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レヴオル・シオン  作者: 群青
第六部 「神の章」
358/375

第352話 勇者 vs 第3魔王7 ~最後の選択~


 このフロアから脱出する為には俺か勇者のどちらかが死ななければならないらしい……

 二者択一…… 生き残るのは俺か勇者か……

 考えるまでも無く俺だ、だって勇者気を失ってるし……


 だが…… 俺が勇者を殺す?


 火葬されるトコロを助けた勇者を…… わざわざ殺すのか……?

 勇者との付き合いも何だかんだで長い、2年半……くらいか?


 どうしようもなく馬鹿だがどこか憎めない…… 勇者とはそんな男だ……

 そんな男を俺の手で殺せって言うのか?


 ふざけるなっ!! 俺の手で…… そんな…… そんなこと……!!


 ……………………


 ………………


 …………


 自分でもビックリするほど何の感慨も浮かばない。

 葛藤するフリをしてみたが、やはり何も感じなかった。


 俺にとって勇者を殺すという行為は、台所の隅でGをスリッパで叩き潰すのと何も変わらない。

 むしろGの方が手強いくらいだ、アイツら飛ぶしな…… あの飛翔突撃は魔王になった今でも恐怖しか感じないだろう、下手したら大声あげて逃げ出すかもしれん…… 恐ろしい……!!


 これもきっと魔王化に伴う変化なのだろう、勇者と魔王は不倶戴天の敵同士、互いを天敵と認識しているからこそ良心の呵責や罪悪感などを感じること無くぶっ殺せるようにできてるんだ。

 そういう仕様だ仕様。


 勇者をプチッと潰すことに関しては躊躇も、戸惑いも、迷いも一切感じない……


 やはりエネ・イヴェルトは人を見る目が無い、こんなミッションで俺が苦しむとか思っていたのだろうか?

 害虫を駆除する感覚でササッと終わらせるか……


 …………


 と、普段なら欠片ほども躊躇せずに瞬殺し、もう終わってる頃だろう。

 だが今回に限ってはそれをするワケにはいかない、理由は簡単、全世界生中継だ。


 神星が破壊されたのなら中継も切断されただろうか? 可能性はある…… しかし塔が健在なら未だに中継は継続中かも知れない……

 世界中に見られながら公開殺人はさすがにチョット…… いくら俺でもそれは無理だ。


 フロア全体に目暗ましを掛けてサクッとやってしまえばいいのだが、先ほどのエネ・イヴェルトとの会話まで中継されていたとなると、見えなくてもお構いなしに犯人が特定されてしまう。


 厄介なトラップを仕掛けていってくれたものだ、勇者を殺すこと自体はイイ、世界の為だ、尊い犠牲になって貰おう。

 しかしシチュエーションが不味すぎる。


 これは困った、しかしじっくり考えてる時間も無い、エネ・イヴェルトが俺の嫁に手を出す前に追いかけなければ!


 …………


 取りあえずホントに転移で脱出できないか試してみるか。

 もちろんいきなり自分自身で試したりはしない、宇宙空間とかに飛ばされたらさすがに困る。

 普段なら勇者をモルモットにするのだが、現状それも出来ない…… だったら……


強制誘導(アポート)


