第361話 黎明の子4 ~カラクリ~
『赤い棘』が唐突に消された!
しかし今はそれに狼狽えている場合じゃない!
何故かって? それはエネ・イヴェルトが目の前に迫っているからだ。
このままボーっとしてたら確実に殺られる、だが慌てる必要はない。
何故なら俺には瞬間移動能力があるからだ、だからビビビビビッてなんかねーよ!
まずは回避! そのあと検証、そして反撃!
大丈夫、俺は冷静だ。
シュン!
『超躍衣装』で余裕の回避…… あ、しまった…… エネ・イヴェルトがそのまま直進して嫁達の方へ向かう可能性を考えてなかった!
俺としたことが女の子たちの安全を考慮するのを忘れていた! 不甲斐ない夫でゴメン!
でもまぁ、琉架の予知能力で安全は確保されてるハズだ……
シュン!
!!?
突然目の前にエネ・イヴェルトの一つ目仮面が現れた!
女の子たちの方へ行かなかったのはいいよ、でも息つく暇もなく俺に向かってくるとは!
「くっ!」
エネ・イヴェルトの突きを瞬間移動を駆使し間一髪で躱す。
しかし……
シュン!
また付いてきた! 完全にストーカーじゃねーか!
くそっ! なんで俺には男のストーカーしかできないんだ!
…………
いや、たとえ可愛い女の子でもストーカーは勘弁……
シュン!
シュン!
シュン!
シュン!
シュン!
シュン!
エネ・イヴェルトは僅かなタイムラグはあるものの、完璧に俺の後を付けてくる。
なにが悲しくてこんな所で転移オニごっこしなくちゃならないんだ……
そしてこの状態は非常にマズイ……
いくら低燃費化に成功したとはいえ『超躍衣装』はもともと高コスト能力だ、こんな事を続けてたらアッという間に魔力が底を尽きる。
エネ・イヴェルトの狙いは正にそれだ。
俺の魔力切れ……
反撃の暇を与えず攻め続ける…… いい手だ。
俺が魔力切れを起こすか、奴の攻撃を食らうまでこのオニごっこは終わらないだろう。
終わらせるために被害が軽微で済むトコロにわざと当てさせる……という手もある。
だが却下だ、さっき『赤い棘』を消した攻撃、俺の予想が正しければアレはヤバい、あんなモノを食らったら身体に永遠モノの傷が残ってしまう!
俺の身体に切り捨てて良い箇所など無い!
例えば第3の乳首とかが在ったら差し出してたかもしれないが……
…………
ヤバい! アホなこと考えてる内にどんどん魔力残量が……!
こうなったら……!
シュン!
シュン!
シュン!
シュン!
シュン!
シュン!
さらに転移のペースを上げる、それでもしっかり食らいついてきやがる!
それから十数回後の転移でとうとう追いつかれた!
「ッ!?」
『捉えた……!』
ズドッ!!
エネ・イヴェルトの突きが俺の胸を貫いた……!!
『……?』
「幾ら神を自称してても全てを見通せる訳じゃないみたいだな?」
『何だと……?』
ボフッ!!
俺の身体は血煙に変わった……
当然本物じゃない、魔人の血から作った分身だ。
やはりエネ・イヴェルトは見る目が無いな、本体よりブサメンに作ったのに気づきもしないとは……
決して本体と大差ないから気付かなかったワケじゃない! アイツに見る目が無いだけだ!
連続転移でアイツの視線を誘導し、その死角で血分身を作っておいた。
そして敢て先読みしやすいよう転移を繰り返し、俺(分身)のワープアウト地点を予測させた。
全て俺の策略だ! お前は俺の手の平の上で踊っていたに過ぎない!
念の為、目暗ましも掛けておいたが上手いこと引っ掛かってくれたな。
そして引っ掛かったといえば……
『ぬぅっ……!?』
エネ・イヴェルトは魔人の血を全身に浴びた、これも計算通りだ。
「神血・『血液変換』!!」
バリバリバリッ!!
付着した血液が紫電に変換されていく。
血液変換で赤木キャプテンの『電子の悪魔』を再現したのだ。
これで光は歪み、電磁波の影響で気配すら読めない、今のエネ・イヴェルトはあらゆる認識がずれている!
