第75話 近況報告
αテリブル襲来。
このある意味、世界的大事件から3ヵ月が経つ……
今は12月、今年ももうじき終わりそうだ。
あの事件の後、色々な事があった。
まずザック先輩とノーラ先輩が帰国していった。
「お前たちの実力が本物である事は確認した、もちろん1対1なら負けないつもりだが、戦場の乱戦の中では後れを取るだろう」
「ザック…… 戦場の乱戦ってナニ? 何で逆陣営? いい加減認めなさいよ、私はこの二人ならもっと上の序列でもおかしくないと思ったわ」
「い……いや…… 1対1なら……」
「勝てるワケ無い! 断言できるわ」
どうやら留学とかじゃ無く本当に俺たちの実力を見に来ただけだったらしい。その粘着っぷりが少々気持ち悪いが、お二人が居なければあの事件で死者も出ていただろう。
下手をすれば俺たちが辿り着く前に学院全滅なんて事態も起こり得た、そう考えればこの実力主義の先輩たちの存在は有り難かった。
「いえ、ノーラ先輩、ザック先輩はとても強く頼りになる先輩でしたよ。先輩が踏ん張ってくれなければきっと死者も出ていました。ザック先輩は第三魔導学院を救ったヒーローです」
念のためヨイショしておく、後で粘着されても迷惑だから。
「ッ! そ…そうだな! うん! お前達も強かったぞ!」
うん、喜んでる…… 実に単純な人だ。こういう熱血系にはヨイショが良く効く、そういえば勇者もこんな感じだったな。
「はは、キミはホントにクセ者だね。それとその先輩呼びやめてくれない? 年だって二つしか離れてないし、今は君たちの方が序列が上なんだし」
「おぉ! そうだな! 俺達は一緒の戦場で戦った仲間だ! 呼び捨てを許可するぞ! 神那! 琉架!」
急にフレンドリーになったな…… まるで二重人格みたいに、まぁ確かに戦友ってヤツになったのも事実だ。
「え~と…… 分かりました。ザック。ノーラ」
「え…… えと…… ザック…………さん、ノーラ…………さん」
「…………」
「…………」
「琉架はお嬢様育ちで人を呼び捨てするのに慣れてないんです、今はこれで勘弁して上げて下さい」
「う……ごめんなさい、以後努力します」
「まぁ仕方ない、次に会う時に期待しておこう」
「ま、ダインスレイヴは仕事柄どこかで会う機会もあるでしょ」
そうだな、アルスメリアにαテリブルが襲来したら助っ人に行ってあげよう。
もともとダインスレイヴにはそういう決まりがある、でも飛行機で片道10時間も掛かるから着いた時には終わってる可能性が高い。
……その時は琉架と二人で観光でもしてこよう。
もしかしたら案内とかしてくれるかもしれないな、地元の人間がいるのは心強い。
こうして二人は帰っていった……
また、あの事件以降、世界中で人型種が発生するようになった。
それに伴い学院内の空気も変わる。
第三魔導学院でβテリブル人型種を無条件で倒せるのは俺と琉架の二人だけしかいない。
βはαとは違い何時何処に現れるかが分からない、より一層の防衛力強化が必須になった。
生徒の半数が高位戦闘能力者を目指し、生身での実戦訓練も至る所で見かけるようになった。保健室は大忙しだな。
しかし若い奴はやる事が極端だ、親からクレームが入るぞ? 赤い人も言ってただろ? 「認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものを」って。
身の丈に合った訓練をするべきだ、もちろん目標を高く持つのはとても良いことだが、それで怪我をしたら元も子もない。
魔力戦闘測定値Aランクの生徒は軍や上位魔術師の付添の元、国内に発生したβテリブルの駆除に駆り出されることになった、もちろん希望制だ。
人数と装備と戦術さえあれば人型種の退治も可能だろう、たとえ学生であっても。
実際の戦いに身を置くのも悪くは無いと思うのだが……
またしても誰かが描いた通りに世界が動いている気がする……
その戦力増強関係で生徒会長に呼び出されたことがあった。何故か俺と天瀬先輩の二人がだ。
生徒会長…… 顔はおろか名前も知らない、どんなヒトなんだろう、その時の俺は期待に胸を膨らませていた。
この学院の生徒会は少々変わっているらしい、東西南北それぞれの校舎に一つずつ生徒会が存在し、一人ずつ生徒会長が存在する。その内の一人が学院を代表する総合生徒会長となる。
今の総合生徒会長は北校舎の生徒会長らしい。
コンコン
「特別生 高等部1年 天瀬大志と、中等部3年 霧島神那です」
「どうぞお入りください」
ここは中央校舎の総合生徒会室。その扉も内装も机も、全てが学院長室より豪華な作りになってる。床には真っ赤な絨毯が敷き詰められ、来客用の豪華なソファーとテーブルまである。同じ応接セットでも原初機関とは大違いだ……
この学院の総合生徒会長は一体どんな権力を持っているんだ?
