第66話 有栖川家の姉妹2 ~面談編~
夏……
子供が狂喜乱舞する季節…… 若者の性がユルくなる季節…… 大人がウンザリする季節……
夏が…… 夏休みがやってきた。
ちなみに俺は夏休みが好きじゃない、いや……語弊があるな、夏休みは好きだが夏は好きじゃない。
友達のいない俺は夏休みをエンジョイすることはない、家でダラダラ過ごすだけなら夏じゃなくてもイイ、むしろ夏は暑すぎてイライラする。
要するに俺が好きなのは休みであって、夏は要らない。
大和の夏は湿度が高くて蒸し暑い、赤道直下の国に住む少数民族が「この国はワタシの地元より暑っちーネ」って言うくらい暑すぎる。
ふと一年前を思い出す……
第12領域・トゥエルヴは湿度が低く過ごしやすかった。あの頃は休みなんて無かったけど楽しかったなぁ……
俺と琉架と白……と先輩で夏の海でリア充ゴッコしたっけ?
本来ならこのメンバーに今年はミカヅキとミラが加わるはずだった! 特にミラだ! リアル人魚姫のミラとプライベートビーチでリア充ゴッコする予定だったのに!
それがどうだ!
夏休みになってから学院とコンビニくらいしか出かけてない! 今年の夏は俺の暇つぶしに付き合ってくれる妹様もいない! 定期的に琉架に会えるのだけが心の支えだ!
そんな訳で今年の夏はリフォームをしている。
夏休み前に俺達は専用の研究室を一つ用意してもらった。
学院の中に関係者以外立入禁止のプライベート空間ができた、自由にしていい部屋だ。夏休み中にこの部屋を完成させよう、取り敢えずテレビとゲームとソファーと冷蔵庫と電子レンジが欲しいな…… あと仮眠用のベッドを用意してみよう。イザという時のために! 決して別の目的の為ではない!
急に虚しくなった…… 去年の夏は充実してたんだがなぁ……
そんな生きているのか死んでいるのか分からない夏休みを過ごす俺に、史上最大のミッションが舞い降りた……
琉架の家にお呼ばれしたのだ!
ゴミにも等しい矮小な人の身で女神の住まう神の国へ赴く許可がいただけるとは……
俺の女神はなんて慈悲深いんだ! オー マイ ゴッデス!
しかしこのミッションはとても難しい……難易度はSランクは下らないだろう!
何度も言うが琉架は大財閥のご令嬢、超お嬢様だ。俺のような中流階級の一般ピーポーとは住む世界が違う。俺達が暮らすのが地を這う人間界なら、琉架が暮らすのは神々が住まう天上界。
果たして俺みたいなのが行っていいのか?
手土産はどうしよう? 上流階級のイメージではヴィンテージワインとかか? 未成年者が持っていく土産じゃない。
琉架には「そんなの必要ないよ~、神那は宿題だけ持参して♪」と言われた。手伝ってくれるのは有り難いが、またスパルタモードになるのか?
しかし、琉架のご家族に会うのに手ぶらというのは如何なものか…… しかし俺には上流階級の常識など分からん、ググってみたがあまり参考にはならなかった。
自分たちで食べるおやつって体裁でシュークリームでも買っていこう。なるべく高いヤツを……
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有栖川邸突入作戦 決行日 ―――
朝早くに起きて風呂に入ってバシッと決める!
と言っても学院の制服だ。礼服など持っていない。普段は首にだらしなくぶら下っているだけのネクタイをキチンと絞め、シャツもINする。制服をちゃんと着たのは初めてかも知れない。
彼女の両親に結婚の挨拶をしに行く男の気分だ。
玄関のドアを開けると…… 家の前にやたら車体の長い黒塗りのリムジンが止まっていた。
琉架が迎えを出すと言っていたが、想像通りだった。リムジンの脇にはナイスミドルな運転手が立っている。
よくもこんなドデカい車で住宅地に入って来れたな、もしかしてどっか擦ってないだろうか?
