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レヴオル・シオン  作者: 群青
第二部 「魔王の章」
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第67話 魔王のメカニズム


 デクス世界へ帰還してから半年が過ぎた。


 俺にとっては帰還は一大ニュースだが世界にとってはテリブル事件の方が重要視される。

 アノ意味不明な生き物が突如湧き出してから半年だ…… この半年でテリブル対策はある程度形になり運用されるようになった。


 小型種、通称「βテリブル」はいつどこに現れるのか分からない。人口密度の高い街中に突然大量に現れる事もある、その場合いくら対策が取られていても犠牲者が出る事はある。

 また「はぐれテリブル」と呼ばれる奴らは田舎や人が寄り付かないような場所でもお構いなしに出現する。俺たちが帰還後初めて出くわしたのもこの「はぐれテリブル」だ。こいつらの被害もバカにならない。


 さらにこの半年で「装甲種」「突撃種」「砲撃種」の3種に加え、新たに「飛行種」の存在が確認された。この飛行種は突撃種に羽が生えただけなのだがキャリーの役目を果たす。要するに他の種類を掴んで空から襲ってくるのだ…… 聞けば聞くほどコイツ等が自然発生した生き物に思えない。


 大型種、通称「αテリブル」は今も現れていない。あの日現れた5匹だけだ。

 この半年間で防衛出動の要請が掛かったのは学院周辺に現れた小型種討伐の時だけ、それも本来は俺たちが出る必要のないモノなのだが、給料貰ってるし一応ね?




 夏休みが明けた……


 特別才能クラスに転校生が二人やって来た。

 中等部1年生、オリジン機関から帰されたのだ。


 中等部1年 男子 朱雀院(スザクイン)武尊(タケル)、すごい本名を持つ少年だ。

 中等部1年 女子 春日(カスガ)つぐみ、見た目が女の子じゃない、完全に女だ、体の一部が物凄く発育している。


 伊吹がいない…… アイツまだ頑張ってるのか? 早く帰って来ておくれ、おにーちゃんの中のシスコンの鬼は妹成分を欲している! 鎮まれ~! 我の中に巣くう鬼よ!


 ちなみに気付いた時には見た目が可愛い春日つぐみちゃんは、運命(デスティニー)兄さんに捕まっていた。チーム・デスティニー入りだ。まったく手の早いコトで……

 取り敢えずあだ名はLで決まりだな。


 そしてもう一人…… 夏なのに黒のロングコートに身を包み汗だくになっている少年…… 間違いない、あの病の感染者だ! 彼は伝説(レジェンド)君に捕まりチーム・レジェンドに入っていた。兄弟そろって手が早い。



 もうじき学内トーナメントだが、出場しない俺と琉架には関係ない。

 ……筈なのに、最近何故かチーム・レジェンドの訓練に付き合わされる。

 どうやら俺たちが運命(デスティニー)兄さんと敵対したことで、伝説(レジェンド)君の警戒感が薄れたようだ。決して仲良くなった訳では無いが、敵の敵は味方、って感じだ。


 ちなみに中等部1年の朱雀院武尊(スザクイン タケル)君は今でこそチーム・レジェンドの下っ端の位置にいるが、その登場は期待を裏切らないモノだった。

 教室に入って来るなり全員を一瞥し「ちっ」と舌打ち、「どうやらハズレのようだ……」と小声でつぶやくと盛大にため息をつき、挨拶も程ほどに一番後ろの窓際の席に座った。

 当然すぐに黒大根にどこかに連れて行かれ、戻ってきた時には素直な少年に生まれ変わっていた。

 あの僅かな時間に彼の身に何が起こったのか…… 当人たちの他に知る者はいない。黒大根はオラついてる少年更生のエキスパートらしい。まずは自分の世紀末風味のファッションを更生してください。


