第65話 運命の出会い
最近何をするにも琉架とマンツーマンだった俺が、珍しくソロプレイをする。
本日はサクラ先輩のご実家訪問だ。
俺達は帰還の際に生存者リストを持っていなかった。転移事故に遭いいきなり戻って来ることになるとは思っていなかったからだ。
その為、現時点で分かっている生存者は20名にも満たない、交友関係の狭さが招いた悲劇だな。それでもお世話になった…… 覚えはないが、先輩のご家族に本人の無事を伝えるために来た。他の生存者情報はオリジン機関に丸投げしてきたが、直接の仲間だった先輩の無事はご家族に直接伝えたい。
もしかしたら、自分だけ戻ったことを批難されたり罵倒されるかもしれない、故にソロプレイだ。
………… 杞憂だった。思いのほか温かく迎えられた。
在宅してたのは母親だけ、父親は仕事だった。平日の昼間に学校をサボってきたから当然だったな。
どうやら先輩のキャラは遺伝だったらしい、なんとも絡みやすい人だった。
先輩の活躍を捏造して聞かせておく事にする、お笑い担当だったことは内緒だ。
「魔王戦後の生存は確認されてます。今も……生きているはずです」
「そうですか…… わざわざ伝えてくれて有難うございます」
…… 泣かれた。俺はとうとう人妻まで泣かせてしまった。まいったな……また俺の称号が書き換わったかもしれない…… 「女泣かせ」とかに。
その後何故か先輩の部屋に通された、まさか彼氏か何かと思われてるのか? 俺と先輩の間にそんなフラグは存在しない。だって先輩デレないし……
しかしリアル女子中学生の部屋…… 何かいい匂いがする。
ここはいっちょ先輩の弱点でも探したい所だが、いくら俺と先輩の仲でも女子中学生の部屋を家捜しするのはアウトだと思う。
なので一切 手は触れず、ただ観察するだけに留める…… 留めているのだが俺の第六感が本棚の奥が怪しいと囁いている……
手を触れずに覗き込んで見ると…… 薄い本発見!
先輩もお年頃だからな、もしかしたらただのファッション誌かも知れないし、フリーペーパーかも知れない。
もちろんエロ本の可能性もある。
しかし俺は紳士だ、乙女の秘密を暴き立てはしない。この秘密は胸に秘め、先輩と再会した時に明かし、その反応を見て答えを推理しよう。
再会した時の楽しみが一つ増えた。実に有意義な時間を過ごした。
ちなみに先輩の名前「佐倉桜」についてだが、謎でも何でもない。ご両親が再婚同士で先輩は母親の連れ子だったそうだ。
しかしこんなタンジェント・コタンジェントみたいな名前になるなら夫婦別姓でも良かったんじゃないか? 子供には分からない大人の事情が有ったのかもな……
先輩が過剰に隠すから一体どんな秘密かと思ったが、聞いてみれば至って普通の理由だった。
「某巨大宗教の教主の隠し子」とか「某独裁国家の後継候補者」みたいなドラマが欲しかったな…… そんなの先輩のキャラじゃないか。
さっさと学校へ行こう。今頃琉架は図書館で時間を潰している。
一人であの教室に居たくないらしい。その気持ちはよく分かるからな。
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そんな訳で3時限目からの重役出勤をしてみたのだが、教室内の空気が悪い……
原因は言うまでも無く先週の模擬戦だ。
俺と琉架がオラついてる先輩をボッコボコにしてしまったためだ……
そもそも実力が違いすぎる、片や少々才能のある一学生、片や魔王殺しの英雄 兼 新魔王……
同じ土俵に乗せていいレベルではない。
身の程知らずの勇者がレベル20~30でレベル1000の魔王に挑むようなもの。
この例えは極端だが、どちらにしても勝負にならない。
教室内には相変わらず8人しかいない、残りは今日も仮想訓練装置で訓練に明け暮れてる。
確か学内トーナメントがあるとか聞いたが、優勝すればなにか貰えるのか? 誰かに聞いてみよう、いいものが貰えるなら参戦するのもアリだ。
とにかくあの模擬戦以降、黒大根と仮面は大人しくなった。自分たちの逆パーフェクトゲームを学院中に晒してしまったんだ無理も無いだろう。
彼らは俺達に恥をかかせるつもりだったみたいだが、自分たちが手も足も出ず負けるとは思わなかったのだろう。観戦フリーが裏目に出た形だ。完全に自業自得だな。
逆に俺達の印象が良くなるかといえばそうではない、黒大根と仮面は今まで模擬戦では負け知らずの実力者だった。それが下級生に負けたのだ。
なにか不正があったと、要するに卑怯な手段を使って勝ったと思われている。しかしその悪評を払拭しようとは思わない、というより出来ない。
社交性の低い俺達には噂の根絶は不可能だ。
たくさんの友だちがいれば或いは…… いや、無い物ねだりは止めよう。
例えるなら俺と琉架は磯野海◯の頭頂部に2本だけ生えている髪の毛だ。他の奴らはもっと低いトコロ、頭の周りで茂っている有象無象だ…… 山の麓に住むものに、頂点からの眺めは分からない。
トップとは常に孤独なものだ…… うん。この例えは失敗だったな。
友達のいない俺達はもっとセンセーショナルなイベントでも起こすしか無い。
例えば魔王を倒すとか?
