第364話 黎明の子7 ~限界突破~
ブワアアァァァ……
琉架を中心に巻き起こっていた魔力の嵐がようやく収まってきた。
それと同時にスカートの羽ばたきも小さくなり、パンツが見えなくなってしまった……
まぁコレはいいよ、俺が見れなくなるのは寂しいけど、他の奴にウォッチングさせるのは気に食わないから。
500年禁欲のジークが盛ったらムカつくしね。
「ふぅぅ」
琉架の長い黒髪は、今は青白い光を放っている…… 俺と同じ色だ! お揃いだ!
やっぱり俺たちって運命の糸で繋がってるんだな、コレはもう結婚するしかないな…… うん、しよう!
俺…… この戦いが終わったら琉架とケッコ……
…………
今は止めておこう、うん。
「琉架?」
「神那…… なんかポ~っとするよ?」
ぽ~? 確かに琉架は気持ちフラフラしてるようにも見える、俺には無かった琉架独特の症状かな? そのぽ~がどういった状態なのかよくわからないが……
限界突破は文字通り限界を突破する技、限界を超えれば当然負担になる。
膨大な魔力量を誇る琉架にとって『限界突破』は危険過ぎたのかもしれない……
でも貧弱な俺でも耐えられたんだから、琉架でも大丈夫だと思うんだよね……
「あ、髪の毛が青白くなってる、ど…… どうかな神那? おかしくないかな?」
「大丈夫だよ、似合ってる。
実は俺の時も同じ色に変化したんだ」
「え? それってお揃いってこと? やった♪」
ちょっと嬉しそうだ、うんうん、俺も嬉しかったからそこもお揃いだな。
『なんだそれは……』
「あん?」
俺と琉架がイチャついてるトコロを見てエネ・イヴェルトが狼狽えている。
コイツもしかしてDTか? きっと女の子と手を繋いだこともないのだろう…… なんか勝てる気がしてきた、つーかもはや負ける気がしない!
「『限界突破』だよ、知らないワケじゃあるまい? 勇者だって使ってたんだから」
『そんなことを聞いているのではない…… なんなのだその膨大な魔力量は……?』
? コイツ見ただけで能力値を計れるのか?
あぁ、なるほど、そういう機能を持ってるのか。
「だから言っただろ? こんな事態のために隠しておいた切り札だよ」
本当はあまりにも強力過ぎる能力だから隠していたんだが、アイツを悔しがらせたいからこう言っておこう。
『なるほど…… 自分では切り札を用意する余裕がなかったから代わりに自分の女に力を温存させていた……か……』
「か……神那の……オンナ///」
俺のオンナと言われて琉架が照れてる…… お前たまには良いこと言うじゃないか?
俺のオンナ…… いい響きだ、琉架は俺のオンナだ! 誰にも渡さん!
…………良いなコレ、今度機会があったら言ってみよう。
もっとも言う相手は琉架のお義父様かお爺様くらいしかいないけどな…… そして言ったが最後 大戦争に勃発することは想像に難くない。
でも絶対いつか言ってやる!
『ふぅ…… 確かに魔力量には驚かされた…… だがどんなに魔力が多くても有効な攻撃ができなければ意味はない……』
「あんなこと言ってる…… 神那どうしよう?」
「どうもこうも、琉架が本気を出せば何も問題ないよ」
「うぅん…… わかった、ホンキでやってみる!
でも神那しっかり見ててね? ピンチになったら助けてね?」
「もちろん命に代えても助けるよ」
そんな必要ないと思うけどしっかり見守ってるよ、琉架を堂々と見続けるのは俺の安らぎだから……
「か! 神那は命かけちゃダメ! 私が絶対に守るから!」
う~ん…… 酷い矛盾を見た。
ス……
琉架は魔神器から朱作りの儀式刀を取り出した。
琉架の手持ち武器の中で最強の攻撃力を誇る神器・神剣『天照』だ。
『フッ…… やはり『天照』か……
まぁそれしかないだろう……』
エネ・イヴェルトにとっては予想通りだったのだろう、声から余裕と自信が溢れ出ている。
つまり『天照』対策も完璧にしているということだ。
スーーー……ン
琉架は『天照』を抜いた、しかしそこから構えるコト無く棒立ちしている。
エネ・イヴェルトとの距離はおよそ20メートル、しかし『天照』の射程は約30万km、瞬間移動で月まで逃げられれば避けられるな。
「ふぅ~…… 『時由時在』」
ズギャアッァッン!!!!
『ッ!!!?』
「うおっ!?」
「…………」
エネ・イヴェルトがいきなり吹っ飛ばされた!
