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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
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第76話 お披露目


 仮想空間・ステージ「草原」



 チャララ~~~ン♪


『TIME UP!』


「もぅ! おにーちゃん真面目にやってよ!」

「いやいや、無理言うなって! 出来るワケ無いだろ?」


 今、俺と伊吹は仮想訓練装置(デイトリッパー)の草原ステージにいる。

 模擬戦を行ったのだが結果はご覧の通りタイムアップだ。

 何故俺が最愛の妹と戦わなければならないか…… それは……


「何で第2階位級魔術を使わないのよ! 見せてくれるって約束したでしょ!」

「約束はしたけど、お前に使うとは聞いてない」

「何でよ? 何の為の仮想訓練装置(デイトリッパー)だと思ってるの?」

「伊吹に使えるワケ無いだろ? たとえ仮想体でも伊吹の串刺し死体とか見たくない」

「むぅ…… じゃあ私にじゃなくてもイイから見せてよ!」

「それも今はまだ無理、仮想訓練装置(デイトリッパー)では魔力微細制御棒(アマデウス)が使えないから完全制御が出来ない」


 やってやれない事は無い…… が、魔術が最後まで形を保てず自壊する可能性がある。

 仮に神剣・聖天白氷(シンケン・セイテンハクヒョウ)なら地面に刺さった段階で、辺り一面氷漬けにしてしまうだろう。そうなれば敵も味方も無い、周囲にいる人間全滅だ。


 そもそも自分に使えって…… いくらなんでもそれは無いだろ? 仮想訓練装置(デイトリッパー)には対魔物戦モードがある。魔物相手に使わせればいいのに…… もっとも生徒たちは対人戦モードばかりやっている。トーナメントなんかやるからだ、如何に遊び半分だったかがよく分かる。


「つまりリアルでないと使えない……と? じゃあ、いつ見せてくれるの?」

「それも難しいな、通常の第2階位級の使い方じゃ威力があり過ぎて……」


「ん? 通常じゃ無い使い方もあるの? それなら見せてくれるの?」

「まだ脳内シミュレートしかしてないが、魔力微細制御棒(アマデウス)があれば恐らく可能だ。

 第2階位級魔術は威力を一点に集中させることに特化している、それを分散できれば使い方の幅が広がるんだ、例えば100メートルの神剣1本を100分割して、1メートルの神剣100本に変える。これにより巨大な敵の弱点だけピンポイントで狙えたり、百匹の敵に神剣の強力な一撃をぶち込む事が出来る」

「おぉ!」


 もちろん百匹の敵を相手にするなら広域破壊魔術の第3階位級で事足りる、ただし効果範囲に味方がいると巻き込んでしまうため使えないのが第3階位級の弱点だ。

 だから俺は効果範囲を極限まで狭めて威力の凝縮を好んで使った。ちなみにこの方法も高度な魔力コントロール技術が必要なため誰にでもできる訳では無い。

 そもそも複数の敵を相手にする時は、琉架に任せた方が効率が良かったのも理由の一つだ。


「つまりそれはいつ見せてくれるの?」

「つまりこれは大量の(テリブル)が近くに沸いたときだな」


「それじゃ何時になるか分かんないじゃん! おにーちゃんのアホー!」

「こればっかりは仕方ないんだ、分かっておくれ、アホ伊吹」



---



 仮想訓練装置(デイトリッパー)を出ると、琉架が笑顔で出迎えてくれた。どうやらアホ兄妹のやり取りを見ていたらしい。お恥ずかしい所をお見せしてしまった……


「お疲れ様、ふふ、神那と伊吹ちゃんはなかよしサンだね?」

「お互いにアホと罵り合う関係はなかよしとは言い難い気がする」


「お姉様ぁ! アホのおにーちゃんがイジメル~!」


 ヒシ!


