のハンカチは俺が買い取っていたのに……



---



「は? 何この部屋割り、なんでお姉様とおにーちゃんが同室なの? ほか全員個室なのに?」


 弱りきっている兄を睨むんじゃない、俺たちにとっては特別な事じゃないんだよ。


「神那の具合、まだ良くなってないから、神那が弱ってる時は私が助けるって決めてるの」

「むぅぅぅ~~~」


 心配しなくても18禁展開にはならん、俺がチキンだからじゃない、具合が悪いからだ。


「ならせめて私もお手伝いします! 妹ですから!!」

「え? う~~~ん…… そうだね、家族は大切にしなきゃね」


 果たして伊吹は俺を心配しているのだろうか?

 むしろ俺より未来のお義姉様の心配をしているだろ? 今日に限って言えばそれは心配無用だ。



---



「寝ちゃった……」

「おにーちゃんホントに具合悪かったんだ…… 何かギャグ漫画みたいな憔悴っぷりだから芝居かと思ってた。

 それにしても……お姉様の膝枕とは……!」


 部屋に入って数分、お姉様の膝枕を堪能したと思ったらすぐに寝てしまった。

 おにーちゃんはお姉様に膝枕をしてもらいながら頭を撫でられてる…… 何となくムカつく。

 私もしてもらいたい気持ちと、私が同じことをしてもあんな幸せそうな寝顔は見せないだろうという予測が合わさって、おにーちゃん死ねばいいのにって感情になる。


 おにーちゃん死ねばいいのに……


「っと、そうだ、お姉様に聞きたい事があったんだ、イイですか?」

「うん、イイよ。でも小声でね?」


「お姉様とおにーちゃんが所属していたギルド、確か『D.E.M.』のメンバーのコト教えて貰えませんか? 一応、兄がお世話になっていた人たちの事ですから」

「あれ? 神那から聞いたコト無いの?」

「はい、話を聞くと直ぐに口元を押さえて涙を堪える様な小芝居の後、遠い眼をしてお開きになっちゃうんです」

「あ~…… そっかぁ」ナデナデ


 おかげでどんな人達か良く分からない、あ、でもサクラ先輩の話は普通にしてくれたっけ…… 二人目からダメになるんだよね、一体二人目にはどんな秘密があるのやら……


「それじゃ、あまりうるさくならないよう簡単に説明するね?

 まずは佐倉桜先輩。私たちと同じ第三魔導学院の生徒で、一つ上の先輩だったの。ギルド『D.E.M.』は私と神那と佐倉センパイの三人で作ったんだ」


 その人のコトは普通に話してくれた、ノリの良い先輩だって言ってた。


「二人目は獣人族(ビスト)、狐族の女の子で如月白ちゃん。伊吹ちゃんより年下で真っ白な髪に狐耳、真っ白なシッポが生えてるの、とっても可愛い子、口数は少ないけど神那によく懐いてた。

 そうそう、神那の事を「おに~ちゃん」って呼んでた」


 なるほど…… おにーちゃんのシスコン化はその子が原因で間違いないみたい。


「三人目は私たちと同じ人族(ヒウマ)のジークさん。賢王ジーク・エルメライさん。

 最強の賢者とか賢者の王とか呼ばれてたけど、すっごい筋肉の人。未だに何であの人が賢王なのかよく分からないな」


 男? しかも筋肉ムキムキの? 意外だ…… おにーちゃんの性格なら絶対美少女だらけのギルドだと思ってたのに。


「四人目は鬼族(オーガ)のミカヅキさん。彼女は鬼族(オーガ)の中でもかなり異質な力を持っていて、故郷を追い出されちゃってジークさんの所へ来てたらしいの。

 特訓のおかげでかなり優秀な鬼のメイドさんになったんだ」


 お……鬼のメイドさん? メイドさんってギルドに必要なの?


「五人目が人魚族(マーメイド)のミラ・オリヴィエさん。

 彼女に関してはあまり詳しく教える事は出来ないんだけど、すっごい美人さんなんだ」


 ほほぅ…… すごい美人……ねぇ……


「あと、六人目と言っていいか分からないんだけど、魔導書(グリモワール)のアルテナ。神代偽典(しんだいぎてん)の精霊、エネ・アルテナ。

 神器の一種で身長20cmくらいの女の子」


 まさか人外まで網羅しているとは…… さすがはおにーちゃんとでも言うべきか……


「ギルドと呼ぶにはあまりにも小規模らしいけど以上です」


「なんと言うか…… ずいぶんと多種多様に取り揃えてますね?」

「そうだね、鬼族(オーガ)人魚族(マーメイド)は二人以外に見たコト無いし……

 あ! しまった! 巨人族(ジャイアント)の人と写真撮らせてもらうの忘れてた!

 ホープが使える様になったらもう一度村に行って撮らせてもらおう! うん!」


 もしかして…… 全種族コンプリートでも狙ってるのかな?



---



 翌日……


 俺、完全復活! 二度とラフティングをしないと誓う!


