第323話 最後の言葉
「あの島…… あそこにいる……」
白が指さした先には少し大きめの島があった、下から見るとかなりボロボロだ、ホープを着陸させるのは止めておくべきかな?
ここまで近寄れば俺でも分かる、小さいオーラが2つと、消えかけが2つ……
アルヴァ、ヴァレリアの他にも生き残りがいたのか?
ホープを浮遊島の上に移動させ、何時もの如くみんなで飛び降りる。
「グリム! みんな!」
着地と同時に走り出したリリスを追うように、4人の元へ近づく……
そこにいたのは……
片腕を失い深手を負った状態のアルヴァ・ドラグニア。
胸の出血が止まらず顔色が相当悪いヴァレリア・ドラグニア。
寝かされている第2魔王グリム・グラム=スルト。
そしてその隣に寝かされているのがレビィ・グラン・ドラグニア。
人の姿に戻ってるってことは生きてるって意味かな?
バラウールの死体はジーサンの姿には戻らなかったからな。
しかし寝かされてる2人はオーラが殆ど残ってない…… これは…… 手遅れなんじゃないか?
「リリス……様…… 回復を……お願いできます……か?」
「わかってる! いいから喋らないで!」
? 傷の治療くらい自分たちですれば…… 龍人族は回復魔法を使えないのか、単純に魔力切れなのか?
リリスは魔神器から魔力微細制御棒を取り出し……
「第1階位級 生命魔術『命神』アニマ」
おぉっ! 魔導最上位回復魔術『命神』か!
リリスの後ろに青白い光を放つ女神が姿を現す。
女神は傷ついた4人を包み込むように光の帯を広げ、そっと息を吹きかけた。
光りに包まれた4人の傷は強い輝きを放つ…… げ、アルヴァの腕が生えてきた! キモッ!
…………
あぁ、この女神様、どっかで見覚えがあると思ったらエネ・イヴがモデルなのか。
そういえば魔王城 ディグニティの大ホールに飾られた女神像にも似てる、アレもエネ・イヴがモデルだったんだな。
アルヴァとヴァレリアの傷は癒えた…… これで2人は大丈夫だろう。
レビィの傷も塞がった、しかしオーラが流れすぎた、このままでは近い内に死ぬか永遠に目を覚まさないか……
そして魔王グリム…… 彼には何の変化も見られなかった、欠損した腕も…… 胸に空いた刺し傷も…… 癒えることはなかった。
「そんな……」
やはり魔王グリムは復活できないか、心臓を貫かれたんだ、これは魔王の死だ。
どうすることも出来ない……
「コレより強力な回復術なんてこの世に存在……
そうだ…… 蘇生魔術!」
おいおい、チョット待て、少し落ち着け。
「アーリィ=フォレスト! あなた蘇生魔術知ってるでしょ!? 使って!!」
なに?
「早く! 手遅れになる!」
「ちょっ…待っ…… えぇ~?」
「落ち着けリリス」
アーリィ=フォレストに掴みかからん勢いのリリスを後ろから抱きしめて止める。
程よいボリューム…… まだまだ成長途中って感じだな、まぁ魔王は身体的成長はしないからずっとこのボリュームなんだが……
「アーリィ=フォレスト、蘇生魔術を 使えるのか?」
「うっ、ふぅ…… 勘違いされても困るからハッキリ言います。
確かに術式は知っているけど私には使えません…… 正確には誰にも使えないです」
「? どういうことだ?」
「端的に言うと蘇生魔術を使えるのは神族だけ、恐らく古代神族だけです」
あぁなるほど、まさに神の御業ってわけか。
しかし2人を救う手段がなくなったワケじゃない、琉架の『時由時在・両用時流』で時間を巻き戻すか、アーリィ=フォレストの『世界樹女帝・生命回帰』で無理やり生命力を注いでやる……
この方法なら少なくともレビィは救えるだろう。
だがグリムは……
いくらなんでも人が多すぎる、琉架の『時由時在』は無理だな、だったら……
「アーリィ=フォレスト、『世界樹女帝』を試してくれないか?」
「え? あぁ、生命の実ですね? う~ん…… カミナ君の頼みなら……
でもグリムは……」
「わかってる、それでも……」
「………… わかりました、でも期待はしないでください」
アーリィ=フォレストは渋々って感じだ、別に失敗しても責めなし、誰にも責めさせないから安心してやってくれ。
「では……」
何処からともなく例の豪華な杖を取り出す…… あれ? 魔神器あげたっけ?
