第72話 楽園村
魔宮内に存在する村……
その名も「楽園村」
誰が付けたんだ? その名前、楽園感ゼロじゃないか。
そうツッコんだら丁寧に教えてくれた。
この村は1000年以上昔から存在しており、その当時、既に村は存在していたが名前は無かった。
今この村に住む住民は当時の宗教に生贄として捧げられた人達の子孫が大半だ。
かつて存在した宗教は今では名前も残っていないが、多くの生贄をささげた。生贄に選ばれた人たちもまた信者であり、神への供物に選ばれたことは誉れであった。
要するに、生贄に選ばれた者は楽園に旅立つと信じられていたのだ。故に楽園村……
実際には魔物が溢れる箱庭の世界、信じていたモノに裏切られたら信仰心など無くしても不思議じゃない。
神に見捨てられた人たちはこの危険な世界で生きてきたのだ。楽園村はそんな皮肉を込めた名前なのかもしれないな。
第二次魔導大戦終結後、ここへ送り込まれる人の数は減った。しかし数年おきに調査隊は現れ、そして誰ひとり戻る事は出来なかった。
最後に…… 俺達の前にココに人がやって来たのは10年前、当時最新鋭の魔科学装備でこの場所の秘密を探りに100人規模の大調査団が訪れた。
成果が上げられない場合、生贄の祭壇は封鎖される。これ以上の犠牲は出せない……と。
結局誰一人として情報を持ち帰る事は出来なかった。
そして厳重に封印された。先輩の言う通りココの調査は進捗度0%だ。
それでもきっと20~30年もしたら、また調査団が派遣されただろう。新たな技術が発明されれば今度こそ解明できると期待して……
そんな事を何百年も繰り返してきたんだ…… まったく人間とは愚かな生き物だ。
とにかく俺は夕飯までには帰りたい、あまり期待できないが帰還方法を訪ねてみると……
「村の言い伝えでは、塔山の頂上に現世へと戻る扉があると言われている」
村の長があっさりと教えてくれた。
え? この魔宮って1フロアだけなの? マジか? 夕飯に間に合う!
「しかし辿り着くのは不可能だ、塔山は1000メートル以上あり、羽クジラの巣でもある。
過去に挑んだ者は何百人もいたが誰一人として成功した者はいない」
まぁ、ロッククライミングで登ればそうなるだろう、ディープ・ブルードラゴンにしてみればエサが自分からやって来るようなものだ。クジラの口に飛び込むイワシだ。
「幾らお主たちでも岩山を登りながら数百匹の羽クジラと戦う事は出来まい。
諦めてここで暮らせ、つがいを見つけ子を育て生きて行くのだ。それも一つの幸せの形だと思うぞ?」
………… 一瞬それも悪くないと思ってしまった。
これは俺を惑わす悪魔の囁きだな。
こんな何もねぇ村で何千年も生きてくなんてオラまっぴらゴメンだ。
閉ざされた箱庭の世界…… 魔王たる我には狭すぎる!