ウチの親が運転手にペコペコ頭を下げている、その人はただの運転手さんですよ? 全く持って根っからの庶民だ。もっとも親が頭を下げてなかったら俺もあんな感じでペコペコしてただろうが…… これも一種の反面教師か……
何故か親に見送られつつ車に乗り込む、いや…… なんでお見送りしてるの? 泣きながらハンカチでも振りそうな雰囲気だ。俺……別に嫁に行く訳じゃ無いんだけど……
その後、車を走らせること30分、有栖川邸の敷地が見えてくる。ちなみに住宅街を抜けるのに15分程費やした。やっぱりこの車デカすぎるよ…… ぶっちゃけ琉架の家まで自転車でも行ける距離なんだが……
巨大な鉄製の門をくぐりしばらく走ると見てて来たのは白亜の豪邸。近所ではホワイトパレスとか呼ばれてる。庭には当たり前の様に噴水やどっかで見たような彫像が置かれている。
ホワイトパレスは高さはそれ程でもないが広さは魔王城・クレムリンに匹敵するほどだ。
そういえば、今はココも魔王様が居住なされているから、魔王城と言って差し支えないのか……
同じ魔王城でもウチとは雲泥の差だ……
片や魔王城・ホワイトパレス。
片や魔王城・ローン25年残し。
魔王界の貧富の差も悲喜こもごもだな……
玄関前に車を止めると外からドアが開かれる。さすがに何十人も使用人がズラッと並んではいないが、セバスチャンっぽい人と、メイドさんが三名お出迎えしてくれた。
彼女たちも特殊な技能を習得した戦闘メイドなのだろうか?
「神那ー! え~と、いらっしゃい!」
扉が開くと琉架が出迎えてくれた。メイド三名の出迎えより琉架一人の出迎えの方が価値が上だな。白いワンピースがまぶしいぜ!
「本日はお招きに預かり恐悦至極に…うんたらかんたら……」
「うんたらかんたら? いつも通りでいいよ」
「ふぅ…そう言ってくれて助かるよ……」
「あはは♪ ヘンな神那」
魔王城へ侵入成功! しかし戦いはこれからだ!
俺の知る琉架の肉親のイメージはある一点に収束される、そう、あのゴリラだ!
琉架は恐らく有栖川家のアイドル的存在だったのだろう、相当可愛がられていたハズだ。もしかしたらこの魔王城には琉架の匂いで興奮する凶暴なゴリラの亜種が生息している可能性もある!
俺と奴は同じ神を信仰しているが、その教義は異なり対立関係にある。神のお言葉により血で血を洗う抗争には発展しないが、その関係はやはり一発触発だ。
アレは特殊なケースだと思いたい…… が、やはり油断はできない。
琉架のお義父様は猟銃を手入れしながら俺を待っている気がする……
琉架のお義母様はプロレスラーみたいな執事を戦闘待機させて俺を待ち構えている気がする……
琉架の両親がそんな危険人物であるはずが無いのだが…… 如何せんゴリラの印象が強すぎる!
「時に琉架さん」
「うん? なぁに? 神那さん」
「お義父様とお義母様は今どちらに? 先制攻げ…じゃ無くて、ご挨拶をしておいた方が宜しいかと」
「えっと…… お父様もお母様も今は居ないの……」
え?マジ? それってつまり、俺たちが今から激しいプロレスごっこしても親は乱入してこないってこと? 夏休みの自由研究で俺の朝顔が花開くところをテーマにしてもいいの?
