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レヴオル・シオン  作者: 群青
第六部 「神の章」
337/375

第331話 塔 ― バベル ―


「え? リリスが誘拐したのですか?」

「はい…… 私は赦されざる罪を犯しました、どうか首をお刎ね下さい」


 おい待てコラ! 罪を償おうとする姿勢は立派だが、お前グリムの遺言を放り出して死ぬ気か?

 そして放り出された遺言は俺が尻拭いさせられるんだから死ぬことは許さん。



 リリスが2400年前の“原罪”の告白をしている……

 とっくの昔に時効なんじゃないの?って気がするが、2400年封印されていた方からすれば許せるものじゃない。


「あ……頭を上げてくださいリリス、私はナニが起こったのか全く分かってないのです」


 どうやらエネ・イヴは自分の身に起きた封印事件の犯人がリリスだとは思っていなかったらしい…… 2400年も考える時間があったくせに可能性すら出てこなかった…… お人好しにも程がある。


「何かあったのでしょう? そうせざるを得ない理由が……?」


 甘い…… エネ・イヴはネオテーム並みに甘い…… 相当甘やかされて育てられたと想像できる。

 古代神族(レオ・ディヴァイア)の最後の子…… それはつまり最後の孫であり、最後の娘であり、最後の妹でもある……

 そりゃ大事に大事に育てるさ、次代神族(ネオ・ディヴァイア)が彼女の身柄を要求した時、古代神族(レオ・ディヴァイア)が怒り狂ったのも想像に難くない。


 なんとなく…… 規模に違いはあれど、琉架の生い立ちに似てるな……


 ならばさぞ騙しやすかろう。

 リリスの“原罪”なんか簡単に帳消しにできるし、電話一本かけるだけで簡単に100万EN振り込んでくれそうだ。

 そしてエネ・イヴェルトに絶対渡すわけにはいかない。


「しかしどんな理由があろうとも、私はエネ・イヴ様を……っ!」

「貴方の罪は私が許します」


 被害者が許すって言うなら……まぁいいか。

 うん、チョロいな。


 リリスが不起訴になったところで話を戻そう。


「リリス、何が起こったんだ?」

「え? 何の話?」

「………… お前が言ったんだろ「大変な事が起こった」って、デクス世界で何か起こったんじゃ無かったのか?」

「あぁ! そうだった!」


 自分の支配領域であるデクス世界の事なのに…… 適当なヤツだ。



---


--


-



 その後…… 戻ってきたヴァレリア女史を加えて再度会議を行なう、どうやらネフィリムを一人旅に送り出してきたようだ…… まぁ彼女は居ても居なくても大して変わらん、それどころか会議の妨げになりかねないからな。


 ちなみにエネ・イヴとヴァレリアさんの感動の再会は割愛させてもらう。




「魔人が現れたの……」

「魔人? っていうと機人族(イクスロイド)のご先祖様的なアレか?」


 リリスが会議再開直後に新たな敵の出現を告げた…… 予想はしていたから驚きはしないが……


 魔人は次代神族(ネオ・ディヴァイア)側の尖兵、つまりエネ・イヴェルトが用意した手駒か……

 今更ナゼ? まさか戦争でも始めるつもりじゃ無いだろうな?


「魔人は魔人なんだけど、2400年前とはちょっと違うの……」

「違う……とは?」

「現れた魔人には実体が無い…… 有るのは心臓だけ……」

「心臓だけ…… つまり心臓以外の全てが仮想体で構成されてる?」

「正しくその通りよ」


 それはつまりプロメテウスと同じってコトか? 要するに能力値だけを極限まで高めた魔人だ。


「そんな魔人がアルスメリアのデルフィラ周辺に大量に現れ出したの、そして人々を襲い始めた……」


 またデルフィラか…… あの街呪われてんじゃないのか?


「しかし分からんな、何故そんな事をする理由がある? アイツの目的は古代神族(レオ・ディヴァイア)の神星だろ? デルフィラを襲って何か意味があるのか?」

「そんなの私にもわからないわよ」


 そりゃそうだ、しかし意味の無いことをするとも思えない……

 何か理由が…… ソレを俺たちが考えても分かる訳ないか……


「恐らくそれは世界をぶつける為の準備に入ったという事でしょう……」

「?」


 今まで黙って聞いていたエネ・イヴが、何か意味ありげな事を呟いた。

 そうだよ古代神族(レオ・ディヴァイア)最後の生き残りのエネ・イヴならエネ・イヴェルトがやりたい事も予想できるかもしれない。


「詳しく話してもらってもいいか?」

「はい…… 神星を手に入れる…… その為には物理的に神星へ到らなければなりません。

 その為には神星をこの次元に顕在化する必要があります」

「顕在?」

「はい、神星は我々が暮らすこの世界より遥かに高位の次元に隠されています、恐らくそれはデクス世界の神星も同じでしょう」


 確かに…… デクス世界では世界中ほぼくまなく探索され尽くしている、神星がどれ程の大きさかは分からないが、地中深く埋めでもしない限りとっくに見つかっているハズだ。

 しかし未だに見つかっていないという事は、目には見えない場所に隠されていた……と考えるのが妥当だろう。


「それを見つける為に世界をぶつける? ってのはどういう意味だ?」

「ドコに隠されているか分からない神星を見つけ出す為の、最も簡単で最も荒っぽい方法が世界をぶつける事なんです。

 この世界はガラス球に包まれた世界だとイメージして下さい、二つの世界をぶつければガラス球は割れ、その外にある世界と繋がります」

「そこに神星があると?」

「はい…… エネ・イヴェルトはその世界をぶつける準備に入ったんだと思われます」


 俺がかつてイメージした混沌の海に浮かぶ星みたいな感じか……


「その準備と魔人の大量発生には何の関係があるんだ?」

「それは向こう側の神星を顕在化させる為に必要だからでしょう」

「??」

「えぇと…… エネ・イヴェルトは向こう側の神星の位置を知っています、自分で隠したのだから当然でしょう」

「うん、それは分かる」

「しかし高次元に隠されている神星へ赴くにはどうしても顕在化させる必要があります」


 ん? エネ・イヴェルトは既に神星を使って次元トンネルを開通させてる、顕在化させる必要があるのだろうか?

