第41話 揃い踏み
予選終了。
突破したのは以下の8団体。
第1試合突破『アーク』
登録人数は1000人以上、言わずと知れた超巨大魔導師ギルド。参加者は全員トラベラーという郷に入りても従う気ゼロ団体。今回も200人規模でやってきているらしい。随分お金持ちだな。
第2試合突破『インヴェニウス』
第2試合を30分で勝利した耳長族のコンビ。あの超絶美形エルフコンビだ。コンビ……そう二人だけだ。正直他と比べても実力は数段上の様な気がする。
第3試合突破『D.E.M.』
霧島神那率いる美少女軍団。一人の超天才美少年が多くの美少女を率いている、男の夢と希望が詰まった様な集団だ。一人だけ肉壁が存在するがそこはスルーで。
第4試合突破『明鏡止水』
良く知らない。なんでも武器を使わない、魔術も身体強化のみで、肉体で戦う格闘集団らしい。きっと素手で巨大ロボットとか破壊できる謎の武術を使うのだろう。
第5試合突破『ブレイブ・マスター』
勇者と愉快な仲間達……以上。
第6試合突破『アサシン』
その名の通り暗殺者集団……だったらしい、それは数世代前の話で今は真っ当に生きている。しかし業はしっかり受け継いでいて、第6試合を1時間ほどで終わらせた。
第7試合突破『天空の騎士』
有翼族の騎士団。戦闘方法は他種族には真似できない空中からの一方的な攻撃。完全に高さを制している。
第8試合突破『魔法王団』
彼の王連授受が一人、魔法を極めし者『魔法王』ラケシス・W・ネクロノミコンが率いる集団。噂のラケシスたんキターーー! その名の通り魔法のエキスパート。
何ともアクの強い連中が揃ったモノだ。てか勇者チーム勝てたのか……余程仲間が優秀だったと見える。
しかしこうして一覧にしてみると、いかにもこれからトーナメントを始めます! って感じになる……嫌だ……面倒クサイ……俺たちが求めるのは魔導書だ。何も戦う事は無いんだよ。
知能勝負とか良いんじゃないかな? そうだクイズ大会なんてどうだろう? 白がいれば100%勝てるし!
今夜、王宮でいわゆる本戦の打ち合わせがある。ジークに丸投げしようと思ったが拒否られた。まったく融通が利かない奴だ……
そこで困ったのが誰が行くかだ。代表者一人と付き添いが一人。計二人で出向く。
俺が行くのは確定。誰をパートナーにしてお城の舞踏会に行くのか……そんな感じだな。
ハーレム王は一人だけ優遇する訳にはいかない、モテる男の辛い所だ。
本来なら琉架を連れて行く。そのつもりだったが当の琉架が難色を示した。
「あの人いるんだよね? あまり会いたくないです」
誰にでも優しく礼儀正しい琉架がここまで嫌悪感を露わにする人物を他に知らない。ざま~みろ勇者!
しかし琉架がダメとなると、誰を連れて行こう?
「お嬢様が行かれないのでしたら、私も遠慮させて頂きます」
最近気づいたが、ミカヅキは俺と琉架が別行動した時、必ず琉架の傍に控えている。要するに琉架の護衛だ。これは確実に琉架のじーさんの指示だな。まぁ、こっちも安心できるし有難い話だ。
また琉架と同様の理由でミラもダメだ。勇者がいるとビミョ~だからな。
あのホーケー勇者! ホントに邪魔だな!
こうなると選択肢は先輩か白のどちらかだ。
ジークは論外だ! 筋肉を連れてお城の舞踏会とかどんな罰ゲームだ!
そこで一声……
「お城……行ってみたい……」
白に決定しました。
本当は先輩の方が人選的に適当だったけど、本人もあまり乗り気じゃ無かった。分不相応とでも思っているのかもしれない。どうも先輩は自分の事を過小評価している気がする、このギルドにとって先輩の存在は結構重要なんだけどな……
それは追々先輩に分からせるとして、白が一緒だと俺も嬉しい。
この寒空の下、湯たんぽを抱えて出歩くようなものだ、王宮の舞踏会では存分に白とイチャイチャしてこよう。
あ……打ち合わせに行くんだった……
---
テセラ王宮 大会議室
テーブルやイスは無く、隅っこに飲み物が用意されているだけ。唯のだだっ広い広間だ。
立食パーティー的なものを予想してたがそんな物はなかった。確かにここに集まったのは冒険者がほとんどだ、ドレスコードも無い。王宮感ゼロだ。
そもそも冒険者に立居振舞いなど求めていないのだろう、こっちもその方が気楽で助かる。
恐らく軍務で使われる部屋だろうが、それでも王宮の端くれだ、所々豪華な装飾がなされている。それでも獣衆王国の方が格式は上だったな。
白がキョロキョロしてる、実に可愛い。
部屋の中には8団体の代表者、計16人がいる。今のところ会話はナシ、お互いのことを観察しているようだ。
しかしその内、アーサーとかバカ勇者辺りが話し掛けて来るかもしれない。静かな今のうちに『魔法王』ラケシスたんを探そう! 魔法を極めし者、やはり魔法少女みたいな格好をしているのか? それとも普段は地味な格好で変身するのか? 我ツインテールを所望する!
