第367話 終焉の日・後編
「琉架、話は終わってからにしよう」
「うんそうだね、それじゃ……」
琉架の手がそっと俺の頭に添えられる…… てか撫でられてる……
イイなコレ、6時間もこれを堪能できるとかマジヘブンじゃん!
「時由時在 『虚数世界』」
ピキィィィィィン―――
周囲からすべての音が消えた…… ついでに目の前が真っ暗になった。
やはり光の運動が極限まで落ちると暗闇になるのか…… これから寝る俺には都合が良い。
でも身体は普通に動かせるんだな、俺は俺の時間を保っているお蔭なのか…… ま、検証はまた今度でイイか、今は女神の太ももの感触を楽しみつつ安らかなる眠りにつこう。
「でもせっかくならもっと恋人っぽくイチャイチャ♪ラブラブ♪した感じで眠りたかったな……」
いや…… 多くは望むまい…… 今はただ琉架の柔らかな太ももの感触を楽しもう。
イチャラブは未来の楽しみってコトで。
ナデナデ……
「きゅぅん……!///」
…………
ナニ今の可愛い鳴き声? この全てを置き去りにした加速世界に小動物でも迷い込んだのだろうか?
なんとなくもっと鳴かせてみたい気分…… 鳴かぬなら鳴かせてみせようナデナデで! 確かさっきはこう太ももをナデナデと……
「はぅぅっ///」
…………
「え~と…… 琉架さん? もしかして認識してる?」
「う……ん/// ゴメンナサイ…… でも太もも撫でられるとくすぐったいよ///」
ナゼか謝られた…… さっきの俺の痛々しい妄想を勝手に聞いてしまったコトへの謝罪だろう。
てか、ナデナデで留めておいてよかった、ペロペロしてたら取り返しの付かない事になるトコロだ、不幸中の幸いだな。
「琉架まで加速する必要なかったんじゃないのか?」
「私もそう思ったんだけど…… でもそれをするとせっかくの膝枕が固くなっちゃうんじゃないかな……って思って……///」
なんて良い娘なんだ! 6時間も膝枕するって結構覚悟がいる選択だぞ? 俺なんかの安眠のためにその苦痛を厭わないとは!
「あのね神那……///」
「はい」
「そういうのは…… 全部終わってからね?///」
「そういうの?」
「だから…… 恋人とか…… イチャイチャとかラブラブとか……///」
確約キターーーッ!! 一見死亡フラグにも見えるけど、俺はアレを信じてないから恋人予約ってトコロだな! いや、コレはもはやプロポーズだ!
きっと今琉架は顔を真っ赤にして照れてるだろう、見れないのがとても残念だ。
「ほら神那、早く寝て! 神那が勝たなきゃこ…こ…恋人にもなれないんだから///」
「そ……そうだな、俺達の将来のためにも勝たなければ!」
「しょ…将来!!///」
きっと琉架は頭から湯気が昇ってるだろう、てか俺の顔も赤くなってるかも。
そんな可愛い琉架の姿を想像しながら眠るのも一興だな。
…………
ヤバい! 興奮して眠れない! ギンギンだ!
みんなの期待を背負っておいて「眠れませんでした」じゃ洒落にならん!
血液変換で体内に精神安定剤と睡眠薬を生成して強引に眠りにつこう、それでもダメなら全身麻酔で……
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「ん~~~~~っ! よく寝た!」
……と、口では言いながら、俺はまだ起き上がれずにいる…… もうちょっと琉架の太ももの感触を味わっていたい。
この魅惑的な枕が俺の魂を掴んで離さないんだ!
いやいや、さっさと終わらせて家に帰ってイチャラブしよう! そうしよう!
「カミナ…… なんか下手なコント見てる気分なんですけど…… ホントに寝てたの?」
まぁ皆から見れば正にコントだろう、寝転がって3秒後に「よく寝た」とか言ったら。
「あぁ、全快ってワケじゃないが十分回復できた」
完全回復するには琉架を抱きまくらにして胸に顔を埋めて寝る必要がある、いつか試そう。
「ホントに?」
「何だよその疑わしい者を見る目は?」
「だったらなんでルカは顔を真っ赤にしてるの?」
「え?」
「…………///」
まさか6時間顔を赤くしてたのか? いくら琉架でもさすがにそこまでは…… じゃあ俺が寝てる間に何かした?
…………
琉架にならナニされても良い!
「もう! それはいいから神那、終わらせて帰ろう?///」
「そうだな、このくだらない戦いを終わらせよう」
倒すべき敵はすぐそこにいる、自分から魔神器の中へ逃げ込んだ…… そういうのを袋小路っていうんだぜ?