 伊吹が琉架に抱き着く…… なんて羨ましい…… そこを代われアホ妹。


「だ……大丈夫だよ伊吹ちゃん、すぐに見せてくれるよ、神那は妹思いだから」

「むぅ…… そうでしょうか? それよりお姉様、私の事は呼び捨てで結構です…… というより、呼び捨てにしてください」

「う…… そ…それは無理、神那の妹を呼び捨てにするなんて…… だったら私をお姉様呼びするのもやめて欲しいんですけど……」

「あ~、これは慣れて貰った方が良いです。どうせ遅かれ早かれなんだし……」

「?」


「時に伊吹よ、何故そんなに第2階位級魔術を見たがる? お前だって不気味オブジェの写真くらい見た事があるだろ? 未だに学院中に張られてる新聞で」

「あんなのじゃ分からないでしょ? その…… 私にも出来るかどうか……」


 え? もしかして第2階位級を使いたいのか? 伊吹が? 気持ちは分かる、カッコいいからなアレ。

 俺の妹ならきっと魂が震えた事だろう。

 しかし……


「現状、伊吹には使えないよ」

「な…なんで!?」


「ふぅ…… 知ってるとは思うが、魔導とはより強力な力をより簡単に使うための技術だ。魔導により人は他種族に対抗しうるだけの力を得た。 魔法の自動化、それが魔導の本質だ」

「…… それくらい知ってるわよ……」


「魔導は精密なプログラムとして術式を使用者に刻み込む、すると特定の魔力とキーワードで術式が自動で魔術を作り出してくれる…… そのスピードは無詠唱魔法に匹敵する。 この術式が問題なんだ」


 そこで琉架を見ると……


「魔力コントロールが未熟な人は、このプログラム自体がエラーを起こすんです」


「魔導とは術式の塊だ、第6階位級魔術でも複数の術式を一纏めにしている、この術式を魔法に置き換えた時、必要となる詠唱はノート2~3ページ分と言われている」

「う……」

「そして同程度の魔力消費で、魔法の数倍もの威力を出せるのも魔導の長所だ。しかし当然、階位が上がるほど術式は大きく複雑になって行く。魔術師の壁と言われる第3階位級で大規模術式・三を平行励起する必要がある。これには高度な魔力コントロール技術が必要だ」

「だ……第2階位級は?」

「大規模術式・二十七を直列励起だ。ハッキリ言って鬼仕様だ」

「に……二十七……」


 もちろん魔力コントロールだけでなく、高い能力値も必要なんだが…… 能力値が高い人間は魔力のコントロールが苦手になる傾向がある。琉架はその典型だな。

 だからこその伝説級、歴史上数人しか使えなかったのもそういった事情があったからだ。


 そもそも第3階位級より上は“神の名を冠する魔術”と呼ばれ別格扱いだ。この学院にどれだけ使える人間がいるか…… そう言えば仮面先輩は第3階位級が使えるらしいな……


「それじゃ私には…… 無理なの?」


 伊吹がしょんぼりしてる…… 可愛い…… じゃなくて、ここはおにーちゃんが励まさなくては!


「そうじゃない、伊吹はもともと使えるだけの才能(能力値)がある、あと必要なのは努力だけだ」

「努力? すれば使えるようになるの?」

「魔力コントロールには向き不向きはあるが、俺の妹である伊吹なら可能なはずだ」

「おにーちゃんの……妹……」ジト……


 だから何故そこで疑いの眼差しをする? お前の兄は歴史に名を残す英雄なんだぞ?

 サンタさん、次のクリスマスプレゼントには妹からの尊敬が欲しいです。


「一つだけアドバイスをしよう、ちょっと小賢しいんだが…… 魔力をケチれ!」

「ケチ……?」

「ケチこそ魔力コントロール上達の一番の近道だ。俺もケチってたらいつの間にか上手くなってた」


 情けないアドバイス…… おにーちゃんとしてカッコいい所を見せたいなぁ……

 そうだもう一つだけ可能性があった。


 魔力微細制御棒(アマデウス)のモデルになったと言われている伝説の神器、それがあれば魔力の完全制御が可能になるかも知れない。

 是非とも手に入れたい一品だ。

 もっともある程度の魔力コントロール技術が身に着けば魔力微細制御棒(アマデウス)で事足りるだろう。

 そうなった時には俺からオリジン機関に申請しておこう。最悪俺のを譲ってもイイ、コレはあくまで急場しのぎだしな。



 ちなみに後日、第2階位級魔術をお披露目する機会に恵まれた……



---



 第三魔導学院・魔宮


 我々地下探検隊はまたしてもこの人外魔宮に足を踏み入れたのだ!