一方、天瀬先輩と真夜は絶望の表情を浮かべている…… いや、真夜の表情は見えないんだけどね…… いつにも増して纏っているオーラがよどんでいる気がする。
歴代の調査団の人達もきっとこんな顔をしてたのだろう、覚悟はしてたけど本当に帰れないとは……ってね。
この村の住民に調査団の生き残りが少ない理由は、みんな無理を押して帰ろうとしたからだ。家族を残してきた…… 大事な人を残してきた…… そんな人も多かっただろう。
そして無謀なチャレンジの果てに命を落としていったんだ。
村への永住を進めるのも納得だ。ここの住民たちはとっくに諦めてる。
「お主たちなら防衛力としても申し分ない、どうだね? 無駄に命を捨てずこの村に住んでは?」
お断りだね、俺は夕飯までに帰りたいんだ。最低でも深夜アニメの時間までには帰りたい。
「な…なぁ、神那君、僕たちは帰れないのか? こんな魑魅魍魎が跋扈する世界で生きて行かなければならないのか?」
誰のせいでその魑魅魍魎が跋扈する世界に来たと思ってるんだ? この先輩ここに捨てていきたいな……
俺と琉架なら問題無く帰れるだろう、しかし先輩と真夜を置いて帰ったらちょっとした事件になってしまう。神隠しって事にすれば大丈夫だろうか? しかし最近よく一緒にいるところを目撃されてる、アリバイも用意してないし…… はぁ……
「きっと大丈夫です! 希望を持って生きて行きましょう!」
「そ……そんな……」
先輩が項垂れる…… 大丈夫って言ったのに…… 人の言葉を素直に信じられない人って生きて行くのに苦労しそうだな。
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正午
決勝トーナメントの第1~第4試合が終わった頃だろう。
その勝者が午後の準決勝・決勝に進む。仮想訓練装置なら例え首を落とされても次の試合で肉体的ハンデを負う事は無い。
ただし消費した魔力はすぐには回復しない、そこら辺の駆け引きが重要になってくる。
つまり次の試合を見据えて魔力を温存……ケチってたら負けてしまう事もあるし、逆に魔力を使い過ぎて次の試合で何も出来なかったり…… 相手の実力と自分の実力をしっかり見極められなければ優勝は難しい。
アレだ、魔王と戦う時の教訓と一緒だ。『彼を知り己を知れば百戦殆からず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し』だ。
昔、琉架に話した事があったが、今の俺達には関係のない話だ。
圧倒的な実力差があれば戦術は必要ない。まして仮想訓練装置では想定外が起こりにくいし。
そうこうしている内に昼食の時間だ。
村人たちが冷凍ドラゴンを解体して、村の広場で調理している。どうやら振る舞ってくれるらしいので、ご相伴にあずかる事にする。
昼食はディープ・ブルードラゴンのドラゴンステーキ。
かなりアブラギトギトでコレステロールの塊だ、胃がもたれる…… 網焼きで余分な脂を捨てる調理法が良さそうだ。あと肉に独特の臭みがある、スパイスや香草などを使った煮込み料理もアリだろう。
などとそれっぽい事を言ってみたが、料理したことが無いから適当だ。
料理を待ってる間、ココの事を色々とリサーチしてみた。
なにせ絶滅したはずのディープ・ブルードラゴンが生息している以上、何かしらシニス世界との繋がりがある筈だ。
しかし1000年の時の流れは厳しい、文献の類は何一つ残っていない。
ただ一つ口伝として伝えられていたことがある。
「ここはかつて、第12領域の浮き島だったという伝説がある」
トゥエルヴに浮遊島があった? いや、それよりも、もし口伝が事実なら島ごと神隠しに遭った? そんなことがあり得るのだろうか?
ディープ・ブルードラゴンが生息していることが、この話がただの妄想ではない事を証明している気がする。
仮に島ごと神隠しが実際に起こったとする、つまりココはデクス世界と言う事だ。
…… この島…… デクス世界のドコにあるんだ?
アルカーシャ王国の魔宮はどこかの地下空洞に繋がっているんだと思ってた、第5層・中央大神殿だっけ? 中央大陸の地下にたまたま繋がったんだと思ってた。
もしこの島がデクス世界の地下深くに出現したのだとしたら神隠しの原則に反する、転移先は地上に限られる。過去の事例から導き出された原則だ。
もしかしたら石の中に飛んでそのまま死んだ人も居たかも知れない。ただ発見されてないだけで。
ここで新たな仮説を立ててみる、この島が存在するのはシニス世界でもデクス世界でも無い、二つの世界の中間にある不思議空間に存在するとしたら…… 昔好きだったゲームに倣って「混沌の海」と名付ける。
シニス・デクス両世界とも、この混沌の海に浮かぶ大きな島のようなモノで、その周りに浮かぶ小さな島が魔宮なんじゃ無いだろうか?
…………
妄想、鍛えすぎか? 夜ベッドに入ってからの妄想トレーニングは控えめにするべきか?
