第61話 オリジン機関
中央会議場
オリジン機関の幹部が集まり、今後の方針などを話し合う場所……
幹部会の構成メンバーはオリジン機関の大スポンサーである先進各国から一人ずつの7名とレイフォード財団の現会長の計8名である。
この場にいるのは7名のジーサン達だ。最高責任者でもあり、この会議の取りまとめ役でもあるレイフォード財団の現会長の姿は無い。
こんな定年後の天下りジーサン達と違い、会長はお忙しいのだろう…… と、勝手に予想してみる。
「創世十二使・序列第十一位 霧島神那 並びに 創世十二使・序列第十二位 有栖川琉架
君たちの報告に間違いは無いのだね?」
報告とはもちろん魔王レイドと魔王ウォーリアスの討伐成功の報告だ。
「はい、確かに討伐しました」
「では何故、未だ誰も戻らない?」
んなこと分かる訳ないだろ! この質問何回目だ? 既に何時間も同じやり取りを繰り返している。このボケジジイ共に結論を出す能力は無いな。
「それについては、残念ながら何も分かりません。我々は魔王討伐の直後に転移事故に巻き込まれました。
それ以降の事は感知する術がありませんでした」
「ふむ……困りましたな」
「何も証拠が無いのではな……」
「せめて一人でも帰還者が現れれば……」
はぁ…… 切りが無い…… あと5分もすればまた同じ質問の繰り返しだ、こんなんでよくオリジン機関が回せるな? 議長がよほど優秀なのか? もっともその人がいないからこんなグダグダになってるんだが……
「本当に魔王が倒されたのなら、今の世界にはこれ以上ないほどの朗報。なんとか利用できんものか」
「しかしこちらの世界からあちらを窺い知ることは出来ん」
「困ったモノだな……」
本当に困ったモノだ…… いつまでこの無意味な会議を続けるんだ?
そんなジジイ共の無駄な時間に付き合わされている時だった……
『皆様お待たせ致しました』
スピーカーから響いてきたのは、若い女の声だった。
「おぉ、議長! 状況は把握しておられますか?」
議長!? レイフォード財団の現会長か!? この若い女の声が……会長?
『はい、全て心得ております。霧島神那、有栖川琉架、カメラを見て下さい』
カメラ? あ、あれか。
お忙しい会長様はテレビ会議で出席か…… まぁ、暇を持て余してるジジイ共とは違うよな。
『………………』
何も喋らない…… 一体何をしているんだ?
『どうやら魔王を倒したのは事実のようです。二人は魔王レイドと魔王ウォーリアスを討伐しています』
!? 何故その結論に至った? 今何かしたのか?
「おぉ! 誠ですか! コレはビックニュースになるぞ!」
「我々の育て上げた創世十二使がついに魔王を倒したのか!」
お前らに育てられた覚えはない。てか何なんだこいつ等? 議長の言葉に全幅の信頼を寄せてる? 根拠はなんだ? もしかして何かのギフトか? 白みたいに真実を知る事が出来る能力なら…… ヤバイ。
俺達が魔王の力を継承している事もバレるぞ?
『霧島神那、有栖川琉架。本当にご苦労様でした。さぞ大変な戦いだったでしょう、今は存分に休息を取りなさい。まだ色々と聞き取りや検査、レポートの提出などやってもらう事も多いですが、あなた達の働きに感謝しております』
「あ……はい、ありがとうございます」
「ありがとう……ございます……」
正に鶴の一声って感じだな、このグダグダ劇場が議長の一声で終わった。
レイフォード財団の現会長か…… 一体どんな人物なんだろう。
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「おにーちゃん大丈夫? なんかお疲れ顔だけど?」
「あぁ……無駄が多くて疲れた」
PM10:00
場所は夜の食堂だ、あの中身のない無駄な会議は8時間にも及んだ…… それだけ時間があればどれだけ有意義な会議が出来たであろうか…… 幹部会の無駄人員は整理すべきだ。
「正直想像してたのと違った、あれじゃまるで老人会の暇つぶしだ」
「あ、それ私も思ってた。もっと厳粛な雰囲気の中、裁判みたいな聞き取りが行われるのかと思ってたよ」
まぁ、最高幹部に殺気混じりのプレッシャーを掛けられずに済んだのは良かった。俺は『強情者の面の皮』があるからいいが、琉架は他人の悪意に敏感だからな。すぐ顔に出る。
「………… ねぇ、おにーちゃん」
「ん?」
「気になってたんだけど…… となりの……琉架さん…… おにーちゃんの彼女?」
!? 妹の能天気爆弾が炸裂した!!