…………
いい訳ねーよな、この家、親がいなくても使用人が沢山いるんだ。スリーカウントを取る暇も無く乱入されるに決まってる。
それはフォールの邪魔をするなんて生易しいモノじゃない、確実に俺の命を取りに来るだろう! パイプ椅子程度の凶器攻撃で済めばいいが、下手をすれば銃器やナイフ等の殺傷性の高い攻撃が予想される。いくら魔王でも心臓を一突きにされたらヤバい気がする。
俺達は未だに『限界突破』の発動方法をを知らないからな。
「神那、こっちこっち♪ 私の部屋行こ」
神の思し召しだ。取りあえず懸念は全てほっぽり出して、女神が日々過ごす聖域へと足を向ける。
それにしても廊下が広くて長いな…… 天井も高い……
「ここが私の部屋、入って」
琉架があっさりと聖域に繋がる神聖な天岩戸を開け放つ。
ここが女神様の御社か、手を合わせ一礼してから入室する。
「失礼致します」
広い部屋だ、日当たりのいい南向きの大きな窓、高級そうなソファーとテーブル、本棚には分厚い本が並んでいる。
さすがに薄い本は無さそうだ、そして! お嬢様御用達の天蓋付きのベッド。
今すぐダイブして琉架の匂いを思う存分クンカしたい! そんな事をしたらドン引きされるだろうから自重するが……
やっぱり俺とゴリラって似てるのかな? 実行に移さないだけ俺の方が進化の道の先に居るはずだが。
しかし映画やドラマのセットみたいな部屋だ、俺のイメージしてた女子中学生の部屋とはかけ離れている。サクラ先輩の部屋はいかにもって感じだったが、やはりセレブは違うな。
「琉架、お土産にシュークリーム買ってきたんだが」
「シュークリーム! ありがと~後で休憩の時に食べよ? 私 紅茶入れるから!」
う~ん、まるで付き合いたてのカップルの様な甘ったるい空気…… 悪くない……
「それじゃぁ……」
ピシッ!
琉架が眼鏡を掛け差し棒を取り出す。
「宿題…… はじめよっか♪」
oh…… 早くもスパルタ教師の登場だ。もう少し甘ったるい空気に浸っていたかったのに……
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AM10:00
1時間半ほど勉強しておやつの時間だ、琉架は教師の才能が有るのかもしれない。
俺としては宿題丸写しさせてくれれば有難いのだが、そこら辺は厳しい。しかし分からない所があれば優しく丁寧に教えてくれる。
思わず「この問題が解けたらご褒美を下さい」とお願いしたくなる。
な~に、軽くひと揉みするだけで、俺のテンションは一気に100まで上がる!
もっともその代償は高く付きそうだが……
「そろそろ休憩にしよっか?」
琉架がそう宣言した途端……
コンコン
何者かが聖域のドアを叩く音がする。
きっと外ではメイドさんが舞い踊り、力持ちの執事が扉を投げ飛ばそうとしているのだろう。
「は~~~い」
女神はあっさりと天岩戸を開けた。やはり神話とは違うな……
「あれ? お姉様? 小姉様?」
「?」
琉架の二人いるという姉か? まさか俺を殺しに来たわけでもあるまい…… てか、えらい美人さんが入ってきた! さすが俺の女神の姉! 三女神が集結なされた!! 一体何が起こるんだ! 神々の黄昏か!?
「え~と、神那、紹介するね。こちらが……」
「琉架の姉、有栖川美影と申します。以後お見知りおきを」
名前は聞いたことがある、確か上のお姉さんだ。
琉架によく似ている…… 長い黒髪、優しげな眼差し、肌は透けるように白く…… そして琉架とは明らかに違うのがたわわに実ったメロンクラスのダイナマイツ!だ。
琉架も近い将来こうなるのだろうか…… 実りの季節が楽しみだ!
「それでこちらが小姉様の……」
「チーネーサマの有栖川静香です。ヨロシク!」
こちらは2人とはずいぶん印象が違う。
髪はセミロングで少し茶色、僅かに日焼けもしていて、琉架よりも明らかに貧にゅ……スレンダーボディだ。スポーツマンっぽい印象を受ける。
「霧島神那です。どうぞ宜しく」
あくまで一般的な挨拶で返す、下手にセレブ風の挨拶をしても本物には見透かされるだろうからな。
「あら? ちょうどお茶の時間だったかしら? そうだ琉架、私の部屋に紅茶のセットがあるから持ってきてくれないかしら?」
「? 私がですか? お姉様のお部屋に入っても宜しいんですか?」
「えぇ、絶対に他の人を私の部屋へ入れてはなりませんよ?」
「………… はい、わかりました。じゃあ神那、ちょっと行ってくるね?」
琉架はいつもの可愛らしい敬礼ポーズを取ると部屋から出ていった。あのポーズ、家でもやってるのか。
それより今、お姉様はワザと琉架を遠ざけた様に感じたんだが…… 一体どういうつもりだ?
