第346話 究極破壊兵器
今『限界突破』……って言った? うそでしょ?
それって魔王専用能力じゃなかったの? でも髪の毛の色も変わってないし……何となく……っぽくない。
神那はマリア=ルージュと戦った時に一度使ったそうだけど、人族出身の魔王は極力使わない方が良いと言われた。
身体に掛かる負担が尋常じゃないって…… それほどの対価を支払う能力……
う~ん…… 魔王ウォーリアスの件があるからだろうか? あまり脅威に感じないのって私だけ?
「限界突破!? そんな…… まさかっ!!」
リリスさんがワナワナしてる…… やっぱり私だけらしい。
「マズイ…… 今カミナは限界突破を使えない……」
「え?」
「しばらく動けなくなるから近くに味方が居ないと使えないのよ」
そうだ、神那は前に限界突破を使った後、1週間くらいまともに動けなかったって……
「でもカミナ様は今までにも限界突破を使った魔王を何人も倒してます、それもご本人は限界突破を使わずに……です」
ミラさんの言う通り、神那は限界突破無しでも魔王に勝ってきた、だから大丈夫……と思うのは見通しが甘いだろうか?
今度の相手は魔王じゃない、勇者だ……
普段のあの人なら神那は戦うまでも無い、口だけで捻じ伏せられる。
でも…… 覚醒勇者は魔王の力を無効化できるって話だった。
どうしよう…… 嫌な予感がする……
私の予感なんかあてにならないケド、嫌な予感だけは別だ。
大丈夫だとは思う、思うけど…… やっぱり心配だなぁ……
今からでも遅くないから私だけでも戻っちゃダメかな?
「みなさん、まずはご自分の心配をされたほうが良いと思います」
「え?」
レビィさんの声で視線を落とすと、いつの間にか周囲を魔人の大群に囲まれていた。
どこから出てきたの?
「今さら魔人の大軍? 数だけは多いみたいだけど、こんな奴らが魔王を前に何の役に立つのよ?」
リリスさん、そんなに煽らないで…… もっと厄介なのが出てきそうで……
…………
なにも出てこない?
とは言え、弱点の心臓が外から丸見えの魔人は確かに脅威じゃない。
むしろそれより気になることがある、塔の最上階まで侵入されてるのに出てきたのが魔人だけってコトだ。
てっきり何かしらの接触があると思ってた、だってここにはエネ・イヴ様がいらっしゃるのに……
よくよく考えたら私たちは敵であるはずのエネ・イヴェルトの姿はおろか声すら聞いたことが無い……
ホントに実在するのだろうか?
「とにかく! 今は神星の破壊を優先しましょう!」
そうだった、厄介な敵が出てこないならそれに越したことはない。
さっさと終わらせて神那のトコロへ帰らなきゃ!
…………それで、どうするんだろう?
「あのリリスさん? そもそも神那が居ないのにどうやってアレを壊すんですか?」
「あ~うん、それね…… カミナがとんでもないモノを隠匿してたんだよね? 人の事を秘密主義とかどの口が言うのよ?
よくよく考えると彼ってそういう所あるよね? エネ・イヴ様のコトとか……」
隠匿?
「だいたいカミナは私より2400歳も年下なのに年上に対する敬意ってものが…… いや、そんなのいらないんだけど、それでもチョットくらい…… 例えばおね~ちゃんって呼んでみたり……」
「あのリリスさん?」
放っておくと延々愚痴りそうなのと、聞くに堪えない痛々しい妄想が始まりそうなので止める。
言いたい事は分からなくもない、でもその妄想を口に出すのはヤメた方がいい、お布団被って部屋に引きこまれても困るから。
「コホン! と……とにかく、カミナが用意…… 隠し持ってたのよ、それがこれ……」
そう言って魔神器から何かを取り出す…… あ、神那の魔神器……
出てきたのは刃渡りは20cm程のレイピアっぽい小さな短剣だった。
「執行官断罪剣よ」
「えくすきゅーしょなー?」
なんだっけ? ドコかで聞いたような……?
