第351話 黎明の子2 ~魂の所在~
「ずっと疑問だったんだが……」
『?……』
「エネ・イヴェルトの魂は魔王カオスが監視している…… そう聞いていた。
しかしそれでは理屈に合わない、少なくとも他に最低1人は動いていたんじゃないのか?」
『ほぅ……』
ほぅ…… じゃなくて答え教えろよ、ウソかホントかはこっちで判断するからさ。
『それは魂を分割したからだ……』
「……!」
エネ・イヴェルトってやっぱりバカ? そうだよな、あのブレイドを勇者に任命した張本人だ、バカじゃないなら人智を超えた超天才のどっちかだ。
しかし随分とアッサリ教えてくれたな…… そうじゃないかとは思っていたが、やはりそうなのか……
だが分割が真実だとすると、コイツを完全に滅ぼすのは実質不可能ということになる。
魂を1億個に分割し隠されれば…… もぅマヂ無理、為す術がない。
魂の状態で動けば消滅してしまうという話もホントかどうか……
『わかるぞ……』
「?」
『魂がいくつまで分割できるか心配しているのであろう……?』
「…………」
チッ! 顔には出てなかったハズだが読まれたか……
『魂は無限に分割可能だ…… ただし自我を残すためには一定量が必要だ……』
「一定量?」
『私の場合は1/3ほどだ、それだけの量がなければ自我を形成できない』
「…………」
なんかもっともらしい事を言っている、しかし魂の概念が分からなければ真実かどうか予測することもできない。
俺の感じた印象は「胡散臭い」だ、それもかなり……
だが嘘をついているという感じでも無い…… 果たして……
もし仮にエネ・イヴェルトの話が真実だとしたら、何故そんなことをワザワザ敵に明かすのか? 当然なにかしらの狙いがあるからだろう。
ナニが狙いかイマイチ判らないが、時間を掛けたい俺にはありがたい。
だったらお話に付き合ってやるか、ついでに多くの情報を得ておきたい、真偽は後でエネ・イヴに確認するって手もある。
「その話が本当なら1/3はずっと神星にいたって事になるのか? 神星も例の特殊なエーテルってのに満たされていたらの話か、だったら残りの1/3は? まさか両方とも神星でお留守番してたワケじゃあるまい?」
相手の話を信じた体で会話を続ける。
こうして相手が話しやすい場を作る、真実を話していた場合は気分が良くなり、嘘を話していた場合は物事がうまく運んでいると錯覚させられる。
もちろん全部見透かされている可能性もあるが、時間稼ぎにはなる。
その間に皆が神星を破壊してくれればこちらの勝ちだ。
さあどうだ? こんなショボイ会話術に神様が引っ掛かってくれるかどうか……
『ふっふっふっ…… はっきり聞いたらどうだ……?』
「あん?」
『本当に知りたいのは私の魂の在り処なのだろう……?』
「…………」
引っ掛かった! いや、乗ってくれたのか? 確かにコイツの本体である全ての魂の在り処は知りたいんだが……
『今お前の目の前にいる私が…… 私の全てだ……』
「はぁっ!?」
いきなり想定外の答えがきた、コイツの言葉の信憑性がまた下がった…… 自分のバックアップを残せる奴がわざわざ全データを持って人前に姿を現すハズがない。
俺ならそんな自分の優位性を放棄するようなことは絶対にしない。
あいにく俺はダラス校長じゃないから目を見ても真偽を確かめることはできない…… そもそも魂に目は無いからハゲも役に立たない。
こんな時に白が居てくれたら……
『お前の言う通り…… 私の1/3はカオスを監視するために奴に憑りついていた……』
監視するために? そうか、互いに互いを監視していたのか。
恐らく魂の分割はそれぞれの情報を距離を問わず共有できたのだろう、そうでなければ監視なんて言葉は使わない。
『そして1/3は人形に閉じ込めて神星に隠しておいた……』
人形? 魔王カオス以外にも魂を入れられる身体があるのか? しかし人形ってどういうことだ? 言葉の意味は分からんが、それがエネ・イヴェルトのバックアップと言うわけか……
でも普通はバックアップって外に出さないよな?
「最後の1/3は?」
『今、回収したであろう……?』
「?」
『残りの魂は全て力に還元し祝福としてヒトへ与えた……』
祝福…… 勇者の力か……
確かに肉体すら持たないエネ・イヴェルトがヒトへ力を与えるなら自らの魂を与えるしか無い……かな?
祝福者ってのは勇者のことだけじゃない、それこそ世界中に存在すると誰かが言っていた、しかし自らの命でもある魂を削ってまでヒトに祝福を与えたりするものだろうか? 無償の愛を持つ本物の神様なら分からなくもないが、コイツは妙に人間臭いというかなんというか…… 古代神族に対して遺産請求する奴だぜ? 守銭奴に決まってる!
いや…… 情報を得るためか!
