第333話 赤い雲・後編
高天市に降り立った魔人は周囲をキョロキョロ伺っている……様に見える。
実際は目玉など付いていない、見た目は半透明の裸体だ、性別はわからない…… 胸も無ければ三本目の足も無い。
ただし半透明の身体の中には心臓だけが浮かび、植物が根を張るように血管が伸びている様子が薄っすら見える。
見た目がキモい…… 恐らく2400年前のプロメテウスもあんな感じの見た目だったんだろう。
しかも降りてくる魔人は1匹ではない、遠くの空からも時折りオーラの塊が降りてくるのが見える、町中…… 或いは世界中でこんな事が起こっているのかも知れない。
今も昔も、プロメテウス型の魔人なんて電池扱いだ、それが何でこんな所でフラフラしてるんだ?
あまつさえ、ナニをトチ狂ったのか俺の部屋を破壊しやがった!
犯人…… お前たちだろ?
狙ってやったワケじゃないだろう……
そもそも脳みそが無いんだ、自我を持ち合わせてないんだろう…… プロメテウスは特別だ、魔王だから自我を持っていたんだろう。
だがそんな事は関係ない、俺の憂さ晴らしに付き合ってもらおう。
周囲を伺っていた魔人がこちらに気付いた、すると一直線にこちらに向かって来た、壁や電柱なんかをぶっ壊しながら……
あの行動はプログラムだろうな、人を襲い、心臓を奪い、新たな魔人を作り出すためにプログラムされている……
間違いない、アレが俺の部屋をピンポイントでぶっ壊した犯人だ、避けろよ! 今どき掃除機だって障害物を避けて進むってのに!
「うわっ! コッチ来る!? ちょっ! おにーちゃんなんとかして!」
魔人は斜向かいのお宅のカーポートと高級外車を破壊しながら近づいてくる、あそこのおっさん愛想悪くて苦手だったんだ…… ざまぁ、これは俺が悪いわけじゃないよな?
つーかこのままじゃウチの15年モノのセダンも殺られる、保険金が下りるならそれもありかもしれないが、たぶん無理だろ? なによりあの魔人がムカつく!
魔神器からスローイングナイフを取り出す。
狙うは外から丸見えの心臓だ。
「ふんっ!!」
転移投擲、さすがに仮想体の内部に転移させるのは無理だが、ギリギリ手前に飛ばし仮想体を突破る!
ボンッ!!
アッサリと貫通した。
この仮想体は人族の未強化体と強度に差がない…… ここまで全力で投擲しなくてもよかったかも……
あぁ…… マズイ、心臓を貫通したスローイングナイフが斜向いの高級外車のエンジンルームに突っ込んでいった……
ドガアァァアアーーン!!!!
爆発した…… マジかよ…… いくら苦手なおっさんだったからってココまでするつもりはなかったんだが……
ま、いいか、犯人は魔人だ、俺がやった証拠はドコにもない、ナイフも当然『強制誘導』で回収する。
仮にドコかの監視カメラに映像が残っていたとしても、転移投擲は認識できまい。
「ねぇ…… もしかしておにーちゃんが狙われてるの?」
「さぁ、どうだろうな……?」
あの行動はプログラムだ、脳みそが無いんだ間違いないだろう。
恐らく能力値の高い人間を襲い、心臓を奪うようプログラムされている…… しかし性能は極めて低い、障害物を避けられないあたりル○バ以下だ。
「……というコトは、おにーちゃんと一緒にいるとまたアイツに襲われるってことよね?
…………
じゃあおにーちゃん、さっさと事態を終息させてきてね? いってらっしゃ~い♪」
妹に切り捨てられた……
「いや…… 俺がいなくなれば能力値の高い伊吹に群がってくるだけだぞ?」
たぶん……
「は? じゃあどうすればいいの?」
「あの程度なら伊吹でも余裕で倒せるって」
「嫌よ! だってアイツ見た目がキモい!」
そんなこと知るか。
気持ちは分からんでもないが……
「じゃあティマイオスかラグナロクに戻るか? アッチにいればさすがに大丈夫だと思うが?」
「えぇ~……」
てか、今頃になって気付いたが、周囲に人の気配がない、オーラも見えない…… まさか根こそぎアノ魔人にヤられた後じゃないだろうな?
「伊吹、ウチのおとんおかんはドコ行った?」
「あれ? おにーちゃん知らなかった? 子供が二人とも居ないからって夫婦水入らずで旅行中だよ」
相変わらず呑気な親だが取りあえず無事だと思う。
まさか今倒した魔人がオヤジだったとか、そういうトラウマイベントじゃないだろうな?