しかしいくら探してもツインテールの魔法少女はドコにもいなかった。見つけたのは少々薹が立ってはいるが、ギリギリおねーさんと呼べなくない真っ黒な格好のザ・魔女といった風貌の女性だ…………その隣にいるおばーちゃんの事は見なかったことにする……
ラケシスたんは来ていないようだ。てか何で俺は『魔法王=魔法少女』のイメージを持ってるんだ? 王連授受に若さは期待しないと決めた筈なのに……
他に気になるのはやはり耳長族の二人組だ。何故かこちらをチラチラ見ている、オネーサンの方に惚れられるのはwelcomeだが、オニーサンの方に惚れられるのはunwelcomeだ。先輩辺りが腐りそうだから勘弁して下さい。
あと、今日はバカ勇者が大人しい。場を弁えてるのか、白を恐れているのか……まぁ静かなのは良い事だ。
結局打ち合せとやらが始まるまで俺は白を後ろから抱きしめて愛でて過ごした。
白の頭に顎を乗せると獣耳で俺の頬をペチペチ叩いてくる。もうっ!超!可愛い!!
しばらく白とイチャイチャしている。もしかして見られてたのは俺達がバカップルだったからか? 白は獣人族の中でも更に珍しい白狐だからな。注目を浴びるのも当然だった。
「お待たせいたしました」
入ってきたのは一人の女性だった。何かドレスを着ている、どう見てもメイドや女兵士ではない。その佇まいはお姫様だ……何でこんな無骨者だらけの場所にお姫様が来る?
この国の王族に関する予備知識が全くないから分からん。周囲の人々の顔色を伺ってみるが、全員ボーっと見ているだけだ。ただ一人、勇者だけが狼狽えていた。
「アルカーシャ王国 第4王女、ユリア・アルカーシャと申します」
何かある!
俺の直感が告げる、お姫様は勇者とは決して視線を合わそうとはしない。あれはわざとだ。
白にお姫様を調べてもらい後で報告してもらおう。何か面白いことになりそうだ。
「皆さま予選突破おめでとうございます。本日は本戦に関する説明のためお集まり頂きました」
説明? じゃあ本戦の内容は決まってるのか。折角クイズ大会を提案しようと思ってたのに。
「皆様には迷宮踏破を目指してもらいます」
周囲がザワつく、トーナメントじゃ無かったのは結構だが、迷宮踏破は更に面倒臭い。
記憶に新しいのは、男性機能を失った一人の男が500年掛けて迷宮攻略していた事件だろうか。あんな過酷な人生は送りたくないな……
「迷宮最深部にある魔導書を最初に手にした者の勝利です」
早い者勝ちだ、分かりやすくていい……しかし、迷宮か……
「質問よろしいですか?」
「どうぞ」
「有難うございます。その迷宮踏破は何人で行うのですか?」
質問したのはアーサー・ブラックマンだ。まぁ、当然の質問だな。
「参加人数の上限はございません。100人でも200人でもお好きな人数で挑んで下さい」
「地図などは有るのですか?」
「そう言ったモノは一切ございません。また持ち込めるアイテムにも制限はありません」
ダンジョンの攻略か……人海戦術が使えるアークが有利になるな。
「迷宮の規模がどれ程か聞いても宜しいですか?」
「そうですね……迷宮は全5階層、早ければ5日ほどで攻略できるはずです」
難易度は地下迷宮ほどでは無い、確かにあの規模だったら終わるのに何年掛かるか分かったもんじゃない。
「後、注意しておきますが、迷宮には魔物も多数生息しています。その場所柄リタイアはできません。ですので自信のない方はスタート前に辞退して下さい」
つまり食料や必需品なんかも参加者負担、さらに死んでも自己責任ってことか。
「準備期間……本戦開始はいつになりますか?」
「開始日は一週間後となります。それまでに全ての準備を整えてください」
一週間か……首都からここまでの距離を考えるとギリギリ間に合うかもしれないな。どうしよう……アークが1000人態勢で迷宮に挑んだら……
数は力だからな、ズルでもしないと勝ち目がないぞ?