 迫りくる野生の脅威! 一人また一人と犠牲になって行く隊員たち! 血に飢えた魔物の巣窟で彼らが見たモノは!!


 ……と、いう訳でまたしてもココへやってきました。


 今回は探検隊メンバーの他に国際連合の調査・救出隊と、何故か特別生の面々が参加している。

 何で特別生が? どうやら色々な方面の思惑が絡んだ結果らしい。


 調査・救出隊のボディーガードになると考えた人や、いい機会だから野生の魔物相手に実戦訓練を積ませようと考えた人もいたようだ。

 つまり特別生がたった四人で、数百年間 誰一人戻ることの無かった魔宮の謎を解いたのだから全員で行けばより安全だ! と言う結論に至ったらしい…… バカばっかりだ……


 誰か止めろよ…… ここから自力で戻れるのは俺と琉架だけなのに……

 俺達と同様の能力を他の特別生に求めるなよ、可哀相だろ? 魔王と学生を比べるなんて!


「こ……これが魔宮? 信じられん…… こんな広大な空間が地下に存在してるなんて……!!」

「うわー!! 広ー!! なんだこれー!!」

「この世界にこんな不思議なモノが存在するなんて……」

「まさか…… またここに戻って来る事になろうとは……」


 確かにいい経験になるだろう、ここには色々な魔物が生息しているが、そのレベルは押し並べて低い。1種類を除いて……


「それではこの魔宮唯一の村、楽園村へ移動しましょう。今の時間ならディープ・ブルードラゴンのお食事タイムは終わってるので襲われることは無いでしょう。ただ、中にはルールを守らない奴も居るかもしれないので頭上には注意してください」


 遥か上空を飛び回る大量のディープ・ブルードラゴンの群れ…… アイツらを単体で撃破できるのはS級魔術師くらいなものだ。


---

--

-


 ― 楽園村 ―


 無事到着、ここに至るまでの間、相変わらず魔物が大量に湧き出てきたが、チーム・レジェンドとチーム・デスティニーの連中が気合入りまくり、全部片付けてくれた。最近生身での訓練も頻繁に行ってるみたいだし、このレベルの敵なら問題なさそうだ。



 救出隊の人が村人に話をしてる、今更外の世界に出たくないと言う人も居るかもしれない…… そこは個人の自由だ。ルートが確保されたらこの村にも国際連合の軍人や研究者がやって来るだろう。この村が完全に無人になる事は無い。好きにすればいいさ。



 チーム・レジェンドとチーム・デスティニーの連中は村の外で狩りをしている。ハッキリ言って弱い者いじめだ…… 間違っても絶滅させるんじゃないぞ?



 天瀬先輩と真夜は……


「僕たちは非戦闘員だ、だから帰りの支度が整うまでこの村にいるよ」

「……ん」


 まぁ、二人は今回無理矢理参加させられたからな…… ココに居れば安全だろう。



 俺と琉架と伊吹、そして調査隊の人達は帰る為のエレベーター設置作業だ。


 もっともエレベーターと言うよりはむき出しのゴンドラだ……

 霧の迷宮を思い出す…… あそこまで手作り感満載ではないが金属素材で作られているだけで、基本同じものだ。

 筋肉ダルマと二人っきりで挑む迷宮攻略…… トラウマが甦る……


「それではこの装置を頂上まで運んで設置してくれたまえ」


 何が「くれたまえ」だ! 完全に丸投げじゃねーか!

 仮にも国際連合なんだ、飛翔魔術の使い手くらい用意しとけよ!