「『弐拾四式血界術・壱式』!!」
『クッ!?』
エネ・イヴェルトは俺の声に反応して振り返り右腕を前に突き出す…… しかしその方向に俺はいない!
今のは囮だ、注意を引き付けた上でエネ・イヴェルトの背後に転移したのだ。
こんな単純な手に引っ掛かるとは……
「『超絶破壊』!!!!」
エネ・イヴェルトの背後から強烈な一撃を叩き込む!!
ドッ…ゴオオォォォォオン!!!!
エネ・イヴェルトは派手に吹っ飛んだ……
完璧に入った…… 間違いなく完璧に入ったのだが…… 手応えが……軽い?
エネ・イヴェルトは100メートル程宙を舞い、地面に叩き付けられるとそこからさらに数メートルバウンドしながら転がっていった……
「…………」
魂魄鋼の装甲すら貫通する『超絶破壊』を持ってしても、鎧を破壊できなかったのは意外だが、それ以上に解せない点がある、いくらなんでも軽すぎる……
中身は女性の身体らしいが、それにしたって軽い、せいぜい鎧分くらいしか感じなかった。
…………
これはもしかすると……
ガシャ……
エネ・イヴェルトは何事も無かったかのように起き上がってきた……
やはりダメージは認められないな。
普通に考えれば超絶破壊を食らって無傷でいられるハズがない。
『警戒はしていたんだがな…… さすがは旧世代魔王を半数も倒しているだけの事はある…… まさに最強の魔王だな…… 実に戦い慣れている……』
もっと大きな声で喋れよ、遠すぎてよく聞こえねーぞ。
『こちらも慣らしは終わった…… そろそろ本気を出してみるか……』
「げ……」
今のは聞こえちゃった…… 慣らしとか言ったぞ? 本気とか言ったぞ?
今までアイツが本気を出していたとは思ってなかったが、よもや慣らし運転程度だとは思わなかった、ここからどれだけ厄介なことをしてくるか、それだけが気がかりだ。
『禁断魔術…… 『汚れた魂は現世で燃ゆる』……』
「!!?」
禁断魔術だと!? 何というか…… 痛いポエムみたいな名前だ!
ポウ……
エネ・イヴェルトの周りに小さな光の玉が浮き上がり、ゆらゆらと揺らめいている…… 数は10個ほど……
あれが禁断魔術『汚れた魂は現世で燃ゆる』?
遠目には下級魔法のファイアーボールにも見えるが……
「?」
光の玉はどんどん光量が上がっていく……
ナニか…… 妙に眩しいぞ…… 太陽を直視してる気分だ……
…………
おい! ウソだろ!?
これ太陽と同じ光だ!? あの小さな光の玉一つ一つが核融合を起こしてるんだ!!
アイツはエネ・イヴを欲しているから広範囲攻撃はしないと踏んでいたんだが……!
『第3魔王 キリシマ・カミナ…… 防いでみせろ……
お前が防がねば全員死ぬぞ……?』
「チィッ!!」
狙いはそれか! 俺がみんなを絶対に見捨てないと確信している!
つまり俺の魔力を枯渇させるための攻撃だ!
たとえ狙いが分かっていても乗らないワケにはいかない!
アイツは間違いなく本気で撃ってくる、ココにいる全員が死ぬような魔術をだ…… それを俺に解除させる……
クソッ! せめて俺が『奈落』を使えれば……っ! いや、無い物ねだりをしても仕方ない。
あれほどのエネルギーを打ち消せるのは一つしかない、しかし準備不足でそれを使えば間違いなく魔力が尽きる……
そして準備している時間などない!
「神血・超高密度大質量天体生成!!」
エネ・イヴェルトの攻撃だけじゃない! 俺の攻撃も同様だ、こんなモノを近距離で使えば当然みんなにも被害が及ぶ、そうならない様、全神経を使って制御しなければ!
俺が操作を誤れば全員死ぬ!
『汚れた魂よ、浄化の光で全てを焼き尽くせ……』
汚れた魂ってお前自身の事じゃないのか? 自己紹介乙!
自分の魂ごと浄化してくれればありがたいモノを……!
「E・MBH!! 『強制転送』!!!!」
敵の攻撃を消す為のブラックホールをエネ・イヴェルトの座標に叩き込んだ!