第335話 最終確認
シュン!
長距離転移でアイリーン・シューメイカーのセーフハウスへ飛ぶ。
「わっ!? 神那!? ビックリしたぁ、それ心臓に悪いよ」
たまたま目の前にいた琉架を驚かせてしまった、そんなつもりは無かったんだが、俺達は惹かれあう運命にあるみたいだ……そう思っておけば生きるのが楽しくなる。
「悪い悪い、もし琉架の心臓が止まったら、俺が責任を持って心肺蘇生するから」
要するに心臓マッサージと人工呼吸だな。
より分かりやすく言うと琉架の胸を合法的に揉む権利と、琉架の唇を合法的に奪う権利だ。
「心肺……蘇生……///
か……神那が責任持ってやってよ? 他の人に任せちゃダメだよ?」
「おう、任せとけ」
こんな美味しい役、誰にも渡さん! たまたま救急救命士が居合わせたって関係ない! 俺が頼まれたんだから俺がやる!
邪魔する奴は逆にそいつの心臓止めてやる!
だから俺の心臓が止まった時も琉架の救命処置を所望する、そういう意思表示カード作って持ってようかな?
まぁその内、心臓が止まって無くてもやってみせるぜ!
だいたい魔王の心臓は容易には止まらんだろうからな、そんなチャンスを待ってたら永久にDTのままだ。
「それで? どういう状況になってるんだ?」
「う~ん…… 取りあえずデルフィラで戦闘が起こってるのは間違いないね」
そう言った琉架の視線の先には、戦場となっているデルフィラのライブ映像が映し出されていた。
「TV中継してるのか?」
「うん、おかげで下手に介入できないんだよ」
コレは邪魔だな、軍もさる事ながらマスコミがすごく邪魔だ、さっさと逃げればいいものを……
軍がなまじ善戦してるのが良くない、全滅しろとまでは言わないが、さっさと撤退して欲しいトコロだ、時間がないんだよ時間が!
結局、姿を晒すワケにはいかないから全員この部屋で待機中だ。
俺たち新世代魔王は全員時間を持て余している、そんな俺達とは違い、旧世代魔王の諸君は3人とも実に忙しそうにしている。
リリスは電話先の人物を怒鳴りつけている、相手は使徒リーマンか? 電話を使ってるからレイフォード財団関係かもしれないな。
アーリィ=フォレストは…… パソコンに釘付けだ、ドコかの掲示板に何やら書き込んでいる…… 馴染むのはえーな。
ウィンリーはさっきから天井付近をキャッキャッ♪笑いながら飛び回ってる、初めて見る珍しいものだらけでテンションが上ってるんだろう。
うん…… 3人とも忙しそうだ、そっとしておこう。
特にすることも無いので刑事ドラマっぽくブラインドを指で広げて外の様子を伺う。
真夜中にも関わらずかなり明るい、神星から発せられる光のせいだろう。
これだけ明るいと闇にまみれて潜入するワケにもいかないな……
そういえばもう一人だけ暇そうにしている人物がいる、この魔王だらけの空間で唯一の非魔王に話し掛ける。
「エネ・イヴ、猶予はどれだけあるか分かるか?」
「そうですね…… 思っていた以上に進行速度が早いようなので顕在化完了は夜明け頃……でしょうか?」
後 数時間しか無いな……
デルフィラまでは転移で行ける、しかし軍の奴らが邪魔だ。
魔人を全滅させられるならまだしも、戦線を維持しているだけなら居ないほうがまだましだ。
状況が変化しない限り手の施しようが無い。
「…………そう、それじゃお願いね……」
リリスの電話が終わったか、それじゃ作戦会議だな。
「まず…… 今デルフィラに展開しているアルスメリア軍を引かせるのは無理ね」
いきなりかよ。
「理由は?」
「まだ数時間前に混乱が始まったばかり、住民の避難が全く完了してないのよ」
住民居るのかよ? 数ヶ月前に魔王の最終決戦場になり、核融合2連発にマイクロブラックホールまで発生し、街の半分が吹っ飛んだんだぞ?
住民戻ってくるの早すぎだろ? こんな事なら街全部吹っ飛ばしておけばよかった…… それはさすがにヤリ過ぎか。
「空母エルディナが既に港に入ってるし、陸軍も続々と集結中、この流れはもう止めようがない」
「はぁ…… 他にすることあるだろ? 特に陸軍は……」
「?? どういう事?」
「大和で魔人が降ってたぞ? あの様子じゃ世界中で起こってるだろ」
「はあっ!!?」
なまじデルフィラに近すぎる所為でそっちの情報は入ってきてなかったのか。
「それに次元トンネルを使って世界中に現れてるならシニス世界でも降ってるんじゃないか?」
「ちょ……ちょっと待ってて!」
リリスが再び通信を始めた、今度は電話じゃない、多分ガイアにいる使徒と連絡を取ってるんだろう。
しかしそうなると他の領域も心配だな……
「ウィンリーはスカイキングダムが気にならないのか?」
「別に問題なかろう? あの城に何者かが入り込めても空を飛べない者は落ちるだけだからのう、魔人は飛べん!」
そういえばそうだったな、あの城は有翼族専用領域だった。
「それじゃミラは?」
「え? 大丈夫だと思いますよ?
