第3話 リドル村での二幕
---霧島神那 視点---
ユキト村を出て3日目―
次の村リドルに到着。
道すがら現れた魔物を全て倒していたらずいぶん掛かってしまった。しかしこれで後発組も少しは安全に旅ができるだろう。
リドル村はユキト村に比べてかなり大きい村だ。店や宿もありそうだ。いくつかの建物が壊れているのが気になるが…
村に入ると例の如く妖精族が目敏く見つけてやってくる。緊張の一瞬だ、きっと大丈夫ユキト村が異常なだけだ。信じてるぞ!
「なんだお前!変な格好して魔王の手下か!?」
駄目だった…
やはり俺は妖精とは仲良くなれる気がしない。
「バカたれ、よく見ろ。普通の人間だ」
別の妖精がフォローした!? そうか…そうだよな! すべての妖精がこうじゃ無い、妖精にだって個性があるんだ。それに一部破壊された村の様子から、きっと魔王の配下に襲われたんだろう。神経質になるのも当然じゃないか。
「変な格好してても偏見の目で見るな! 彼だって一生懸命生きているんだ!」
…ちょっと褒めればすぐこの返礼。なぜこの世界では人族と妖精族が共存できるのだ? もし俺がこの村で生まれてたら絶対に排斥運動を起こす自信がある。
「いや~ すまなかったね兄ちゃん。こいつも悪気は無かったんだよ。ちょっと神経質になってるんだ」
その謝罪はお前の言葉に対するものじゃないよな? 自分の方が数倍失礼なことを言った自覚なし。またしても俺のストレスが溜まっていく。
なんとかして妖精共に意趣返ししてやりたい。
今ここに羽無し妖精が現れたら徹底的に残虐の限りを尽くして殲滅してやる。そして血だまりの中で高笑いをして一生消えないトラウマを与えてやる。
…おちつけ俺、そんなことしたら自分のトラウマにもなる。
異種族とはいえ、初めて人型種族を殺したことが心に引っ掛かっているのだろうか? いつもより血生臭い考えが浮かんでくる。
今気付いたが、破壊された家屋のそばに巨大な足跡がある。
「あぁ、あのゴーレム共はここから来たのか…」
そこそこ大きい村だから、多少の被害を出しながらも撃退に成功したのか。そして次にユキト村を襲おうとしていたわけか。
「おい兄ちゃん。今ゴーレムって…」
聞こえてしまったようだ。仕方ない正直に答える。
「心配するな。ユキト村の手前で殲滅した」
「殲滅って…兄ちゃんがやったのか?」
驚愕の表情を浮かべられる。あれ? こいつらもしかして気付いてないのか?
「当然だ。俺はトラベラー…デクス世界の魔導師だからな。魔導師ならアレくらいの敵…まあ、なんとでもなる」
「トラベラー!? 異世界人か!? てっきり変な格好した頭の可哀想な奴かと思ってた」
…このチビ、なぜ余計な一言を付け足す? 今度暴言を吐いたら顔面に全力デコピン叩き込んでやる。さあ掛かって来い!!
「異世界人の使う魔導ってやつはあのレベルの魔物も簡単に倒せるのか? スゲー!!」
発言が尊敬モードに変った。クソッ! なんてヒット&アウェイの上手い奴だ。こんな村滅びてしまえ!!
「この村には魔物素材の買取店はあるか?」
「ああ、あそこ、広場の手前にあるあの店だ」
「そうか」
それだけ聞くとさっさと歩き出す。すると背後から例の「ピロロ~」って謎の音が付いて来る、何かストーキングされてる。追跡スキル ゼロだなこの種族。
店につき素材を入れている袋ごとカウンターに置く。
ドサッ!
