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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
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第80話 新生活


 シニス世界における第11魔王討伐作戦から、およそ1年が経過した。


 さらに魔王の使途との遭遇事件から1ヵ月の時間が流れた…… アイツは未だに仕返しに現れない……

 やはりあの時、ヤツを逃がしたのは痛恨のミスだった。突然の出来事で焦りもあったのかも知れない……


 あれから1ヵ月の間、あらゆる手段を使ってアイツの事を調べた。俺が使える権力を全て使い、警察やオリジン機関、その他もろもろを総動員して調べ尽くした。


 この1年、ずっと神隠しについて調べてきたがほとんど収穫は無かった。魔王の調査もこんな感じだった…… きっと調べ方が間違ってたんだ、そんな五里霧中の状況で突然現れたアイツは、この行き詰った現状を打開する鍵になる!


 そう確信してはみたものの…… 手がかりが無さすぎる、せいぜいアイツの手を潰した時に出た血液くらいだ。

 それで判明したのはアイツがAB型って事くらいか、あの時の俺が如何にテンパってたか……

 身分証明はおろか写真一つ残ってない。こんな事なら腕を切り落として指紋照合するくらいしておけば良かった。

 当然、あのオフィスビルはもちろん町中の監視カメラの映像を確かめた。モンタージュ写真だって作って指名手配させた。権力をフルに使って探させてるがやはり難しいだろう。


 アイツが今もこの世界にいる保証は何処にも無いのだから……


 アイツは中身はともかく見た目は人族(ヒウマ)その物だった、しかもデクス世界について知り尽くしていた。何せスーツを着てたからな、こちらで生活…… 潜入工作でもしてたのだろうか?

 それはつまり、二つの世界を自由に行き来できていたのではなかろうか?


 やはり悔やまれる…… アイツを捕えてさえいれば!


 ふぅ…… 後悔ってのは先に立たないモノだ。今更悔やんでもどうにもならない。

 今できるのは次に備える事だけだ。


 そんな訳で痺れ薬てんこ盛りの捕獲手段、『猛毒弾(ヴェノム)』を改良した『麻痺針(パラシス)』を用意して待ってるのに……

 何時になっても現れない…… こっちはメガネ蝶ネクタイの少年張りに、発射体制万全で待ち構えてるのにだ。あぁいや、彼は眠らせるんだったか。別にどっちでもイイか、やる事は変わらない。

 かなり強力な痺れ薬になっている。

 しかし、アイツが中毒になろうが心臓麻痺を起こそうが重度の後遺症が残ろうが、知った事ではない! もちろん理想は生け捕りだが……


 一体いつリベンジして来てくれるのやら…… 捨て台詞を残して去っていったくせに……


 そう言えば運命(デスティニー)兄さんも似たような捨て台詞を残したくせに何時になってもリベンジに来ないな。

 つまりあの捨て台詞はアテにならないって事か?

 ガッカリだ……



---



 春休みの間も毎日学院に出てきてアイツの調査をしている。

 しかし新しい情報は何も入ってこない…… ここまで何も無いと、どこかの闇の組織が係わってるんじゃないかと疑いたくなる。

 もっとも本当にそんな組織があるならむしろ有難い。俺が直々にぶっ潰してボスから情報を聞き出すのに。


 そもそもアイツは一体誰の使途なんだ? 向こうからやって来るなら、最有力候補は魔王レイドだが…… 俺が退治したしな。


 何かモヤモヤする…… 大切な事を忘れているような、そんな感じだ。

 たった一つだけピースの掛けたパズルみたいだ。たった一つ…… それが埋まれば答えが出るような気がする。


コンコン


 休み中の学院、その研究室に誰か訪ねてきた…… 今日は琉架も伊吹も来る予定はない、つまり…… 居留守してもいいってことだ。


ドンドンドン!!


 今日は琉架も伊吹も来る予定はない、つまり…… 目撃者はいないってことだ。殺るか?

 殺気を撒き散らしながらダルい身体を起こしてドアを見ると、見覚えのあるオーラが……

 あの淀んだ感じ…… 天瀬先輩だ。そう言えば先輩にも依頼を出してたんだ…… しょうが無い、今日は生かしておいてやろう。


 ガチャ


「お待たせしました」

「やあ、こんにちは。ところで今殺気を感じた気がしたんだが?」


 見かけによらず鋭い、無駄な才能だな。


「気のせいですよ、それより先輩がわざわざ訪ねてきたってことは?」

「あぁ、第7階位級 生命魔術の開発が終わったぞ」


 ずいぶん早い、いくら第7階位級とは言え後2~3ヵ月は掛かると思ってた。

 もしかしてこのマッゾサイエンティストは研究者としてはかなり優秀なのか?


「第7階位級 生命魔術『治癒』キュアだ。自然治癒力の強化だからあまり役にはたたんぞ?