「ふむ、あの時カミナが隠匿したものか」
「ジークさん知ってるんですか?」
「うむ、魔王城オルターで手に入れたモノだ、あの巨大な砲塔の中心に据えられていた魔道具、浮遊大陸破壊兵器『執行官断罪剣』だ」
あぁ、思い出した、あのデッカイ大砲の…… 神那…… そんなの取ってきちゃったんだ。
「まぁカミナはオルターの全てを譲渡されてるから、執行官断罪剣の所有権もアイツにある……と、言えなくもない。
実際の所は自分に向けられることが無いようにしたかったのだろう」
確かに…… ティマイオスやスカイキングダムに向けられたらたまったものじゃない。
「しかしリリスよ、それをまともに撃てるのか? 1000メートル単位の巨大砲塔が必要になるだろうとカミナも言っていたぞ?」
「それについてはカミナのレポートに解決法が書かれていたわ。
浮遊大陸アリアに対して使う可能性を考えてたみたいね、結局は使われず仕舞いだったけど」
「その方法とは?」
「魔力による仮想物質砲塔よ」
仮想物質? 疑似物質じゃなくて?
「カミナのレポートには執行官断罪剣の砲身を自作するのはほぼ不可能、神聖銀や魂魄鋼等の超希少金属が大量に必要になると思われる。
自作するくらいならオルターから砲塔を奪ってきた方が手っ取り早い、しかしアレを移動させるのも実質不可能……
ではどうすればイイのか?
普通の物質では威力に耐えられない…… だったら普通じゃない物質で構成すればいい。
それが魔力による仮想物質よ」
………… よく分からない…… そもそも仮想物質がどういったものか分からない。
「難しく考えるコトはないわ、要するに執行官断罪剣の砲身に物質的な強度は必要ないの、ただ破壊魔力に耐えられればいいだけ」
「はぁ……」
改めて聞いても分からない…… まぁいいか、リリスさんが分かってるなら……
「しかしリリスよ、言うのは簡単だが実際にそんなモノを創れるのか?」
ジークさんの言う通りだ、以前から相談を受けて用意していたのならまだしも、さっきいきなり言われて、いきなり用意できるのだろうか?
「えぇ、実際かなりの無茶ぶりよ」
やっぱり…… さっきレポート読んでる時、表情が固まってたもん。
「でも私には『魔術創造』の能力がある」
「『魔術創造』…… もしかして今から砲塔創生魔術を創るんですか?」
「その通りよ、もっともカミナが『神魔制剣』を貸してくれれば、そんな魔術を必要とせずに力技で創れたんだけど…… さすがにこの状況では貸してくれなかったわね」
それはいくらなんでも…… 覚醒勇者に魔王の魔力が効かなくても、神那の戦い方ってそれだけじゃないから。
「そんな訳だから…… 10分、時間を稼いで」
「10分……だけ?」
「この塔を登ってくる間にイメージは固めておいたから」
それでもたった10分で?
「ただ魔力は節約して欲しいかな? これだけ魔王が揃ってればかなり余裕はあるだろうけど、全部使い切っちゃうワケにはいかないから」
「つまり私たちは…… 魔力タンク?」
「そ……その言い方はチョット……」
別にイヂワルする気はなかったんだけど、そういうコトだよね?
「でしたら魔人の相手は私が勤めましょう」
立候補したのはミカヅキさんだ。
「私は元々魔力のない鬼族出身ですので、当然魔力総量は全魔王の中でも最低レベルでしょう、魔力タンクとしてはお役に立てませんので……」
「あ~…… そんなつもりじゃなかったんだけど…… うん、ゴメンナサイ、それじゃお願いします」
「かしこまりました」
大丈夫だよミカヅキさん! 今や“気”が使える魔王はミカヅキさんだけなんだから!
「ならば俺も魔人処理に回らせてもらおう、俺も鬼族出身の魔王から力を継承したから魔力の増加量は微々たるものだろう」
ジークさんも? でも魔王スサノオは魔力を持ってたハズだよね? 確かに能力値は低そうだけど……
「…………」
「よろしく頼むぞミカヅキよ、しかしなぜそんな苦虫を噛み潰した様な顔をしている?」
「いえ…… 別に…… 私は左側を受け持ちますので、ジーク……様は右側を処理して下さい。
くれぐれも私の担当エリアに入らないようお気をつけ下さい、手が滑って心臓を破壊してしまうかもしれませんので…… そうなった場合は一切の恨み言は受け付けませんので」
「わかった、そちらのエリアに入らないよう気を付けよう」
「………… 別に入ってもいいんですよ? 手元が狂う確率は…… 多分低いですから」
ミカヅキさんが良からぬ事を企んでる気がする……
大丈夫だよね?