「うわぁ!?」
作業していた店員が驚きの声を上げた。
「これ全部、買い取ってくれ」
「あ、あぁ、ちょっと拝見…ゲッ!?」
ゲッとはなんだ、道すがら出てきた魔物を全部倒して売れそうな物を苦労して剥ぎとってきたんだぞ。何度吐きそうになったことか。
「これはツノツキグマの角? こっちはハウルライガーの大牙? ラプトルの爪に王蜥蜴の皮か? しかもこの量…」
「とりあえず丈夫そうな部位を剥ぎとってきたが、どう? 売れる?」
「あぁ、これは凄いぞ、これだけあれば30万ブロンドになるぞ」
ちなみにデクス世界の共通通貨単位はEN。ブロンドはシニス世界の通貨単位だ。金髪のことではない。
たしか1ブロンド=約1ENだったかな? そこそこな額になったな。
「んじゃ全部買い取ってくれ、それとこの村の宿は一泊いくらだ?」
「一泊二食付きで8000~10000ブロンドぐらいだな」
30人分ってトコか、まあ十分足りるか。
俺は寝袋があるだけ他のやつより恵まれてるだろうがそろそろベッドで寝たい、風呂にも入りたいのでご宿泊だな。
「スゲーな兄ちゃん、たった一人でこれだけ仕留めたのかよ」
「なあなあ、魔導の魔術みしてくれよ、なあなあ」
ウザい…ストーカーが監視対象者に声を掛けるな。もっと俺の事を調べつくして半年後ぐらいに声を掛けろ。
「それだけの腕があれば色んなギルドから引く手数多だろうな」
ん? ギルド? マンガなんかでもよく聞く単語だ。そういえば昔やったゲームでは自分でギルドを作って依頼をこなして金を稼いだな。
「ギルドってのは自分では作れないのか?」
「もちろん作れるぞ。ただし首都のギルドセンターでのみだがな。メンバーが50人以上でギルド、以下がクランと呼ばれるらしいが明確には違いはない。50人以下でもギルドを名乗ってるやつらもたくさんいる」
「それに所属しないと仕事は受けられないのか?」
「そんなことはない自由に受けられる。が、依頼内容にギルドランクが付いているものがあるから、それは受けられない」
なるほどそれは習わなかったな。まあ創世十二使の使命は魔王討伐だからギルドは関係ないのか。
ん? まてよ…
「なぁ、魔王討伐の依頼ってあるのか?」
「ぶっ!!!」
「うわっ!? 汚っ!」
「ああ、すまんすまん。魔王討伐ってのは最古の依頼だ」
「最古の依頼…か」
「いつから出ているのか分からない、恐らくギルドセンターが出来た時に出されたものだ。それから何百年、何千、何万って冒険者が依頼達成を試みたが、魔王の袂まで辿り着けた者すらいなかったらしい」
「あ~僕も昔話で聞いたな、500年くらい前、当時の勇者が依頼を受けて旅立ったって」
「そうそう当時の最強パーティーで第4魔王に挑んだけど誰も戻らなかったって話だな」
勇者…あ 思い出した。たしかシニス世界には勇者がいるってオリジン機関で習ったな。
― 勇者 ―
シニス世界にたった一人だけ現れる、唯一魔王と対等に戦える存在。何故か人族からのみ生まれる。
勇者はおよそ25年周期で生まれ、次世代の勇者が誕生すると先代は新しい勇者に力を継承し自身は力を失い一般人に戻る。
勇者専用ギフト『魔王殺し』を持っている。
勇者の力は代々受け継がれていき、新しい勇者は先代勇者より必ず強くなっていくが、勇者が歴史に現れて1000年以上たった今でも魔王を討伐した勇者は一人もいない。
なんか授業ではやたら辛辣なコト言われてたな。
勇者は役立たずだとか、そばにいると危険な目に会いやすくなるから絶対に行動を共にするなとか。
勇者は力を熟成させるためワザと厄介ごとに首を突っ込むそうだ。
まあ、魔王を倒せない勇者に期待して、1000年裏切られてきたら評価が厳しくなるのも当然か。俺も自分のこと勇者って言わないようにしよう。
てか今の勇者って何歳ぐらいなんだろう? 魔王討伐を目指せばいずれどこかで出くわす可能性も十分あるな。疫病神みたいに厄介ごとを運んできそうだし気を付けよう。
「そもそもその勇者は何で第4魔王に挑んだんだ? あの魔王は自分の領域から一切出てこないって有名な奴だろ? 依頼だってどの魔王の討伐って指示は無かったはずだが」
引きこもりの魔王。そんな魔王が2~3人いたが、第4魔王はその内の一人か、たしか「無害な魔王」って呼ばれているやつだな。
人族の脅威にならない魔王ならとりあえず放置でいいだろう。やはり倒すなら遊び半分で戦争仕掛けてくる第11魔王だろう。妖精族出身の魔王を討伐…うん、それだけでもわずかにモチベーションが上がる。
ずいぶん長話をしてしまった。さっさと宿へと向かう。
ようやくたどり着いた宿屋のご主人のテンションが妙に高い、というよりやたら馴れ馴れしい。聞くと彼はデクス世界からの入植者らしい。