「他にご質問のある方はいらっしゃいますか?」
お姫様とバカ勇者の関係は? …………は、取りあえず置いておいて、何故みんな肝心な事を聞かない?
「はい」
「そちらの方、どうぞ」
「PKはどうなるんですか?」
「ぴーけー?」
「あぁ、すいません。つまり……ライバル同士での戦闘行為です」
シーン……
静寂があたりを包む……あれ? なんかマズイこと聞いたかな? 重要な事だろ?
「参加者同士の戦闘行為は解禁されます。相手を死に至らしめてもペナルティーはありません」
勇者の目がギラついた…………気がする。
「ただし、それらの行いは全て中継されていることをお忘れなきよう願います」
「中継?」
「はい、あちらをご覧ください」
お姫様の視線の先、天井の隅に水晶玉らしきものが浮かんでいる。
「あれは、その場の映像を別の場所へ送るための魔器です。本戦の迷宮踏破は国中で中継されます」
あらイヤだ、つまりさっきまでの俺と白のバカップルっぷりも動画配信されてたのか。
まぁ、自分から見せつけていたから気にもならんが。
なるほど、国中がお祭り騒ぎだったのは一種の娯楽……スポーツ大会と同等の扱いだったからか、それにしては少々血生臭い催し物の気がする。
「しかし、女性の参加者も多く、不要な犠牲も出したくありませんので、待避所・安全スポットも多数用意されてはおりますが、そこでの戦闘行為は禁止させてもらいます」
なんだ、実質PKは禁止じゃないか。しかし待避所・安全スポットは中継されてないって事だろ? 要するに参加者のモラルに任せる訳か……
「他にご質問はありませんか? では一週間後、皆様のご健闘をお祈りいたしております」
それだけ言うとお姫様は出て行った。最後まで勇者には見向きもしなかったな……あやしい……
何人かは足早にこの場を後にする、一週間という準備期間を長いと思うか短いと思うか、色々あるだろう。
正直俺たちには一週間は長すぎるがな。
「キリシマ・カミナ!!」
勇者が大声で話しかけてくる。残っている人たちが注目してくる。コイツはホントにどうしてくれよう!
「今度こそ……今度こそ絶対に貴様を倒す!! 直接対決で勝ってみせる!!
この条件なら貴様も卑怯な策略を巡らすことは出来まい!!」
卑怯な策略って何だよ……お前の相手なんて遊びだ遊び。
しかし、本当のことを言うとまた五月蠅そうなのでやめておく。
「あぁ! お互い正々堂々と悔いの残らない、いい勝負をしよう!」
俺は心にもない事を言いながら、爽やか笑顔で歯を光らせる。
「ぐぎ……き……きさま……よくもそんな事を……」
片や爽やかな笑顔、片や怒りの形相……周囲の人々へ与える印象はどうなるだろう?
「帰りますよ勇者様、冷静さを欠いては彼に勝てる見込みはありません」
エルリアに襟首を掴まれて引きずられていく……なかなか冷静な判断が出来るようになったな。今の諭し方も悪くなかった。
彼女は確実に成長している。どっかのバカとは大違いだ。
「おに~ちゃん」
「あぁ、俺たちも帰ろうか」
いつもの様に白と手を繋いで部屋を出る、すると……
「つ……ついて来るな!!」
勇者がそんな事を言う、いやいや、出口は一つなんだから同じ方に向かうのは当然だろ?
いったいどうすればコイツは勇者として成長できるのか……
ちなみにすでに部屋の中には有翼族の姿は無かった。
ここ数日、有翼族を街で探すが全く見かけない、彼らは一体どこにいるのか……と思っていたが昨日ようやく気が付いた、街の上に小さな雲が停滞しているのを……きっとアレだろう。
全く接触を図れない、お姫様が来る前に話しておけばよかったな。
---
翌日
俺たちは一度、首都へ戻ることにした。
往復で半日程度、このフットワークの軽さも他の本戦出場者には無理な強みである。
迷宮探索に役立ちそうな魔道具を取りに行くのだ。
街を出た所で、勇者御一行様とバッタリ遭遇。ほとほと縁があるなこいつ等とは……
「は! ルカさ……うぐっ!!」
ミカヅキが睨みつけると勇者は止まる。
聞けば先日、強烈なハイキックをぶち込まれたらしい、さすがに懲りたか?