 ちなみにこのゴンドラ、ディープ・ブルードラゴン対策で強力な悪臭を放つ液体を散布する装置がつけられている。確かに理に適っているが…… 臭そうだな。俺たちは自力で帰ろう。


「それじゃ琉架、やろうか?」

「りょーかい」


 塔山の頂上へ向かうのは俺と琉架と伊吹、それに技術者が5人だ。


(『星の御力(アステル)』重力遮断)


「第7階位級 風域魔術『空圧』コンプレス」


 前回は魔力微細制御棒(アマデウス)の実験がてら、圧縮空気操作を4人分に分けて使ったが、今回は全員ひとまとめにして使用する。こっちの方が遥かに操作しやすい。

 技術者が悪臭噴射装置を大事そうに抱えているが、圧縮空気で覆われてる今使うと、自分たちだけが被害を受けるぞ?


---

--

-


 しばらくは何事も無く上昇する。

 しかし高度500メートルを越えた辺りでディープ・ブルードラゴンの生息域に入る。

 当然すぐさま捕捉され、おやつタイムに突入だ。さっそく5匹突っ込んできた。


「5匹か…… 前回ので多少は懲りたのかな? 空飛ぶ人間を襲うのは危険だって」

「お……おにーちゃん!? ナニ悠長に構えてるの!? それ所じゃ無いでしょ!!」

「さて伊吹、約束通り見せてやるよ」

「え?」


 今回の圧縮空気操作には余裕がある。妹に兄の偉大さを存分に見せつけてやる。



「第2階位級 火炎魔術『神剣・紅蓮焔墜』シンケン・グレンエンツイ」



 巨大な炎の剣が出現する。敵が5匹なので5分割してみる。

 『紅蓮焔墜』は『聖天白氷』と違い、実態を持たない炎のみで構成されている大剣だ。飾り気の少ないバスターソードのイメージだ。無骨でカッコいい!

 如何に5分割されていても、1本30メートル近い大きさがある。


「こ……これが第2階位級魔術? スゴイ……」

「お…おぉぉ…… こ…これ程とは……」

「なんという威圧感……迫力……」


 ディープ・ブルードラゴンがある程度接近したところで攻撃する。本来なら熱で大変な事になるが、圧縮空気の壁で何とかなるからな。


「穿て!!」


 5本の大剣がそれぞれディープ・ブルードラゴンを刺し貫く!

 その瞬間、ドラゴンの巨体は一瞬で炎に包まれる。断末魔の叫びを上げる暇も無くその命は炎に吸われていった。


 この時発生した熱波に乗り一気に頂上を目指す、これだけの熱量があれば襲われる事はあり得ない。

 更に『紅蓮焔墜』は全て焼き尽くすので、下に被害が出ない。もし火のついたディープ・ブルードラゴンが落ちれば大惨事だった。


「おにーちゃん…… ホントに凄かったんだ……!」


 ようやく妹に兄の偉大さを見せつける事が出来た、それだけでこんな所にまで来た甲斐があったというもの!



---



 我々探検隊はとうとうこの前人未到の塔山の登頂に成功したのだった! そこで探検隊を待ち受けていたモノとは?


 いや…… 前人未到じゃ無いけどね? 特に何も待って無いし……


 技術者がゴンドラ用のワイヤーを設置している。俺たちの仕事は終わったし、もう帰ってもいい気がする……

 しかし今回の魔宮探索は罰則の意味合いが強い、勝手に帰るのはよくないか……


「ねぇねぇおにーちゃん! アレはナニ? 神殿の残骸みたいなのは?」

「おそらくこの島がこちらに来る以前、遥か昔のデクス世界の遺跡…… だと思う」

「おぉ!! それってデクス世界には沢山あるって噂の超古代文明のこと?」


 そうなるのかな? しかし超古代ってほど古くも無いだろ、イメージだと1万と2千年くらい前か?


「正確な所は分からないが、人族(ヒウマ)の手によるモノでは無いだろう」

「へぇ~~~、デクス世界にはこんなのがゴロゴロしてるんだね?」

「まぁ……そうだな、結構至る所に」

「私も一回くらいは行ってみたいかな? 異世界ってヤツに」


 そうだな…… 俺ももう一度行ってみたいよ…… 嫁達の事を思い出さない日は無いくらいに渇望してる。



 その後……


 帰還希望者と調査隊、特別生の面々は苦悶の表情で塔山を登ってきた。

 例の悪臭装置を使いまくったらしい。

 あのゴンドラは箱型密閉式にするべきだったな…… ご愁傷様です。




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