「いや~神隠しにあって早や2年、久しぶりに同郷者に会えたよ。そーだ○×○って漫画知ってる? いい加減連載再会した?」
本日2回目のウザい…こっちは疲れてるんだ。ってかその漫画、作者が病気だとかで、休載したぞ、たぶん2年前から話ほとんど進んでないと思う。
だがこんな事を話したら絶対に捕まると思い適当に嘘をついて誤魔化す。
「俺も1年以上マンガ読んでないから知らないですね、でもこの後この村にはデクス世界の学生が次々やって来るだろうからそいつらに聞いてみて下さい。きっと知ってます」
「そうかぁ、楽しみだなぁ」
1年ぶりにオリジン機関から帰ってきた時の俺と同じ気分なのだろう。だが残念ながらその期待は裏切られるだろう。
俺にも期待していた時期がありました。
「ここに30万ブロンドある、俺と同じ学校の制服を着たら奴らが来たらこれで泊めてやってくれ」
それだけ伝えるとキーを受け取り部屋へと向かう。
ずいぶん俺らしくない行動だ。イイ人アピールみたいで虫唾が走る。俺のことは口止めしておこう。
だがサービスはここまでだ、すべての魔物退治と素材回収は想像以上に時間がかかる。かなりのハイペースで来たつもりだが丸3日も掛かったのは予定外だ。
少なくともギルデロイまでは急がなくてはならない。
「おぉ、ベッドだ。久しぶり…今夜はお前を離さないぜ…」
………やはり疲れているらしい、さっさと風呂入って飯食って寝よう。
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チチッ…チチチッ
小鳥の鳴き声で目を覚ます。実に爽やかな目覚めだ。
食堂で朝食を取りすぐに宿を出る。
昨日見れなかった村の中を一通り回る。なにか足代わりになるものはないのか? 自転車でも馬でもダチョウでも何でもいいから。
見つかったのは馬だった。しかしこの世界の移動手段としての馬は、買取り~目的地で売却、が基本である。最終的にはお手頃なお値段なのだが、最初にある程度の金額を用意しないといけないのが不便だ。
結局歩くのが早いか…
今日からは魔物は倒すが、出来るだけ時間の掛かる剥ぎ取りはせず、スピード重視な移動を心がける。
「いや…ある程度は金も用意しておいた方がいいか…」
まだ朝早い、妖精族はまだ出てこない実に平和だ。昨日はこんな村滅びろとか思ったがいい村じゃないか。
爽やかな気分で村の外へと踏み出すと…
一人の女の子と出くわした。
「ッ…編入生」
もの凄く睨まれた。この眼力見覚えがある、琉架のクラスメートだ、たしかエルリアだかエルレアだか、そんな名前だった。よくこの目で琉架の事睨んでいたので覚えている。
琉架は日常的にこの目で見られていたのか、震え上がるね、俺ならとりあえずゴメンナサイする。てか結構本気でその目で見ないでほしい。
「そう…あなたも来てたのね…」
はい…こっちの世界に来てましたゴメンナサイ。
「ずいぶんと余裕みたいね…」
えええぇえぇぇぇ~? からまれてる? 何で? 俺たち喋ったこと無いじゃん?
「なにも言わないのね」
何かコメント求めてたの? だんだんイライラしてきた、こいつはいったい何が言いたいんだ?
そもそもこいつは俺の唯一の友達を睨みつけるような奴だぞ? 俺の女神になんてことしやがる!!
今この村を出るとこいつのすぐ近くで旅しなきゃいけなくなる、こいつとだけは絶対に旅したくない。
俺の稼いだ金でこいつを休ませるのは少々癪だが、リドル村でご休憩していってもらおう。
「ずいぶん疲れが溜まっているようだな、今ならこの村の宿に無料で泊まれるぞ。なんでも同郷の誼だそうだ」
「ふん! そんな余裕は無いわ! あなた危機感が足りないんじゃないの?」
「はぁ、危機感が足りないのはどう見てもお前の方だ」
「なんですって!?」
もう、いちいち怒鳴らないでくれ。頭痛がしてきた。
「体力低下、注意力も散漫、足元もおぼつかない。お前全然休んでないだろ? その状態で旅を続けるとか正気の沙汰じゃない」
「そ…そんなことあなたに関係…」
「それに………少しにおうぞ」
「!!」
本当に少し臭う。何の装備もなく3日も歩き続ければ当然だろう。こいつも一応女だ、これは相当効くだろ。
「次の村に付く頃には更に酷いことになっているだろう。それでも構わないなら好きにするがいいさ。たぶん次の村まで辿り着けもしないだろうがな…」
それだけ告げて、逃げるようにその場を去る。またキャンキャン吠えられても面倒だからな。
しばらく進み振り返ると彼女は立ち尽くしていた。少々言い過ぎたかもしれないが間違ったことは言ってない。彼女自身もそれは分かっているはずだ。
もう来ないだろうと確信して、俺は旅の歩を進める。
---エルリア・バレンタイン 視点---