「な……!? わ…わ…わたひは!! ち…違……!!」
ほらな? すぐ顔に出る。悪意なき悪意だけど……
ここは「未来のお前のお義姉さんだよ」と言いたい所だが、伊吹が俺の過去を歪めて吹き込んだら嫌なので、関係性だけはきちんと説明しておこう。
俺の過去に後ろ暗いトコロなど…… 数え切れないほどあるからな……
「そうじゃなくって、琉架は俺の友達であり、同僚であり、仲間であり、大切な人だ。言うなれば俺の人生における重要なパートナーみたいなものだ」
「………………」
「~~ッ~~ッ~~///」
あ…あれ? 誇張しすぎた? これじゃ彼女というより嫁だ! …… ま、いっか。
「へ…へぇぇぇえぇぇ~~~…… そ…そうなんだ…… かかか彼女じゃ無くて……じじ…人生のパートナーかぁ~」
「…………///」プシュ~~~
君たち真に受け過ぎ…… 今のトーンそんなに信憑性あったか?
伊吹は自分から振った癖に動揺し過ぎだろ。大方俺に彼女なんかできる筈ないと思ってたんだろ。
「琉架は俺と同じ創世十二使の一人で、一緒に魔王殺しを成し遂げた戦友でもある」
「へ? 創世十二使? 魔王殺し??」
そうだぞ妹よ! お前の兄は歴史に名を残す伝説の英雄になったのだ! さあ思う存分兄をチヤホヤしておくれ! 誰もしてくれなくて寂しかったんだ!
「…………」
あ…… 疑いの眼差し。
「誰が創世十二使だって?」
「俺が」
「魔王殺しって?」
「言葉の通り、魔王を倒してきました」
「…………」
「…………」
「私のアホなおにーちゃんにそんな大それた真似が出来るとは思えないんですけど?」
「アホとはなんだアホ妹、ふー…… しかし、ソレでいいのかもしれない」
「?」
「少々風向きが変わった。魔王殺しに関しては口にしない方が良いかも知れない」
「どういう意味?」
「単純に証拠が無いんだ。当事者の証言じゃ意味が無い」
「………… なにそれ?」
仕方がない、今はただ帰還者が戻るのを待つしかない。
そっちの方もどうにも嫌な予感がする。白……ミカヅキ……ミラ……ついでに先輩…… 無事だとイイんだが……
結局俺達は、2ヵ月近くオリジン機関に軟禁された。
その間、世界は大きく変わった。
結局魔王討伐成功の事実は、「信憑性のある噂」という形で世間に流された。
あれだけ頑張ったのになんて報われない…… しかしそれも仕方がない、2ヵ月経っても一人も帰還者が現れないのだから。
もし俺たちを魔王殺しの英雄と祭り上げてたら、稀代の嘘吐きヤローにされてたかもしれない。
オリジン機関としても苦肉の策だったのだろう。
2ヵ月に及ぶ軟禁生活は別々の部署に赴いては同じことを繰り返す、実にダルい作業だった。
主に身体検査、聞き取り調査、レポート提出 etc. etc.
