第348話 勇者 vs 第3魔王5 ~スペック~
「真・封魔剣技!!『音速斬撃斬』!!!!」
なんだよ斬撃斬て…… その佐倉桜みたいなネーミングセンスは……
まぁネーミングセンスはともかく、今までの剣先だけの音速剣と違い、体全体を亜音速まで加速し突っ込んでくる。
バシュウゥゥゥゥッン!!!!
上手く避けても衝撃がスゴイ。
やりにくいな……
とにかく今のアイツのスペックを正確に把握しなければ戦い様がない。
覚醒勇者の能力が本当に伝えられている通りのモノなら、魔王には戦う術がない…… 少なくとも正攻法では。
「上手く避けるじゃないか、そんなに勇者の剣が怖いのか?」
「…………」
多分、挑発しているつもりなんだろう…… 生憎そんな安い挑発に乗ってやるほどアホじゃない。
だが敢えてハッキリ言おう、怖いに決まってるだろ? 下手したら一撃死するかもしれないんだぜ?
勇者との戦いで死ぬとか冗談じゃない、俺には幸せな未来が待ってるんだ、死ぬなら1人で死ね!
とにかく自分の身の安全を最優先に確保した上で、真面目に戦ってるフリをしながらアイツの能力査定を行う。
まずはどの程度まで無効化出来るのかどうか!
シュンッ!!
「!!?」
『超躍衣装』で勇者の背後に回る、自分自身に能力を使う分には問題ないようだな、少なくとも一定の効果範囲を持つ領域系の能力じゃない。
続けて実験第2!
勇者が振り向く前にその首を切り落とすつもりで深淵真紅で斬りつける!
ビシャッ!! カラン……!
大量の血液が床に飛び散る……
一瞬、斬れちゃったのかと思ったけど手応えがない。
見れば深淵真紅は中程から折れて失くなっている…… いや、違うな…… 『神血』で硬質化した血液が、勇者の『魔王殺し』で無効化され、元の血に戻ってしまったんだ。
恐らくヤツの首に接触した部分だけが無効化されたんだ、その証拠に剣の切っ先が高質化したまま床に落ちてる。
ババッ!
お互いに一旦距離を取る。
「ふぅ、一瞬肝を冷やしたぞ? これが魔王キリシマ・カミナの本気という訳か、問答無用で首を取りに来たな?」
「本気を出すと言った以上、手加減は失礼に当たると思ってな、それとも手加減して欲しいのか?」
「いや、本気でこい! その上でお前を超える!」
今の一撃で自信を付けてしまったか…… それも仕方ないか、普段なら確実に死んでいた攻撃を無傷でやり過ごしたんだから……
これでいつもみたいに調子に乗ってくれれば楽なんだが、さすがに今日はそんな感じにはなりそうにない。
「…………」
床に飛び散った血を、勇者にバレない程度に動かしてみる……
うん、動く…… 能力は一時的に解除されてても、再使用は可能。
どうやら勇者の体に触れたモノ…… より厳密にいうと勇者の魔力に触れたモノを無効化しているようだ、感覚的には自分の体の周りだけに『反魔術領域』を展開している感じか……?
ただ『反魔術領域』と違い、ギフトまで無効化されるトコロが厄介だ。
だとすると、魔王カオスの『絶対無敵』の方が感覚的により近いかもな…… 対魔王戦においては……
…………
覚醒勇者の『魔王殺し』と魔王カオスの『絶対無敵』……
2つがぶつかりあったらどっちが勝つんだろう?
すげ~気になるけど、もう試せないんだよなぁ…… 残念。
「では続きと行くぞ!!」
「…………」
勇者は接近戦を選択した…… てかアイツが遠距離戦してるとこ見たこと無い、せいぜい強制暗示の剣を使ってたくらいか…… 遠距離攻撃魔法は苦手なのかな? これじゃ『魔王殺し』が勇者の身体から離れても有効なのかどうか調べられない。
まぁ遠距離攻撃を一切しないなら、調べられなくてもいいか……
「真・封魔剣技!!『突進乱舞・天』!!!!」
さっきよりスピードは劣るが数百倍の手数で襲いかかる。
受け太刀できない以上、避けるしかない。
だが見えている攻撃を避けるのは転移能力者である俺にとっては朝飯前だ。
フッ……
「!? チッ!!」
瞬間移動で距離を取る、勇者はさっきと同じ攻撃が来ると思って自分の背後に向かって剣を振っている…… 覚醒すると頭も覚醒するのか? 今までのアイツはあんな行動しなかったと思う……
「キリシマ・カミナ…… お前もしかして瞬間移動の能力者なのか?」
大発見だ! やはり覚醒すると少し頭が良くなる! いつもの勇者じゃ絶対にその答えに辿り着けなかっただろう!