コイツは俺のことをよく知っていると言っていた、てっきり勇者が密告したのかと思ったが、アイツから得られる情報はアテにならない、特に俺に関する情報は悪意と誇張で嘘っぱちだらけだろう。
そして復活の際にも情報は必須だ、なにせアンチ神様同盟が何かを企んでいるのは明らかだ。
それを集める為に自分の魂をバラして世界中に祝福者…… つまりスパイを作っておいたんだ。
それなら貴重な魂をバラ撒いても納得できる。
「カオスに取りついていた魂ってのは心臓に宿ってたのか?」
『……?』
「だからあの時勇者に回収させたんだろ?」
『それは違う…… 魂とは自我でありそれを宿せるのは頭…… 脳だけだ……
魔王グリムは忌々しいことに我が魂の1/3を消し飛ばしたのだ……』
う~ん…… もしコイツの話が本当ならグリムと龍人族は1/3勝利したと言っても過言じゃない。
でも敵が2/3も残ってたらやっぱり惨敗か……
胡散臭いなぁ…… 心臓移植で提供者の心まで移植されるって都市伝説は無視か。
…………
コイツの話が本当か嘘か確認のしようがない…… どの話も微妙に信憑性があるから厄介だ、だがそれ以前になぜこんな話をする?
マンガやアニメなら敵が能力を説明してくれるのは当たり前だ、視聴者に優しい敵だな。
だが普通なら隠す、実際俺も自分の能力を説明する時は殆んど嘘だらけだ、俺は視聴者に迎合しない主人公なのだ。
だってそうだろ? 今この場所の映像・音声は世界中に生配信されている…… あまりにもリスクが高すぎる。
エネ・イヴェルトがナニを考えてるのか分からん、何か企んでるのは間違いないが、コイツの話には確実に嘘がある。
せめて狙いが分かれば……
ゴゴゴ……
「ん?」
塔の中に入ってから感じなくなっていた小さな震動が、再び感じられるようになっていた。
あ、やべ…… もしかしてもう夜明けか? このまま世界崩壊したりしないよな?
ゴゴ……
しかし震動は予想に反して小さくなった……と、いうか……
シーン―――
周囲から完全に音が消えた、何だったんださっきのゴゴゴは?
『どうやら時間のようだ……』
「は……?」
静寂の中、音を発したエネ・イヴェルトに声を掛けようとした瞬間……
ドドンッ!!!!
「!?」
今までとは比較にならない巨大な揺れが襲いかかった!
何だコリャ!? まるで頭上で核爆発でも起こったような…… あ、『執行官断罪剣』か!?
「やったのか!?」
『どうやらそのようだな……』
「…………」
エネ・イヴェルトは全くどうじた様子がない…… まるでこうなることが分かっていた様な…… 待っていた様な……
どういう事だ? 神星を破壊されて一番困るのはお前だろ?
バックアップを安全に保管しておける金庫を失ったようなものだ……
もしかして…… 俺達は何か勘違いしてたんじゃないか?
エネ・イヴェルトにとって神星は重要なものでは無いのか? くそぉ! 表情が見えないから真意が悟れない!
『さて…… 時間稼ぎはこれくらいでいいか……』
「時間稼ぎ……だと?」
は? 俺が時間稼ぎしてたのと同じく、コイツも時間稼ぎしてたってのか? 意味が分からん。
「エネ・イヴェルト…… お前の狙いは一体なんなんだ?」
『私の狙いは昔から変わっていない……』
だからそれを聞いてるんだよ!
『準備が整ったならここに留まる理由は無い…… そろそろ行かせてもらおう……』
「お……おいっ!」
『気になるなら追いかけてくるが良い…… ただし急いだ方がいいぞ……』
急いだ方がいい? まさか…… 先に進ませたみんなのコトか?
「ちょっと待て! お前はっ……!!」
『そうだ…… ひとつ教えておこう……』
「あ?」
『このフロアが空間的に閉じられている事はブレイドから聞いているな……?』
「……あぁ」
『このフロアはお前達のどちらかが死ななければ開かれない…… フロアから出たければ先程わざわざ助けたブレイドを殺さなければならない……』
「はぁ?」
『神星が破壊された今 転移での脱出はおススメしない…… 一時的に空間が不安定になっている…… 意図しない場所へ飛ばされる可能性が高い…… そこが何処なのかは私にも分からないからな……』
このバカはナニを言ってるんだ?
『ではな…… さっきも言ったが急いだ方がいいぞ……?』
「待っ! くそっ! 第5階位級 風域魔術『乱流』ダウンストーム!!」
エネ・イヴェルトには実体が無いから空気で押し潰そうと思ったのだが……
フッ―――
見た目通り煙みたいに消えてしまった……
あんにゃろぅ! 俺はまんまとアイツの術中に嵌まってしまったのだろうか? スゲームカつく!