こういう所はお役所仕事だ、頼むから一本化してくれ。
そんな中、魔王となった我々の正体がバレそうな危機が何度もあった。
もともと魔王の力を使わない限り普通の人間と殆んど変わらないが、なにせ成長しない。2ヵ月もあれば髪の毛だって伸びるから、人目を盗んでは琉架と二人で大人の階段を上っていた…… いやエロじゃなく…… 『両用時流』で身体年齢を押し上げてた。狙い通り髪も爪も伸びた。
恐らくこの体は飯を食わなくても死なないだろう。腹は減るんだが……そこら辺がよく分からん。
そして、誤魔化す事が出来ないのが能力値だ。
以前は40000ギリギリしかなかった俺の能力値は一気に100000まで上がっていた、倍以上だ。琉架に至ってはとうとう200000の大台を超えていた。もしかしたらと思っていたがこれほどとは……
コレは流石に騒ぎになった。
この事態も、未知の生命体『龍人族』に全ての責任をおっ被せた。眼が紅くなった時に龍人族の魔力が流れ込んだとか適当な事を言って……
もしかしたら近い将来、龍人族は一攫千金を目指す魔術師たちに狩られる存在になるかもしれない。俺がついた些細な嘘の為に……
ただでさえ数が少ない絶滅危惧種なのに…… ゴメンじーさん。次に会う機会があったら羊羹でも差し入れするから。
まぁ、アイツら魔王に匹敵する強さがあるらしいから大丈夫だろう。
それともう一つ、この世界に住む者にとっては最も重要な関心事の一つ『攻撃性異形変異生物群・テリブル』についてだ。
突然の発生から2ヵ月、未だに何も分かっていない、その目的も、どこからやって来るのかも……
小型種でも体長は大人の背丈を越える、しかし世界中で現れているのに生息地は確認されてない。ある日突然現れるその様は…… トラベラーのソレに似ている。もしかしたら本当に……
世界では完全に魔王の仕業ということで定説になってる。別に弁護するつもりは無いが……
真面目に生きている一魔王としては、ちょっと悲しい……
あ…… 俺の人生嘘に塗れてた…… ちっとも真面目に生きてねーじゃん。
ただし大型種の発生について、一つだけ分かったことがある。大型種の発生場所が南極である事だ。
どこかの国の衛星がたまたま捉えていたらしい。あの日現れた5匹の大型種が全て南極からやって来たことを。
小型種と違い大型種は個体によって見た目から性質に至るまでバラバラだ、大きさも個々で違うが、平均して20メートル前後だ。
まだサンプルは少ないが、生物として不可思議な点が多いと聞く、そっちは専門外なので詳しくは知らないが、染色体が通常ではあり得ないとか、遺伝子がどうとか…… そちらの情報が出てこない所、何かしらの問題があるのかもしれない。そもそもアレが生物なのかどうかもよく分からない。
大型種をαテリブル、小型種をβテリブルと呼称している。さらにαテリブルは出現順に番号が振られ、あの日世界中に現れた5匹には「α-001」~「α-005」と呼称されている。
もっとも大型種はあの日以来現れてはいないが、非常に強力な力を持っており魔化学兵器がほぼ通用しない、そのため現在7名しかいないS級魔術師が対処することになっている。
ちなみにこの「S級魔術師」は創世十二使の事だ。つまり俺と琉架もS級魔術師に数えられる事になる。
またコイツ等は人が多い所を襲う傾向がある、つまり都市部だ。
その為、世界に七つある「魔導学院」でも色々と環境が変わった。主に戦闘技能の習得に力を入れるようになったのだ。
なにやら世界全体がキナ臭くなってきた……
誰かの作為的な何かを感じる…… テリブル事件の原因を魔王に被せ、世論を操作して世界的軍拡を推し進めている。
昔からよく映画などで使われてきた手法だ。戦争ばかりを繰り返す人類を一つに纏めるのは、人類以外の強大な敵の出現に他ならない。宇宙人だったり、神や悪魔だったり……
今の世界の状況は正にそれだ。
気に入らない…… まるで誰かの手の平の上で弄ばれているかの様だ……
そう考えれば奴らが中途半端な戦力で都市部ばかり襲うのも納得できる。
ワザと市民の不安を煽るために……
ただの勘なので人には言わないが…… もし俺の勘が正しければ、なおさら別の世界に住む魔王の仕業とは思えない。
イタズラ者の第11魔王レイドは死んだ。
侵略大好き第8魔王ウォーリアスも死んだ。
第3魔王マリア=ルージュがこんな回りくどい事をするとも思えないアイツはきっと短絡思考だ。
第6魔王ミューズ・ミュースなら男漁りに直接乗り込んでくる筈だ。
第9魔王ジャバウォックは狂ってるし、第4魔王スサノオと第7魔王アーリィ=フォレストは引きこもり。
もちろん第5魔王ウィンリーはこんな事をする子じゃ無い。
ただ俺のよく知らない魔王がやっている可能性も確かにある。もしかして第11領域・ムックモックの制圧に失敗したのだろうか? 新たな魔王がクレムリンを支配し、テリブルを送り込んでくる…… 辻褄は合うな…… いや…… 大型種が南極にだけ出現した理由が分からない。
全ての謎を解く答えは神隠しにある気がする。もちろんコレもただの勘だが……
そうそう、忘れていたが俺と琉架の創世十二使の序列が上がっていた。
俺が創世十二使・序列第六位。琉架が序列第七位になっていた。そこそこ出世した。
ちなみに今まで序列第一位だった赤木キャプテンはMIA(戦闘中行方不明)扱いになり、序列から除外。生存が確認されているクリフ先輩が序列第二位になった。シャーリー先輩が序列第五位だ。
いつも思うんだが、俺よりも強い琉架は俺よりも上の序列になるべきだ。
……と、思っていたが、どうやらギフトによって決まるらしい。
琉架の『事象予約』には直接的な攻撃力が無いため、功績や年齢、ギフトによって序列は決められるらしい。
何と融通の利かない…… まぁ、琉架も自分の順位を気にして無いようだし……いっか。
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俺と琉架が神隠しに遭っておよそ一年…… オリジン機関に出頭してから2ヵ月半……
ようやく自宅へ帰る事が認められた。
ただし創世十二使として、国際連合直属テリブル対策武装集団・ガーディアンの最高戦力『ダインスレイヴ』の一員として籍を置くことになった。
『ダインスレイヴ』…… コレの名付け親って師匠じゃね? 強烈な暗黒臭が漂ってくる…… 俺の緋色の左眼が疼きやがるぜ!