ゆっくりと湯に浸かる。つかれが体から溶け出していくようだ。
霧島神那のことを思い出す。
あいつはワザと私を挑発して宿で休むよう仕向けていた。それぐらい私にだって分かる。冷静じゃなかった。ただ相手が編入生というだけで敵対心が沸く。
編入生、才能ある者。
私は彼らがキライだ。
自分には生まれ持った特別な才能など無い、いや私だけじゃない。特別な才能を持って生まれてくる者など全人類の1%にも満たない。ほとんどすべての人間がゼロから生まれ努力を重ねていくのだ。
才能のない私は誰よりも努力してきた。努力すれば成績も魔術も向上し、怠ければ落ちる。とてもシンプルで分かりやすい理屈だ。事実私は中等部1年では勉強も魔術も1位だった。
しかし2年生に上がると彼らがやってきた。優秀だと噂されてる編入生。不安はあったが自分が負けるはずはないと思っていた。
…現実は残酷だった…
一学期中間試験で有栖川琉架はあっさりと私の努力を上回った。全教科満点で。
それだけではない能力検定「火力測定」で彼らは高等部を含む全校の過去レコードを大幅に塗り替えてワン・ツーフィニッシュを決めた。彼らの持つ才能とは別の分野であるにもかかわらず。その頃になって私はようやく理解した。彼らは持つ者で、私たちは持たざる者なのだと。
最初は純粋にライバル心だったと思う。しかし時が立つに連れ私の感情は憎悪に変わっていった。
完全な逆恨みだ、彼らには何の落度もない。強いてあげればもっとエリートらしく振舞っていて欲しかったくらいか。
彼らと私たちは別の生き物だ、それを同じ教育機関に入れるから軋轢が生じる。
実際、彼らには友人が居ないようだった。私もあまり人のことは言えないがあそこまで孤立していない。
しかしそれも納得できる、彼らこそ現行人類の先をゆく新人類なのだ。弱者である我々凡人は寄り集まって仲間同士で助け合わなければ生きていけない。しかし強者である彼らに弱者の仲間など足手まといでしか無い。
ずっとそう思っていた…
あの時の有栖川琉架を見るまでそう信じ込んでいた。
この世界に来てすぐ、私の頭の中は混乱の極みにあった。何も考えることが出来ずただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
そんな中彼女は今すべき事をいち早く理解し、皆に説いた。
しかしそんな彼女の声は僅かに震えていた。
薄暗い森のなかでツノツキグマに襲われた時、私が何が起きたのか確認しようとしている間に彼女は誰よりも先に走りだしていた。そしてあの巨大なクマを蹴り一発で仕留めたのだ。
その後さらにヘコまされる。
たしかに私の治癒魔術能力は高くない。しかしそれでも中等部2年の中では1位だ。その私でも出血を止めるぐらいしかできなかった怪我を彼女は一瞬で癒して見せた。
1秒もかからず、死にかけていた男性はまるで最初から怪我などなかったかのように復活した。
村に付いた後、私は焦っていた。圧倒的な才能を目の当たりにして、今まで自分が積み上げてきたものが全て否定される気がしていた。
私が今までしてきたコトは全て無駄だった。
そんなことになったら私はもう二度と立ち上がれない。そう思うと一秒でも早く彼女のそばから離れなければならない。どんなに危険でも自分の力が通用することを確かめなければきっと壊れてしまう。
村を出ようとする私を、彼女が止めに来た。
焦っていたあの時の私は最悪なことをした。
私を止めに来た彼女の手を力いっぱい叩き、自分でも驚くぐらいの殺気を彼女に叩き付けた。
彼女はまるで小動物のように怯えながら、それでも私を思い留まらせようと懸命に声を絞り出していた。しかし私は彼女の助言だけは絶対に聞く訳にはいかない。
無視して行こうとしたとき気付いた。
彼女が崩れ落ち泣いているのが…
そこまできてようやく理解した、有栖川琉架はとても強く、そしてとても弱いことに…
本当はずっと前からわかっていた筈なのに、才能だけで全教科満点なんて取れるはずない。現に霧島神那の順位は下から数えた方が早いくらいだった。
彼女は才能に恵まれただけじゃない、誰よりも努力していたのだ。
今も純粋に私の事を心配していただけなのだ、目が合えば睨みつけていた私を…
それなのに私は最低最悪の行為で返した。
自己嫌悪、自分がこんなにも醜い人間だったなんて…
「ふぅ…」
風呂から上がりベッドに倒れこむ…
すぐに旅立つつもりだったが、もう起き上がれそうにない。
「もう取り返しがつかない…宣戦布告してしまった…」
ならばせめて自分のできることをしよう、自分の築き上げてきたものが偽物でなかったと証明するためにも。
エルリアはそのまま泥のように眠りに落ちて行った。