もしかして俺は琉架が戻るまでサンドバックにされるのか? 「ウチの可愛い妹に何近づいてんの?アンタ?」とか言って、服で見えない腹のあたりを膝蹴りされるのだろうか?
しまった! こんな事なら腹を鍛えてムキムキのカニ腹にしておくんだった!
「さて…… あなたが霧島神那君ね。琉架から色々と話は聞いているわ」
(顔は……まず合格点ね、眠そうなジト目はマイナスだけれど)
何か…… 見られてる…… まるで値踏みでもするかの如く見られてる。
「じゃあ、まずは口大きく開けて?」
「はい?」
「大きくよ、はい、あ~~~ん」
「あ…あ~~~ん?」
「ちょっと体触らせてね? あら? 思ったより全然筋肉ついて無いわね?」
「!?」
「あなたスポーツとかあまりやらないでしょ? 文科系にも見えないけど……」
一体何が起こっている? 美人のおねーさん達に体をまさぐられている!? い…いかん!! 自由研究の朝顔が花開こうとしている!?
「ちょっとシャツ開くわね?」
「え!? ちょっ!! まっ!!」
「やっぱり筋肉少ない…… 琉架と並び立てるくらい強いならもっとムキムキなのかと思ってたけど…… この体は完全に魔術師系ね。ちょっと意外だわ」
ここ妹さんの部屋ですよ!? そんな神聖な空間で何やってんですか!?
俺のベビーコーンが立派に育ったらどうするの!? おねーさん達が責任もって収穫してくれるんですか!?
「次、目を見せてね。琉架と同じ朱い左眼…… 何かの後遺症…… 大丈夫なの?」
「え…えぇ、自分の知る限りでも同じ症状の人はシニス世界に後10人は居ますから…… 俺達の共通の友人にも同じ朱い眼を持つヒトがいます」
全員魔王だけど……
てか、おねーさん近い近い! 顔近い!! しかし本当に琉架に似てる…… 何かイイ匂いがするし……
いかん! 俺のベビーコーンがデントコーンに成長しようとしている!!
いくらこの屋敷が広くても、すぐに琉架も帰ってくる!
デントコーンの収穫現場なんか見られた日には本気で嫌われるぞ!?
「………… ねぇ、ちょっとズボン下ろしていい?」
「いい訳無いでしょ! ナニ考えてんですか!?」
「いや~、私実物を見た事ないんだ」
「そういう事は彼氏さんに頼んでください!!」
「………… 私…… 彼氏いない歴=年齢なんだ……」
「…………あ~」
「妹に先を越されるのって…… おねーちゃんとしてはかなりショックなのよね……
だからここは妹の彼氏さんに見せて貰おうかと……」
今はマズイ! 今じゃなくてもマズイけど! 俺のコーンは糖分をたっぷり蓄えてスイートコーンへと変貌を遂げてる! 美人のおねーさん手ずからズボンを剥かれたら粒がハジケちゃう!!
「静香、暴走しない!」
ベシ!
「あだ! そうだった…… 琉架の彼氏に手を出す訳にはいかない」
琉架の彼氏…… なんて素晴しい響き……
もしかしてお二人は俺が琉架の彼氏だと思ってこんな事してるのか? 妹の彼氏の身体検査って…… いや、上流階級だからこそ変な病気とか刺青が入って無いかとか調べてるのか、セレブって大変だな。確かに病気は怖いからな。
大丈夫、俺は精々DTこじらせてる程度さ、この年齢ならそれも普通だ。
むしろ暗黒の病が完治してるかの方が心配だ、アレは他人に感染するからな。
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ようやく解放された…… 中々貴重な体験だったが楽しめはしなかったな。いつ琉架が戻って来るか分からないのは恐怖だ。
「単刀直入に聞くけど、あなたは琉架の事をどう思ってるのかしら?」
「ぶっ!?」
本当に単刀直入だ! しかし…… どう答えるのが正解なんだ?
