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レヴオル・シオン  作者: 群青
第六部 「神の章」
348/375

第342話 現場から


---霧島伊吹 視点---


 ―― 大和 第3魔導学院 ――


 空に浮かんだ神星の手前辺りに(バベル)の映像が映し出されている……

 そこに映し出される人物は二人…… どちらも私の知ってる顔だ、てか片方は生まれた頃からウチにいる我が不肖の兄だ。

 コレってもしかして世界中に中継されてる? もうダメだね……


 その映像の中で勇者が悪役っぽく叫んでいた。


『フッフッフッ 顔色が変わったな? 魔王キリシマ・カミナよ!!』


「あちゃ~…… 言っちゃったよ、神那クンやられちゃったね?」

「あぁ…… これでもう私は世間的に魔王の妹だ…… はぁ……」


 学院で映像を見ている私とサクラ先輩の周りには、同じように空を見上げている者が多数いる。


「き…霧島が……魔王? あの赤髪青鎧…… 勇者だっけ? アイツは何を言ってるんだ?」

「俺は不思議とは思わないぜ? 霧島が魔王ってんならむしろ納得だ、俺に呪いの肩パットを着けた男だぜ? まさに魔王の所業だ!」

「神那クンが魔王!? 本当だとしたら血液サンプルが欲しい! 頼んだらくれないかな?」

「霧島神那魔王!! 私の考えは正しかった!! その圧倒的な強さで屈強な男たちを組み敷いてハーレムを作る男×男専用魔王!! イケる!!!!」

「ヤメロ馬鹿!! 本当だったら学院ごと滅ぼされるぞ!!」


 そして勇者の仲間だった者たちも同様に空を見上げていた。


「あれは……っ!! D.E.M. の小僧と勇者!? 生きていたのか!? 行方不明だからどっかで野垂れ死んだのかと思っておった!」

「霧島クンが…… 魔王? そんな筈は……」

反魔術(アンチマジック)の小僧が魔王!? こんな事ならあやつを裸に剥いた時にもっと詳しく調べておくべきだった!!」

「えっ!!?」「えっ!!?」


 今はまだ周囲の反応は半信半疑といったトコロだ、しかし既に霧島神那魔王説は流れている、この映像は決め手になり得る……


「でもこれで私もシニス世界移住かな? それはそれでアリかも」

「まだ分からないよ? なんと言っても神那クンだからね」

「どういう意味ですか?」

「全ての悪い印象を勇者に擦り付ける、それくらいのコトを当たり前の様にやってのける男だよ彼は」

「あぁ~…… 確かに」


 でも一応、変装用のマスクと眼鏡と帽子は用意しておこうかな? 変質者じゃ無く芸能人っぽく。

 とにかく今は見守るしかない、負けたら世界の終りなんだから。





---トリスタン・クールノー 視点---


 ―― ランス 首都リスパ ――


 この街でも世界中の人々同様、皆が空を見上げている……

 映し出されているのは二人の少年……


「アレは…… あの時の無礼な少年?」

「………… カミナ?」


 壁の内側に複数舞い降りた魔人の処理に当たっていた創世十二使 序列四位のトリスタン・クールノーと、シルヴィア・グランデも例外では無かった。


「アイツが……魔王?」

「クッ…… クックックッ♪」

「し……師匠?」


 師匠がこんな笑い方をする時は、絶対にロクなことを言いださない…… 彼女の教え子なら誰でも知っている常識だ。


「カミナが魔王? 私が20年間追い求めてきた最強の生物? クックックッ♪ まさかこんな近くに…… デクス世界にいたなんて!」

「し……師匠!? 一体何を!?」

「トリスタン!! 今すぐヘリを用意しろ!! アソコへ向かうぞ!! 魔王討伐だ!!

 いや、討伐してしまうのは勿体無いな、半殺しにして捕え、飼いならして好きな時に戦えるようにするのがベスト!!」


 あぁ…… やっぱり……


「落ち着いて下さい!! 心臓オバケの処理がまだ終わってないんですよ!?」


 心臓オバケとは魔人の事である。


「そんなモノ知るか!! 夢にまで見た魔王がすぐソコにいるんだぞ!!」

「大体どこに行こうというんですか? 居場所も分からないじゃないですか!」

「何を言ってる? アソコに居るじゃないか?」


 そういってシルヴィア・グランデが指す先は…… 空に浮かぶ虹色の球体……


「アレは映像なんですよ? あの中にいるとは限らないです」

「そんなモノは行ってみれば分かる!!」

「そんな無茶な……」


 長年魔王に恋焦がれてきた暗黒の病の重病患者の心に火がついてしまった……





---アルベルト・ダラス 視点---


 ―― アルスメリア デルフィラ郊外 ――


 避難民、そして避難を誘導する兵士たちも一様に空を見上げていた。


「魔王…… キリシマ・カミナ……」


 そんな噂は確かに以前から流れていた…… 一般には公開されていないマリア=ルージュとの決戦の画像などを見ると、ただの噂とは思えなかった……

 キリシマ・カミナの強さは人とは思えぬほど逸脱していた。


 しかしそれでは道理に合わない、何故ならキリシマ・カミナは生まれも育ちもデクス世界、魔王であるハズがない。


 ならば考えられる可能性は一つだけ……


「魔王を倒した者は次の魔王になってしまう……?」


 それならば魔王と通じていたという疑惑にも納得がいく、本人が魔王なのだから……


「何というコトだ……」


 もし自分があの時、事態を正しく認識していれば、その後の戦闘で多くの犠牲者を出さずに済んだかもしれない!

