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レヴオル・シオン  作者: 群青
第六部 「神の章」
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第366話 終焉の日・前編


---エネ・イヴェルト 視点---


 何故こんな事になった……?

 長い時間をかけて準備し、そして狙った通りに物事が進んだ筈だった……

 私の勝利は目前だった……


 だがアリスガワ・ルカの存在は予想外…… いや、想像を絶していた。



 ズギャアアァアン!!!!



 攻撃が全く認識できない……

 神星の機能を使っても攻撃を食らう瞬間まで何も反応がない……

 そんなことがあり得るのか……?

 たとえ光速や透明の攻撃で認識できなかったとしても、次元レーダーのログには記録が残るはずだ……



 バギイィィィン!!!!



 だが残っているログは私が攻撃を受けたという結果しか記されていない……

 アリスガワ・ルカの攻撃には反応しないのだ……



 ベキィィイ!!!!



 奴らはトドメを刺しに来ている……

 神星の全機能を使えば解析できるかもしれないが、そんな時間はドコにもない……

 むしろ時間に追われているのは奴らの方…… 最短で殺しに来るはずだ……



 ビキィッ!!!!



 あの攻撃を止められるのは『絶対無敵(インヴィクティア)』だけだ、しかし全身を覆えないのは致命的すぎた……

 ギフトを部分展開してもそこを避けるように攻撃がやってくる……

 とてもじゃないが対応できない……



 ギャアァァン!!!!



 フザケルナ!!

 私は4800年以上前から戦い続けてきたんだぞ!! それを20年も生きていない小娘一人に潰されてたまるか!!


 右腕内部に隠されている超高出力レーザー兵器を起動……



 ズガガガガガガガガガッ!!!!



 その瞬間に右腕に攻撃が集中する…… 起動する暇さえ無く右腕はへし折られていた……


『こんな…… こんな所でぇ!!』



 バキイイイィィィィン……



 その時…… 胸部装甲が破壊された……


 鎧の中には仮想体と、その中央に設置されている心臓が丸見えになっている。


『や……やめろぉーーー!!』


天照(アマテラス)…… つらぬけ!」




 ドシュッ!!




 アリスガワ・ルカの攻撃は気付いた時には心臓を貫いていた……

 そんな…… バカ……な……



---



 シュウウウゥゥゥーーーン―――


 琉架の刀がカオスの心臓を貫くと同時に何かが止まる様な音がした。

 地上にはまだ白い霧のようなモノが幾つも見えるが…… ちゃんと世界崩壊は止まっただろうか?


「次元連結装置が機能を停止すればいずれトンネルは自然に消滅するハズです。

 恐らく数時間で……」


 エネ・イヴの話だと数時間で今開いているトンネルは全て消えるらしい、しかし世界中にトンネルが開いたため空間が不安定になっているらしい。


 安定には数年かかるかも知れない……とのコト。

 まぁ世界が崩壊しないなら取りあえず一安心だ。


「さて…… それじゃ……」


 帰るか…… と、言いだすのは素人の仕事だ。

 まだやるべき事が残ってる、それはエネ・イヴェルトにトドメを刺す事だ。

 普通なら心臓を破壊すれば終わりなんだが、この身体はエネ・イヴェルトのモノでは無い。

 アイツの魂は未だに健在のハズ、それを仕留めない限り完全勝利では無い。


 しかしココで問題になってくるのはどうやって魂を消滅させるのか? と言う問題だ。

 反物質を創ってぶつければ本当に殺せるのだろうか? いや、当たらないだろアレ、魂は物質じゃない、グリムが倒せたのはあくまでカオスに憑りついていたから……

 そもそもこの話が事実とも限らないし、それよりももっと確実な手を使うべきか……



 ガシャン!



「ん?」

「なに? 今の音……?」



 シュゥゥゥーーーウウウン―――



 何か聞こえる…… さっきの停止音とは逆に後半が上がっていく感じの音だ、機械を立ち上げた時みたいな……

 嫌な予感しかしない。


「コレはまさか……」


『みごとだ……』


 !? エネ・イヴェルトの声?

