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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
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第68話 魔導史


 秋


 残暑厳しい今日此の頃ではあるが秋がやってきた。

 秋といえば読書の秋だ。食欲とスポーツはこの際放っておく。


 そんな訳で今日も研究室で読書三昧だ…… おかしい…… 俺はいつの間にこんな読書家になったんだ? 俺の部屋の本は漫画以外存在しないのに!


 思い起こせば去年の秋も読書漬だった……

 2ヶ月間も薄暗くカビ臭い地下書庫に不能筋肉と閉じ込められた悪夢の日々……


 だが! 今年は違う!!


「神那、え~と……ね? 今日ね、クッキー焼いてきたんだけど…… た…食べてくれる?」

「……ッ!」

「え? か…神那? な…泣いてるの!? 大丈夫!?」

「だ……大丈夫! あまりの嬉しさに涙がちょちょぎれただけだから」

「ちょちょ? も…もう! 神那は大袈裟なんだから! このくらいの事で……」


 どうやら本人は分かってないようだ、琉架の手作りクッキーの価値を。

 恐らく同等の大きさの純金に匹敵する価値がある。試しにゴリラあたりに売りつければ一財産築けるだろう。

 更に琉架の淹れてくれた紅茶を飲みながら二人でティータイム…… 一年前の地獄がウソのようだ! 俺は何故アレほどの苦行をしていたのだろう?


 ただしやっている事自体は去年と大して変わらない、調査対象が魔王から転移関連に移っただけだ。そしてほとんど成果が上がらない所も去年と一緒だ。

 だが決定的に違うのは癒しの存在だ。去年は週一で白を可愛がることを支えにしていたが、今年は琉架とお茶しながらだ、そもそも全く苦痛じゃない。


 そんな訳で俺達は優雅な午後のひと時を送っている。

 だが、得てして幸せな時間とは長く続かないもの……


 コンコン


 誰か来た…… いや、気のせいだろう。この部屋を訪ねてくる奴などいる筈もない。


 コンコン


「神那?」

「今日はダージリンか?」

「アッサム……だよ?」


「…………」

「…………」


「琉架のクッキー超ウマイ! 何かほのかに紅茶の香りがする」

「うん! チョットだけね! 紅茶かぶりするかなって思ったんだけど……」


 コンコン


「え~と…… 出ないの?」

「あぁ、この音空耳じゃなかったのか…… この部屋に客が来るとは驚きだ」

「そうだね、はじめてのお客様だよ!」


 俺の幸せな時間を奪う奴は全て敵なんだが……


「ウチ新聞取る気はないんで、宗教関係もいりません、N◯Kも見てませんから。お引き取り下さーい」


「宅配便で~す。ア◯ゾンから」


 巧い返しをしやがる、どうやら只者ではないようだ。仕方ない……出るか。


 扉を開くとソコにはドコかで見覚えのある白衣の男がいた。

 伸び放題のロン毛に牛乳瓶の底のようなメガネ、ドコから見ても不健康感が全身からにじみ出ている感じだ。実は非人道的な研究で世界征服と企んでると言われても驚かない。確か天瀬……なんとか先輩だ。


 更にそのマッドサイエンティストの左斜め後方、真っ黒なオーラの塊がたたずんでる。まるでホラー映画からそのまま飛び出してきたような風貌だ。あのテレビから出てくる奴。

 名前なんだっけ? 確か白川……真夜……だったか? クラスでも誰かと話している所を見た事が無いからたまに忘れる。


 …………


 想像以上に面倒なのが現れた。てっきり教師か隣の研究室から「学校でイチャイチャするな!」って怒られる程度かと思ってた。別にイチャついてないけど……


「その荷物、きっとお隣ですよ。じゃ」


 それだけ告げて扉を閉めようとしたら…… 素早く足を差し込んできた。


「そう言わずお話だけでも、せっかくネタに付き合ってあげたんだし」


 そんなこと誰も頼んでない、恩を売りたいなら俺のオアシスに顔を出すなよ。

 コレじゃまるで押し売りだ。


「はぁ…… 何か御用ですか? 先輩」

「ん~~~、中に入れてくれないのか?」


 押し売りセールスマンの癖に随分と厚かましいな。これは奴らの手だ! そうやって中に居座って何か買うまで帰らない気だ! きっと琉架は簡単に騙されて高額商品の契約をさせられてしまう。俺が守らなければ! 害虫に家の敷居を跨がせるものか!