 せいぜい全治2週間が1週間になる程度」

「いえ、十分です。有難うございます」

「ふむ? まあいい、余計な詮索はしないでおこう。データはコレに入ってる」


 先輩から魔導術式用チップを受け取る。さっそく琉架に覚えてもらおう、俺は…… せっかく作ってもらったんだから一応覚えておくか。役には立たなそうだが……


「先輩のギフトは『魔術創造(スペルクリエイター)』の系列なんですか?」

「ははっ、そんな高等能力じゃないさ、僕のギフトは『魔導解析(アナライズド)』だ。魔術を見ればどういった術式で構成されてるかが分かる程度だ。

 当然、魔術を自由に作れる訳じゃ無い、普通の人より得意ってところかな?」


 さすがに伝説の『魔術創造(スペルクリエイター)』がこんな所に転がってる筈ないか……


「それは残念、ぜひ人探しの魔術開発を依頼したかったのに」

「人探し? あぁ、指名手配になってる男の事か。君も探しているのか、しかしアレは無理だ、情報が少なすぎる。この条件で個人を見つけ出す魔術など、それこそ『魔術創造(スペルクリエイター)』くらいにしか生み出せないよ」


 ですよねー。

 しかし諦めきれん! 嫁達が俺の帰りを待ってるかと思うと尚更だ!


 もはや奇跡を願うくらいしか出来ないのか? 奇跡はよ!



 ― 4月某日 ―


 今は桜の季節…… 出会いと別れの季節…… 俺の栄光への道が絶たれた季節…… 俺が嫁候補を失った季節…… 俺が『絶対天国計画(オペレーション・オブ・ヘヴン)』を断念せざるを得なかった季節…… 俺が……!! いや、ちょっとしつこかったな……


 とにかく色々な事があった季節だ。



 一周年という事でこの1年に起きた事を少し振り返ってみる。



 そう…… 1年と少し前のあの日、俺達はシニス世界の絶対王者である魔王……


 第11魔王 “影鬼” レイド・ザ・グレムリン・フォース


 第8魔王 “侵略者” ウォーリアス・アンダー・ザ・ワールド


 この2魔王を倒した直後、異変に見まわれた。


 突如現れた真っ暗な空間に飲み込まれた俺たちはデクス世界へと戻ってきていた。つまり逆神隠しに遭ったのだ。

 あれから1年…… 色々な事があった……

 嫁候補を一気に失った俺は琉架にずいぶん助けられたな…… これでもし琉架までいなくなってたら、俺はきっと死んでいただろう。

 かつては一人ぼっちでもクールキャラを演じていたのに、ずいぶんと弱くなったものだ……


 とにかく突如発生した謎の暗闇…… 恐らくアレがゲートだったのだろう。とにかくアイツのせいで俺の栄光へのプランは全て瓦解した。


 なんなんだよ! 突然伏線も無しに発生しやがって!


 せめて何かのフラグでも建てとけよ! だから詐欺フラグは信用できないんだ!

 とは言えそれだけならまだ救いはあった。なにせ俺たちは魔王殺しの英雄だ! こちらの世界でもチヤホヤされると思ってた。


 しかし甘かった……

 魔王が倒されたにもかかわらず、シニス世界からの帰還者は一向に現れない。

 向こうで何かとんでもない事件が発生しているのではないか? そう思うと居ても経っても居られなくなる。だが世界が違う! こちらでどれだけ足掻いても何も出来ない!


 そう思い続けて早1年…… 未だに誰も帰らない。


 もしかしたらクレムリンの地下が崩れたのかもしれない…… だとしたら犯人は俺だ。

 俺が魔王城の上空で核融合爆発なんか起こしたものだから、城の地下が崩れたんだ…… 琉架も言っていた…… 巨大地震でも起きたのかと思ったと…… ヤバイ……

 もしもう一度シニス世界に行く機会があったら、俺はトラベラー達に袋叩きにされるかも知れない……

 きっと先輩辺りに蹴られまくるだろう。


 おかしいぞ? 俺は命がけで魔王を倒したのに、誰もチヤホヤしてくれない……


 俺は一体何のために頑張ってたんだ? こちらの世界に戻り、英雄としての権力を最大限に行使し、俺一人だけに一夫多妻制を認めさせ、ハーレムを作るために頑張ってたんじゃないのか?

 それともこんな不誠実な事を考えていた天罰だろうか?


 マヂで死に掛けたのに頑張り損だ。


 こんな事なら向こうの世界で、魔王など無視して自分に降りかかる火の粉だけを払って、美少女達と面白おかしく生きて行けば良かった……


 戻りたい…… あの頃に…… どこかにタイムリープ能力者でもいないかな?



「神那、どーしたの? また考え事?」


 いつの間にか琉架が俺の顔を覗き込んでた。小首を傾げる仕草がとても可愛い。

 あぁ、女神様! あなたがいるだけでこんな色あせた世界でも輝いて見えるよ!