 それからこの武尊君には別の理由で懐かれることになってしまった。俺と琉架がシルヴィア・グランデの弟子だと知ったからだ。

 さすが師匠…… 中学生に大人気だ……



---



 仮想空間・ステージ「荒野」



 チャララ~~~ン♪


『YOU WIN!』


『PERFECT!』



「くそ! たった二人相手に何で勝てないんだ!」


 伝説(レジェンド)君が悔しがるのも無理はない、2対4で更に俺と琉架は魔術使用禁止のハンデキャップマッチだ。それでも勝てないんだからな。


「スッゲーぜ!先輩! さすがシルヴィア師匠の愛弟子!」


 俺は師匠の愛弟子になったつもりは無い……

 あの痛い師匠の暗黒の魂を受け継ぐのは君にこそ相応しい。頑張って師匠の後継者になってくれ。俺は辞退するから。


「どうすれば先輩たちみたいに強くなれるんだ?」

「強く? そうだな…… 仮想訓練装置(デイトリッパー)での訓練に限って言えば、俺達に勝つことは不可能だ」

「ガーン そ……そんなハッキリ……」


 口でガーンとか言ってる…… コレが女の子なら可愛かったのに、可愛い子はみんな運命(デスティニー)兄さんに取られてる。やはりアイツは要注意だ。


「俺には高度な魔力コントロールスキル、琉架には絶対的な能力値がある。

 ギフトの使えない仮想空間ではどんなに頑張っても無理だろ?」


「いや、でも…… 魔術禁止の先輩たちに勝てないのは……」

「………… それは経験の差だ、お前たちは実戦経験が一切無い。

 所詮 仮想訓練装置(デイトリッパー)は遊びの延長、本当の戦いを知らないからだ」


 実際オリジン機関でも、年明けには生身で戦う訓練が主流になる。俺達の代でそこまで残れたのは俺と琉架だけだから、知らないのも無理はないが……

 師匠から仮想訓練装置(デイトリッパー)に慣れ過ぎるなって警告受けなかったのだろうか?


「そもそもお前たちは覚悟が足りない、仮想訓練装置(デイトリッパー)は痛みは再現されないが、欠損は再現される。何故 腕や足を切り落とそうとしない? 何故 首を狙わない? 目潰ししない? 相手を傷つける覚悟が無いから、より効果的な動きが出来ないんだ」

「そ……それは……」


 学内トーナメントは仮想訓練装置(デイトリッパー)で行われる。

 つまりギフトによる優位性は一切ない訳だ、つまりどのチームが優勝してもおかしくない。それでも「特別才能クラス」なんて名前が付けられてる以上、優勝しなければいけないと思ってるのかも知れない。

 もちろん俺と琉架が出場すれば簡単に優勝できるだろう。しかしそれはただの弱い者いじめだ。生憎と興味も無いし……


「だから訓練に使う時間の半分を実際の身体を使う模擬戦にしてみろ、その方が得るモノが多いと思うぞ?」

「おお! さすが先輩! 隊長!!」


「…… くっ! 悔しいが確かに霧島の言う通りかも知れない…… 明日からメニューを変える」


 まぁ、模擬戦と実戦じゃ全然違うんだが、それでも経験値にはなるだろう。

 これで明日からはこの訓練に付き合わされずに済みそうだ。生身の訓練では一方的に怪我をさせるだけだからな、一応こっちは魔王なもので。


「おい、糞餓鬼」

「何ですか? 黒大根先輩?」

「だから何だそのイコンって? いや…… お前、覚悟がどうとか言ってたな?

 帰還者であるお前は…… ヒトと命の取り合いをしたことがあるのか?」


 随分とストレートな聞き方をするな……


「そうですね…… 魔物、魔族、使途…… それに魔王ですか…… そこら辺とは戦ってきたし殺してもきました。さすがに人族(ヒウマ)を殺した事は無かったけど……」

「そ……そうなのか……」


 あ…… 勇者とは戦ったな、戦いと言うほどのモノでも無いか……



---



 ― 専用研究室 ―


 なぜかチーム・レジェンドを応援する立場になってしまったが、運命(デスティニー)兄さんよりは伝説(レジェンド)君の方が幾分マシなので、取りあえず生暖かい目で見守る事にしよう。


 彼らが修行を続ける間、こちらはこちらで研究を進める。


 夏休み中に俺と琉架の夢の城…… もと言い研究室を完成させた。

 もっとも研究室とは名ばかりで、その実態はただの休憩所だ。


「神那ぁ、コーヒーと紅茶、どっちがイイ?」

「琉架が淹れてくれるならどっちでもイイよ」

「もう! 神那はそればっかなんだから! じゃあ今日は紅茶ね♪」


 甘い!! まるで新婚夫婦の様な甘ったるい空気! 正直琉架が淹れてくれるならドブ水だって喜んで飲める!