そのまま突っ込んでくれば確実にミカヅキの餌食になっていただろう。そうすれば勇者から賢者へ転職できたのに……
「あれ? エルちゃん達どこ行くの? まさかリタイアしちゃうの?」
「違います。その……資金調達です。余裕を見て1週間程の準備をするには懐具合が少々厳しいもので」
「そっか~、貸して上げても良いんだけど、そういうのってかえって迷惑かな?」
「いえ、ありがとうございます。どうしても無理な時は甘えるかもしれません。その時はお願いします」
信じられんな、あのプライドが無駄に高かったエルリアがこんな事を言うとは……この半年余りで本当に成長している。
それに比べて勇者……(以下略)
「そういうおぬしらは全員そろって何処に…………」
「そんな話はどうでもいい!! 小僧!! 魔法無効化の方法を教えろ!!」
「ル……ルカさん……あの……」
こいつらホントに良く予選突破できたな。纏まり無さすぎだろ?
「みなさん行きますよ、本当に時間が無いんですから」
エルリアが勇者と悪魔妖精を引っ張って行く。苦労すると人は成長するというが、なるほど納得だ。
---
--
-
その後、俺たちは首都へ戻り、食料の買い出しと迷宮攻略に役立ちそうな便利グッズを選定する。
なにせウチのギルドには女の子が多い、いくら待避所があっても年頃の娘さんたちを何日も盗撮空間に居させる訳にはいかない。
そこで簡易結界の魔道具が役に立つ、コレがあれば監視の目を掻い潜り不正を行うことも出来る。
いや、殆んどルール無用の条件だからあまり意味は無いが。
この世には魔家とかいう魔道具があるらしい、その名の通り持ち運びできる家だ。
普段は手のひらサイズで魔力を込めると膨らむ旅のお供だ。キャンプで使うテントや遊牧民の移動式住居とは全く違い、そのまんま家を持ち運べるらしい。
要塞龍を手に入れてから、その手のモノは必要無いと思っていたが、今は切実に欲しい。
もっとも欲しいからと言って、ホームセンターに行けば売っているモノでも無い。
せめて所有者が分かっていればレンタルしたものを……
「大丈夫だよ、そんな立派なモノ無くても、5日程度なんだし」
琉架がそんな事を言う、きっとみんな同じことを言ってくれるだろう。
俺としては彼女たちに少しでも快適に過ごしてもらいたいのだが、無い物は仕方がない。
せめて食事だけでも豪華にしたいので、高級食材を魔術で瞬間冷凍し、魔神器へ突っ込む。魔神器の中では氷が溶けることも無いのでいくらでも保存がきく。
その他の荷物もまとめて預かる。
後は全員に魔道具を持たせる。白には以前と同じく薙刀『風薙』を持たせる。
先輩には魔術反射の『龍紅珠輪』と、瞬間的に体を鋼に変える『鉄筋骨』を渡す。
「随分と防御寄りの魔道具だね?」
「先輩は前衛型ですからね、先輩とジークが並んでたら普通どっちを狙いますか?」
「………… それは100%私だね」
ジークは自分で見繕っていた、素早さを上げる靴『地上の流星』だ。いかにもイケメン剣士が装備しそうな物を自分で選びやがった。
それよりもその巨大な足にソレが装備できるのか?
「少々キツイが問題無い」
ぱつんぱつんだ……まぁいい、本人が問題無いと言うんだからな……
ミラには『月影』の他にもう一つ、水魔法を増幅させる杖『聖女の涙』を持たせる。
聖女の涙……ミラにピッタリだ。手にする姿は儚くも美しい……まさにミラの為に存在する杖だ。どっかのぱつんぱつんの賢王とは大違いだ。
俺と琉架とミカヅキは装備変更なしだ。そもそも俺と琉架は専用の魔器を複数持っているからな。
魔力を持たないミカヅキは魔道具を使えない、一人だけ仲間はずれみたいで可哀相だが仕方ない。
代わりと言っては何だが、俺の血液変数で表面を強化した箒を渡す。強度はタングステン・ブレード以上で鈍器の代わりにもなるし、勇者の攻撃だって余裕で防げる。もちろんお掃除にだって使える優れものだ。
「……………… ありがとうございます。マスター……」
物凄く微妙な顔をされた。
普通に武器でも渡せば良かったかもしれないな。
取りあえず準備はこんなものだ。
迷宮内で勇者と出くわした時に備えて、お姫様と勇者の調査結果を白から教えてもらうくらいか。
後はそれぞれ、来るべき決戦に備えて牙を研ぐなり休息するなり、自由な時間を過ごす。