 宿の食堂で、全員で朝食を取りながら今後の予定を話す。と言っても大して話すことは無い。

 鉄道を利用して首都へ至る…… それだけだ。

 ただし現在は操られた巨人が人類を襲っているので注意が必要…… 荒ぶる巨人族(ジャイアント)を見たらすぐに逃げ出すことを進める。チーム・レジェンドには巨人族(ジャイアント)と戦えるだけの力はまだ無い。


「そうだ、一つだけアドバイス。ガイアで被害者登録が済んだらギルドを作る事を進める」

「ギルドを作る?」

「あぁ、どこかのギルドに入れてもらうのもイイが、お前らせっかくチームなんだから新しいギルドを立ち上げた方が良い。もちろん独立して一人でやるのもイイが、最初の内は低ランクギルドでこの世界に慣れる方が良いと思う」

「お前達も同じ道を歩んだのか?」

「まぁな」


 ギルドランクは裏技使って無理矢理上げたけど……


「そうか…… 馴れか…… 霧島、お前の話だとデクス世界への帰還はいずれ出来るようになるんだよな?」

「あぁ」

「ならば出来るだけ多くの事を経験し、学ぶのも良いかも知れないな……」


 ………… フッフッフッ 掛かったな! コレでお前達チーム・レジェンドは我が『D.E.M.』に加盟したいとか言い出さなくなる! これ以上男は要らん!

 それとサポーターの面倒はキチンと見ろよ? あの二人の動きは予測し辛い。


 あぁ、それから伊吹は『D.E.M.』に入ってもらおう。本人も嫌がらないだろうし、妹の面倒を見るのも兄の務めだ…… 妹が二人でシスコンの鬼も大歓喜! 良いコト尽くめだ!



---



 朝食後、駅へと向かう。

 このまま一気に首都ガイアへ向かおうと思ったら、予定外の事態に遭遇。


「ダメダメ! コレは首都への増援と物資を運ぶ特別列車だ! 民間人は乗せられない! 首都での戦乱が収まるまで待つんだな!」


 ……だそうだ、それじゃ遅いっつーの。

 しかし困ったな…… 仮に馬車を購入して移動したとすれば、恐らく1~2週間は掛かるだろう。そもそも馬車を操れる人間がいない。誰かを雇うか? さすがにそこまで資金が有り余ってる訳じゃ無い。

 着払い可なら『D.E.M.』は大金持ちなんだけど…… この一年で先輩やジークが財産食いつぶしてたらどうしよう……


 あ、そうだ!


「だったら列車の護衛と首都の防衛任務もしましょう。俺と彼女はSランクギルドのメンバーですから」

「はぁ? Sランクだと? お前らみたいな子供がか? いや…… 子供でも強い奴は強いからな……

 ちなみにギルド名はなんだ?」

「ギルドランクS、『D.E.M.』だ」

「ブフゥ!! ダハハハハハ!! 帰りな小僧、嘘つくんならちゃんと調べてからにしろ! ギルド『D.E.M.』はSランクじゃねーよ!」


 笑われた…… 屈辱だ……

 てか『D.E.M.』がSランクじゃないだと? ジークか!? ジークだな!? あの筋肉ダルマ一体どんな不祥事を起こしやがった! ギルドランクの降格なんて聞いたコトねーぞ!

 てっきり横綱みたいに一度その地位に就けば何年休場しようが降格されないと思ってた。


 くそぅ…… 恥かいた! ジークの奴め! ケツ釘バットの刑だ!


「どーしよっか神那? 困ったね?」


 こうなったら仕方ない…… 


「琉架のコネを使おう」

「私のコネ?」

「これだけの規模の物資を調達してるんだ、絶対にシルバーストーン財団が関わってるはずだ」

「そっか、お爺様!」


 この手は使いたくなかった…… 使えば確実にゴリラに女神が再臨したことを知られる!

 もちろんいずれバレる事だが、この忙しい時にあのゴリラの相手などしてられない。しかし背に腹は代えられない…… 仕方ないな……


 積荷チェックをしている人に当たると、わずか二人目で財団の人間を見つけた。

 もちろん説明しても、琉架がゴリラの孫であることはなかなか信じて貰えなかった…… 当然だ。人類とミトコンドリアを並べて「身内です」と言っても誰も相手にしないだろう。

 せめて琉架のお爺様が、有栖川家の運転手くらいのナイスミドルな老紳士だったらこんな苦労はしなかったのに……

 こんな美少女がゴリラの孫を名乗っても信じないのは当然だ、詐欺をするならメスゴリラを用意して孫娘に仕立て上げる方がよほど信憑性がある。


 しかしこれでは埒が明かないので、後でゴリラに殺されても知らないぞ……的な脅しをかけて無理矢理押し通す。

 大丈夫、アンタは良くやった。最後まで抵抗した。見上げた愛社精神だ。


 絶望の表情を浮かべて去っていく男…… 琉架に彼の事をゴリラに伝えといてもらおう。

 もしかしたら昇進できるかも、少なくとも金一封ぐらいは貰えるだろう。


 多少のアクシデントはあったが無事に防魔衛星都市・アフロディテを出発する。


 嬉しい誤算だったのが、この特別列車、特急扱いで途中の駅を無視して突っ走るらしい。

 明日の夕方にはガイアに到着するらしい。


 久しぶりのガイアだ。みんなどうしてるだろう……

 てか、到着するまでにガイアが滅んでないといいんだけど……




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