 この部屋はまるでこの殺伐とした学院砂漠に突如現れた俺の心のオアシスだ。


 もちろんいつもこんなイチャコラごっこをしてる訳では無い。

 二つの研究課題、まずは魔王の力についてだ。


 立証は難しいが、緋色眼(ヴァーミリオン)のおかげでかなり確証に近い説が建てられるようになった。


 魔王の力の本質は心臓に宿る…… コレはほぼ間違いない。

 琉架が魔王ウォーリアスを倒した時に見えた赤いモヤの様なモノ…… あれが魔王の力だったのだろう。その見た目から魔王の力の事を『ミスト』と仮称する。

 これが今俺たちの心臓に宿っているモノだ。

 この『ミスト』に生物を魔王足らしめるあらゆる要素が込められている。魔力、ギフト、そして緋色眼(ヴァーミリオン)

 更に言えば、限界突破(オーバードライブ)、使途を作るのもこの『ミスト』だろう。


 ここで重要になって来るのが使途作成方法だ。

 使途はただ魔王の血を分け与えるだけでは出来ない、オリジン機関での血液検査でも俺たちの血に特別な変化は見られなかった。使途作成方法は今のトコロ不明だが、この『ミスト』を分け与えるのではないかと思われる。

 『ミスト』つまり魔王の力を分け与える事により、他生物を劣化魔王に変える事が使途を作ると言う事……

 つまり、使途を作れば作るほど魔王は弱体化すると思われる。

 使途一人に対してどれ程の『ミスト』が使われるのかは不明だが、使途にも序列がある以上、全てに同じ量の『ミスト』が使われているとは思えない。

 しかし、使途と魔王の強さの違いは圧倒的だ。それこそ天と地ほどの差がある。

 推測だが、第一位使途でも魔王の『ミスト』の0.01%程度しか受けていないと思う。しかし授ける量のコントロールが出来るのであれば、大量の『ミスト』を込めた使途を何人も作ればいずれ魔王の力は失われるかも知れない。

 魔王の力を失った魔王は…… 元の生物に戻る……


 あくまでも仮説だが、もし正しければ人間に戻る事も可能だろう。

 ただしそれは大量の使途を生み出す…… あるいは一番多くの『ミスト』を受けた生物が新たな魔王になる事を意味する。


 しかし問題になって来るのが、魔王が死んだとき、その魔王の使途がどうなるのかだ。

 転移事故に遭わず、シニス世界に留まっていたら検証も出来たが、今となっては分からない。

 もしかしたら魔王レイドや魔王ウォーリアスの『ミスト』は回収されたのかもしれないし、今も向こうの世界で新魔王の俺の命令を待ってるのかも知れない。

 魔王が倒されたのは歴史上初だから確認のしようも無い。


 人間に戻る方法として大量のモルモットを用意し『ミスト』を全て移し替えて勇者に殺させる…… という手段もあるが、命の犠牲が多すぎる…… 俺は科学者じゃないのでモルモットを俺の都合で虐殺するのも少々気が咎める。


 あくまでも仮説だ。更に言えばこの世界にはバカ勇者はいない。もうひとつつくけ加えればあのバカ勇者が俺の頼みを素直に聞くとは思えない。おまけに俺は魔王だ、魔王の頼みを聞く勇者がどこの世界に存在する?


 俺が魔王になったと知れば、アイツは喜んで俺を殺しに来るだろう。今度こそ大義名分が立つからな。


 その時は返り討ちにするだけだな。

 二度と甦らぬようハラワタを食らいつくしてやる!


 …………


 まぁ、カニバル趣味など無いからコケにして遊ぶ程度にしておいてやろう。よかったな勇者、俺が優しい魔王様で……


 と、いう訳で、魔王の研究はココで行き詰まる事になる。


 使途の作成方法が分からなければ検証のしようが無いのだ。仮に方法が分かったとして、安易に使途を作ってもいいモノか…… 仮に誰かを使途にする場合、そいつはどうなるのだろう? 俺に絶対服従の忠実なしもべになるのだろうか? どこぞの美少女を使途にした場合、俺の望みはオールOK!で無制限に叶えてくれる奴隷の様な女の子が出来るのだろうか? だとしたら魔王もそんなに悪くない。いや、奴隷はイメージが悪いな。