あ、そういえば自分で魔道具作れるんだったな。
「世界樹女帝よ、その大いなる実りの欠片をココへ、かの者に大いなる祝福と無限の癒しを…… 『生命回帰』」
杖を振るうと俺達を取り囲むように巨大な幻の世界樹が現れる。
その枝から光る実が二つ落ちてきた…… 二つ? アレってものすごい量の生命力が込められてるんだよな? 過剰回復で一気に老化して死なないだろうな?
いや、龍人族も巨人族も寿命は有って無いようなモノだ、いきなり老衰で死ぬ事も無いだろう……
…………多分。
パァァァァァ!!
グラムとレビィの身体が激しく光る、どうだ?
「…………うっ……」
「レビィ!!」
「リリ……ス? 一体……どうなったの?」
「それは…… あとで改めて話すわ」
そうだな、病み上がりの人に作戦失敗を告げるべきでは無い。
まだ失敗したと決まったワケでもないしな。
問題はグリムの方だ、生命の実により注入されたオーラが体中を巡っている、しかしそのオーラが留まるコトは無い、胸の傷口からどんどん流れでていく……
やはりダメか……
「ぅ……」
!?
「グリム!?」
「……っ……」
意識を取り戻した? バカな…… まさに奇跡だ。
だがこのオーラの流出ペースだと数分と持たない、生命の実を与え続ければしばらくは生きていられるのだろうか?
何の解決にもならないが……
「リリス…… すまん…… 失敗したようだ……」
「グリム黙ってて! すぐに傷を塞ぐから!
カミナ! 『神血』で傷口を……!!」
「リリス…… 話しを聞いてやれ、お前自身わかっているんだろ?」
「…………っ!」
「魔王グリムは勇者の『魔王殺し』を喰らったんだ、もう助からない……」
「そっ! ……それは……」
エネ・イヴェルトが憎い憎い魔王を始末するために用意した才能『魔王殺し』、仮にも神が用意した才能だ、助かる術は無いだろう。
「どうやら…… エネ・イヴェルトという男を……読み間違えたようだな……」
「…………」
「こうなってしまっては仕方ない…… 済まないとは思うが……」
「後のことは私に任せなさい、だからアナタは安心して眠りなさい」
うわ、言い切った。
リリスさんマジか?
「! そうだな、後はお前にすべて任せる……」
パキッ! パキィッ!
魔王グリムの身体が爪先の方から崩壊しだした。
こんな演出初めて見るな、これが『魔王殺し』を喰らった者の末路か……
「ヴァレリア…… ラグナロクはお前に任せる……」
「かしこまりました……」
いいのかそれで?
ヴァレリアさんは龍人族だ、巨人族の行く末を安易に託してもいいのか?
もっとも他に託せる奴がいないってのも事実だ、他の四天王は糞の役にもたたない、特にあの恋愛脳筋を後継者にしたら1週間くらいでラグナロクは落ちるんじゃないか?
パキパキパキッ……
そうこうしている内に崩壊は胴体に及んでいる……
「アルヴァ……」
「心配するな、言われるまでもない」
「……そうか」
いや、言わせてやれよ! 遺言みたいなモノなんだから!
「キリシマ・カミナ……」
「あ?」
へ? 俺? 俺に話しかけてきた?
しまった! 返事してしまった!
「もし叶うならリリス・リスティスを支えてやって欲しい……」
「…………」
クソッ! やられた!
コイツずりーよ! 死にゆく者の最後の願いとか! ぜってー確信犯だ!
「気が……向いたらな?」
「それで十分だ……」
チッ! せっかくしめやかに見送ってやろうと思ったのに、厄介な呪いを残しやがって!
これ以上余計なこと言う前にとっとと死ね!
パキパキィ……
とうとう崩壊は胸の位置まできた、そこに至った途端、崩壊は残りの全身に広がった。
「あとは……頼む……」
パキィィィィン―――
第2魔王 “神殺し” グリム・グラム=スルト……
色々と嫌な感じのフラグをばら撒いて逝った。
歴代魔王で唯一勇者にやられた魔王という不名誉な記録を残してしまったな。
この事は秘密にするか、俺たち他の魔王の品位まで落ちかねないから。