 声はするのに姿は見えない……


 てか、まさかお褒めの言葉を頂けるとはな、てっきり「許さんぞ貴様」とか「逃がさん…お前だけは…」とか恨み言を言われると思ってた。


『だが…… ツメが甘かったな……』

「! そうか、魂の状態で魔神器の中に逃げ込んだのか」


 確かに生物が入れない其処に逃げ込まれると手が出せないな……

 そして次元連結装置を再起動させたのか、しかし身体を失ったアイツがどうやって……


「あぁ…… そういうコトか……」

「え? なに? 神那、もしかしてよくないニュース?」

「あぁ、考え得る限り最悪の状況だ」


 クソッ! さっさと次の手を打っておくべきだった!


「アイツが今まで使っていた身体、エネ・イシュタは首から上しか無かった。

 首から下は魔神器に保管されてたんだ。

 その身体を使って次元連結装置を直接操作しているんだ」


 ヤロー、脳みそにしか憑りつけないとかやっぱり嘘じゃないか!


「しかし一つ納得がいかん、次元連結装置を起動するためのエネルギーはドコから来てる?」

「まさか…… 霊子反応炉?」


 どうやらエネ・イヴには心当たりがあったらしい。


「霊子反応炉?」

「えぇ…… 神星に備え付けられている緊急用エネルギー供給機関です」

「緊急用?」

「はい、過去それが使われたという記録は無いのですが…… 霊子…… つまり魂を燃料にしてエネルギーを得る炉です」


 魂を燃料に……? そんなモノがあるなら先に教えといてくれ!


「霊子反応炉が暴走した場合、宇宙開闢に匹敵するエネルギーが発生する……とかなんとか……」


 宇宙開闢…… んなアホな。

 どんなエネルギー効率だよ、身を削って反物質を創ってたグリムが浮かばれないな。


「つまりコレがエネ・イヴェルトの最後の切り札…… 私たちはまたしても世界を人質に取られてしまったんです」


 いや、それは多分違う、既に魂を半分以上失っているエネ・イヴェルトが残り少ない魂を燃料に捧げるのは自殺行為だ、コレ以上は自我が保てないと本人も言ってた…… 嘘かもしれないけど……

 だがこの状況でそれを使ったということは……


『私の要求はただ一つ、エネ・イヴの引き渡しだ。

 それが叶えられれば霊子反応炉は停止しよう、私もこれ以上魂を失いたくないからな……』


 嘘くさ…… たとえ取引に応じてもエネ・イヴェルトが霊子反応炉を止めるとは思えない。


「わかりました…… その要求に応じます」

「え?」

「ちょっ!? 待ってくださいエネ・イヴ様!!」

「いいのですリリス、こうしなければ世界は滅びてしまう…… 私は古代神族(レオ・ディヴァイア)最後の生き残りとして世界を次の世代へ無事譲り渡す責務があります」


 あれ? エネ・イヴは他の神族たちがお前の『進化神化(ディヴァイアス)』で自分たちを強制的に進化させる神類補完計画を企ててたこと知らないのか?


「私自身を囮にすればエネ・イヴェルトは必ず出てきます…… 彼が私に取り憑いたら私ごとで構いません、こんどこそ必ず滅ぼしてください」

「エ……エネ・イヴさま…… そんな…… そんなことできません!!」


「おい、お前らちょっと待て、勝手に話を進めるな」


 エネ・イヴとリリスが演劇を始めた、自己犠牲の精神は素晴らしいが俺の目の前で美女が犠牲になるのは許さん。


「もうこの世界には神は必要ないのです、居ても争いの元になるだけ……

 私もエネ・イヴェルトももう居なくなるべきなんです……」

「嫌です! 私はエネ・イヴ様に生きていて欲しいです! 絶対に認めません!」


「だからお前らちょっと……」


「私のために泣いてくれてありがとう…… でも、もう良いのです……」

「うぅ…… どうしてもと言うなら私も一緒に……!」


「話を聞け」



 ビシッ! ビシッ!