でもコレをやらないと嫁達とのピンク色の妄想が始まって眠れなくなる。
思春期が憎い! DTがもっと憎い! 誰か早く貰って下さい! 右手以外の恋人募集中です!
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そんな訳で、新たな妄想の申し子が生まれただけだった。今のはあくまで仮説、それも可能性の極めて低い…… つまり何の成果も得られなかったという訳だ。
ちっ…… 何しにこんな所まで来たんだ俺達?
せめて何か無いのか? 喋る魔導書とか、刀の形をしたレーザー兵器とか?
「神那、これからどうする? 帰るなら少し休んでからにしたいんだけど…… ちょっとお昼ごはんボリュームがあり過ぎて……」
「そうだな…… あんなメタボの国からの使者みたいなの食ったら、食休みが必要だな」
「? メタボの国?」
「何でも無い、琉架は休んでてくれ。俺は村周辺の土や草のサンプルを取ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
そうだ、調査隊の生き残りにも話を聞いておくか、残してきた家族への伝言とか…… シニス世界のトラベラー達にはしてやれなかった事だからな。
ふと見ると、先輩が虚ろな目で体育座りをしている…… いや、厚底眼鏡で目は見えないんだけど。
そろそろ反省してくれただろうか? まぁいいか、出発直前まで黙っておこう。五月蠅そうだし……
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PM 3:00
そろそろ学内トーナメントの決勝戦が始まる頃だろうか?
決勝カードは運命 vs 伝説かな? どっちも頑張れ! どっちも負けろ!
正直チーム・デスティニーの方が有利だと思う、理由は簡単、女性メンバーが多いからだ。女性の方が基本的に能力値が高い、連戦では差が出ると思う。後はリーダーである伝説君の采配次第だな。
「さて、そろそろ帰りますか」
「うん、そうだね」
「先輩? 帰りますよ、いつまでオドロ線背負ってるんですか?」
「帰る? どうやって? 帰れるのか?」
「だからさっき「大丈夫です!」って言ったじゃないですか? なんで信じないかな?」
「………………」
「ワザとだな!? ワザとだろ!! 僕を落ち込ませて嘲笑ってたな!?」
「反省を促してたんです、ちゃんと反省してください。行きますよ?」
「くそぅ…… 本当に泣いちゃったんだぞ?」
「…………ほっ」
「お……お主等、本当に行くのか?」
「はい、見送りは結構です。塔山の周辺ではディープ・ブルードラゴンが降ってくると思うんで」
もちろん希少種であるディープ・ブルードラゴンを絶滅させるつもりは無い。せっかく見つけたネッシーを邪魔だからって殺す奴はいないだろ?
まぁ、大量に居て人間に危害を加えるというなら話は別だが。
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やってきました塔山の麓。
塔の様に天に向かってまっすぐ伸びる巨大な岩山、だから塔の山か…… まんまだ。この島に暮らす住民は実に素直な感性をお持ちだ。塔山に然り、羽クジラに然り。
車を見せたら鉄の怪物とか名付けるかもしれないな。
1000メートルはある岩山の頂上付近には大量のディープ・ブルードラゴンが飛び回っている。
ロッククライミングで登るのはほぼ不可能だ。
改めて見てみると、その不自然さが際立つ。島の中心部に塔の様に聳え立つ岩山…… とても自然の造形物とは思えない。
ここがかつて浮遊島だったのなら何者かが作り上げたと考えた方がしっくりくる。そんな事が出来るのは魔王くらいだろうか? 正直俺にはこんなモノ作れないぞ?