 勇者の脇に転がってるくたばれ勇者(ダイ・ブレイブ)を引き寄せてみる……

 しかし……


「ホントだ…… 来ないな……」


 俺の手元にくたばれ勇者(ダイ・ブレイブ)を引き寄せる事は出来なかった。

 剣は確かに消えた、しかし何も来ないのは異常だ、壁の中に跳ばされたって、その物質との入れ替わりが起こるハズ、それすら起こらないってのは尋常じゃない。

 もちろんくたばれ勇者(ダイ・ブレイブ)は塔の外に転がっているかも知れない、しかしその可能性は低いだろう、ここは(バベル)、外とは次元が違う。

 もしかしたら別の次元に飛ばされたのかも知れない…… 回収は不可能だな。


 あ~…… しまった! くたばれ勇者(ダイ・ブレイブ)って結構お高いんだよな、もっと安いので試せば良かった。


 はぁ…… しかし困ったな、どうしよう……


「キリシマ…… カミナ……」

「お?」


 勇者、意識を取り戻していたのか、ふむ…… ここで勇者を煽りまくって攻撃させるか? 俺を攻撃してきてくれれば正当防衛が成り立つ。

 殺害シーンだけ目暗ましで中継させなければいけるかも知れないな。

 花とか草原の映像を流して「しばらくお待ちください」的なテロップを流す感じの……


 良し! それでいくか! 勇者を煽るのは得意中の得意だ!

 小声で視聴者にバレないように煽るのも忘れずに!


「キリシマ・カミナ…… 俺を殺せ……」

「……………………は?」


 予想外の言葉…… どうした勇者? 何か悪いモノでも食べたのか? いつも殺す殺す言ってたクセに?


「俺を殺しヤツを追え…… ルカさんに危険が迫っている……」


 あ! バカ! 名前出すなよ! 世界中に中継されてるんだぞ!?

 あ~あ、これはもうダメか…… いや、まだ魔王だとは明言されていない、ギリギリセーフ? いや…… どう考えてもアウトか。


 しかしコイツどういうつもりだ?


「どういう心境の変化だ? お前らしくもない」

「………… さっきの奴が勇者に祝福を与えた神だったのだろう? 昔聞いた声と同じだった」

「! 声……聞いたことあったのか?」

「勇者はみな啓示を受けるからな……」


 そう言えば勇者の力の継承ってどうやって行われるんだろうな? 次元トンネルを使えば直接動かなくても出来るのか……


「俺はずっと神は正義だと思ってた…… しかし今あいまみえた奴は紛れもない悪だった……

 言葉遣いがお前に似てたからな……」


 根拠それだけ? そんなに似てなかったと思うんだけど…… とにかく失礼な奴だ。


「勇者としての力を奪われた俺にはお前に勝つことはおろか、まともに戦うことも出来ないだろう……」


 いや、それは今までも出来てなかったから……


「俺ではもうルカさんを守ることも出来ない…… もう…… お前しか居ないんだ!」


 なんなんだ、その「今まで自分が琉架を守ってきたぜ!」感あふれるセリフは、思いっ切り避けられてたじゃないか、何様だお前は?


「俺を殺し…… ルカさんを守り…… そして世界を救え……」


 そう言うと勇者は鎧を外し仰向けになり目を閉じた…… 「もう好きにして!」って感じのポーズだ、ピチピチのインナーだから乳首が浮き出てる……

 そのポーズは女の子がすれば興奮するが、男がすれば殺したくなる……


 ある意味ベストなポーズだ、思わず殺したくなる。


 しかしこのパターンはマズイ、俺が手を汚さなければならない、死ぬつもりなら自殺してくれると有り難いんだが…… 俺が自殺しろと言って自殺する奴じゃない。

 むしろ最後の嫌がらせをしてきそうだ。


 何とか上手いこと誘導できないだろうか?


「一体どうしたんだよ? お前はナニがあっても諦めない男だと思ってたんだが?」

「俺にだって分かることはある…… もうどうしようもない事態だってことはな……」


 あらら…… 随分打ちひしがれてるな、今まで諦めて欲しい時には諦めなかったクセに、諦めずに立ち向かって欲しい時に限ってアッサリ諦める…… 常に俺の希望の反対側へ行きやがる。


 実際、拠り所であった勇者の力を奪われたんだ、これで諦めるなって言ってもこの言葉は届かないか。


「何をしている…… 今まで散々お前の邪魔をし、悪魔と呼び蔑んできた男だぞ? お前の悪い噂をばら撒いたこともあるし、お前を殺してくれるよう暗殺者を雇おうとした事だってある!」


 コンニャロウ、そんな事してやがったのか…… マジで勇者失格だな。


「今さらためらう理由など無いだろ?」

「…………」


 それがあるんだよなぁ~、ためらう理由、中継さえされて無ければ止めを刺してやったんだが、無抵抗な奴を殺すわけにはいかん。

 俺だけじゃなく魔王全体の評判が下がる。


「勇者……」

「違う、勇者ブレイドはもう居ない…… 勇者は死んだんだ……」


 メンドクセーな。

 もういっそ積年の恨みってことで勇者を全裸に剥いてお前の最大の秘密を世界に暴露してやろうか?