正面の机に肘を置き座る一人の人物、大きな南向きの窓から差し込む光で顔は良く見えない…… 隣には秘書っぽい人まで立っている。まるで学院の最高権力者の様な雰囲気を醸し出してる。
「よく来てくれたね」
ん? この声……
「僕が第三魔導学院、総合生徒会長の 大江真九郎だ」
「男かよぉぉぉーーーーーーぉ!!!!」
思わず声が出た!
いや、叫ばずにはいられない!! こんな事があっていい筈が無い!!
この部屋にいる俺以外の人間は全員驚愕の表情を浮かべている、当然だろう、部屋に入るなりいきなり「男かよーーーーーーぉ!!!!」って大絶叫すれば誰だって同じ反応をする。
あ、秘書っぽい人は女生徒だった。
「た……確かに僕は男だが、一体どうしたんだい?」
一体どうした……だとぉ!? コイツ何も分かってない!! 一体どうしたはこっちのセリフだ!!
「何で生徒会長が男なんだよ!! 俺の愛読書では九割九分「生徒会長は女」なんだよ!! しかも美人の!!
一体何処でどう間違えばこんな丸眼鏡のモブっぽい奴が生徒会長になれるんだよ!!
どんな化学変化を起こしたらこうなる!! 責任者はどこだ!! とりあえずソイツを地獄に落としてくる!!」
期待を裏切られた俺の心が悲鳴を上げた…… こんな事があっていいはずが無い、コレはきっと夢だ。そうに違いない!
「お……おちつけ神那君、キャラが崩壊してるぞ?」
キャラなど知った事か! 不都合があるならココにいる人間を皆殺しにすればいいだけだ!
そうだ…… 皆殺しにして会長選挙をもう一度……
「き……君の愛読書の話は知らないが、男性生徒会長の方が一般的だと思うが……」
「一般の話など知るか!! 主人公の学校の生徒会長は美人!! そうでなければいけないんだ!!」
ハァ…… 全てがどうでもよくなってきた…… 早く帰って琉架とイチャイチャしたい…… きっと理想の生徒会長は琉架のお姉様みたいな人が相応しい、おぉ! ピッタリだ! 正に理想の生徒会長!
あ、彼氏いない歴=年齢の小姉様じゃなくてね。
「あ~…… え~と…… 南校舎の生徒会長は女性だが……」
「よし! 今すぐ南校舎へ引っ越そう」
「落ち着け神那君! 何かヤバイ感じになって来てるぞ!」
その後ソファーに座らされた俺の態度はかなり悪かった。
当然足はテーブルに投げ出し、モブ会長を常に睨みつけていた。俺の眼光を受けてモブ会長は委縮していたな。彼が悪いワケじゃないのも理解している、悪いのは世界の方だ。
それでもその時の俺は相当やさぐれてた。何故なら世界に裏切られたからだ。
「それで? 男の生徒会長様は一体どんな用件で我々を呼び出したのでしょうか? こんな遠くまでわざわざ歩かされて」
実際は全く遠くない、同じ校舎内なんだからな。
これはただのいちゃもんだ、この後ろくでもない要求をされそうなので演技している。
「き……君達に頼みたい事がある…… 魔術戦闘の教官だ」
何言いだすんだこのモブは、それは学生の仕事じゃないだろ?