「神那君、一体どうやって上るつもりだ? あらかじめ言っておくが僕に運動神経と体力を期待するなよ?」
「………… 右に同じ」
大丈夫、最初から期待してないから。
先輩には今後、冷静な判断力を期待したい。真夜には美少女であることを期待している。
今回二人には俺たちの実験に付き合ってもらう事にする。たぶん大丈夫だ。
「じゃあ琉架、よろしく」
「ん、りょーかい」
(『星の御力』重力遮断)
琉架が星の御力を使用すると同時に、全員の身体から重力の負荷が消える。今地面を蹴れば一気に上空まで行けるだろう。
「うお? 何だ? 急に肩が軽くなった気が……」
肩だけじゃなく体全部ね、琉架の重力全カットはきちんと機能してるな。少し動くと慣性で身体が回り出す。
実験その2、俺の方は魔力微細制御棒を取り出す。
「第7階位級 風域魔術『空圧』コンプレス」
圧縮空気を利用して姿勢制御と推進力にする。全員の身体を風で押し上げる、ゆっくりと少しずつ…… 本来は出来ない四分割された圧縮空気操作、なかなか難しいが何とかなりそうだ。
「こ……これは飛翔魔術か? 確かに君なら使えても不思議はないな…… あれ? 飛翔魔術って他人にも掛けられるのか?」
飛翔魔術…… そう言えばそんなのも有ったな…… 忘れてた。確かに今の俺なら使えそうだ。
もっともすでに必要は無い、ウィンリーの羽根を使えば今の状況を一人でも再現できる。飛翔魔術は燃費が悪いって話だし。
とにかく慣らし運転でゆっくり上昇していく、徐々にスピードを上げて行こう。
取り敢えず隊列は先輩を先頭に……
「ぅおい!! 何で僕が先頭なんだ!?」
「俺と琉架が欠けたら移動できなくなるか墜落します、真夜は最年少で女の子だ、危険な位置には置けない、最年長で男の子の先輩が先頭に立って下さい」
「それはここが一番危険って事だろ!? つまり真っ先に食われろって事か!?」
「きっと大丈夫です! 希望を持って生きて行きましょう!」
「その言葉! やっぱり信じられん!!」
別に先輩を囮に使うつもりは無い、ディープ・ブルードラゴンが大口開けて突っ込んで来たら、たかだか2~3メートル先に囮が居ても意味は無い、まとめて丸のみだ。
10メートルくらい離れれば一人より三人の方を狙うに決まってる。
つまりこの隊列に意味は無い、それでも敢て意味を持たせるなら…… 俺が女の子に囲まれていたいからだ。
少しずつ上昇速度を上げる、今は時速30kmといったところか、圧縮空気の壁で風圧の影響も受けない極めて快適だ。
そしてディープ・ブルードラゴンの生息域に突入する。
さっそく見つかった、10匹ほどが勢いよく突っ込んでくる。本日のランチタイムはボスがご逝去され中断されてしまった為、腹ペコなのかもしれないな。
奴らの心の声が聞こえる「ヒャッハー!! 飯だ!! 飯だ!! おやつの時間だぜー!!」って、そのまま突っ込んで来たらお前ら空中衝突で全滅だぞ?
ボスが死んで統率を失った奴らは食欲に支配された野獣だな。俺の中の野獣もよく似たようなセリフを叫び俺を惑わす、俺は紳士だから目の前に無防備に転がるオカズには手を出さず、あくまでも空想と妄想のソロプレーに勤しむ。紳士だから。
周囲に被害が及ぶものは無い、俺たち自身も圧縮空気の壁で守られてる。
手っ取り早く広域破壊魔術で処理しよう。
とは言え無差別虐殺は趣味じゃない、ここは威力を落とした電撃かな? 運が良ければ墜落する前に体勢を立て直せる。もちろんそのまま落ちて死ぬ奴もいるだろうが、これも弱肉強食だ。
「第3階位級 雷撃魔術『建神御雷』タケミミカヅチ」
魔力微細制御棒で効果範囲を広げ、そのぶん威力を薄める。
バリバリバリバリ!!