要するにこの『ダインスレイヴ』とは戦闘時にあらゆる権限を持つ戦闘能力者の集団を指し、ぶっちゃけαテリブルが出たら「お願いします先生!」と頼られる人たちだ。
そんな何時何処に出るかどうかも分からない相手に備えた面倒臭い役目だ…… そんなこと中学生にやらせるなよ。
もっとも現在9人しかいない創世十二使を極東に2人も配置する事に難色を示す意見もあったが、そもそも大和はすでにαテルブルの襲撃を受けているので人員配置は必須だ。
若い二人だから合わせて一人前と考えてもらった。
ただしこれは大和に限った話では無く、αテリブルが現れたら世界中から『ダインスレイヴ』が集結することになる。余程遠くでない限りは……
それでも俺たちを分けて配置するつもりだったら、こんな仕事 放棄してやる所だった。
そして故郷への帰郷当日、師匠と伊吹が見送りに来てくれた。
「それじゃ極東方面はアンタらに任せるから、とは言えそんなに気張る必要はないか、最初に出現して以来一度も現れてないヤツ等だからな。
しばらくは久しぶりの故郷でゆっくり羽を休めるんだな」
「だと良いんですけどね…… こっちはこっちで色々やる事があるもので……」
「あん? やる事?」
「いえ、個人的な用事です」
「はは~ん…… なるほどね、そりゃ忙しいだろうな」
師匠が何かを察したようだ…… だが断言できる。この人の考えてることは間違っていると。
「あの…… 琉架さん、ちょっとよろしいですか?」
「うん? はい、なんですか?」
琉架が伊吹に連れて行かれ、何かコソコソ話してる……
まさか「不束者ですがウチの兄の事を……」とかやってるんじゃないだろうな? まぁあの能天気な妹にそんな事を考える脳みそがあるとは思えないが。
戻ってきた琉架は、少しだけ顔が赤い気がする…… 俺の女神に何をしたんだアホ妹は?
「おにーちゃんに会えるのはまた10ヵ月も先になるけど、今度は行方不明じゃ無いから心配いらないし安心ね」
伊吹は本気で創世十二使を目指してるのか? 正直面倒事が増えるだけだぞ?
「我が最愛の妹よ! 早く帰って来ておくれ! おにーちゃんは寂しい!!」
「だ……だから人前で抱き着くなー! 向こうの世界で羞恥心を無くしたの!?」
妹よ、それは勘違いだ。人並みに羞恥心など持っていたら暗黒の病になど罹りはしない。
見てみろ! 師匠の拘束具の様な服を平然と着こなすファッションセンスを! 師匠は恐らく20年前に羞恥心を病で亡くされたのだ。
…… 俺はあのレベルまではたどり着けなかった……
「給料は貰えるけど最後まで生き残るとその後色々面倒臭いぞ? 今なら『ダインスレイヴ』の強制加入まで付いてくる。
悪いことは言わないから適当に手を抜いとけ、先輩としてのアドバイスだ」
「そっか…… 給料貰えるんだ……」
逆効果だった……
「はぁ…… 師匠、妹のことよろしくお願いします」
「まかせとけ! お前以上の戦闘能力者に育て上げて見せる!」
そっちのお願いしますじゃねーよ! まったくこの脳筋は……
こうして俺と琉架は1年振りの帰郷を果たすのだった。