第337話 アウェイ
デルフィラ上空へと差し掛かった……
真下では軍と魔人の戦闘が繰り広げられている……
あの戦闘への介入…… いろいろ考えたんだけど、素直にそのまま行くことにした。
戦闘域全体を『宵闇』で覆って、見つからないように塔へ侵入、中で待機している魔人を一網打尽にすれば充分過ぎる援護になる……
ただ戦闘中に急に何も見えなくなったら軍の連中はパニック起こしそうだからヤメた。
仮想体の魔人に目潰しが効かない可能性もあったからな。
後はEMPバーストで周辺の電子機器を破壊する、そうすれば映像記録には残らず、少なくともネットで騒がれることもない……と、思ったけどこのプランもヤメた。
電子機器が壊れて困るのは軍の連中だ、機人族ならともかく魔人には全く影響がない、一方的に不利になるだけだ。
大体、映像記録が在ろうが無かろうが、ウワサだけでも炎上するに決まってる、特に俺の場合は。
高高度から琉架の『対師団殲滅用補助魔導器』による魔人殲滅もダメだ。
魔人には魔術が効きづらいようだが、琉架の出力なら容易に倒せるだろう……
しかしそんなことが出来るのが琉架しかいないからモロバレだ。
そんなワケで諦めた、もうこの期に及んでバレずに事態を収めることは出来そうにない。
それに……
「………… あのダラスが指揮取ってるのか」
アイツには一言言ってやりたいことがあったんだ。
一応みんなにはマスコミ対策で『偏光』を掛けてもらうが、見る人が見ればすぐ分かるだろう。
ここで問題になるのがエネ・イヴの扱いだ、彼女を一緒に連れて行くのはリスクしか無い、しかし神星や塔について知っているのも彼女だけ…… 何かあった時の為にも話を聞ける状態にしておきたい……
ぶっちゃけスマホ一個持たせるだけで解決するんだが、塔の中はやっぱり圏外かな? 次元が違うからな、その可能性が高い。
ならば強力な護衛が絶対不可欠だ。
「レビィ、エネ・イヴの護衛を頼めるか?」
「? 私が?」
「戦闘に参加しなくていいから常に接触しながら守ってくれ」
「接触……とは?」
「手を繋ぐでも、抱きつくでも、身体の何処かに触れている状態だ、万が一の時は俺が空間転移で跳ばすから」
「っ! 了解!!」
そう言うとレビィは嬉しそうな顔でエネ・イヴを後ろから抱きしめた。
エネ・イヴって妙に人気あるな…… 確かに超絶美人だ、俺だって許可さえ貰えればきっと鼻の下を伸ばして抱きつくだろうが、リリスもレビィも百合っ気でもあるのだろうか?
まぁ終焉の子…… 最後の子供だからな、龍人族にも溺愛されてたんだろう。
当のエネ・イヴは迷惑そうな顔してるがな……
「…………」
「…………」
リリスが「私がその役やりたかった」って顔してる…… お前はグリムの遺言を守ってやれよ。
因みにアーリィ=フォレストも「私がその役やりたかった」って顔してる……
多分「戦闘に参加しなくていい」ってところに惹かれたんだろう。
その時、塔から巨大な人影が現れた。
他の魔人の10倍はあるあの体躯…… もしかして……
「アレが巨兵か? 思ってたのとなんか違うぞ?」
「いいえ、アレは巨兵よ、肉体を持った巨兵を創造するには時間もかかるし、なにより素材が大量に必要になる。
だからエネ・イヴェルトは巨兵の心臓だけを創り出し、魔力により仮想体を構築したのよ」
心臓だけ…… アレは巨兵と呼んで良いのか? デカい魔人じゃないか。
「完全に急場しのぎね、多分私達の存在に気付いたのよ。
仮想体で創られた巨兵は、低コストで高魔力を得られる魔人とは真逆、アレ一体に膨大な量の魔力が費やされているはず」
急場しのぎか…… アイツも何から何まで計算ずくってワケじゃないのか。
人族を魔人に作り変えて集めた魔力をつぎ込んでまで防御を優先する理由…… レビィの言う通り俺達の存在に気付いたんだろう。
…………
少しでも時間を稼ぎたいという焦りが見える……
ならば……
「ウィンリー、それとアーリィ=フォレスト、頼みがあるんだが……」
「「?」」
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「キリシマ…… カミナ?」
アルベルト・ダラスと顔を突き合わせるのは久しぶりだ、前に会った時は端っから俺を犯人扱いしてやがったな……
赤木キャプテンの所為だったとはいえコイツの印象は良くない…… コイツが死んでから降りてくればよかったかな?