「あぅっ!?」

「あたっ!!」


 エネ・イヴとリリスにチョップ、話を聞けお前ら。


「ぃた…… 何が起こったのですか?」

「カ… カ… カミナ…… なんて恐れ多いことを!」


「黙らっしゃい、まずは落ち着いて冷静に考えろ。

 アイツの魂は長い戦いの中で削られ自我の維持限界まで来ている、その状態でさらに魂を消費して無事で済むハズないだろ?」

「それじゃ……?」

「少なくとも宇宙開闢なんてエネルギーは出ない、次元連結装置のエネルギー源に使っているだけだ」


 まぁどちらにしても放っておけば世界は滅びるんだが……


「アイツがエネ・イヴの身体を手に入れたら次元トンネルを使って逃げるだけだ、たぶん神星に……

 神星に立ち入れるのは神族だけだからな、アレだけ壊れててもシニス・デクス両世界とは次元が異なる、世界崩壊の影響を受けないんだろう」


 そこはアイツ自身にとっても賭けなんだろうけど。


「そして世界崩壊後にはシニス世界側の神星も手に入り、邪魔者は全滅。

 これがアイツに残された唯一の勝ち筋だ、それに乗る必要はない」

「でも…… それでは世界は……?」

「あぁ、アイツは勝てないなら全てを道連れに滅びるつもりなんだろ」


 なんて迷惑な奴なんだろうな……


『ふふ…… 流石だな、よくそこまで完璧に私の考えを推理できたな……?』


 性格の悪いヤツの考えを見抜くのは得意なんだ、なにせ自分ならどうするか考えればイイだけだから。


「そんな…… コレで終わりなの? 多くの犠牲を出してようやくここまで辿り着いたのに……」


 リリスは崩れ落ちうな垂れている、まだ結論を出すのは早いぞ?


「まぁそんなに悲観するな、手は残されている」

「え?」

「要するにアイツをぶっ殺して次元連結装置を破壊すればいいだけだ。

 幸い装置の在り処は判明してるからな」


 砕かれた鎧の残骸を漁ると一枚のカードを発見、コレが大容量魔神器だな。


「いや…… カミナも分かってるでしょ? 例え魔神器を破壊しても中に影響はないわ……

 閉じ込めることはできるかもしれないけど……」


 そう、そこが問題だ、生物が魔神器の中に入ることはできない、そして魔神器を壊しても中身は壊れない。

 赤木キャプテンに壊された時は中身が無事でラッキーって思ったけど、今はなんで壊れないんだよって気分だ。


「確かに中には入れないけど干渉できないわけじゃない、要するに爆弾とかを送りつけてぶっ壊せばいい、単純な話さ」

「…………カミナ、意味分かってる?」

「ん?」

「この魔神器の容量…… たぶん神星が丸ごと収まる量があるのよ?」

「あ……」


 そりゃそうだ、神星の機能の殆どを持ち出したのなら容量も同等のモノが必要になる。

 つまりこの魔神器の中は準惑星級の広さがあるってことだな。


 …………


 どうやって破壊するか? もう一回『執行官断罪剣(エクスキューショナー)』をぶっ放すか?

 ムリムリ、こんなに疲れ切ってる嫁たちにこれ以上「働け」とか言えない。

 そんなことをしたら将来、日曜日に昼まで寝ていたら叩き起こされて働けって言われるかもしれない、休みの日くらいゆっくり寝させて欲しい……


 それじゃ当初の予定通り反物質を創って放り込むか?

 コレも無理か…… 俺だって疲れてるんだ、コレ以上働きたくないでゴザル!

 てか、そんなことできる魔力が残ってない上に、中の状況がわからないと使いづらい。


 だったら琉架に『天照(アマテラス)』で魔神器の中をかき回してもらうか?

 上手い具合に当たればいいが、当たらなかったら世界崩壊だ、ちょっと分の悪い賭けだな……


 理想なのは魔神器の中身を全て壊せて、さらにエネ・イヴェルトにトドメを刺せる攻撃…… 思いつくのは一つしかないな。


「やはり私が囮になるしか無いと思うのですが…… 例え約束が守られなくてもエネ・イヴェルトは確実に私に接触してきます、そこを狙うしかもう……」

「あ、エネ・イヴ様、ちょっと待って下さい」


 またしても自己犠牲を主張するエネ・イヴを琉架が止める。


「はい?」

「神那が何か考えてる顔してます、だからもう少し待ってください。

 絶対に神那が何とかしてくれますから」


 琉架から悪意のないプレッシャーを掛けられる…… なんとしても俺が解決しなければ!

 えーっとね! えーっとね!