 そうすればさすがにキレて襲い掛かってくるかもしれないな…… 全裸で……


 …………


 それは最終手段にしよう、キモいし見たくないから。


「ブレイド・アッシュ・キース・アグエイアス……」

「!? お…… お前…… 俺の名前を……!?」


 合ってたかな? うろ覚えだったんだが…… うん、嬉しそうな顔してる、多分合ってたな。


「俺にお前を殺すことは出来ない、お前がどう思っているかは知らないが、俺はお前にある種の友情のようなものを感じていた……」

「な……に?」

「正しくは戦友……かな? 魔王討伐の場では必ず出くわしてたからな」

「あ……あぁ……」

「俺がお前を雑に扱っていたのは、お前を不用意に近づけない様にする為だったんだ……

 お前は勇者で俺は魔王…… その事実が発覚すれば俺達は戦わなければならなくなる……」

「そ……それは……!」

「今日という日が永遠に来ないことを願っていた…… だがやはり…… 勇者と魔王は戦う運命だったんだな……

 例え友であろうとも……」

「と… とっとっ! 友ぉっ!!!?///」


 勇者が頬を染めている…… 止めろキモい! 俺をそんな潤んだ目で見るな!!


 きっと今頃サクラ先輩は中継を見ながら笑い転げているだろう。

 俺が薄っぺら~い言葉を垂れ流している姿を見て……


「友…… そうか…… そうだったのか…… 俺はなんて愚かだったんだ! 俺達は互いに憎しみ合い争い続けていく内に、いつしか心を通わす友となっていたのか……!

 そんな事に今の今まで気付かなかったとは…… 俺は世界一の愚か者だ!!」


 凄い嬉しそうなんですけど…… 俺の言葉は一切信じないとついさっき断言してたクセに、なんでこの嘘くさい言葉だけは全く疑わずに信じ込めるんだ?


 さすが自他ともに認める世界一の愚か者だ。


 確かにマンガとかじゃライバルがいつしか友となる展開ってよくあるけど、俺達ってライバルじゃないだろ?

 互いに切磋琢磨した事など無い、いつも俺が一方的にぶちのめしてただけだ。


 世界一の嫌われ者の勇者には今まで友達なんていなかったんだろう…… いたのは残酷なフラれ方をした幼馴染と、苦労人の仲間達(3人)だけだ。

 だから“友”という言葉に過剰な反応を示す…… 気持ちは分からなくもない、俺も友達居ないし…… まぁ俺は嫁が複数いるから友達とか要らないんだけどね?


 しかしココまでノリノリになるのは計算外だった、マズイなぁ…… その内第三魔導学院で魔王×勇者本とか出ないだろうな? 頼むぞ新聞部部長! 俺は母校を滅ぼしたくない。



「我が友よ……」


 うげっ!? もう友達面かよ!? 大体友達ってそんな簡単に作れるモノだったの? 知っていたらもっと早く試していたのに!


「俺はもうお前を助けられない…… だがお前は先へ進むんだ!」


 ………… まるで俺がお前に何度も助けられて来たみたいな言い方だ…… 逆だから! それ完全に逆だから!


「その為の道は俺が切り開こう…… それが友として最後に送れるプレゼントだ」


 ………… まるで俺がお前から何度もプレゼントを(以下略)


「ん?」


 勇者はいつの間にか手に何かを持っている…… あれは…… 深淵真紅の切っ先?


「さらばだ…… 友よ……」

「ちょっ!!?」


 勇者は深淵真紅の切っ先を躊躇うことなく自分の心臓に突き立てた!




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