第345話 勇者 vs 第3魔王4 ~禁じ手~
『弐拾四式血界術・捌式『蓮華・鎧通し』』
一時的に血液変換で重量増加・外皮強化した拳で相手を殴り、魔力変換した衝撃のみを鎧の内側へ伝える技…… これで腹パンされるとしばらく飯が食えなくなる。
プレートメイル等を着込んでいる敵に有効…… なんだが、正直一生使う機会がないと思っていた技だ。
技完成時、師匠に試し打ちしたら悶絶したのち手痛い反撃を喰らった…… 自分で「撃ってこい!!」って言ったのに…… 理不尽だ。
「ぐぇぼおおぉぉぉおっ!!!!」
ビチャビチャ!
勇者は盛大に吐いてる、やはり魔力変換技が通用する…… コイツは覚醒顕現を使えない。
ナゼだ? 神聖域に押し入って封印されていたエネ・イヴェルトの力を奪ったんだろ? ただの推測だが、そうでもしないとコイツが覚醒に到れるハズがない。
もしかして様子見のつもりだろうか?
可能性は低い…… コイツは殺る気満々だからな。
だったらナニか条件があると考えるべきか。
覚醒できないならこんなやつ放っておいてさっさと進むべきだな。
世界中の人に監視されながらバカ勇者と戯れる趣味はない。
「ゲホッ!! ゴホッ!!」
(な……何という威力!! これが魔王キリシマ・カミナの真の実力だというのか!?)
※真の実力の1/100も出していません。
(鎧は全くの無傷、一体何をされたんだ? アイツは今まで俺と戦った時、本気を出していなかったのか?)
※勇者相手に本気になったことは一度もありません。
「勇者」
「ゴホッ!! ゴホッ!! ?」
「さっきも言ったがコッチは世界を救うのに忙しいし時間もない。
お前が諦めて逃げるなら追ったりしない。
それでもまだ邪魔し続けるつもりか?」
「黙れ!! ぐっ…… 魔王の言葉など誰が信じるか!」
「世界が滅ぶ瞬間に後悔しても遅いんだぞ?」
「もし本当に世界が滅ぶと言うなら、その証拠を示せ!!」
んなもんあるか、仮にあったとしてもお前は信じない。
「それじゃこうしよう、お前はここで色々反省しながら待っていろ、俺は先に進んでちょっと世界を救ってくる。
どうせ帰る時にここを通るしその時は再戦だ。
これで満足だろ?」
「誰がそんな言葉を信じるか!!」
「おいおい、俺は嘘はつくが約束は守る男だぞ?」
確かに帰る時は転移を使ってコイツを置き去りにするだろうけど……
う~む…… 信じてはくれないか。
「じゃあどうする? どちらかが死ぬまでやる気か?」
「無論! 最初からそのつもりだ!!」
「実力差が分からないのか?」
「ふっ…… ふっふっふっ……」
ぅえ…… なんか怪しげに笑いだした、打ちどころが悪かったのかな? 腹しか殴ってないんだが……
「お前は俺の真の力を恐れている」
「あ?」
「だからこそお前は他のメンバーを先に行かせ、一人で残ったんだ」
「…………」
まぁ…… 間違ってはいない、ただ恐れているというより警戒しているというべきだ。
「だったらナゼその真の力を使わない? そんなモノに頼らなくても何とかなると思ってたのか?」
「いくら俺でもそこまで自惚れてはいない」
え? そうなの? お前って常に現実見えてないじゃん。
「ただ…… 少々リスクがあってな……」
「リスク?」
ジークの話では覚醒顕現にリスクが有るとは言ってなかったんだが……
無理やり覚醒させた故のリスクか?
「やはりリスクを負わずに貴様を倒そうなどと考えるのが甘かったな……
だが…… 覚悟が決まった」
「お前…… ナニする気だ?」
「黙って見ていろ…… これで……最後だ!!」
勇者はゆっくりと立ち上がる、いつもの如く隙だらけだが、纏っている空気が違う。
「光より賜りし加護よ、闇を滅ぼす腕となれ――
聖より賜りし力よ、邪を消し去る身体となれ――
神より賜りし心よ、魔を滅する剣となれ――」
詠唱?
「『限界突破』!!!!」
!!?
ブワッ!!
勇者の魔力が膨れ上がり、周囲に吹き荒れる……
バカな…… 『限界突破』だと?
大体『限界突破』を使うのに詠唱は必要ないだろ? このカッコ付けは……
そもそも何故勇者に限界突破が使える? それは魔王にのみ許された緊急回避手段……
あ、そうか……
勇者システムは魔王システムの模倣、限界突破システムが組み込まれていても損は無い、むしろエネ・イヴェルトの手駒として使うなら搭載しておいた方がいいに決まってる。
「ハアァァァァァ……」
勇者の両目が赤く光っている、魔王版・限界突破は髪の毛の色が変わったが、勇者版・限界突破は目の色が変わるのか……
これが覚醒顕現…… ジークの奴、覚醒者のクセにその正体が限界突破だと知らなかったのかよ…… それとも当時とはメカニズムが違うのだろうか? どちらにしても使えない情報ソースだ。
しかしこれは……
「勇者! 今すぐ限界突破を解け! それは文字通り限界を突破する技だ、種族的に一番貧弱な人族ではその身にかかる負荷は計り知れない!」
実際俺もかなりきつかった、魔王の力で強化されていない生物が使ったら命に関わる!