…………
いや、無いな、オヤジなら愛車やマイホームを犠牲にする戦い方を絶対しない、例え脳ミソが無くても本能が拒絶する。
でも斜向かいの高級外車は潰すかもしれないな…… 嫌な予感がする…… この事は忘れよう。
「それじゃ伊吹は学院に行け、多分みんなあそこに避難してる、だからこの辺誰も居ないんだよ」
「えぇ~…… 私が学院に行ったら戦闘員として防衛任務させられるんじゃない?」
「たぶんな、でも後衛だ、直接対峙しないだけマシだろ?」
「う~~~ん」
後は琉架の実家、ホワイトパレスに保護してもらうという手もある、あそこならLv.99の執事とメイドが完璧に守護してくれる。
ただし俺の妹である伊吹が快く迎え入れて貰えるかどうかは難しいトコロだ。
個人的には琉架の実家に借りを作りたくないので、このプランは内緒だ。
「はぁ…… 仕方ない、学院に行くか……」
「おう、気を付けていってらっしゃい、俺はすぐアルスメリアに……」
「ちょっ! 私をこんなトコロに放り出していく気!? 兄なら妹を送っていきなさいよ!!」
「お前バカか!? 俺が学院に顔を出したらとんでもないことになるだろ!!
えぇーい離せ!! 纏わりつくな!!」
「あんなキモいのが闊歩する街に可愛い妹を放置するとか有り得ない! 責任持って送り届けろ!」
「可愛い妹はベルトを奪おうとしない! 止めんか! ポロリを狙うな卑怯者め!!」
「……二人ともナニしてるの? 兄妹で……」
「ん?」
「え?」
いきなり声を掛けられた、しまった…… いくらなんでも警戒感なさ過ぎだった。
そこに居たのは……
「なんだサクラ先輩か……」
「なんだとはナニよ、相変わらず失礼な後輩ね」
そこにいたのはD.E.M. を脱退し、普通の女の子に戻ったサクラ先輩だった。
「何か嫌なイベントが起こったから、もしかしたらどっかに神那クンが居るんじゃないかなって思ってたんだけど、やっぱり居たな。
トラブルあるトコロに霧島神那アリ!」
イヤな造語を造られた、あながち間違ってないだけに抗議し辛い……
だがちょうど良かった。
「先輩、伊吹のコトお願いします、学院に連れて行ってやってください」
「は? なに藪から棒に…… 神那クンが自分で連れて行けば……ってワケにもいかないか」
「えぇ、俺はすぐにアルスメリアへ行かなければならないので……」
「え? ちょっと待ってよ、このトラブル鎮静化させてから行ってよ、どうせキミの所為なんでしょ?」
酷い冤罪だ、俺はどちらかと言えば巻き込まれ体質なのに。
「このトラブルの原因の根元は恐らくアルスメリアにあります、だからその元を叩きに行くんですよ」
「トラブルの原因……? ねぇ、一体何が起こってるの?」
「そうですね…… 2400年前から続いている因縁に終止符が打たれようとしている……って感じですかね?」
「……………………」
アレ? なんでそんな冷めた目をしてるの? これは俺の脳内設定では無く純然たる事実だ! 違うぞ! 暗黒の病じゃ無いぞ! その異常者を見るような目ヤメロ!
「先輩の方こそこんな所でナニをしてるんですか?」
「私は避難し遅れたヒトがいないか見回ってるのよ、この辺のヒトはみんな学院に避難してるから」
そうか、人が居なくなった隙きに俺の部屋を物色し、俺の弱点を掴みに来たんじゃないのか。
俺はもう少しサクラ先輩を信用すべきかな?
「だったら伊吹をお願いします、防衛力にもなるから扱き使っていいですよ」
「扱き使うかどうかは置いておいて、確かに伊吹ちゃんが来てくれれば心強いんだけど…… また妖魔族みたいな強い奴が出てきたりしない?」
「保証はできませんが…… まぁ大丈夫でしょう」
今後、天使や巨兵が出てこないとも限らないが……
「ハァ…… しかし春は本当に大きくて厄介なイベントがよく起こるわね、これも『大変革』の一部なのかな?」
あ、久しぶりに聞いたなその単語。
「前から不思議だったんですけど、それってドコの地方の言葉なんですかね?」
「え? 地方?」
「だって『大変革』って『レボリューション』が訛ったか、もじった言葉ですよね?」
「………………
………………
………………あぁっ!!」
今の今まで気付かなかったのか……
この先輩、ホントに頭イイのかな?