『バカな…… 時間操作だと? そんなモノが存在する筈が……』
何時間前の話をしてんだテメーは、情報が古いよ。
「神血・超高密度大質量天体生成……」
「? うわっ!?」
ズズズズズ……
第九階層から大量の血液が飛んでくる…… 予告無しにやったからみんなを驚かせてしまった。
流れ落ちる滝を逆再生したような血液は頭上に来るとそこで渦を巻き、俺の真上に収束していく。
さきほど見せたE・MBH規模が違う。
『バカな!! そんなモノを使ったら地上にも影響が出るぞ!!』
「バカはお前だ、知らないようだから教えてやるけど、魔神器の中と外の通常空間とは位相がずれてる、外でナニが起きようとも魔神器の中には影響がないのと同じに、魔神器の中でナニが起きようと外には影響を及ぼさない。
つまり遠慮無用でぶっ放せばいい!
設計図を盗んでただ作るだけだからそんなことも知らなかったんだな」
地上でマイクロブラックホールを発生させるより、遥かに安全に使える。
エネ・イヴェルトは自分から進んで処刑台に上って行ったのも同じだ。
『ま…待て!! そうだ取引しよう!! お前の望むものを……!!』
小者化したなぁ…… これならマリア=ルージュの方が余程立派なボスをしてたぞ?
しかし俺も悪魔と呼ばれて久しいが悪魔ではない、条件次第では取引に応じてやってもいいぞ?
「E・MBH」
あ
やっちゃた……
…………
50代目勇者を女の子勇者にしてもらおうと思ったんだが……
バカ勇者の女版とかウザそうだし…… まぁいいか。
「琉架、停止結界で蓋をしてくれ」
「うん、りょーかい」
「ミラは更に外側に結界を張ってくれ」
「はい」
「白は『摂理の眼』で奴が逃げ出さないよう監視」
「ん……」
エネ・イヴェルトが作った大容量魔神器は通常版より出入り口のサイズがかなら大きいみたいだから時間停止で蓋をし、それを結界で覆い、さらに全てを見通す目で監視する。
逃げられたら厄介だしね?
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---エネ・イヴェルト 視点---
マイクロブラックホールが撃ち込まれた……
まさに問答無用だ、分かっていた…… あの男に容赦など無い事は……
ブラックホール…… 私の魂を直接消滅させる可能性のある攻撃……
コレを警戒していたからこそキリシマ・カミナの魔力を最優先で削っていたというのに、まさかあのような手で回復させるとは……っ!
イシュタの身体を捨て魂の状態になれば重力の影響はほぼ受けない、しかし身体を捨てるのは大きなリスクだ、この身体を捨てたら私が入り込めるのはエネ・イヴだけになる……
そしてエネ・イヴは魔王たちに守られている……
身体を失うということは実質的な負けとなる、あの魔王たちに対抗する術が無くなるのだ……
たとえ魔王対策で勇者を作っても役には立たない事は1200年の勇者の歴史を見れば火を見るより明らかだ。
しかしここで身体を捨てなければブラックホールに飲み込まれて消滅するだけ……
初めから選択肢など無い……
ピシッ!! ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
天体が重力崩壊を起こしブラックホールが生まれた。
周囲の物体、空気、そしてエーテルすら猛烈な勢いで吸い込み始めた。
悩んでいる時間はない!
イシュタの身体を捨て魂だけの状態になる。
魂には僅かながら重さがあるため強力な重力に引かれる……
だが事象の地平面を越えない限り脱出は可能だ。
『ぐっ!? エーテルが乱れて……!!』
魔神器内の全てのエーテルがブラックホールに向かって落ちていく、それに流されて自然とブラックホールに近づいてしまう。
大きく迂回するルートを通っているが、時間が立てば立つほどブラックホールの質量が増え重力が増す…… 時間が…… 無い!!
メキメキッ!! バキッ!!
神星から持ち出した遺跡が次々とブラックホールに飲み込まれていく。
『くっ!! 次元連結装置が……!!』
取引の切り札だった次元連結装置が破壊された……
だがもう少しで……
『っ!!?』
出られない……!?
出口のすぐ先に何かがあり塞がれている?
黒い……壁?
『なぜ抜けられない!?』
実体を持たない魂なら壁抜けなど造作も無いこと、しかしこの壁をすり抜けることができない!
『そうか…… これはアリスガワ・ルカの時間停止能力か……』
時間が止まった空間には絶対に干渉できない、たとえ魂の状態でもそれは変わらない……
『フッ…… 容赦もなければ付け入る隙もないという訳か……』
バキバキバキッ!!!!
周囲の遺跡も次々と黒い穴へと落ちていく…… 次第に魂自体も重力の影響を受け始めた。
『ここまで……か……
あの二人を読み間違えたのが最大の敗因だったな……』
キリシマ・カミナの血液変換能力……
ブラックホールすら生み出せる能力など個人が持ち得ていいものではない、その気になれば宇宙すら滅ぼせる力だ……
アリスガワ・ルカの時間操作能力……
不意打ち以外に倒す術が無いが、それすら予知能力で防がれてしまう、発動されてしまえば誰にも止めることができない力……
あの二人が生まれてくる前に行動に移るべきだったな…… 何故アレほどの能力者がこの時代に生まれてきたのか……
まさか古代神族が私を殺す為に生み出した?