「はい、入れません。ご用件はこの場でどうぞ」

「はははっ、ツレナイな。君たち神隠しについて調べてるんだろ?」


 ! 何故知ってる……はどうでもいいか、神隠しを調べていることは隠してなかったし…… あまり期待は出来ないが、見るからにマッドサイエンティスト、もしかしたら異世界転移のガジェットとか作ってるのかもしれない……

 まぁ、何かしらの情報だけでも持っているなら有り難い、邪険にも出来ないか…… ハァァァ~~~。


「わかった…… どうぞお入り下さい」

「おぉ! 悪いねぇ、お邪魔するよ!」

「…………」


 魔王城・第三魔導学院支部へ堂々と足を踏み入れる人族(ヒウマ)の図…… 我が領域に足を踏み入れた愚か者よ、生きては帰さんぞ!


「それで? お二人は一体どういったご用件で?」

「は? 二人?」


 そう言いつつ振り向くと……


「うおおおぉぉぉぉおお!!?? ビ…ビックリしたーーー!! 真夜ちゃん居たのか!?」


 アンタが連れて来たんじゃ無いのかよ? まさかストーカーか? この不健康そうな男の? 人の好みにケチ付ける気は無いが、あまりいい趣味とは思えない……

 いや、もしかしたら以前助けられたとかのエピソードがあるのかもしれない、あまり見た目で判断しないでおこう。


「僕は真夜ちゃんと話すのは初めてだったよね? 何か用事だったのかい?」


 こいつ…… ホントに何でここにいるんだ?



---



「どうぞ紅茶です、よかったらクッキーもどうぞ」

「おぉ! ありがとう! キミはいい子だね」


 神の手自ら創造された神聖なる菓子を遠慮無く食うなよ。まるでネズミに餌付けしてる気分だ。お前はオムライスの皿に乗ってるパセリでも恵んでもらえよ。もっとも俺はパセリも食うからお前に与えるモノは無いがな。


「これ旨いね! キミ女子力高いなー!」

「ど……どうも」

「…………」ポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリ


 先輩の隣りに座るバー◯モジャみたいな奴は、げっ歯類の食事音を立てながらクッキーを貪り食っている。

 マジでネズミだ、こいつら食料を食い荒らしに来たのか? 早いうちに駆除したほうがいいかな?


「それで? どういったご用ですか?」

「そうだった、キミたちは学内トーナメントには出ないんだったよね?」


「えぇ、そのつもりですが…… まさかとは思うけど……」

「違う違う、一緒に出場しようとかの誘いじゃない。たしかに君らと組めば優勝確実だろうけどね。

 僕らはこれでもチーム・レジェンドのサポーターの立場だからね」


「サポーター? 応援してるんですか? 伝説(レジェンド)君を?」

「クラス内派閥の問題でね、運命と伝説のどちらかを選ばなければならなくて、伝説を選んだ訳だ」


 なんだその目糞と耳糞のどちらかを食え、みたいな選択肢は。どっちも食いたくねーよ! 無所属でイイじゃねーか。

 まぁ、その二人なら…… 伝説かな?


「まぁ、それは置いておいて…… 実は依頼と情報提供に来たんだ」

「依頼と情報提供?」



「君たちは魔導の創世について知っているかい?」



 ― 魔導 ―


 今から1000年以上も前、一人の天才が現れた。「魔導の祖(オリジン・ルーン)」と呼ばれる人物だ。もちろん本名では無く後世の人が名付けたモノだ。本人に関する記録は一切残ってはおらず、どこからやって来たのか、男か女かすら分からない謎の人物。

 オリジン・ルーンは魔法全盛の時代に突如現れ、進化系魔法ともいえる魔導を起こした。その完成度は凄まじく、基本理論は現在に至るまで手直しすらされたことのないモノだった。

 しかし当時の魔法は宗教との結び付きが強く、魔導が圧倒的な性能を誇っていたにも関わらず邪法と呼び、それを使うものを異端扱いしていた。


 その魔導の立場が大きく変ったのが二度の大戦だ。


 僅か100年の間に起こった2度の世界大戦「第一次・第二次 魔導大戦」だ。

 およそ600年前から始まった第一次魔導大戦でこの世界から魔物の存在が消えることとなる。今でこそ戦った相手は魔物ということになっているが、当時は妖怪とか怪物とか呼ばれる存在だった。