俺達を中心に半径500メートルにも及ぶ球状の電撃が広がる。その効果範囲内に居たディープ・ブルードラゴンは動きを止め次々と落下していく。
まだこちらに気が付いていない個体も巻き込んでしまった。しかしこれで理解しただろう、俺たちはエサでは無く自らより上位の存在だと。野生動物ならそんな相手を襲うはずは無いからな。
考えが甘かった、所詮は畜生、腹が減れば目の前のエサに喰い付かずにはいられないのだ。
「第7階位級 雷撃魔術『雷撃』サンダーボルト チャージ5倍 拡散誘導」
「第5階位級 風域魔術『乱流』ダウンストーム」
「五感禁止印 視覚封印」
「うおおぉぉぉぉ!! うひぃぃぃぃぃ!!」
三人は一丸となり迫りくる捕食者を極力殺さないで退ける、一人だけ何もせず騒いでいるヤツがいるが、初めから期待して無いのでどうでもイイ。ただちょっとウルサイ。
ドラゴン達を退けながら上昇を続けると、次第に塔山は先細りになり、ついに頂上が見えてきた。
この辺りまで来るとディープ・ブルードラゴンの襲撃も収まる、どうやらこれ以上高く飛ばない様だ、天井の関係だろうか?
そして頂上へとたどり着く、広さは100メートル程の円形の台座、そこに崩れた神殿のようなモノがあった。と言っても柱と壁が僅かに残っている程度だ。
人の手が入っていたのは予想外だったが…… 何かどこかで見たような光景だ…… この意匠は……
「おぉーーー!! こんな所に神殿跡!! 古代のロマンを感じるぞ!!」
先輩は元気だな、数秒前までガクブルしてたのに……
「なにか…… 霧の迷宮に似てるね」
「!」
琉架に言われてようやく気付いた、確かに崩れた建物跡、柱や壁の造形…… よく似ている。
今になって思い返すと、シニス世界の歴史的建造物の意匠はどれも似ていた気がする。霧の迷宮、中央大神殿、魔王城内部……
他にも何かあった…… そうだ千年渓谷大橋だ、あれは建物とは違うが装飾などが似ていた気がする、だがあれは古代エルフ族が作ったと噂されてたっけ?
古代エルフ族と古代神族には何か繋がりがあるのだろうか? もしかして混同されてるのか?
俺の1/1スケール女神フィギュアの耳は長くなかったんだが……
分からん、新たな謎が浮かんでしまったが、その謎を解き明かすのはこの世界では不可能だ。今は目の前の問題解決に意識を集中するべきだな。
「おぉ~い! 見つけたぞ! 魔法陣だ!」
先輩が今日初めて仕事をした。
以前アルカーシャ王国の魔宮で見た帰還用魔法陣とは細部が異なるが、転移魔方陣であることは間違い無さそうだ。
問題はコレがどこへ通じているかだ……
本当にこれで帰れるのか? 所詮はこの箱庭に閉じ込められてる人たちの伝説だ、どこまでアテになるのやら……
「ん? 入らないのか?」
そう、結局それ以外に選択肢は無い。たとえこの先が魔宮の別フロアだったとしても行くしかないのだ。
それにもしこれが帰還用の魔法陣だったとしても、どこに転移するか分からない。恐らくは学院付近だろうが、入り口と同じ場所には出ないだろう。アルカーシャ王国はそうだった。
「考えても仕方ないか、入ってみれば分かる事だ。じゃあ先輩、どうぞ」
「な……なんで僕なんだ? もしかして毒見役か?」
「やだな~、恐らく歴史上初めて使用される魔法陣の栄えある被験者第一号ですよ? その栄誉を譲ろうっていうんじゃないですか」
仮に毒見役だとしても、転移した先を観測できないから何の意味も無い。
「被験者第一号……か、イイネ!」
この人の感性がよく分からん、普通はその言葉で喜ばないと思うんだが……
「それでは被験者第一号、天瀬大志、行ってまいります!」
先輩は元気よく魔法陣に飛び込んでいった。早く追いかけた方が良いかな? もし転移先が上空とかだったら数秒後には死んでるから……
転移魔方陣と神隠しの原則が同じことを祈ろう。
俺と琉架と真夜も先輩の後に続いた。