そう言えば『D.E.M.』の評判はどうなっただろう? 当初の予定では不能筋肉一人が残る筈だったのでどうでもよかったが、今は俺の大切な嫁たちが所属している…… 少しは評判上がっていると良いんだが。
とにかく以前とは状況が違う、討伐軍は魔王軍を抑えるために必要不可欠な戦力だった。結果的には壊滅的被害を受けたが、彼らがいなければ魔王討伐は成し遂げられなかっただろう。
しかし今は魔王を倒す必要はない、デクス世界には魔王はいないんだから…… いや、居るんだけど…… 倒すべき魔王はいない!
つまり大量の仲間は必要ない、仮に必要になっても学生じゃ役に立たん!
結論……こいつらにどう思われても関係ない! って事だ。
決して強がりでは無い。
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キーンコーンカーンコーン
午前中の授業が終わる。
この学院には給食というものが無い。
お昼は琉架とランチデート。中央校舎の食堂は一般学生があまりやって来ないので良い、基本的に教師が多いので静かなのだ。
ただし特別生もみんなやって来るのが少し邪魔だが……
そんな訳で食堂を利用するのは週の半分、後は売店で買ってきた昼飯を教室で食べる。今日は教室だ。
夏休み前には専用の研究室が用意してもらえるらしい、今後はそっちに移行しよう。
そんな時だった、そいつが現れたのは……
ガラッ!
教師が出ていったばかりの出入り口から、勢いよくドアを開けて入ってくる一団がいる。
その瞬間、伝説&黒大根&仮面が明らかに嫌そうな顔をする。
「やあ、みんな久しぶりだね」
誰だよ…… この爽やかの化身みたいなやつは。顔はなかなかのイケメンだが、アーサーみたいな善人とは明らかに違う、笑顔というよりニヤニヤ顔だ。
「黒田どうしたんだい? 先週のあの試合は、君ほどの者があんな無様な姿をさらすとは」
「けっ!!」
あれは反論してこないと分かっている相手を小馬鹿にするトーク術だ。俺も良く使うから分かる。
「そして…… 君たちが復学生か、実に見事な試合だったね、あの黒田・加納組に完勝とは」
今度は俺たちに話しかけてくる、が、その目は琉架しか見ていない…… 早くもコイツのキャラが掴めてきた。ろくな奴じゃない。
「えっと………… ダレ……ですか?」
「おや? 聞いてないかい? 特別生だけで3人組のチームを組んでるんだけど?」
あぁ、コイツ等の事が。日がな一日仮想訓練装置に引きこもって訓練に明け暮れてる廃人は。
「特別生3人組のチームはお前らだけじゃ無ぇだろ!」
「ははっ そうだったね黒田君、君も伝説たちと3人組のチーム組んでたんだっけ?」
変な奴の乱入のせいで五月蠅くなってきた…… コイツ等が今まで姿を見せなかった3人か……
3人の姿をざっと観察する。
男・女・女
男女比1:2のパーティーだ。
俺も昔この男女比でRPGをやってたな。女性メンバーはカワイイ順で……
どうやらこの男は俺と同じ色の魂を持っている様だ…… なんかちょっと嫌だ……
そんな薄汚れた魂を持つ男のパーティーメンバーの女の子は2人とも結構カワイイ、て言うか、三人ともまともな格好をしている、一般的な学生の姿だ。
もちろんカワイイと言っても俺の女神とは比べ物にならない。月とスッポンの鼻クソぐらいの差がある。
何だ……特別生にもまともな格好した奴がいたのか…… 騙された!
