第349話 勇者 vs 第3魔王6 ~黒幕~
ブワァッ!!
「ハァッ! ハァッ! ハァッ! ハァッ!」
未だに燃え続ける炎の中から勇者が息を切らせながら現れた……
これはスゴイ、超強化した第2階位級を受けても火傷一つしていない、今も燃え盛る炎の中に立っているのに微塵も動じていない。
まぁ予想はしてた、やはりか……って印象だ。
魔王である俺の攻撃は一切効かない、それが解っただけでもやった甲斐がある。
ついでにアイツを倒す方法も確立できたしな。
「ハァッ! ハァッ! まさか……! こんなに長時間……! 強烈な魔術を撃ちこまれ続けるとは思わなかったぞ!?
俺でなければ消し炭すら残らなかっただろう! やはり貴様は悪魔だな!!」
「本気でこいと言うからやったのにこの言われ様…… 俺だって実力差があれば手加減くらいはするぞ? 今までお前が死ななかったのもそのおかげだろ? 勇者を殺す機会が今まで何回あったと思ってるんだよ?」
ハッキリ言ってお前との絡みの回数分、お前を殺す機会があったんだぞ?
慈悲深き魔王様に感謝しろよ。
「ぐっ!! だ……だがっ!! 今日まで俺を殺さなかった事をお前は後悔する事になる!!」
とっくに後悔してるよ……
もっと早く始末しておくべきだった、例えストレス発散用のオモチャを失う事になったとしても!
「さあ! 次はどうする? さらに強力な魔術を使うか? それともギフトか? 打つ手がないなら攻守交代させてもらうぞ!?」
ちなみに『神血』による金縛りは既に試した、結果は惨敗だ、アイツはその事に気付きもしなかった…… やはり魔王の力を完全に無効化している。
やはりレビィに押し付けるべきだったか…… 龍人族である彼女ならアイツを問答無用で叩きのめすコトも出来たハズ…… 先のコトを考えてバカを実験材料にして覚醒勇者の力を見ておきたかったのだが、ここまで厄介な存在だったとはな……
しかし……
「いや…… これ以上は必要ない、既に勝負はついている」
「なに?」
「俺はさっきからずっと攻撃してる、この火炎魔術もその布石だ、もはやこちらの勝利は確定してる」
「?? 意味が分からんな、お前の攻撃は全て無効化したぞ!」
「確かに…… 俺からの直接攻撃は何一つ効果が無かった…… それは事実だ。
覚醒勇者の力についてはお前の先輩である29代目勇者から聞いていたから知っている、今までの攻撃はその確認に過ぎない」
「なぁっ!!? ちょっ! ちょっと待て!! うっ……嘘をつくな!! 29代目勇者は500年も前の伝説の偉人だ!! どうやって話を聞くんだよ!!」
すぐ動揺する…… こういうトコロは覚醒しても変わらないな。
「そりゃまだ生きてるからなぁ…… お前も何度もあってるんだけど…… まぁそれはどうでもいい」
「どうでもよくない!! え!? 俺……会った事あるの? 一体どこで!?」
「勇者は魔王の話を信じるのか?」
「信じるワケないだろ!!!!」
「だったら教えても意味ないじゃん、それに…… お前は自分の心配をするべきだ」
「はぁ!? 一体なに……を? …………うっ!?」
勇者はその場にうずくまり動けなくなっている。
「ぐあっ!! ……な……何だこれ……は!?」
「俺が何故、効かないと分かっていながら攻撃を続けていたのか…… それは覚醒勇者のスペックを測る為ともう一つ理由がある、それは目に見えない攻撃のカモフラージュだ」
「め……目に見えない攻撃?」
例え見える攻撃だったとしても、コイツ相手にカモフラージュする必要なんかなかったんだが……
「お前は言っていたな? この塔第一階層は空間的に閉じられており密室状態になっていると」
「? あぁ……」
「俺はずっとこの密室内の空気の酸素濃度を低下させてたんだ、気付かなかっただろ?」
「酸素……濃度?」
そう言えば勇者は学が無いんだったな、まぁいいか、どうせ丁寧に説明したって分かりやしない。
「ざっくり説明すると空気中に含まれる成分は78%が窒素、21%が酸素、残り1%がその他諸々だ。
現在、塔第一階層の空気中に含まれる21%の酸素を10%前後まで下げた。
お前の体調不良の原因はそれだ」
「?? なに??」
あ、わからないって顔だ。
「今お前は全身の脱力、頭痛、耳鳴り、吐き気などの症状が出てるハズだ。
解りやすく言うと酸欠状態だ、体験するのは初めてかも知れないが、この言葉くらいは聞いたコトがあるだろ?」
「酸……欠……だと……」
お前が炎の中から息を切らして出て来た時に上手くいくと確信した。
実はあの時もこっそり空域魔術を使って炎が燃え続けるよう酸素を供給し続けたんだ、お前が炎の中で酸欠にならなかったのも俺のおかげでもある。
そのまま酸欠にした方が手っ取り早かったな……
「例えお前が覚醒していても、人族で…… 生物である以上、どうしても逃れることのできない弱点だ」
「うっ…… うぅっ……」
…………失敗したな、酸欠状態の奴にこんな説明しても理解できないだろ? 例え酸欠じゃ無くたって理解できない奴なんだから……
「何故だ……」
「あ?」
「例え魔王でも同じ生物…… なぜお前は平気なんだ?」
「そんなの決まってる、最初から自分用の酸素を確保しているからだ、自分の攻撃でやられるほど馬鹿じゃない」
そもそも魔王は酸欠では死なないだろう。
でも出来るだけ苦しみたくないから俺は血液変換で体内で酸素を生産している。
「ひ……卑怯者め…… お前は本気でやると……言ったのに……」
「あぁ、だから本気でやった、前から思ってたんだがお前は俺のコトを卑怯卑怯と言うが、どこら辺が卑怯なんだ?
