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レヴオル・シオン  作者: 群青
第六部 「神の章」
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第330話 謝罪


「あなた…… もしかしてアーリィ=フォレスト?」

「ぅえ? あ…… あぁ~……」


 急に話し掛けられてアーリィ=フォレストがキョロキョロと視線を彷徨わせている。

 隠れるためのスペースを探してるんだな、しかしここはラグナロク、都合良く狭い部屋とか見つかるハズ無い、トイレですら俺の実家がすっぽり収まるほど広いんだ。

 人族(ヒウマ)サイズのトイレが近くにあるとも限らない。


 暫く迷った後、結局テーブルの下に潜り込んだ…… そこまで嫌か? 一応味方陣営だったんだろ?


「アーリィ=フォレスト、顔見知りだったのか?」


 テーブルの下を覗き込みながら話しかける、めんどくせぇな……


「うううううッ!!」


 首が落ちるんじゃないか? ってくらい、激しく首を横に振る。


「顔み知りじゃ無いのか?」

「うッうッうッ!」


 今度は縦に激しく首を振る、長い髪を振り乱し、まるでヘッド・バンキングのようだ…… それ首痛めるぞ?


「私が一方的に知ってるだけなんです、だから言葉を交わすのは今が初めてです」


 そうなのか…… しかしアーリィ=フォレストとは今もまともに言葉を交わしているとは思えないんだが? あ行の言葉しか喋ってないし。


「それじゃウィンリーのコトは知ってるか?」

「ウィンリー?」

「そこで伊吹と戯れてる有翼族(ウィンディア)…… 天使と言ったほうが分かりやすいか?」

「天使…… いえ、初めて見ます……」


 魔王のこと知らないのか? リリスはエネ・イヴの事をよく知ってるふうだったんだが……


 クイクイ


「ん?」

「カ……カミナ君、私もウィンリーもあの時まで終末戦争に参加してなかったんです、当時の知名度は低かったと思います」


 あの時? え? 参加してなかったの? せっかく魔王の力を持っていたのに使わないとか、宝の持ち腐れ…… あぁ、そういう事か。

 十二魔王誕生直後にエネ・イヴは封印されたんだったっけ? 魔王の名が歴史に登場するのはその後だ、だから知らないんだ。

 そういえばリリスがそんなこと言ってた気がする……

 当然だな、ウィンリーの様な幼女が魔王になる前から戦場に出ていたハズ無いだろ。


 むしろちょっと不安になった、エネ・イヴの頭の中では未だに有翼族(ウィンディア)巨人族(ジャイアント)は敵なんじゃないか?

 ラグナロクに連れてきたのは失敗だったかな? しかしウィンリーを見る目に恨みが籠っているようには見えない、2400年も暗闇の中にいたら人格も変わるかもな。


「しかし…… 2400年も経ってるのにどうして……?」

「やはり魔王のコトを知らないのか?」

「魔王?」

「魔王とは半不老不死の覚醒者のコト…… 貴方が世界で初めて使ったギフト『進化神化(ディヴァイアス)』により進化した12人の王のコトですよ」

「進化…… 私が?」


 一応、今の世界情勢と魔王についてざっと説明しておく、細かい説明は後回しだ、病み上がりで色々詰め込んでも混乱するだけだ。



---



「ちなみに昔のアーリィ=フォレストってどんな感じだったの?」

「ちょっ…! カミナ君っ!?」


 せっかく歴史の生き証人がいるんだ、昔のコトを聞かせて貰おう。


「とても優秀な研究者だったと聞いています、若くして歴史的な発見を幾つもしたと……

 研究のためなら危険な場所へ赴くことも厭わない…… そんな人物だったと聞いています」


 それ誰のコト? 俺はアーリィ=フォレストの過去を聞いたんだけど?

 そうか、2400年前は本当に “探究者” だったんだ…… それがどうしてこうなった?


「危険な場所へ赴くことも厭わない……? へぇ~」

「うっ…… わ……私だって昔からこうだったワケじゃありません!」


 アーリィ=フォレストが「プンスカ!」って擬音が出そうな感じで怒ってる、そうだよな、誰だって最初からヒキコモリじゃないさ。

 引きこもりになるには引きこもりになるだけの理由がある、挫折だったり、挫折だったり、挫折だったり…… 他に理由が思い浮かばない。

 まぁアーリィ=フォレストの場合は挫折では無く、自分の宝物を守るために引きこもったんだが……


「そういえばヴァレリアさんはドコ行った?」

「うぅ…… 今は席を外してます、あの筋肉質の女を引きずっていきました」


 ネフィリムを連行していったのか、本当にあの人が死んでたらラグナロクが滅んでたな。


「あの…… ヴァレリアってヴァレリア・ドラグニアの事ですか?

 彼女は無事なんですか?」

「あ? あぁ、無事だよ、彼女は生き残った」

「そう……ですか、良かったです」


 まぁエネ・イヴの顔見知りなんて殆ど残ってないだろうからな。



 ヴヴヴヴヴ……



「ん?」

「な……なんですか? この音……?」


 門を開きし者(ゲートキーパー)の音だ、リリスが帰ってきたか……

 一体どんな反応するだろう? チョット楽しみ……



 フッ スタッ!