「さて…… 君! 確か有栖川琉架君だったね?」
「え? あ…はい……?」
「僕のチームに入らないかい? 君ほどの実力があれば大歓迎だ!」
いきなり琉架の勧誘だ。どうやらこの男の目には俺は映っていないらしい…… こんな所まで似ているとは…… どうやら俺の出番は無さそうなのでコーヒーでも飲みながら観戦させてもらおう。
しかしコイツは絶対にクソヤローだ。今も自分の周りに咲き誇る花たちを見せびらかす様に並べている。女の子を自分の所有物のように思っているのかもしれない。
綺麗な花が多ければ多いほど自分が優越感を感じる情けない男だ。
こういう奴を俺は他にも知っている気がする。良く思い出せないがきっとクソヤローだ!
シニス世界にもそんなクソヤローがいたのかも知れない。自らのギルドに自分好みの女の子ばかりを加入させてハーレムとか作っているクソヤローが!
あれ? 何故か胸が痛い? 良く知っている男の話みたいだ……
…………
何の根拠も他意も無いけれど…… 彼は本当は心優しい青年なのかもしれない。
そう仮定してみる…… ほら、よく見てみろ! 彼はとても優しい目をして…… あれ? イヤらしいゲス顔をしてる……
「えっと…… お断りします」
「おぉ~ ナゼだい!? 僕のチームに加われば、確実に校内ランキング1位に成れるのに!
そうか! 復学して間もないから僕らの事を良く知らないんだね!」
いや、理解るよ…… 出会って数分だがお前が心優しきクソヤローだってことは。
「…… そもそも校内ランキングが分かりません。1位になると何なんですか?」
俺もそれ知りたいな、さすが琉架、ナイス質問。
俺が聞いても無視されそうな気がする。俺だったら無視するだろうし……
「成績上位者には防衛任務が与えられ地位と名誉が得られる。更に優秀なものは世界最強部隊である『ダインスレイヴ』に入れる可能性まであるんだ!」
「………………」
「………………」
それはアレか? 初戦敗退すれば暗黒集団・ダインスレイヴを抜けられるのか? だったら出場する価値もある。違うなら全く意味が無い。
「えっ…… と……」
琉架が困っている。あまり付き合いのないお隣さんから貰ったお土産がすでに持っている物だった時の感じだな。 残念! それもう持ってる! せめて食い物だったらなぁ……
気づくと取り巻きの女の子たちが琉架を睨んでる。こいつらも俺の事は眼中に無いらしい。どいつもこいつも……
睨んでいる理由は琉架の美しさへの嫉妬か…… たぶんこの心優しきクソヤローが原因だな。
ふっ…… 甘いな。お前にハーレムを作る資格はない!
ハーレムメンバーが嫉妬するのは構わない、しかしいがみ合い憎しみ合うのはダメだ! メンバーはライバルである前に仲間なんだ!
女の子たちが幸せでないのは漢の器が知れるというもの!
俺の知っている偉大な漢のハーレムメンバーは実に仲が良かった!
…………
俺が知らないだけで裏ではバチバチやってたのかな?
取り敢えず取り巻き2人は名前が分からないので「貧乳(S)」「普乳(M)」合わせてSMと呼んでおこう。
「え……と、やっぱり遠慮させてもらいます」
「そう言わずに! 絶対後悔させないから!」
諦めの悪い奴……
そしてSMの視線が更に険しくなる。
きっと……「アンタなんてお呼びじゃ無いのよ!」って気持ちと「ナニ折角の誘いを断ってんのよ!」って思いが入り乱れてるんだろう。
琉架が入ったら下位互換のお前らなんかポイされるかもしれないんだからもっと喜んどけよ。
「1チーム最大4人までなんだ、今を逃すと後悔するよ?」
なんかテレビショッピングみたいになってきたぞ? その内オマケにネックレスでも付けてきそうだ。
「だ……だから…… あの…… 聞いて下さい」
「おぉ! ようやく入る気になったのかい?」
コイツのフィルターを通すとどんな言葉でも自らの願望に沿った形で再生されるらしい。
「か……神那ぁ~」
とうとうギブアップ、琉架にしては頑張った方だな。
この子はキャッチセールスや押し売りには勝てそうにないな…… やはり俺が守らねば! それこそが信者の務め!
俺がケンカを吹っ掛けて琉架から視線を外させるか。
「はぁぁぁ~~~…… 弱い奴と組んだら余計勝率が下がるだろ、それぐらい気付けよ」ボソ
ピク!
「……なんだと?」
ようやく俺の方を見た、さっきからずっとココに居たんだけど気付いてたかな?