……フッ、それだけは無いな…… あの老いぼれ達にあれ程の能力者を生み出す力など無かった……
だったらエネ・イヴが仕組んでいた?
いや…… 私の様に魂だけで動けるのならまだしも、呪いで魂まで縛られていた彼女には不可能だ…… 所詮はただの推測だな……
しかしあの二人さえ居なければ……
『こんな結末になることを知っていたのなら…… もっと別の道を選択でき……』
―――ブツッ!!!!
エネ・イヴェルトの魂と意識は闇に飲み込まれ永遠に消滅した―――
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ピク!
「終わり……ましたね」
エネ・イヴが何かを感じ取り言葉を発した。
「分かるのか?」
「はい、どうやらそのようです……」
最後の神族だからだろうか? それとも『終焉の子』だからだろうか?
まだブラックホールは蒸発してないようだが、エネ・イヴェルトは飲み込まれて消滅したのかな?
まぁ念には念を入れて、魔神器内を全破壊してしまおう……てか、途中で止めるの無理、他にも危険な遺物がわんさか在りそうだし……
バキッ! バキバキッ!!
「? 何の音?」
「魔神器の空間自体がブラックホールに飲み込まれてるんだ」
「それって…… 大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
多分……
バキィィィン……
何かが割れるような大きな音を最後に不協和音が止んだ。
琉架が停止結界を解除するとそこには何も無くなっていた。
魔神器ごと飲み込まれたのか…… 蓋しといて良かったぁ!
「お……終わったの? ホントに全部……?」
「あぁ…… 終わった、これで世界も救われたな」
「そっかぁ…… ふぅ……」
琉架の髪色が元に戻った、すると同時に……
「はれ?」
「おっと」
そのまま倒れそうだった琉架を支え抱き上げた。
「はわっ!? お姫様抱っこ!?///」
よくよく考えれば琉架は『限界突破』状態を6時間以上も維持し続けた事になるんだな。
他の皆から見れば十数分程度だが。
世界の為に…… いやさ! 俺のために随分と無理をさせてしまったな。
「お疲れ様、琉架」
「うん…… アリガト神那……///」
琉架が照れてる…… あぁ、癒されるなぁ、疲れが吹っ飛ぶよ。
「さて、それじゃ帰ろうか?」
英雄の凱旋だ! もちろん人前に姿を晒す気はないが……
「………… カミナ君、私も疲れて歩けないです、なのでお姫様抱っこを所望します。
ダメなら結婚でもいいです」
アーリィ=フォレストが妙な二択を迫ってきた……
もし結婚を選択したらお前は這って帰る気か?
「フハハハハ♪ 余は肩ぐるまでも良いゾ?」
「あ…… 白も…… それでいいです……」
ウィンリーと白は肩ぐるまを要求してきた……
お姫様抱っこと肩ぐるまって…… 同時にできなくはないけど見た目が微妙だな、お姫様抱っこの特別感が薄れる。
「カミナ様…… 私もお姫様抱っこがいいです……///」
今度はミラが…… おい、このパターンは……
「マスター、私は自分で歩けますけど、お姫様抱っこを体験してみたいです」
とうとう自力で歩けるミカヅキまで乗ってきた、ってことは当然……
「わっ…… 私はホントに歩けないくらい消耗してるんだからね! 勘違いしないでよねっ!」
リリスがツンデレっぽくお姫様抱っこを要求…… この流れなら当然だな。
「あ……あのぅ……」
「?」
遠慮がちに声を掛けてきたのはエネ・イヴだった。
エネ・イヴ! お前もか!!
てか、お前は特に何もしてないんだから疲れてないだろ?
「あ、私は抱っことかはいいですからレビィの治療を……」
…………
おぉ! 完全に忘れてた!
「ハッハッハッ! 大変だなカミナよ、しかしこれも禁域王の甲斐性だ、苦労するがよい!」
ジークが他人事だからって楽しそうにのたまう、テメーに言われなくたってそれくらい分かってる!
疲れた妻達を労うのは夫の勤め! やってやろうじゃないか!
当然一人ずつな?
皆のダーリンは一人だけしか居ないのだから。
あ、レビィはジークが連れてってくれ、彼女は俺の嫁じゃないからな。
「んっ、まぶし……」
「お?」
東の空に太陽が昇ってきた……
人型人類の夜明けだな……
ようやく人類は神族の呪縛から解かれるんだ……
その後……
ゲートを開きティマイオスへ嫁達をピストン輸送、ちゃんとそれぞれの希望を叶えてやった。
塔を降りて人々に世界滅亡回避を伝えなかったのにはワケがある。
魔王がそんな事を言っても誰も信じないだろうし、称賛を浴びるコトも無いだろうからな……
何より塔を降りたら乳首が三つもある元勇者と鉢合わせになるコト必至だからな、俺は疲れてるんだ、あんな奴の相手なんかしてられるか。
コトの顛末はリリス経由でレイフォード財団から世界中の人々に知らせてもらおう。
戦いの日々が終わった事を……
こうして魔王の半数が倒され、多くの人々が犠牲となった大変革は終焉したのだった……