 以前から人類と対立関係にあった魔物だが、住み分けもできていたのに何故に突然、世界規模の戦乱に発展したのか? 突如魔物が凶暴化したとか人類の生存圏拡大が原因だとか…… その理由は未だに分かっていない。個人的には人間側に問題があった気がする。


 この戦争により大きなダメージを受けたのは旧来の魔法使いだった。退治された魔物の中には土着神として祀られていたモノも多く、内部分裂を起こし一気に弱体化していった。

 その劣勢を覆そうと起こされた戦争が第二次魔導大戦。「魔道」と「魔導」の戦いだ。


 この戦争の中で第二の「魔導の祖(オリジン・ルーン)」が現れた。と、言われているがこの二代目は初代と同一人物だと言われている。

 もし同一人物なら年齢は500歳以上、流石に有り得ないが魔導の祖とまで呼ばれる人物…… 何でもアリな気もする。

 本当に同一人物で、さらに男だったら、間違いなく男性機能を失っていただろう。初代賢王だな。


 この第二の魔導の祖(オリジン・ルーン)…… 便宜上、二代目と呼ぶがこの人物こそが伝説の『魔術創造(スペルクリエイター)』、その力を持って十二属性魔術を完成させたという。コレにより威力・速度・燃費、あらゆる面で魔法を上回る魔導魔術は圧倒的な性能を見せ旧来の魔法使いを殲滅して見せた。


 ちなみにこの戦争で歴史的英雄と呼ばれる人物が何人も誕生した。二代目 魔導の祖(オリジン・ルーン)を筆頭に、創世十二魔導(ジェネシス・トゥエルヴ)とかいう暗黒の夏真っ盛りみたいな集団が活躍したらしい。そう、現在の創世十二使のモデルになった奴等だ。

 彼らの活躍により、魔導魔術は一気に世界に広まった。


 そしてこのデクス世界は魔導の世界になった。


 当時は他種族の存在など知られていなかったが、人型種族(オールセトラ)最弱の人族(ヒウマ)が他種族に対抗…… 圧倒できるほどの力を得たのだ。

 しかしその後のデクス世界は、戦争を抜きにしては語れぬほどの争いの歴史だった。


 一つの戦争が起こるたびに「魔法科学(ソーサリーテクノロジー)」は飛躍的に発展していき、今では魔科学万能の世界になった。

 そして500年前、より能力の高い魔導師育成を目的とした最初の「魔導学院」が誕生した。

 当時から世界最大の国力を誇っていた「アルスメリア」に第一・第二魔導学院が建設された。そのすぐあと、アルスメリアの同盟国であったココ大和に「第三魔導学院」が出来た訳だ。

 その後も国力が高く魔科学研究が盛んな国に魔導学院が建てられていった。一番新しいのが100年ほど前に「ランス」に建てられた「第七魔導学院」だ。


 今も世界中で優秀な魔導師が量産されている。その目的は自衛の為であり、有事の際の戦力であり、そして魔王をぶっ殺すコトだ……



 パチパチパチ


「素晴らしい、100点だよ」

「どーも」


 褒められた…… が、俺がこの魔導史を知ったのは最近の事だ…… だから真に褒めるべきはスパルタ教師の琉架なんだが…… まぁいい。


「それで? お話というのは?」

「君は魔導学院がどこに建てらているか知っているかい? 実は旧魔法宗教の聖地跡なんだ」


 ? そいつは初耳だ。


「旧魔法宗教の聖地跡ってのは所謂パワースポットでね、龍脈とか呼ばれることもあるか…… とにかく古代から特別なエネルギーが集まる場所なんだよ」

「ほぅ…… それで?」

「そういう場所には太古の昔から伝わる遺跡なんかが良く見つかるんだ。もちろんココ第三魔導学院の地下にもね」

「ふむ……」


「さて、ここからが本題だ。僕は2年に及ぶ地道な調査から学院の地下に未発見の遺跡が存在する事実を導き出した。年代は恐らく1200年ほど前の物、魔導の黎明期であり魔道と仲違いをする前の遺跡だと推測している」