いくら勇者が頑丈でも、間違いなく命を削る荒業だ。
ましてコイツは無理矢理覚醒者にされた身だ、コイツに限界突破は早過ぎる!
「分かっているさ……」
「!!」
「この力を使えば俺の寿命は10年は縮む…… いや、その程度では済まないだろう」
「だったら……!!」
「そんな事は関係ない!! 勇者は命を賭して魔王を倒さなければならない!! 先代たちは皆そうしてきた…… 命は勇者の武器なんだ!!」
ジークには耳の痛いセリフだな……
だが命を賭して魔王を倒す…… その考えには賛同しかねる。
「お前はエネ・イヴェルトに利用されてるだけだ、魔王を倒す為に命を捨てる? アホか! そんなブラックな仕事が勇者の使命のワケねーだろ!」
「もう黙れ、キリシマ・カミナ……」
「……!」
「今のはただの建前だ、実際のところは命を懸けて敵を倒す、その精神は崇高だとは思うが間違っている気がする……」
「だったら……」
「魔王を倒すとかどうでもいい……
ただ俺は……
俺は……
お前に勝ちたい!! それだけだ、その為ならどんな手段だって使ってやる!!」
勇者…… それほどまでに……
…………
もはや説得は不可能か。
「すぅ…… はぁぁぁ~……
分かった、今までお前と戦った時、一度だって本気を出した事は無かった……
だが……! 今回だけは本気を出そう!」
「あぁ! それでいい!!」
ニヤリ……と、勇者は笑った……
なんでそんなに嬉しそうなんだよ……
バカヤローが……
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---有栖川琉架 視点---
―― 塔 第10階層 ――
空が見える…… ここって屋上かな? 思ってたよりずっと低く感じたなぁ……
……と、思ってたんだけど、ハッキリ言って色々おかしい。
ここに至るまで妨害の類は一切なし、ほとんど素通りだ…… むしろ警戒して登ってきたから無駄な時間が掛かっちゃった。
てっきり魔人の大軍が行く手を阻むように大量に配置されてると思ってたのに、実際にはナニもなし、居たのは第1階層の勇者さんだけ……
そして第10階層に登ってみれば天井がなかった……
足元には白っぽい半透明の床が地平線の先まで広がっている…… そう、足元の床に地平線があるのだ。
なんて言ったっけ? 確か精神と時の…… まぁそんな感じかな?
床の下に見える景色もちょっとおかしい、ここまで登ってきた高さはせいぜい500メートル程だったと思う、しかし眼下に広がる景色は飛行機からのそれに近い、たぶん10000メートルくらいだろうか?
ちょっぴり足の竦む高さだ…… あれ? みんな平然としてる……
わ…私だって重力制御使えるから平気だし?
ただちょっと慣れるまで誰かに手を握って欲しいんですけど……
「なんか…… 不思議なところですね?」
そう言えばこんな高さなのに寒くない…… それどころか風が一切吹いてない。
やっぱりここは普通の空間じゃない?
「ここは既に高位次元です」
エネ・イヴ様が言うには私達が普段暮らしている通常次元からは少し位相がズレた場所…… らしいです。
通常次元ってナニ? 3次元のこととは違うのかな?
視線を真上に向けるとすぐ側に神星が見える、手を伸ばせば届く距離……ってワケじゃ無いケド、だいぶ近く見える……
え?
神星に神那の姿が映ってる…… やっぱり私って重症だなぁ、ほんの数分離れただけでこんな幻を見るなんて…… でも折角だからじっくり見させて貰おうかな?
うぇ? 勇者さんが吐いてる…… そんなシーンは見たくない……
あれ? もしかしてこれって現実?
周りを見てみると、みんな一様に空を見上げている、どうやら私だけに見える幻じゃないらしい。
みんなも同じ幻を見てるって可能性はないよね?
そんな中、唯一龍人族のレビィさんだけが周囲を警戒してくれている…… ありがたい。
その間も神那はいつものカミナ節で勇者さんを煽ってる……
アレって絶対神那のストレス発散だよね?
…………
まさかとは思うけど…… この映像って世界中で観測できるのかな? この塔が幻の塔と同じならその可能性もある……
『ふっ…… ふっふっふっ……』
ぅえ…… 勇者さんが怪しげに笑いだした、打ちどころが悪かったのだろうか?
てか声も聞こえるんだ、いつもの如く妄想を並べている。
『光より賜りし加護よ、闇を滅ぼす腕となれ――
聖より賜りし力よ、邪を消し去る身体となれ――
神より賜りし心よ、魔を滅する剣となれ――
『限界突破』!!!!』
勇者さんがブツブツ唱えた後、唐突に『限界突破』を使った!?
この緋色眼を通して見える魔力の膨らみ方…… まさか本物?
そんな…… うそ……でしょ?