第322話 覚醒者
意味分からん……
この宇宙で最も確率の低い運命がやって来た感じだ。
天の川銀河とアンドロメダ銀河が明日衝突するくらいあり得ない!
エネ・イヴェルトとアンチ神様同盟の最終決戦に割って入った男が一人……
49代目勇者ブレイド……
なんで?
やばい、混乱している…… まずは落ち着け。
あれ……本物?
相変わらずの赤髪・青鎧、出会った頃は正義感に溢れ真っ直ぐな瞳をしていたが、近年では憎悪に塗れ猜疑心が溢れ出たような顔をしていた。
俺のよく知る顔だ…… 見間違えるハズも無い、一度はあの顔を破壊した俺が言うんだから間違いない。
ただ一つだけ…… 俺のよく知るバカ勇者とは違う点がある。
それは目だ、ヤツの両目が赤く光っている、まるで緋色眼の様な……
「アレはまさか…… 覚醒しているのか?」
「!?」
勇者の大先輩であるジークフリートがなんか言った、覚醒だと?
「あの目の輝きは覚醒顕現だ…… 少なくとも俺の時はそうだった」
「覚醒顕現……」
確か勇者の覚醒には時間制限があったって話だったな、要するにアレだな、エンペラータイムだ。
覚醒が顕現している間…… 目が赤く光っている間に限り、勇者は魔王を圧倒できる力を得る……ってやつだ。
ジークの後輩である勇者は覚醒者に至れる可能性がある…… 以前リリスはそう言っていた。
それに期待してマリア=ルージュにぶつけたのに結果は期待外れの大惨敗、まぁ個人的には予想通りだった。
それが何で!
今まで活躍して欲しい時には一切しないで、こんな時に限って余計なコトするんだよ!
大体アイツはデクス世界を彷徨っていたはずだ! どうしてこんな所に……
…………
あ……
「そういうコトか……」
「神那?」
「勇者…… 勇者っていうのは次代神族が生み出した、魔王に対するカウンタープログラムだ、1200年前から発生し始めた勇者を任命したのは当然 次代神族唯一の生き残りであるエネ・イヴェルトのハズ……
勇者こそがエネ・イヴェルトに用意できる唯一の手駒だったんだ。
アンチ神様同盟が最終決戦に向けて準備していたのと同じように、エネ・イヴェルトも急場しのぎではあるが無理矢理用意したのが勇者だったんだ」
うっかりしてた、絶対に役に立たない認識だったから、最終決戦に勇者が割り込むなんて考えもしなかった。
しかし勇者の出自を考えれば十分に予測できたハズなのに……
まさか今までの無能っぷりはこの時の為の布石だったとでも言うのか?
…………
無いな、あの馬鹿は常に全力全開だった、つまり今の勇者は魔王カオスと同じく操られている可能性がある。
どの程度操られているのか? カオスみたいにガッツリ精神を侵食されているのか?
アイツは馬鹿だから簡単に言い包められる、そんな労力を払う必要も無いか。
「何であの人がこんな所に居るの? だってデクス世界にいたハズだよね?」
「それは…… 次元トンネルだ」
「次元トンネル…… あ」
「次元トンネルが世界中に開いていたのも真の目的から目を反らす為の囮だったんだ」
そして次元トンネルを自在に開けるのは『神星』を使える次代神族のエネ・イヴェルトだけだ。
しかしそれにしてもトンネルの数が多すぎる気もするが…… 何か他にも目的があったのかも知れないな。
だがそうなってくると辻褄が合わない、魔王カオスはエネ・イヴェルトの魂を監視するために1200年も眠ってたんだろ?
最終決戦前に怪しい動きをしていれば、何かしかけてくるとバカでも分かるハズ……
う~ん…… わからん。
今となってはその事を魔王カオスに確認することも出来ない、だって心臓だけになっちゃったから。
…………ってそうだった! 今重要なのはグリムの事でも、勇者の事でも無かった!
重要なのは魔王カオスの心臓だ! 誰でもいいからアレをさっさと潰せ!
映像の中の勇者が剣を引き抜く……
ブシュッ!
『ガフッ!!』
グリムは盛大に血を吐き前のめりに倒れた、力を使い果たしたところに不意打ちを食らっては、さすがの第2魔王もタダじゃ済まないか……
ビュンッ! ピピッ!
勇者は剣を振り、刃についていた血を飛ばす…… 実に勇者らしくない行動だ。
普段のアイツならきっと今頃ウザい感じの勝鬨を上げているハズ、あんな冷静な勇者は勇者じゃ無い。
勇者はグリムを無視し、カオスの心臓の前まで歩いていった……
そのままお前が潰してくれれば、それはそれでアリなんだが……
しかし……
勇者は剣をしまうと、おもむろにカオスの心臓を拾い上げ懐に仕舞い込んだ。
やはりそっちのルートか…… クソッ! 最悪の展開だ!