「やはり…… ブラックホールしかないか……」

「ぶらっくほーる? 神那の『(エーテル)(マイクロ)(ブラック)(ホール)』?」

「あぁ、今にして思えばエネ・イヴェルトが必要に俺の魔力を削ろうとしてきたのも『(エーテル)(マイクロ)(ブラック)(ホール)』を警戒していたのかもしれない」


 ブラックホールはアイツが存在するのに必要なエーテルすら根こそぎ吸い取ってしまう。

 それを恐れていたのかもしれない…… そしてエーテルが吸い込めるなら魂も吸い込めるかもしれない。


 エネ・イヴェルトは今も俺たちの会話を聞いているハズだ、しかし何も言ってこない……

 正解だったかな? アイツって図星を突かれると黙る傾向があるし……

 まぁ妨害してくることもないだろう、仕掛けても琉架に返り討ちにされるのは分かりきってる。


「『(エーテル)(マイクロ)(ブラック)(ホール)』……

 それは良いんだけど…… ねぇカミナ?」

「ん?」


 リリスが胡散臭いモノを見る目をしてくる……


「あなた…… 今それを使えるの?」

「そうだな…… 5~6時間睡眠を取ればいけるだろ?」


 そう、現在魔力枯渇寸前、逆立ちしたってブラックホールなんか創れるワケない。

 理想は食事と抱き枕とオッパイ枕、それだけあれば俺は完全回復する。

 周り中嫁だらけのこの状況なら後ろの二つは調達できない事も無いだろうけど、それを口にすると俺の人格を疑われるので無理だ。


「5~6時間て…… 夜明けまで10分も無いのよ!? 一度停止した事でタイムリミットは多少は伸びてるかも知れないけど、後5~6時間も掛かるハズ無い!!」

「まぁ…… そうだろうな」


 多分タイムリミットまで20~30分ってトコロだろう。


『フッ…… フッフッフッ…… どうやら万策尽きたようだな……? さぁエネ・イヴを引き渡せ、そうすれば今しばらくは生かしておいてやってもいいぞ……?』


 見逃す気なんかこれっポッチも無いって言い方だな。

 そりゃそうだろ、俺だって逆の立場ならエネ・イヴを手に入れた直後に邪魔者を皆殺しにする。


「誰が万策尽きたなんて言ったよ?」

『なに?』


「琉架、頼めるか?」

「ん? あ…… あぁ、うん♪ まかせて♪」


 きちんと説明しなくても、俺の考えを瞬時に理解してくれる…… 夫婦ならではって感じだな。

 琉架はその場に座ると正座をして自分の太ももをポンポンと叩く。


「はい神那、どうぞ♪」


 え? マジか? 膝枕してくれるの? さすが俺の琉架、マジ女神!!

 では遠慮なく……


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 女の子たちの視線が痛い…… だが理解ってくれ! コレも世界を救う為なんだ! この膝枕には世界の命運がかかってるんだ!

……と、力説しても納得しないだろう、俺だってこんなこと言ってるやつ見たら頭が可哀想な人だって思う。


「カミナ…… ナニしてるの?」


 俺は女の子のジト目が結構好きだ、しかし今のリリスのジト目はちょっと趣味じゃない。

 だって目からハイライトが消えてるんだもん!


「だからさっきから言ってるだろ? 5~6時間睡眠を取るんだよ」

「へぇ~~~……」(棒)


 ちゃんと説明しなきゃ眠れそうにない、今目を閉じたら永遠に目覚めない気がするから……


「琉架?」

「ん、大丈夫だよ…… コホン。

 神那には今から3秒で6時間分の睡眠を取って貰うの、私の本当の能力『時由時在(フリーダイム)』の時間操作で」


 俺、3秒間しか琉架の膝枕を味わえないの? コレは命がけで堪能しなければ!

 ま、俺の体感時間でタップリ6時間、琉架の膝を堪能できるんだけどね? 琉架の力で俺の時間が加速するから。


「『時由時在(フリーダイム)』……? 時間操作??」

「私の予知能力は時間操作能力の極一部でしかないの、家族や神那から「能力のコトは誰にも明かさないように」って言われてたから…… ウソついてゴメンナサイ」

「それじゃ…… 今見せた攻撃や瞬間移動……も?」

「うん、全部時間操作能力の応用」


 まだまだ聞きたい事は山ほどあるって顔してるけど、あまりダラダラしてるワケにはいかない、琉架の能力を知ったエネ・イヴェルトがちょっかい出してくるかもしれない。

 それに俺の睡眠時間はみんなから見ればたった3秒で終わるんだ、それくらい待っててくれ。




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