正直に答えたら彼氏いない歴=年齢の小姉様がデビルズ・ナックルランサーを叩き込んできそうな気がする。丁度一年くらい前か、ゴリラと深夜の大血戦をしたのは……
「琉架は…… あ、いえ琉架さんは……」
「別に取り繕わなくてもいいのよ? 正直な気持ちが知りたいのだから」
「正直……ですか」
「えぇ」
女神です! は、やめておこう。いくら正直にと言っても、琉架本人も嫌がるだろうし。
恐らく友達と答えるのが一番無難だろう。しかし正直な気持ちかと言われると、それだけでも無い…… 友達も嘘ではないんだが、もっと……こう……何と言うか……
「い……一番大切な…… ヒト…… です」
大切な友人と言いかけて止めた。
何となくだが、今俺は試されているような気がした。ここで本音を出さなければ何か良くない事が起きる予感がしたのだ。
「一番大切な人…… ですか」
いやん! リピートしないで! 赤面しちゃう!
「ほほう…… 中々の答えだねぇ、てかキミ、よく無事に帰ってこれたね? お爺様に殺されそうにならなかった?」
「あ~…… 初対面から殺気をぶつけられましたね、琉架のおかげで事なきを得ましたが、その後も暗殺計画とか立ててたみたいで……」
「プッ! やっぱりね! お爺様の溺愛っぷりは尋常じゃ無かったからね、3年ぶりの再会で隣に男がいたら奥義を叩き込まれても不思議じゃないよ」
あぁハイ、極限奥義を叩き込まれそうになりました。琉架のおかげで事なきを得ましたが。
てか、大丈夫だろうか? ゴリラみたいにいきなり殺そうとはしないだろうけど…… 俺はもしかしてこっちの世界でも暗殺に怯えながら暮らさなければならないのだろうか?
「神那君、琉架は君の事を誰よりも信頼しているみたいね…… たぶん私達家族よりも…… 約2年間もずっと一緒に過ごしてきたのだから当然かもしれないけど…… だからこそ、お爺様は貴方に嫉妬されたのでしょう」
嫉妬か…… アレはそんな生易しいモノじゃない…… 憎悪とか憤怒とか…… 燃え盛る炎のイメージだ。もしくは摩天楼のビルの上でゴリラが胸を叩いてドラミングしている感じか? ウホウホーって。
「私たち家族はみんなあの子の事を心配しています。君は琉架の能力の事も知っているのよね?」
「時由時在……ですか」
「私たちの教育のせいだけど、あまりにも過度な純粋培養をしてしまった為、琉架は他人の悪意に免疫が無くなってしまったのよ。もちろん善悪の区別はしっかり教えたけれど……」
確かにエルリアに悪意をぶつけられてゼリーみたいにプルプル震えてたな……
それでもこの一年で多少は免疫も付いた気はするが…… いや、悪意を向けられてたのはD.E.M. 並びにギルマスの俺だから、あまり変わって無いかも知れないな。
「だからあなたにお願いがあるの」
「お願い?」
「琉架に悪い虫がつかない様にしてほしいの」
悪い虫っていうとアレか? 運命兄さんみたいなヤツの事か?
………… 言われなくてもあんなのが近づいてきたら、スリッパとゴキ○ェット二刀流で完全武装して琉架を守るね。中性洗剤とバル○ンも用意しておいた方が良いかな?
「任せて下さい! 自分は元々そのつもりでしたから!」
「えぇ! あなたの働きに期待してるわ!」
ガシッ!!
固い握手を交わした!
「…………」
(みか姉の作戦は本当に上手くいくのかねぇ? 確かにこう言っておけば、自分自身が悪い虫になるのを無意識に止められるかもしれないけど…… 何せ神那君も琉架も思春期だからねぇ)
「お待たせしました~ あれ? 神那とお姉様が握手してる…… あ、仲良くなってくれたんだ!」
(いっそのこと、「後6年間、琉架を守り抜いたら琉架をお嫁にあげる」とか言った方が手っ取り早い気がする。「ただし期間内に手を出したら死を持って償ってもらう」で脅しを掛ければ危険も減るだろうし……)
「…………」
(ま、警戒だけは怠らない様にしましょう)