光り輝く大きな月の隣りに、小さな星があっても気付かないのは仕方ないがな。
「トーナメントには興味ないけど、本気で優勝目指すなら俺と琉架、二人組の方が勝率が高いに決まってる」
「威勢がいいな小僧! 黒田達に勝ったぐらいで図に乗っているのか?」
「いやいや、ただアンタに似た男を知っていたんだが、彼の方が遥かに偉大な男だったと思ってな。
その程度の奴なら足手まといにしかならない気がしたんだ」
「貴様…… 確か霧島神那とかいったな……」
お! 男の名前を覚えていたのか?
「いずれお前に模擬戦を挑む! 逃げるなよ!!」
「え? 今じゃ無くて? いずれなの?」
「お前と違って俺は色々忙しいんだ! 覚えてろよ!!」
あぁ、俺の反魔法対策に忙しいって事か…… 小物だな。
「まてまて! そんな小物のセリフじゃすぐに忘れそうだ。せめて名前ぐらい名乗れ」
「……ッ!!」
あれ? 固まったぞ?
「おい、二宮! そこは確かにそいつの言う通り、名乗りを上げる場面だぞ?」
何故か黒大根がフォローする、てか二宮? 黒大根が超ニヤニヤしてる! まさか!?
「どうしたんだ兄さん、名乗らないのか?」
兄さん!? 伝説君の!? 言われてみれば顔つきが似ている気がする!! いやまだだ! まだ分からん! だが念のためコーヒーを口に含んでおくか……
「……ッ!!……ッ!!」
「やれやれ…… 名乗りも出来ないとは困ったモノだな……
運命兄さんは」
「ブゥーーーーーーーーー!!!!」
ホントに居た!! 運命!! つーか運命兄さんて!! 「兄さん」付けるのは卑怯だ!! コーヒー返せ! 全部噴き出したぞ!!
当然噴き出したコーヒーは運命兄さんが全て被った。ゴメンナサイ(笑)
「き……貴様ぁ!!」
コーヒー滴るいい男・運命兄さんが肩をプルプルさせて怒りに震えている! そうだ、人の名前で笑うなど最低の行為だ。キチンと弁明しておかなければ!
「た……大変失礼しました…… ぷっ! で……でも諦めて下さい…… こうなる『運命』だったんです…… ブフゥッ!!」
クラス中大爆笑だ。SMも必死に笑いを堪えてる…… てか、完全に笑ってる。
伝説君まで笑いを堪えている、今のやり取りからして兄弟仲は相当悪そうだ。てか君は笑える立場じゃないだろ? 笑うなと言う方が無理な話だが……
「貴様ら全員 仮想訓練装置に入れ!! 叩きのめしてやる!!!!」
「や……やめて下さい運命先輩! ヒー そんなにショックを受けると! ジャジャジャジャーン!! ってBGMが聞こえてきますから!」
殺伐とした教室に笑顔の花が咲き乱れ、楽しそうな笑い声に満たされる。
今この瞬間だけ、仲良しクラスの様になる。
「ぐ…ぎ…ぎ……!! 貴様ら全員覚えてろよ!!!!」
コーヒーまみれの運命兄さんは乱暴にドアを開けて教室を出ていった。
SMは未だに腹を抱えて笑っているため、置いてかれた。
可哀相な運命兄さん…… 着いて行って慰めてやれよ。それがお前らの仕事だろ?
しかし、あぁ…… コレで運命兄さんと完全に敵対してしまった。
その代り、他の連中とは少しだけ距離が近付いた気がする。実際仲良くなった訳では無いが……
このクラスが少しだけ好きになれそうな気がする。
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一気に登場人物が増えたので少し整理します。
二宮伝説・中等部3年・15歳
神那・琉架とはオリジン機関で面識アリ。伝説系。チーム・レジェンドのリーダー。
黒田大輔・高等部2年・17歳
頭に黒大根を乗せている先輩。ヒャッハー系。チーム・レジェンドのメンバー。
加納恵・高等部2年・17歳
化粧が濃すぎる先輩。ギャル系。チーム・レジェンドのメンバー。
白川真夜・中等部2年・13歳
そのままホラー映画に出れそうな女子。怨霊系。
天瀬大志・高等部1年・16歳
何故か白衣を着ている。マッドサイエンティスト系。
二宮運命・高等部2年・17歳
コーヒーを吹き付けられた先輩。運命系。チーム・デスティニーのリーダー。
宮園真希・高等部2年・17歳
ショートカットのSサイズ女子。スモール系。チーム・デスティニーのメンバー。
和泉優理香・高等部3年・18歳
ポニーテールのMサイズ女子。ミドル系。チーム・デスティニーのメンバー。