てか、何で天瀬先輩まで? この人戦闘能力ゼロだぞ?
「先日のテリブル事件の戦闘資料は見させてもらった、霧島神那君、キミは反魔法を使いこなし、伝説級と言われる第2階位級の魔術をも操る。さらに体術も優れており人型種をナイフ一本で制して見せた。
恐らくこの学院最強の人物だろう」
それは間違ってる、学院最強は琉架だ。ガチバトルで琉架に勝てる人間はこの世界には存在しない。
もちろんそれは教えない、コイツも琉架の才能に群がる悪い虫の一種だからな。
「そして天瀬大志君は、新しい魔術を生み出す才能がある」
ほぅ、この踏まれて喜ぶマッゾサイエンティストにそんな才能があったとは。それなら地下探検隊の報酬として巨乳化魔術でも開発してもらおうか。
「あ~~~、そういう事なら僕はお断りさせてもらいます。僕の能力はそんなに便利なモノじゃないんですよ」
なるほど、天瀬先輩の能力は研究方面に特化した才能なのか。
研究好きで戦闘能力ゼロ、納得だな。
「俺もお断りさせてもらいます。そういうのは専門家に頼むべきだ」
最高の選手が最高の監督になれる訳じゃ無いし。
「し……しかし、君達なら……!」
「やかましい! 俺にお願いを聞いて欲しければ美人で優しくて巨乳で黒髪ロングで苗字が「あ」名前が「み」から始まる女性生徒会長を用意してからにしろ!
もっとも用意できても話を聞くだけで叶えるかは別問題だけどな!」
ようするに琉架のお姉様を生徒会長にしろと言ってる。つまり不可能だ。
「そ……そうか……」
モブ会長が項垂れてる、どうやら最初から無理だと思ってたらしい。分かってたならするなよ、おかげでこっちは心を引き裂かれたんだぞ!
その後、当然の様に生徒会からの接触は無くなった。
特別生は手に負えないという印象を植え付ける事が出来た。
もしかしたら俺の希望に沿う生徒会長を探してくれているのかも知れない、そこまでされたら俺も漢だ! 協力は惜しまない! 学院の生徒を全員、立派な戦士に育て上げて世界を征服してやろう!
次はテリブルの件だ。
あの突然現れた宇宙空母みたいな「α-006」。運用の始まったばかりの監視システムに一切感知される事なく現れたアイツは、どうやら深海を潜って大和に接近したらしい。
通りで接近情報が無い訳だ。監視システムにソナーが追加されたらしいが、どうも対応が後手後手だ、次はステルス機能を持つ個体とか、ICBMみたいな個体が出て来そうな気がする。
北半球にあるこの国は迎撃準備の時間があると思ってたが、あまり関係ないのかもしれない。
それはそうと校庭の隅で不気味オブジェと成り下がった大型種は3ヵ月経ちようやく撤去作業が終わった。5~6個に輪切りにされてヘリで運ばれていった。
なんだよ…… バラして良かったのか…… せっかく原形を留めておいたのに……
作業が遅かったせいで、ちょっとした観光名所になってたぞ? 最初の1ヵ月間は学院の生徒たちがオブジェの前で記念撮影してた。
その後もいろんな人が見物に来てた、軍関係者から世界各国の要人まで。
隔週で崩壊防止に魔力を注ぐこっちの身にもなれよ、すげー注目浴びたんだから。
こんな事なら後腐れなく炎属性で塵も残さず焼き尽くしてしまえば良かった。
最後に地下探検隊の活動報告についてだ。
案の定、御叱りを受けた。主に先輩が……
しかしそれ以上に成果もデカい、今まで何百年も謎だった生贄の祭壇の正体を掴み、行方不明になっていた調査隊の消息を掴んだ。
それどころか救出が可能なことまで分かった。更にデクス世界では遥か昔に滅んだ魔物の生きたサンプルが大量に手に入る、今回の探検はお釣りがくる程の大成功と言える。
近いうちに救出&調査隊が結成される。恐らくそれに俺達も付き合わされるハメになる。それが国際連合が封印していた立入禁止区域に入った代償になる。
仕方ない…… またあそこに行くのは限りなく面倒臭いが、前科者にされるより遥かにマシだ。
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そして今は12月某日…… 大事件が起こった!