自分の能力を隠すことが卑怯なのか? お前だって自分の能力の詳細は明かさなかったじゃないか」
ジークから聞いて知ってたけど……
「それとも、これからする攻撃を全て懇切丁寧に説明しなければ卑怯に当たるのか?」
「そ……それは……」
「お前は戦いというものを舐めてる…… いや…… 幻想を抱き過ぎている。
相手が自分に理解できない攻撃をしてきたら卑怯だと思うなら、お前は戦いの中に身を置くべきでは無かった。
戦いとは相手を上回ることが全てだ、その為に自分の持ち得るモノを全て使い相手を倒す…… それが全力を出すという事で本気で戦うという意味だ。
お前が言う卑怯戦法を封じて戦うのは手を抜いているのと同義じゃないのか?」
「う……ぅ……」
「お前は魔王に対して絶対的な力を手に入れた、それを使って力押しで俺を捻じ伏せようとした…… だがお前がしたのはそこまでだった。
命を賭してまで手に入れた力…… しかしその力をどう使えば勝てるのかまで考えなかったのがお前の敗因だ」
要するに敗因はバカだから……ってコトだ。
「くそっ…… くそぉぉ~……」
結局、結果はいつもと同じだったな……
まぁ俺の方も今までみたいに純粋魔力を使わずに戦ったらもっと苦戦してただろう、これだけ広大な空間の酸素濃度を減らすのは結構面倒くさかった。
こんな事なら空間を風域魔術『断層』で区切っておけばよかった、どうせバレやしなかっただろうし……
とにかく純粋魔力を使い、神魔制剣を手に入れた俺は最強の魔術師になった…… つまりタイミングが悪かったってコトだ。
もっと早く覚醒して俺に戦いを挑めば同じ結果にはならなかっただろう……
まぁこれも運命だと思って諦めろ。
『愚者め……』
「!?」
「!!?」
何だ今の声は!? ドコから聞こえてきた!?
てか、俺のコトじゃ無いよな? 勇者のコトだよな? そうだよな? そうだって言え!!
もし勇者と二人でいる状況で俺を愚者呼ばわりする奴がいたらガチギレする自信がある。
…………
いやいや、それはどうでもいい、それよりも今聞こえた声だ、精神感応の類いじゃ無い、実際に空気を振動させた声だった。
一体どこから? かなり近かった気がするんだが……
「ッ!?」
うずくまる勇者のすぐ後ろ…… いや…… 重なってる?
すぐそこに白い影が見える…… まるで幽霊でも見ているようだ、そこに何かはあるのだがオーラは見えない……
少なくとも実態は無い、未だ燃え盛る炎の中にもかかわらず一切の揺らぎがない。
なんだコレ…… まさか……
「おぉ…… わ……我が主よ……」
勇者は息も絶え絶えに白い影に呼びかけた……
我が主……
それはつまり……
「次代神族…… 『黎明の子エネ・イヴェルト』……か?」
『…………』
白い影からの返答はない、しかし間違いないだろう。
これがエネ・イヴェルトの魂なのか……? 本当に実在したんだな。
今の今までその姿を確認できなかったから、てっきり神星のマザーコンピューターとかがエネ・イヴェルトの名を語っているのかと思ってた……
マンガとかでたまに見るシチュだ。
「も…… 申し訳ありません…… 俺は…… 俺は……!」
『口を開くな……』
「ッ!!」
10代後半男性の声って感じだ、てか何処と無く勇者の声に似てる。
しかし込められている迫力は段違いだ。
…………いや、比較対象が悪かったな。
勇者は…… 震えているのだろうか? 顔を伏せ表情を窺い知ることはできない。
『新しい第3魔王…… キリシマ・カミナか……』
「!! 驚いたな、俺のこと知ってるのか? もしかして勇者からウワサを聞いたのか?
もしそうなら全部忘れたほうがいい、そいつの俺に対する評価は主観100%だから」
『…………』
いちいち沈黙が入る、テンポが悪いな、それとも俺が気安すぎるのか? 相手は仮にも神様の1人だ……
でもエネ・イヴにもタメ口聞いてたしなぁ…… 今さらコイツにだけ敬語を使うわけにもいかん。
大体コイツは世界を崩壊させようとする敵なんだからな。