 1200年…… また12の倍数か……


「単刀直入に言おう、その遺跡への侵入、及び調査の協力を依頼したい」

「ふむ…… 幾つか聞いてもイイですか?」

「もちろん」

「まず、何で俺達なんですか?」


「君たちは復学したてで学院内に交友関係が無い、情報拡散のリスクが少ない。さらにどんなトラブルも打ち破れる実力を兼ね備えている」


 要するに友達のいないコミュ障で用心棒も出来るからか……


「なぜ正規の手続きを踏まないんですか?」

「単純に真実の探求の為だ。魔導の発生には不自然な点が多い、魔導の祖(オリジン・ルーン)の生み出した魔導は余りにも完璧すぎる。魔導の祖(オリジン・ルーン)とはいったい何者なのか? どこから来たのか? 僕はそこに何か隠されていると思っている」


 それは俺も思った…… 突然現れた完璧な基礎理論、本来技術とは長い年月を掛けて洗練されて行くモノだ。魔導は確かに完璧すぎる、陰謀論とか考え出すとワクワクするよ。

 もっとも事実を隠す理由が見当もつかないが。


「学内トーナメントに出場しない事との関係性は?」

「僕の導き出した地下聖域への入り口が、生徒・教師を含む一般人立入禁止区画の更に奥、国際連合の封印区画にあるからさ。怪しいだろ?

 そこに入るためには学院中の注目が集まる学内トーナメント開催日が最適なのさ」


 う~~~ん…… 国際連合の封印区画って…… いくら創世十二使でも許可を取らなきゃ犯罪行為だ。

 俺はともかく琉架を前科者にする訳にはいかん。あぁ、だからこそのトーナメント開催日か……


「そこなら転移に関するモノが見つかるかも知れないよ?」

「…… その根拠はなんですか? 神隠しは1000年以上昔から起こってますが1200年前の遺跡にその記述があるとは思えませんが?」


「科学者の勘だ」


 一気に胡散臭くなった…… マッドサイエンティストの勘とか…… 科学者の端くれなら勘じゃ無く理論で証明してみろよ。


「報酬は?」

「僕への命令権でどうだ? 生死にかかわる事でも無い限り、どんな要求でも飲もう」


 こんな凶科学者への命令権にどんな使い道がある? せいぜいサボりの代返くらいにしか使えないだろ……

 とは言え興味はある。

 魔科学で何百年も調査しているにも拘らず原因すら掴めていない神隠しだ、魔科学で研究しても意味が無いのかも知れない……

 今現在も世界中で何千人という研究者が魔科学で神隠しを調べてる、そこに中途半端な知識しか持たない俺が参入したって新しい結果を導き出せるとは思えない。ならば別の切り口から迫るのもアリだ。


「分かりました、協力しましょう。それでその探検に向かうのは俺達3人…… 4人ですか?」


「…………」ポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリ


 さっきからずっと食ってるやつを見る、口が小さいのか? ポリポリポリポリうるせーよ!

 女神が俺の為に用意してくれた神聖なる食物がどんどん消えていく…… 皿ごと奪いたいがそれはあまりに大人げ無い……

 正直コイツを部屋の外へアスポートしたい……


「え~と真夜ちゃんも一緒に行くかい? 本来なら話を聞いた以上運命共同体なんだけど、キミがこの話を余所に漏らすとは思えないし、無理強いはしないけど?」


 友達がいないから機密漏洩の危険無しと判断したのか…… ボッチだってネットに書き込み出来るんだぞ? 危機意識が足りないな。


「………… 私も行く」ボソ


 小声だったが初めてこの子の声を聴いた…… 思った以上に可愛らしいアニメ声だった。これは顔の方も期待できるぞ!

 顔と言えばこのマッドサイエンティストも気になる…… 眼鏡を外したらイケメンって可能性もある。いい機会だから確認しておこう、もしイケメンなら何かトラブルがあった時、全ての責任を被せて葬ろう。


「先輩、ちょっと失礼します」

「え? わっ! な…なんだい!?」


 天瀬先輩の眼鏡を少し強引に外す…… 出てきたのは「3」だった。ギャグ漫画とかでたまに見かけるアレだ。一体どんな構造なのか調べてみたが謎だった…… 目の上下を蜂にでも刺されたのだろうか? これでは前が見えないと思うんだが……

 まぁいい。天瀬先輩はイケメンでは無い! 何かトラブルがあっても助けてやろう。


 そのまま勢いに乗って真夜の暖簾(のれん)の様な前髪を開けて、「おやじまだやってる?」とかやろうとしたら逃げられた。残念! どうやら今日は店じまいらしい。


 そんな訳で、特別生の溢れ者同志で学院地下探検ツアーが開催されることとなった。




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