 まぁいい、今は取りあえず話を聞こう。


「エネ・イヴェルトは神星にアクセスする為の(バベル)を復活させるつもりでしょう。

 その為には大量の魔力が必要なんです。

 魔人はその為の燃料代わり…… 人族(ヒウマ)の心臓から無理やり魔人を作り出しているのでしょう」

「なに? 人族(ヒウマ)から魔人を作り出してる?」


 そんな事があり得るのか? しかし人族(ヒウマ)龍人族(ドラグニア)以外のすべての種族の元となった種族、不可能じゃ……無い?


「一つだけ確認させてほしいんだが……」

「はい、なんでしょう?」

「もしエネ・イヴェルトの目論見通り世界が衝突したら…… 世界はどうなる?」


 さっきの例えを聞いた限りじゃ、ただじゃ済まなそうだが……


「滅びるでしょう…… ほぼ間違いなく」


 やはりか……


「そんなこと! 絶対にさせません!」


 リリスが立ち上がり高らかに宣言する。

 意気込みは立派なんだが具体的なプランを出せよ。


「もし仮にだ……」

「うん?」

「エネ・イヴェルトが既に(バベル)を復活させるのに必要な魔力を手に入れていたとしたら…… どうやって止める? 塔をぶっ壊せばいいのか? 塔ってドコにあるんだ?」

「え~~~と……」


 みんなの視線がエネ・イヴに集中する。


(バベル)の位置は次代神族(ネオ・ディヴァイア)しか知り得ないでしょう……

 もし塔が起動していたら取れる手段は一つだけです」


 あ…… 嫌な予感がする。


「神星を破壊するしかありません」


 やっぱり! そんな事だろうと思ったよ!


「つまり最悪の時は向こうの神星に乗り込んで自爆させるか爆破するミッションがでるのか」

「いぇ…… 神星には神族しか立ち入れません」

「は?」

「神星が顕在化していれば外部から物理的に破壊することが可能です」


 なるほど…… 顕在化は向こうにとってもリスクのあるプランなのか。

 しかし潜入・破壊ミッションが使えないとなると……


「ちなみに、神星ってどれくらいの大きさなんだ?」

「う~ん…… 向こうの神星がこちらと同程度のサイズがあるとしたら直径およそ1000kmの球体でしょうか?」


 …………


「準惑星レベル! そんなもんどうやって破壊しろってんだ!」


 クソッ! 船のイメージだったのに本当に星レベルじゃねーか!


 内部に入れればやり用もあったが、生憎神星は神族以外立ち入り禁止だ。

 外側からチマチマやったって効果ないだろ?

 琉架の『対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)』のゼロ距離射撃なら? そこまで接近できるか分からないし、下手したら爆発に巻き込まれる。


「リリス、お前の能力の中に破壊できそうなのはあるか?」

「いや…… いくらなんでもデカすぎるでしょ? カミナの方こそ何かないの?」

「………… 破壊できそうな奴が1人だけいたんだが……」

「だ…誰ッ!?」

「グリム、第2魔王グリム・グラム=スルト」

「あ~……」

「グリムの『変換消滅(レラティヴィティー)』なら準惑星程度なら破壊できただろう」


 もしかしたらそれを危惧して真っ先に倒されたのかもしれないな……

 しかしグリムはもういない、『変換消滅(レラティヴィティー)』を継承した者もいない……

 反物質さえあれば……


 …………


「あれ?」

「どうしたの?」

「もしかしたら俺…… 反物質作れるかも……」

「…………はい?」

「反物質は簡単に言うと反核子でできた原子核と、陽電子で作られた原子で構成される物質だ」

「あの…… 全然簡単じゃないんですけど……?」

「あ~…… 要するに電荷の+と-が逆の物質だ、例えばプラス極のみの性質を持つ磁石とマイナス極のみの性質を持つ磁石があったとしよう、どっちも同じ磁石だが性質は真逆、そんな感じかな?」


 説明難しい! いや、この際反物質の説明はどうでもいい、知りたい人はググってくれ。


「それが通常の物質に触れた時に対消滅が起こる。

 これなら直径1000km程度の準惑星レベルでも破壊できる。

 物質の構成がわかれば血液変換で簡単に作れるかもしれない、もちろん大量に生成する必要があるだろうが」


 しかもグリムの『変換消滅(レラティヴィティー)』とは比べ物にならないくらい代償が少ない。

 自分の身を切る……って意味では同じだが、俺の場合は必ずしも俺の血を使う必要はない、誰か別の奴の血を使って反物質を作り出すことが出来る。


 だが…… 大きな問題もある。


「じゃあカミナなら神星を破壊できる?」

「多分な…… ただし命懸けになるだろうけど……」

「?? どういうこと?」

「破壊対象が神星だからな…… 行ったことのない場所だと『強制転送(アスポート)』で反物質だけ送り届けて終わりってワケにはいかない。

 転送射程の限界、どう頑張っても100km程度の近距離で使用せざるをえない、その後すぐに瞬間移動で離脱したとして…… 間に合うかどうか……」


 思いっきり期待されているが、できれば別のプランが欲しい……

 そもそも(バベル)を起動させなければいいんだ、これは最終手段だ。


「下手すれば自爆だな」




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