「リリ……」

「カミナ! 大変なことが起きちゃった!」


 俺の言葉を遮られた…… てか、エネ・イヴの方を全く見ていない。

 まさに俺しか目に入らないって感じだな、まったく…… 禁域王はツライよ。


「あのな……」

「どうしよう! あぁもう! どうしよう……」


 聞けよ。

 つーか、助けを求めるような喋り方…… 嫌な予感しかしない。

 お前、数時間前に「手出し無用」的なこと言ってなかったけ?

 ちょっとカッコイイって思ったのにアッという間に前言撤回だよ。


 余程のことが起こったのか…… もしくはエネ・イヴェルトとは関係ないトラブルか……

 どちらにしても手伝わされそうだ。


「リリス……?」

「なに! 私今ちょっと忙……し……い……?」

「あ……ゴ…ゴメンナサイ……ね?」


 エネ・イヴ様、謝っちゃったよ…… このヒト押しに弱い感じだな。

 そしてリリス…… 敬愛するエネ・イヴを怒鳴りつけちゃったよ…… 今のは俺は悪くないぞ?


「エ…ネ…… イヴ……さ……」


 フラ~…… バターン!


 ………… 倒れた。

 向こうでナニがあったのか喋ってから倒れろよ、テンポの悪いヤツめ。


「リ…リリス!? どうしたの!? 大丈夫!?」


 ………… やはりエネ・イヴは2400年前の封印事件の真相を知らないのか……

 とにかくいつまでも寝てられたら話が進まない、起こすか。


 気を失った者を起こすのに、後ろから肩の辺りを押さえて「ふんっ!」ってやって起こしている場面をマンガで見た、アレってナニやってたんだろう? 試してみるか。


 倒れているリリスを床に座らせる形で起こす、この時点で意識を取り戻したら計画倒れだ、気付くなよぉ~?

 リリスの背中に膝を当てて…… それで? どうするの?

 やっぱりやり方がわからない…… しかしココまでやって引き下がるわけにはいかん! だってみんな見てるし……

 いいや、やっちまえ♪


「ふんっ!」

「痛っだ!!?」


 リリスの意識を取り戻すことに成功した、まぁ痛みで起こしたって感じになっちゃったな…… 次からはデコピンでイイか。


「イタタ……! ちょっとカミナ、何したのよ?」

「リリスが急に気を失ったからな、起こしてやったんだよ」

「気を? あぁ…… 夢を見たわ……」

「は?」


 なんか語りだしたぞ?


「エネ・イヴ様がちょっと困った表情で、私に優しく語りかけてくれたわ…… そんな夢を……」


 うん、まぁ今現在もリリスの隣で困った表情で苦笑いしていらっしゃる、いい加減気付いてやれよ、目の前にいるのに無視とかちょっと可哀相だろ。


「リリス、それは夢じゃないぞ?」

「えぇそうね、わかってるわ、夢でなんて終わらせない、私が絶対にエネ・イヴ様の封印を解いて見せるわ!」


 ダメだコイツ、なんか自分に酔ってて人の話を全く理解していない。

 未だに夢を見てるんじゃないか? う~ん…… 起こし方が悪かったのかな?


「えぇと…… ありがとうリリス、私の為にそこまで言ってくれて……」

「?」


 業を煮やしたエネ・イヴが自ら行った!

 さあ! 被害者と加害者の2400年ぶりの対面だ!


「……………………え?」

「久しぶりねリリス、元気そうで何よりです」

「……………………

 ……………………

 ……………………」


 リリスは無反応だ、また落ちるかな? 今度はデコピンで覚醒させてやるから好きなだけ落ちろ。


「っう…… えっ…… あ……」


 リリスの視線はエネ・イヴに釘付けだ、その状態で何故か俺の顔をペチペチ叩いてくる…… おい、ヤメロ! 止めないと指 舐めるぞ?


「ナニコレ? どういうこと? 説明して…… その前に私の耳噛んで」


 そこはほっぺた抓ってだろ? どんだけテンパってるんだよ、危うく衆人環視の中リリスの耳を甘噛みするトコロだった。


「落ち着け」

「アタッ!」


 軽くチョップして落ち着かせる。


「数時間前にスサノオが死んだらしい、まさかと思ってティマイオスへ確認に行ったら、ご覧の通りエネ・イヴは復活していた」

「スサノオが……? それじゃ本当……に?」

「あぁ、本物の『終焉の子エネ・イヴ』だ」


「うっ…うぅ…… エネ・イヴ様…… ゴベンナザイィィィ!」

「え? え? なに?」


 リリスは泣きながらエネ・イヴに抱きついた…… それがゴメンナサイをするヒトの態度かね?

 エネ・イヴも何がなんだか分からず狼狽えてる……

 説明より先に謝るのは悪くない、謝罪テクニックとしてはベーシックで無難な手だ。


 しかし……


「うぇぇぇええぇぇぇ!!」

「あの……っ えぇ~?」


 あの豊満な胸に顔を埋めて…… あれじゃ謝罪というよりご褒美じゃねーか。

 別に羨ましくなんか無いけど…… 今度誰かにやってもらおう、ミカヅキか琉架かミラ辺りに……




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