1年間頑張ってきた僕にサンタさんがプレゼントをくれた!
少し早目のクリスマスプレゼントだ! ヒャッホゥ!!
「本日転校してきました…… 霧島……伊吹です…… よろしくお願いします」
山を飛び谷を越え ぼくらの町へやってきた! 不貞腐れ顔の妹がやってきた!
「家族が増えるよ!!」
『やったね神那ちゃん!』
しかし危なかった…… なかなか帰ってこないから心配してたんだ。もし年を越してればそのまま春まで会えなくなるところだった。
正直12月まで残ったのだから相当優秀だ、たぶんこのクラスでは俺と琉架の次くらいに優秀だ。しかも今年は合格者ゼロ、つまり最後まで残っていたのだ。
そう言って昨日、慰めまくったのだが未だに不機嫌みたいだ。誇っていい成績なんだがな……
しかしあんな不貞腐れ顔のままではクラスのみんなと仲良くできないぞ? ただでさえ俺という超天才美少年の妹ということで近寄りがたいだろう。
このままではきっと孤立する。筋金入りのボッチの俺が言うんだから間違いない。
ならばここはおにーちゃんが一肌脱ぐべきだ! 心のリミッターを外し俺の溢れる妹愛を爆発させろ!
「おぉ! 我が最愛の妹、伊吹よ! ついに我が手に戻って来てくれたのだね!
もう何も恐れるモノは無い! 共に往こう約束の地へ! あの遥か遠いアルカディアへ!!」
ガシッ!
やたら芝居がかったセリフと動きで、伊吹の肩を抱き明後日の方向を指差す。
約束の地ってナニ? アルカディアってドコ? 理想郷だっけ? 俺は妹をドコへ連れて行こうとしてるんだ?
「そ…それは昨日散々やったでしょ! 人前でやらないで! 恥ずかしいから!」
つまり人前でなければやっていいと…… よし、言質は取った。
しかし悩み所だ…… 白みたいに「おに~ちゃん大好き♪ 妹ブラコン化計画」にするか、偉大なる兄を尊敬する妹「さすがはお兄様です! 妹さすおに化計画」にするか…… 悩む……
ぶっちゃけどっちの計画も手遅れのような気がするが…… いや! 俺ならやれる!
伊吹が白と同じようになったら、白を思い出して泣いちゃいそうなのでさすがに無理だ、なので「妹さすおに化計画」で行こう!
俺は魔王殺しの英雄だ! 既に尊敬する為の下地は出来ている! 後は如何に兄が偉大か、そして妹を大切にしているかを分からせるだけで上手くいくはず! もっとも今更お兄様とは呼んでくれないだろうけど……
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その後、気付いた時には伊吹は琉架を「お姉様」と呼び懐いた…… いつの間にこうなった?
琉架の手腕に愕然とする、俺がどっちの計画を実行に移そうか悩んでいる隙に、琉架は「さすがはお姉様です! 妹さすおね化計画」を完了していたのだ!
コレはあれなのか? スールとかセールとか、聖母様がガン見するって噂の?
正直、美少女ユリップルとか見てみたかったけど…… これは喜べない…… 琉架と伊吹が二人だけの固有結界を作り上げてしまったら、俺はどうやって生きて行けばいいんだ?
もはやどうする事も出来ない、俺は俺で「僕はココに居ます!」ってアピールするくらいしか道は残されていない。
伊吹は俺の膝で授業を受けてはくれそうにない、残念。どうやら俺は選択肢を間違ったらしい……
これは後で知ったのだが、伊吹はオリジン機関で初めて琉架を見た時から目を付けていたらしい。
兄妹そろって女神の虜だ…… さすがは俺の妹だ。