第339話 突入
人の居なくなった戦場を歩く、向かう先に聳え立つのは高次元との連絡橋“塔”だ。
その周りには激しい戦闘の跡と、血と、投げ捨てられた武器が落ちている……
そういえばマリア=ルージュもDC突入前に武器を用意していたな…… 俺もアイツに倣って武器を調達していくか……
そこら中に新鮮な血が溜まってるからな……
これどっちの血だろう? 軍の連中か、或いは魔人の心臓の血か…… きっと魔人の血だ、そう思っておこう。
そして……
「これが塔か……」
かなりデカい、しかしシニス世界の幻の塔とはデザインが根本的に違う。
幻の塔がシンプルだったのに対し、塔は無駄に細やかだ、以前絵画で見た気がするこのデザインはアーチ状の入り口が螺旋を描くように大量に設置されている。
絵画の塔は建設途中だったけど、この塔は天まで届く高さだ…… これ…… 登るのか? エレベーターが設置されてるといいんだが……
ちなみに魔人たちはアーチ状の出入り口からランダムに出てきたが、巨兵は一つだけある大きな出入り口から出てきた。
アレが正面入り口かな?
今は魔人の排出は止まっているけど、念の為誰か一人は外に残しておいた方がイイのかな?
残すならジークだけど、みんな避難させたし必要ないか? 今も残っている奴は自己責任で……
「そろそろみんなを呼ぶか」
俺の待受専用携帯電話が役に立つぜ! それじゃる…る…る琉架に! ででで電話を…掛けるぜ!
もちろん初めてじゃないけどいつも緊張する……
ピルルルルルッ♪
こちらから掛ける前に着信した、いきなり鳴るなよビックリするだろ? 俺の携帯から着信音が鳴るなんて滅多に起こらないレアイベントなんだから。
「もしもし?」
『もしもしカミナ? そっち終わったよね? そろそろ降りていいかしら?』
なんだリリスか……
『何か今ガッカリした?』
「そんな事はない」
鋭いヤツめ。
「全員に『偏光』を掛けて降りてきてくれ」
『了解』
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俺の嫁全員集合…… 要らないのも混じってるけど。
しかし……
改めて塔を見てみると、まるで狙い澄ましたように第一魔導学院を潰すように出現している。
いや、周囲に散らばる瓦礫を見るに、地下から生えてきたようにも見えるのだが……
……地下から?
「なぁリリス……」
「なに?」
「第一魔導学院の地下には聖域が在ったよな?」
「…………」
リリスは気まずそうに目を逸らす。
「おい」
「えっとぉ…… どうやらそうだったみたい。
あの聖域こそが塔の基礎だったらしいの……」
よく分からんトコロに学院なんか作るから……
まぁ第三魔導学院の地下じゃなくて良かった。
「それじゃさっさと突入するか、時間もないことだし……」
夜明けまで3~4時間ってところか? 中にナニが待ち受けているかわからない以上、少しでも急いだほうがいい。
もしかしたらこのアホみたいに高い塔を徒歩で登らされるかもしれない。
みんなを引き連れて一番大きな入り口へ向かう。
しかし入り口から内側を窺い知ることは出来なかった、なにか黒いモヤのようなものが行く手を遮っている。
なんか見覚えあるぞこれ?
「魔宮の入り口みたいですね」
ミラのつぶやきで思い出した、確か魔宮の入り口はこんな感じだった。
なるほど、確かにこの塔の内と外は次元が異なる、そのまま中を確認できないか。
本来ならこの不気味な見た目は思わず尻込みするところだが、一度経験しているから少しだけ安心できる。
ぶっちゃけゲートに突っ込む方が勇気が必要だった。
「…………」
あと一歩という所で振り返りみんなの顔を見る。
そして喉まで出かかっていた言葉を飲み込み歩みを進める。
覚悟が決まらない人、怖い人は外で待っててもいいと言い掛けた、だがみんなは既に覚悟が決まっている目だった…… 覚悟が決まってないのは俺だけらしい。
この暗闇の先で、俺は人生最大級の面倒臭い体験をすること間違い無しだからな。
「それじゃ…… 行くぞ」
「……っ!」
先陣をきって塔へ突入する…… なんで俺は当たり前のように先頭を歩いてるんだろう? ここはリリスが先頭になるべきだと思うんだが? もっと言えば毒見役が10メートルくらい前を歩くべきだと思うんだが?
言われなくても先頭を歩けよ使えねー奴だな!
ズズズ……
コッ コッ コッ コッ
中に入った途端全ての音が消えた、聞こえるのは自分と後ろからついて来るみんなの足音だけだ。
とりあえず分断とかもされてない。
塔の中は薄暗く反対側の端が見えない。
古代神殿風のぶっとい柱が規則正しく立ち並び天井を支えている、しかしその天井も暗くて見えない、少なくとも天井高は50メートル以上ありそうだ。
しかし柱がある以上、天井があり、2階があるのだろう…… 幻の塔みたいに吹き抜けだったら一気に飛んで最上階を目指せたんだが……
いっそ天井をぶっ壊しながらまっすぐ進むか?