指揮官が死ぬのを待ってたら軍は全滅するか…… 仕方ない、助けてやるか。
「ウィンリー、アーリィ=フォレスト、頼む」
「フハハハハ♪ 任せるがよい♪」
「カミナ君の頼みだから聞くけど、なんで私がこの子と共同作業?」
ウィンリーは浮き上がり、アーリィ=フォレストはブツブツ言いながら前に出る。
降りてきたのは俺達3人だけ、残りのメンバーは上空で待機している。
「ウ……ウィンリー? アーリィ=フォレスト……だと?」
二人の名前にダラスが反応を示す、この禿はかつて創世十二使の序列一位だったんだからな……
如何に穏健派の魔王とはいえ、そのの名前を知っていて当然だ。
「それじゃ予定通りウィンリーが魔人を、私が巨兵をヤルから少し時間を稼いでね?」
「フハハハハ! 出でよ『無限空域』!」
「ちょっと! ちゃんと聞いてるの?」
………… 旧世代魔王に連携とか求めない方が良さそうだな。
ウィンリーが雲を発生させると周囲の気温が一気に下がる。
「氷天華・血晶」
次の瞬間、戦場に大量に溢れている魔人たちの動きが一斉に止まった!
これは…… 魔人の心臓を凍り付かせた? 相変わらずのチート能力だ。
突然動きを止めた魔人に、軍の連中も何が何だか分からず狼狽えている、ウィンリーのすごいトコロは魔人“だけ”を攻撃している事だ。
戦場には大量の魔人と同等数の人間もいた、しかし人間は誰一人凍り付いていない様だ……
「『世界樹女帝』!」
カンッ!
アーリィ=フォレストが杖を突くと、俺達の背後に巨大な樹の幻が出現する。
「地に蔓延り高みを目指せ、そして天を貫かん! 『血吸い蛇』!」
そして掛け声と共に地面からは無数の根が飛び出し、仮想体の巨兵を襲いだした。
「おぉ! 本当にスゴイ魔力量! 一体に魔人百体分くらいの魔力をつぎ込んでるわね」
やはり魔王の力は圧倒的だな、確かに多少の足止めにはなったが費用対効果で考えると、あまりにもむこう側の損が多すぎる気がする……
エネ・イヴェルトはそれほど焦っているのだろうか? もう魔力は十分なのかもしれないな。
そう考えれば世界中に魔人が散らばっているのも頷ける、あれじゃ魔力を回収できないからな。
「キ…… キリシマ・カミナ…… お前は…… 彼女たちは……」
「ダラス校長、貴方ならご存知でしょう? 彼女たちが何者かを……」
「それでは…… やはり……?」
ダラスの眼を正面から見据えて話す。
「そちらの幼…… 少女が有翼族出身の第5魔王 “風巫女” ウィンリー・ウィンリー・エアリアル。
そして耳の長い彼女が耳長族出身の第7魔王 “探究者” アーリィ=フォレスト・キング・クリムゾン・グローリーです」
「そ……んな…… 貴様! 一体何を考えている! 魔王を再びデクス世界に引き込んだのか!」
再びとは失敬な! 魔王を連れて来るのは何度も、何人もやっている。
ただし例のアレだけは俺じゃ無い。
「端的に説明します、あの塔、そして空に浮かぶ天体が完全に実体化した時、世界が滅びます」
「なん……だと?」
「これはデクス世界だけの話じゃありません、シニス世界も同様です、俺達はそれを止める為に来ました」
「そんな話……誰が……!」
「ダラス校長は相手の目を見ている時、その言葉が真実かどうかが分かるんですよね? その『真偽宣誓』で」
「…………っ!」
「今の俺の言葉は真実です、それとも自分の能力すら信じられませんか?」
「それはっ!」
「そ・れ・と! 以前にも言ったがマリア=ルージュを手引きしたのは俺じゃ無い! つーか犯人はアンタの教え子の赤木錐哉だ!」
おっとイカン、思わず声を荒げてしまった。
でもイイよね? 俺達はコイツの独断で無実の罪を擦り付けられたんだから。
「な……なにを馬鹿な……っ! そんなコトあり得ない!!」
「あり得ない? 俺が真実を語っている事はアンタが一番わかってるハズだ、確かに残念ながら証拠は無い、だがアンタの教え子だったなら赤木錐哉の能力くらい知ってるよな?」
「『電子の悪魔』か?」
「そう、それこそが世界中で電波障害を起こしていた赤いオーロラの正体だ、なんで気付かなかった? それとも気付いていてその可能性に目を反らしてたのか?」
「バカなッ! あんな世界規模で能力を発現できるはずが無い!」
「地球の磁場をそのまま利用したんだ、それがαアリアが南極に留まり続けた理由でもある、それに赤木錐哉は魔王マリア=ルージュの使途になっていた、能力の出力が上がったのはそれが理由だ。
確かキリヤ・レッドウッドとか名乗ってたな…… アイツも隠す気が有ったのか無かったのか…… 本名そのまんまじゃねーか」
「そんな…… バカな……」
フラッ……
ダラス校長がよろけた…… 余程ショックだったとお見受けする。
リリスもそうだったが、よくあんな狂人をそこまで信じられたな? コイツの人を見る目の無さはエネ・イヴェルトに匹敵する。