だが……
「当たらずとも遠からず……だな、瞬間移動しているように見えるのは俺の本来の能力の応用に過ぎない」
もちろん大嘘だ。
世界中に中継されてるのにナニが悲しくて自分の能力を教えなきゃならないんだ。
『超躍衣装』に改造する事で制限は緩くなったが、それでも取り払えなかった制限がある、俺の様な天才がその制限に気付いたら魔王討伐にやってくるかもしれないからな。
「なるほど…… どおりで俺の攻撃が当たらないワケだ…… だが長距離を一瞬で移動できるワケでは無いのだろ?」
「さぁ、どうかな?」
残念、それはかつての話だ、今は幾らでも長距離転移が可能である。
お前がノンビリ他の魔王に負けてる間に俺はパワーアップしたのだ、魔王の力を継承したてのころなら有効な戦法になっただろう。
だがそう思わせておいた方が都合が良い、だから否定はしない。
「ならばお前が疲れるまで連続で攻撃し続けるまで! 高等能力は魔力消費も激しいのが常識!!」
勇者らしからぬ推理力……
実は勇者は二重人格で、いつもの頭の悪い人格を閉じ込めてもっと頭の良い人格が前に出てきている……って言われても驚かない。
転移能力者が敵だった場合に取れる対策は限られる、相手の能力をどうにか封じる、相手と接触し単体転移自体を封じる、これは俺が対レイド戦でやった戦法だ。
後は魔力が尽きるのを待つか、ワープアウト地点を予測して攻撃する…… これが勇者が見出した対策だ。
残念だがこの対策は使えない、今の俺と勇者の能力値には50000近くの差がある、例え『限界突破』で魔力が膨れ上がっていても、そうそう埋まる差じゃない。
更には世界最強レベルの純粋魔力もある……多分。
元々バカな勇者の頭がちょっとくらい良くなったトコロで、俺のワープアウト地点を予測できるハズが無い、俺は遠距離転移も使えるしな。
ただし偶然そこに当たってしまう可能性は有るから注意は必要だ。
「いくぞ!!」
勇者の突撃…… 今度は乱舞の手数を減らしスピードを上げてきた、アイツのお望み通り転移で避ける、このままそれに付き合ってやってもいいんだが、生憎とそんな時間は無い。
やはり倒さなければ…… しかしどうやって?
大火力で攻撃すれば『魔王殺し』を破れる! ……なんてこと無いだろうか?
やってみるか? 例えダメでも意味はある。
シュンッ!!
「! …………あ……あれ?」
俺のワープアウト地点は勇者の頭上20メートルほどの空中だ、勇者が俺を探してキョロキョロしている隙に準備を整える。
「こっちだ」
「っ!? 上っ!?」
勇者を見下ろしながらも警戒は緩めない、今のアイツならこの高さまでジャンプで届くだろうからな。
「貴様…… 空まで飛べるのか?」
「擬似飛翔魔術だ、能力値が高く魔力コントロールが優れている者なら誰でも使える」
その条件を満たす者はすごく少ないけど……
「チッ! 上方向へ逃げるのは想定して無かったな……」
お前は二次元の世界に生きてるのか? 俺もかつてはそうだった…… だが女神との出会いが俺を変えた、三次元も良いもんだぜ?
「一方的に攻撃されるのも面白くないからな…… 俺の…… 魔王の本気の魔術を見せてやるよ」
「!?」
「第2階位級 火炎魔術『神剣・紅蓮焔墜』シンケン・グレンエンツイ 純粋魔力増強」
俺達の周りには分割された刃渡り50cmほどの炎の剣が大量に出現した……
その数…… 実に15000本!!
この広大な広さを持つ塔第一階層を埋め尽くすほどの大量の剣だった。
「なぁっ!!!?」
「降参するならここで止めてもいいんだが…… どうする?」
「ふっ…… この数にはさすがに驚かされたが、今の俺にはお前の攻撃は効かない! 試してみるがいい、絶望するのはお前の方だ!!」
「…………そうか………… 穿て!!」
勇者目掛けて神魔制剣を振る!
その合図と共に15000本の剣は一斉に勇者に襲い掛かった!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!!!
炎の剣は一本も外れることなくすべて勇者に直撃させる、敢て長い時間燃えてる様に時間差をつけて発射している……
勇者の姿はあっという間に巨大な炎に飲み込まれて見えなくなった。
肉眼では見えないがオーラで勇者の位置を確認する…… 間違いなく巨大な炎の中心にいる…… ローソクの芯状態だ……
普通なら今の時点で骨も残さず燃え尽きているハズだが…… オーラは未だに健在だ。
それからタップリ10分、炎のミサイル攻撃をし続けた……
奴の足場ごと攻撃しているからさすがに倒れているみたいだが、結局オーラが消えることは無かった……