「魔人も巨兵も居ないんだな…… てっきり生産プラントみたいなのがあると思ってたんだが……」
それとも上の階にあるのだろうか?
周囲を見渡せば、俺達が入ってきた入り口のすぐ脇、右側に塔の内壁に這わす形で緩やかな階段がついている…… やはりこのパターンか。
しかし階段が付いてるからって馬鹿正直にそれを登らなければならない決まりはない。
ショートカット上等だ、天井に気をつければ飛んでいける。
クイクイ
「ん?」
「神那ぁ、誰か来るよ?」
琉架の見据える先…… 暗闇の中から何者かが近づいてくる……
だいぶ遠いな…… オーラも微かにしか見えない、俺達のそばまで来るのに数分は掛かりそうだな……
う~ん…… 俺たち忙しいんだよなぁ……
よし、律儀に待ってる必要ないな、さっさと先に進んでしまおう。
「エネ・イヴ、進む方向は上…… でいいんだよな?」
「そうですね…… シニス世界と同じなら最上階に“路”がある筈です」
「よし、壁際を少し上に飛んでショートカットしてみよう。
わざわざ馬鹿正直に階段登る必要ない」
「……神那、いいの?」
「いいんだよ、バカに馬鹿正直に付き合う必要ないからな」
「??」
みんなを近くに寄らせる、ジークがいなければ「全員俺に抱きつけ!」って言えたのに…… ホント邪魔だなコイツは。
「ちょっとウィンリー! アナタ自力で跳べるんだから、気を利かせて上の様子を見てきなさいよ! いつまで肩車してもらってる気よ!」
「なんじゃ? 変わって欲しければ素直に言えといったじゃろ?」
「私は上になりたいんじゃなくて下になりたいのよ! そういう意味じゃなくって……!」
「白も…… 肩車して欲しい……です」
「おぉ♪おぉ♪ ちっこいのもやってみるか? カミナの肩車は絶品じゃぞ♪」
「………… 羨ましぃ」ボソ
…………
オマエラ…… ピクニックに来たんじゃないぞ? リラックスしてるのは良いことなんだが……
アーリィ=フォレストは倒錯的な願望を外に出すな。
白はいくらでも肩車してあげるよ。
ウィンリーは白より小さいのに、相変わらずちっこいの呼びなんだな。
あと最後に超小声でわずかに聞こえた「羨ましぃ」って誰が言ったの? よーし! みんな目を閉じろ! 今「羨ましぃ」って言った人は手を上げなさい! 素直に名乗り出ればセンセイ怒らないから、むしろご褒美上げちゃうよ?
これでもしジークが手を上げたらご褒美に塔の最上階から蹴り落としてやる!
こんな感じで和やかに談笑しながら壁際の階段へ向かう、すると遠くから聞こえていた微かな足音が、急にバタバタと慌ただしくなる。
走ってる…… よし、みんなもうちょっと急ごうぜ? 面倒臭いイベントが近づいてくるから。
「待て!! 待て!! 待て!! 待て!! 待て!! 待て!! 待てぇーーーぃ!!!!」
やたら「!」マークが多い声で呼び止められた…… あぁ…… 何年か前にもこんな事があったなぁ……
「待て!! キリシマ・カミナ!! 何でいきなり階段に向かうんだ!!? 普通調べるだろ!!?」
ゲームならな? 現実だと広すぎてメンドクセー。
更に言えば勇者が待ち構えているイベントバトルの予感がしたからスルーしようと思ったんだ、なのにわざわざ走って来なくても良かったのに……
ハァ……
「久しぶりだな勇者、マリア=ルージュの攻撃に巻き込まれて死んだと思ってたぞ?」
ホントは俺の攻撃に……だけど。
「運が良かったんだ…… 大水に飲まれ溺れそうになったり、爆発で何百メートルも吹き飛ばされたが、そのおかげで助かった」
全然運良く無いぜ? コイツの感覚はもはや人類とは隔絶している。
しかし俺のおかげで『E・MBH』に巻き込まれずに済んだのなら、感謝して然るべきじゃないか?
「そうか、ところで俺達今ちょっと忙しいんだ、話は後で聞くよ、じゃ」
「行かせるかぁぁぁーーー!!!!」
勇者の大絶叫が塔内に響き渡る。
「ウルセーな、何なんだよ一体?」
「………… お前…… 魔王なんだろ?」
お?
「魔王を倒すのが勇者である俺の定めだ! さあっ! 今こそ長年の因縁に決着をつけよう!」
え? イヤです、メンドクセーから……