「どうせいつもの妄想でしょ? おにーちゃんが深刻な顔してる時は大抵昔の事を思い出してるから」


 伊吹の一言が俺のマインドを削る、おにーちゃんの心を読むんじゃありません!



 そう、あれから1年も経ってしまった。


 俺と琉架は本日「第三魔導学院 高等部」にエスカレーター式に進学したのだ。


 この1年間、テストの度に琉架のお世話になっていた。


『せ…先生!! 僕どうしても保険体育で分からない所があります!!』

『あらあら困った子ね、しょうがないわね、センセーが君が分かるまで手取り足取り教えてあげるワ♪』

『せ……せ……せんせー!!』

『きゃ~~~♪』


 今のは俺の妄想だ。そんな事実はこの宇宙のドコにも無い。



 そんな訳で本日は始業式、高等部の真新しい制服に身を包み、特別才能クラスのホームルームに出ている。

 さすがに今日は全員参加している…… と、思いきや、運命(デスティニー)兄さん率いるチーム・デスティニーの面々がいない。三年生のM(和泉優理香)先輩が卒業してしまった為、今までより一人少なくなってしまった。

 まさかこんな日にも自主練してるのか?

 それとも新メンバーを求めて中等部1年の可愛い子をチェックに行ってるのかな?


 …… 有り得る。


 あいつ今年高3だろ? つい先日までランドセルを背負ってた子に唾付けに行くとか、完全に犯罪者だ。つぐみちゃんの時点でお巡りさんに密告したくなったくらいだ。

 もし伊吹に手を出してたら殺してたね。


 まぁ、いない奴の事などどうでもイイ……


 そんな時、琉架がポツリとこぼした……


「もう1年以上経つんだね…… みんなどうしてるかな?」

「あぁ…… 俺も毎日考えてる……」


 俺の嫁たちは元気だろうか…… まさか浮気とかしてないだろうか? しかしいつ戻るとも知れない旦那の帰りを待つ妻の気持ちとはどんなモノなんだろう…… 浮気をしてても責められない…… 何故なら俺は愛を囁いた事すら無いのだから……


「みんな元気だと良いんだけど……」

「あ……あぁ、そうだな……」


 ちょっと嫌な事を想像してしまった……

 嫁達に再会した時、みんな別の誰かの嫁になっている所を……

 考えただけでも自殺したくなる……


 みんなが幸せならそれで良いじゃないか! とか、大人の考えが出来れば苦労は無い!

 俺は欲望に忠実な男! 出来るなら俺自身の手でみんなを幸せにしたいモノだ。例えそれが茨の道であろうとも!


 そんな事を考えていたら、気付いた時にはホームルームは終わってた、全く聞いて無かった。

 今日は授業は無い、帰りに買い食いでもして帰るか…… 最近はこうして隙丸出しで過ごしている、待ち構えているとあの使途も襲い掛かり難いかと思ったからだ。

 果たしてどれだけの効果があるのか……



 そんな時だった…… 席を立とうとした時、違和感に気付いた。

 視界の端に有り得ない存在を捉えたのだ。


「…………」


「え?」


 教室の一番前の窓際、そこに一人の女が立っていた。

 一秒前までそこには誰も居なかったはずなのに……


「え? あ……あれ?」

「は? だ……誰?」


 一瞬の静寂の後、教室がざわつく…… みんなにも見えてる…… どうやら俺にだけ見える幻じゃないらしい。

 しかし誰だ? 見覚えが無い…… あれ? 本当にそうか? どこかで会った気がする……


 その女は異様な美しさだった…… この世の物とは思えないほどの…… 琉架程じゃ無いがそれでも俺が知る限りではトップクラスだ。

 目を見張る様な美しく長い灰銀色の髪、目は前髪で隠れている…… まるで幻の様に存在感が無く、今が現実なのか夢なのか分からなくなる……

 そうだ…… こいつ前にもどこかで会った事がある…… これほどの美人を俺が忘れる筈が無い。だが何故か思い出せない…… 一体いつドコで……


 その女はジッと俺を見ている…… いや、俺と琉架を見ているのだろうか?


「? おにーちゃん、お姉様、知ってる人ですか?」


 そう…… 俺はこの女を知っている……


「お……おい、アンタ一体どこから入ってきた?」


 ざわつく教室の空気に痺れを切らした伝説(レジェンド)君がそう声を掛けながら、彼女に一歩近づいた。

 すると彼女の前髪が揺れ、その隙間から右眼が覗いた……


 その瞬間、全てを思い出した。

 点と点が結ばれ、今までバラバラだった疑問が一気に解けるような感覚が体を駆け巡っていった!


「お…お前!! まさか……っ!!」


 無意識に手を伸ばしていた、もちろん手の届く距離ではないがそれでも今まで探し求めていた答えを捕まえようと自然と手が伸びていたのだ。


 そして声を発した瞬間、視界に移る景色が一瞬で変わる。

 この感覚は間違いない! 神隠しだ!!




 俺はまたしても唐突に神隠しに遭ったのだ……




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