「あれ? ホントに硬い、斬れなかったよ…… どんな対策したんだろうね?」
琉架はいつも通りって感じだが、自分のしたことの異常性を理解していない。
攻撃はおろか予備動作すら無く敵を吹っ飛ばしたのだ。
見ようによってはサイコキネシスとか使ったようにも見えるが当然違う。
俺は何が起こったのか分かるけど、それ以外の人や、実際に攻撃を受けた本人にしてみれば……
『な…… ナニを…… した……?』
まさに理解不能の攻撃だ。
「ナニって『天照』で攻撃したのよ? でもコレで斬れなかったのは停止結界以外じゃ初めて…… 関節部とか狙えばいけるかな?」
『ッ!!?』
ズガアァン!!!!
次の瞬間、エネ・イヴェルトは数十メートル上へ打ち上げられていた、琉架が左腕の肘を下から斬り上げてたんだ。
「硬い…… でもさっきよりは手応えがあったかな?」
『!!?』
ズガァン!! ズガァン!!
ズガァン!! ズガァン!!
エネ・イヴェルトは勝手に動く左腕に振り回されてるかの如く空中を舞っている……
まるでピンボールの玉だ……
…………
俺やリリスが必死こいてたのがアホらしくなる光景だな。
バギィィィン!!!!
何度目かの空中浮遊の後、音が変わった。
左腕の肘部分の切断に成功したんだ。
ガシャン!!!! ガシャッ!!
エネ・イヴェルトはそのまま地面に落ち、僅かな間を空けて切り離された腕も落ちてきた……
『絶対無敵』を使えば一回ぐらいは攻撃を防げたかもしれないが、多分使う間も無かったんだろう。
しかし本当に頑丈だな、『天照』の斬撃をアレだけ叩き込んでようやく腕一本、一体どんな対策をしていたのやら…… もしかしたら熱エネルギー完全無効化とか使ってたのかも知れないな…… 『天照』に物理的な攻撃力があるのかどうかは謎だが……
「琉架、多分アイツが次に狙うのは……」
「大丈夫だよ、見えてるから……」
遠くでゴミクズみたいになっていたエネ・イヴェルトが割と平気な感じで普通に起き上がった。
入り込んでいる肉体と痛覚は共有してないのか…… そう言えばそんな事を自分から申告してたらしいが事実だったのか、そりゃそうか、わざわざ痛覚を繋ぐ奴なんて余程のドMでもなけりゃあり得ない。
それ以前にあの鎧の中身は仮想体だったな、それじゃ痛みなんか感じるハズ無いか。
『…………』
フッ―――
エネ・イヴェルトは何も言葉を発することなく唐突に消えた……
次の出現位置は…… エネ・イヴの背後だ!
ズガアアァァン!!!!
「「「「「!!!?」」」」」
エネ・イヴの背後に音も無く忍び寄ったエネ・イヴェルトは、同じく音も無く接近していた琉架の一撃で吹っ飛んでた……
なんかアイツが憐れに見えてきた……
「無駄よ、知ってるでしょ? 私には予知能力がある、貴方が何をするかなんて全てお見通しよ。
もっとも予知能力なんか無くても神那は何するつもりか分かってたみたいだけど」
『うぐっ…… うぅ……』
琉架の一撃が顔面に入り仮面を砕いた……
エネ・イヴェルトは初めて苦悶の声を上げている、確かアイツは魂は脳に入っていると言っていた。
もしそれが事実なら、唯一の実体である頭部、或いは魂に近い頭への攻撃は有効なのかもしれない。
そして重要なコトだが、アイツはエネ・イヴを狙った。
それはつまりアイツは琉架を倒すことを放棄した、琉架には勝てないと判断したんだ。
パキ…… パリン……
砕けた仮面が落ち、エネ・イシュタの顔が露わになった……
「ヒッ!?」
「!?」
それは紛れも無く美形の顔立ちだった…… 顔のつくりはエネ・イヴに似ているビューティーフェイスだ、だがどんなに美女でも惹かれるコトは無かった。
何故なら眼球が抉り取られ、その場所には真っ黒な穴が開いていた、アレはキモい!
すぐさま琉架の隣に移動する、コレは琉架の弱点だからな、俺が支えねば。
「それ…… お前がやったのか? 万が一仮面が外された時に備えて?」
『…………』
エネ・イヴェルトは何も答えない…… だが間違いないだろう。
つまりコレも白の『摂理の眼』対策というワケだ、ずいぶん徹底しているな……
しかしそれも当然か。
倒し方が良く分からない魂状態のエネ・イヴェルトにとって、弱点も何もかも見通せる白の『摂理の眼』は脅威だからな。
しかし自分の妹の眼を抉り出したのか? 如何に死体だったとしても俺にはとてもマネできない。
『ナゼだ……』
「?」
『お前の能力は予知能力…… しかし今見せた移動法は紛れも無く瞬間移動だった……
ナゼそんな事ができる……?』
「えっとぉ…… 神那ぁ?」
琉架は素直だから聞かれた事には正直に答えてしまう、しかしそれはダメだ! それは負ける奴の行動だ!
「何でそんな事をわざわざ教えなきゃいけないんだよ? 仮にも神を自称するならそれくらい自分で考えろ」
本当に…… 神を自称するくせにこんな事も分からないとは……
間違いない、コイツはバカだ!