 ミラを殺そうとしていた魚介系使途には自由意思があったように見えた。しかし魔王城クレムリンにいた大量の使途たちの中には自らの意思を感じなかったものも多い。


 魔王が人権とか考えること自体おかしいのかもしれないが、一応、人として生きてるので、人間のルールは守るつもりだ。


 まぁ「他人を勝手に使途にしてはいけません」なんて法律は無いが……



「はい神那、お茶」

「あぁ、ありがとう」


 琉架が紅茶をそっと差し出してくれた。まるで妻だ。ちょっと2人で新しい魔王の使途でも作ってみない? と誘いたくなるが、DTにそんな勇気は無い。お姉さま達に殺されかねないしな。

 取り敢えず、人間に戻れる可能性と方法だけは伝えておく。現状試すことも出来ない方法だが、そういった希望がある事は知っておいた方がいい。


「そっか…… でもこの方法は他人に押し付けるって事だよね?」

「そうだな…… 下手に悪人の手に渡したら大変な事になる、もしこの仮説が正しく、自由に魔王の力が受け渡しできるのなら、ウィンリーに貰ってもらうのが一番かも知れないな」

「ウィンリーちゃんか…… うん、そうだね。ウィンリーちゃんなら信頼して託せる気がする」


 あの幼女魔王に信頼という言葉はなかなか当てはまらないが、他の魔王に渡すぐらいならウィンリーにするべきだ。あの子なら力を手に入れたからって世界征服とかしないだろうからな。

 そもそも世界征服ってキャラじゃない。


 ただ一つ問題があるとすれば……


 ウィンリーは俺と琉架が魔王になったと知れば、飛び回って喜びそうな気がする……

 今までは魔王と人族(ヒウマ)、言い換えれば王様と平民の友情関係だった。物語では割と有り触れた関係だが、今は魔王と魔王、対等な関係だ。

 先輩後輩の違いはあるかも知れないが、そんな事を気にするタイプじゃないし、ウィンリーが先輩風を吹かせるとは思えない。


 そんな対等な友達を得て嬉しそうなウィンリーに「魔王の力、要らないから貰ってくれ」なんて言えるだろうか? ガッカリするんじゃないか?


 それに魔王の力を失えば、同時に俺たちの生まれ持った才能(ギフト)も失われる可能性がある。正直それはちょっとヤダ。


 コレはあくまでも可能性の話、別の可能性もあるかも知れないし、そもそもウィンリーに会うにはもう一度シニス世界に行く必要がある。

 デクス世界ではこれ以上の成果は得られないだろう。


 後は魔王研究で出来る事と言えば『跳躍衣装(ジャンパー)』と『星の御力(アステル)』を完全に使いこなせるようになる事か。

 俺はいいが琉架はまだ少しかかりそうだ、引力・斥力制御は規模を絞らないと周囲にバレるから注意が必要なのだ。能力値200000越えの琉架が完全に制御できるのはまだ少し先の話になりそうだ。


「う~ん、何をするにしてもシニス世界にわたる必要があるんだね?」

「夏休みの暇な時間を使って、神隠し研究の資料を調べてみたが何の役にも立たなかったな」


「こっちにもどこかにゲートって存在しないのかな?」

「へ?」


「シニス世界には、第11魔王の居城の地下に常時開放のゲートがあったでしょ? 同じ様なモノがこっちにも無いのかな?」


 デクス世界は魔物もいないから世界中探しつくされてる、もはやフロンティアなど何処にも無い…… いや…… まてよ?

 オカルトやオーパーツには、ゲートにまつわる伝説なんかも存在する。

 俺の大好物なジャンルだ。昔はそんな話をよく調べてたりもした。そっち方面からのアプローチは考えてなかった……


 期待は薄いがやってみる価値はある。この世界にも神器みたいな、到底人の手では生み出せないアーティファクトは存在してる…… その中にゲート発生装置的な神器があっても不思議じゃない。


 調べてみるか…… いや、調べるよりも師匠や武尊に聞く方が早いか?


 それだと妄想全開の空想話に付き合わされる可能性が高いか……

 深夜12時に学校の姿見で合わせ鏡をすると異次元への扉が開くとか…… それでなくてもこんな尋ねれば付きまとわられるかも。

 正直あのレベルまで突き抜けてる重症患者とは長時間一緒に居たくない。

 病が再発したらどうするんだ?


 超古代文明はあくまでも創作の話、しかし類似するモノはこちらの世界にも確かにある。

 当てが無い以上そちらに賭けてみるのも良いかも知れないな。




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