 私の…… 責任だ!


「ダ……ダラス司令」

「………… なんだ?」

「その…… 我々はどうするべきなのでしょうか?」

「どういう意味だ?」

「もしキリシマ・カミナが本当に魔王だったとしたら、この事態を引き起こしたのは彼なのかも知れません! だとしたら我々の手で魔王を討たなければ……」


 確かに…… 今までの常識に照らし合わせれば、魔王が元凶である可能性は高く、それを討つのが我々の仕事だ。

 だが…… それは間違っている。


「副指令…… 我々にソレが出来るのか?」

「え?」

「キリシマ・カミナはあのマリア=ルージュ・ブラッドレッドを倒した男だ、我々が手も足も出なかった第3魔王をだ……

 しかも彼の側にはまだ2人も魔王がいる、もしかしたらもっとだ、戦えば確実に全滅する、死ぬと分かっている事をやらせる訳にはいかん」

「しっ… しかしっ!! たとえ死ぬと分かっていても……!!」

「まぁ落ち着け、彼は謎の敵性体から我々を助けてくれた、現時点では我々の敵では無い。

 それに下手に手を出して攻撃の矛先が我々に向いたらどうなる? 今度こそ我が国は滅びるだろう。

 今は様子を見るのだ、できるだけ早くデルフィラから離れろ、今から始まろうとしているのは魔王の戦いだ、それに巻き込まれるのは避けねばならん」

「な……なるほど…… 指令の仰ると通りです、全軍に撤退を急がせます!」

「頼む……」


 副指令はテキパキと指示を飛ばす……


「今度こそ判断を誤る訳にはいかない…… 恐らく次は無いだろうから……」





---有栖川琉架 視点---


 ―― (バベル) 第3階層 ――


 ここにも何も無い…… もしかして私たちを迎撃する為に待ち受けてたのってあの勇者さんだけなのかな?

 でもあの人って完全に私怨で動いてるよね? そんな感じだった…… 昔っから神那のコト目の敵にして、なんであんなに仲が悪いんだろう?

 元々別々の世界で生まれ育ったんだから、恨まれる理由なんかどこにも無いハズ……


 魔王と勇者が仲が悪いのは当然だけど、神那が魔王になる前からあんな感じだった気がする…… 正直よく覚えて無いけど……


 どちらにしても塔内に他に伏兵がいないのなら、せめて誰かあと一人くらいは残してくれば良かった様な……


「うぅ~…… 神那、大丈夫かなぁ……」

「なんじゃ、ルカはカミナのコト信じておらんのか?」

「しっ…! 信じてるよ!! 私は世界で一番神那のコト信じてるよ!!」

「ならば何も心配いらんじゃろ?」

「信じてはいるけど、神那の心配するのとは別問題だよぉ」

「そういうモンか?」


 うぅ…… やっぱり誰か……


 あ


 そうか! 神星の破壊をさっさと終わらせて、みんなでカミナの元へ戻ればいいんだ!


「みんな、神那のコトが心配だから急ごう! 早く終わらせれば、それだけ早く神那の元へ戻れる!」

「「「「「!!」」」」」


 みんなの眼にヤル気の炎が灯った気がする、凄いなぁ神那のネームバリュー。


「ウィンリーちゃん、お願い」

「うむ、それではこの階層も素通りさせて貰おうぞ!」


 私が重力を遮断し、ウィンリーちゃんが風域を操作する。

 本当はウィンリーちゃん一人でも出来るけど、こうした方が簡単だから……


 一気に第四階層を目指す! 待っててね神那! すぐに戻るから!





---霧島神那 視点---


 ―― (バベル) 第1階層 ――


「さあ! 始めようじゃないか!! 勇者と魔王の最終決戦だ!! 今までお前から受けてきた数々の屈辱を!! 熨斗(のし)つけて返してやる!! 平和の為に死ね!!!!」


 勇者はやる気満々だなぁ…… アイツは何時だって最初はあんな感じだ。

 俺の戦略を封じれば勝てると本気で思ってるのかね? 確かに悪く無い作戦だ、世界中に見られていては超外道な行ないはやりづらい。

 それでも相手が勇者なら負ける気がしない……


 ただ一つ、懸念材料があるとすれば…… それは覚醒か…… これだけは最大限の注意が必要だ。


「勇者ブレイド」

「ん? なんだ? 降伏は受け入れないぞ? 勇者は魔王を殺す為に存在するんだからな」


 コイツは相手が無抵抗でも嬲殺しにするのか?

 まぁ、相手が危険で卑怯な奴なら俺でもそうするかもしれない、チャンスを逃せばピンチになって返ってくる。


「そうじゃない、ただ聞きたい事があるんだが俺の質問に3つ答える余裕はあるか? それとも血に飢えた獣みたいに今すぐ始めるか?」

「むっ? 本当に質問だけか? 罠じゃないだろうな?」

「質問だけだよ、それとも…… もしかして怖いのか?」

「っ!! いいだろう!! 死に往く者への最後の手向けとして!! この勇者ブレイドがお前の質問に答えてやろう!!」



 相変わらずチョロイ奴だ。




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