海の中で人魚族に勝てる種族はそうそういません、それになんの準備もなくアトランティスまで潜れるとも思えません、水圧で心臓が潰れます」
そういえばそうだった…… アトランティスに生身で行けるのは人魚族だけだ……
「そうなると地上の領域が問題か…… 例えばスサノオが死んだばかりのヘルムガルドは……?」
「心配無用かと思います、鬼族は魔人ごときにやられる程ヤワではありません、仮にも種族序列4位ですから」
そうだよな…… 鬼族は強いんだよ…… それに今はミス筋肉ネフィリムもいる、心配無用だな。
獣衆王国も大丈夫そうだ、何と言っても炭坑族が命懸けで盾になってくれるからな。
さすがに大氷河がどうなるか分からんが、機人族は住民自体が少ない上に地下暮らしだ。
心配するだけ無駄だな。
そうなると後はトゥエルヴと大森林なんだが……
ジ~~~……
我関せずって顔をしていたアーリィ=フォレストを見る……
ディスプレイにはさっきから何度も「ぬるぽ」と書き込んでいる形跡があるが誰も返してくれない様だ……
古すぎる…… 大体アルスメリアでやっても意味が無い、お前なんでそんなの知ってるんだ?
「? あぁ! キング・クリムゾンは大丈夫です! 私が創った結界が外敵を確実に排除してくれます!」
「そう……か」
それはあくまでもキング・クリムゾン限定の話だろ?
アーリィ=フォレストは耳長族の隠れ里とか気にするヤツじゃないよな。
ま、耳長族は魔力量では魔人に劣るが、魔術適正では遥かに上を行く、心配無用だろう。
むしろ問題は種族序列10位の魔人より下の種族だ。
つまり11位の妖精族と最下位の人族だ。
妖精族がどうなろうが知ったこっちゃない、そもそもムックモックにはほとんど妖精族は住んでない。
そうなってくると問題はやはりトゥエルヴだ。
魔人はプログラムで人の多い所を目指すはず…… またガイアが修羅場になるのか。
はぁ…… 最悪の場合は誰か一人をガイアへ派遣するか……
自分で立候補したいけど、きっと却下されるだろうし……
まぁ決めるのはリリスの報告を聞いてからでも遅くないだろう。
「……そう、分かったわ、そっちはよろしく」
ピッ
「…………」
「リリス? どうだったんだ?」
「え……えぇ…… なんだかよく分からないんだけど、なんか巨人族がガイアを含め、周辺一帯を警戒・守護してくれてるみたい。
だから…… 全然問題ないって」
「巨人族?」
ヴァレリアさんの仕業だろうか? しかし今のラグナロクに他所に戦力を出せる余裕があるとは思えないんだが?
「あ、ねぇねぇ神那、もしかしてあの人たちじゃないかな?」
「あの人たち?」
琉架には心当たりでもあるのだろうか?
「いつだったかガイアを襲ってた人たち、神那が生き埋めにしちゃった」
あぁ、そういえばそんな事もあったな、確か淫乱糞ビッチに操られてた巨人だ……
思い出した、確か罪滅ぼしにガイアに何かあった時には助けに来る……的なことを言ってた気がする。
巨人族が防衛してくれるなら安心だ、これも俺の日頃の行いが良いからだな。
………… わりと結構マジで。
コンコン!
「!?」
ノックの音? このセーフハウスに来客? 外は明るいが時間的には真夜中だ……
招かねざる客……か、パパラッチだったら脳改造だな。
バキッ!!
「あ…… 壊れた…… まぁいいか」
招かれざる客はドアを破壊して入ってきた、結構過激な奴だな。
てか現れたのはレビィ・グラン・ドラグニアだった、なんだお前だったのか。
「レビィ! どうだった?」
「塔の中で巨兵の創造が始まってる、アレが出てきたらたぶん人族の軍隊は居なくなるでしょうね」
家主は壊された事を怒りもせず報告を促す、世界に3人しか残っていない龍人族の、更にそのお姫様に偵察をさせてたのか…… 一応 “神” に分類される御方なんだが…… リリス、ナイス度胸だ。
しかし巨兵の創造? 塔の中で創ってる最中ってコトか? 軍隊が居なくなるってのは全滅するって意味だろ? このまま傍観してていいのだろうか?
「これは…… もう黙って見ているワケにもいかないわね……」
あ、やっぱり?
はぁ~~~、コレで俺も賞金首か…… いや、俺の首には既に賞金が掛けられているんだが…… 待てよ? 別に魔王だってバレ無ければ良いのか? 正義の味方として出ていくんだし、俺の懸賞金も取り下げられるかも……
いや、美女殺しは永遠について回るか。
むしろ今生き残っている魔王は全て穏健派だということを知らしめる為には好都合かも知れない。
そう上手いコトいくかどうか……
「カミナ!」
「分かってるよ……」
さてと…… それじゃ世界を救いに行くとしますか。