ドゴオオォォォン!!
!?
唐突に勇者が攻撃された、攻撃の来た方向にはティアマトがいた。
ティアマトは続けざまに空圧ブレスを吐き出している、今の一撃で勇者死んでないのか?
ボフッ!
土煙から勇者が飛び出してきた、普段のアイツらしくない機敏な動きでブレスを避けていく…… あの人ダレ?
いつもなら潰れたカエルみたいになって地面に半分埋まっているハズなのに!
そして……
スゥゥゥ―――
消えた……
次元トンネルをくぐったんだろう、やはりリアルタイムで操作している奴がいる。
「カミナ!」
「ん?」
「私…… 行かなきゃ」
リリスの主張…… いつもなら「いってらっしゃい」って言うトコロだが……
「わかった、行こう」
八大魔王同盟+αで向かうことにした。
ただし伊吹は強制お留守番だ、現地は有毒なガスとかあるかもしれない、ヴァレリア女史が呪いっぽい力を使ってたからな。
魔王と不老不死者以外は近づくべきではない。
そう言って説得したんだが……
「なんで私だけ留守番なのよ! この変態クソ童貞! 死ね!!」
物凄く酷いことを言われた、おにーちゃんはお前を心配して言ったんだがなぁ…… 心が折れそうだよ、さすが俺の妹…… 口が悪い。
ミラにお願いして童貞ってワードをアイツの脳内から消してもらおうかな?
伊吹の脳改造は帰ってからするとして、最終決戦の地へ向かう。
しかし現地へ直接『門を開きし者』で飛ぶことは出来ない、龍尾平原跡地にはマーキングが無いのだ。
元々は用意してあったのだが、先程の戦いで消え去ってしまった…… まぁそうだろうな。
むしろ覗き見魔術のマーキングはよく残ってたな。
「龍尾平原に一番近いマーキングは…… レクシリア龍神国ね」
レクシリア龍神国…… ギルディアス・エデン・フライビの中央に位置する国だ。
多種多様な種族が共存し、規模的にもガイアに似ている浮遊大陸最大の大国だ。
普段ならちょっと寄り道して、トラブルに巻き込まれて、一騒動ある…… そんな感じの国なんだが、今回は華麗にスルーだ。
とっととホープを呼び出す、管理人のジーサンが死んだから、もしかしたらもう来ないかとも思ったが、今のところは問題ないらしい。
呼び出したホープに乗り込む、魔王同盟が勢揃いしていれば街の上空にホバリングしているホープに飛び乗ることなど造作もない。
目立つのはこの際無視だ、国民もそれどころではなさそうだし。
目指すは浮遊大陸の北の果て、龍尾平原跡地を目指して飛び立つ。
空から見たレクシリア龍神国は至る所で建物が崩れ、結構な被害が出ているようだった、最終決戦の地が近かったから対消滅の衝撃波も強かったのだろう。
龍人族の連中も住民を避難させとけば良いものを…… せっかく魔王スサノオの予測を賜ったんだから。
もしかして被害を最小限に抑えたのが現状なのかな?
壊れた街を横目に北へと急ぐ……
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ティマイオスを出ておよそ1時間……
龍尾平原跡地上空へと辿り着く。
周囲には大小様々なサイズの浮遊島が浮かんでいる、今なら浮遊島取り放題だな…… まぁティマイオスは高性能だからもう要らないんだけど……
大陸の端っこ辺りに巨人騎士が数十人集まっている、何人かは生き残ったのか…… 南側に布陣してた奴らだ、運が良かったな、他の奴らは海の藻屑になったり対消滅のエネルギーに巻き込まれ死んでいった。
1時間前よりはだいぶ見通しがいい、浮遊大陸が割れたことにより空圧領域が外れたのかな? 強い風に吹かれて土煙や砂埃が飛ばされたんだ。
しかし未だに火山のような煙を上げてる浮遊島もたくさんある。
…………
現場はドコだ? 浮遊島群は上下左右 三次元的に広がっており、しかもフラフラ動いてやがる。
さっきはたまたまティアマトが飛んでいたから行き先が予想できたが、島の形なんか覚えて無い、仮に覚えていても見分けが付かない……
更に要塞龍最小のホープでも、この岩石群の中を目的地を探し求めて飛び回るのは危険だ。
しかしこの浮遊島群、相当広いぞ? 龍尾平原とは一体どれだけの広さがあったのだろう?
ココは先輩魔王の叡智に縋ろうか。
「ウィンリー、さっきの島の場所って風の声を聴けば分かるか?」
「ぅんにゃ、生まれたばかりの島々の場所など分かるハズ無いのぉ」
ごもっとも…… ムチャ振りだったな。
こうなったらリリスの『不確定未来』に頼るか? あまりアテにはならないが……
「おに~ちゃん……」
白に袖を引っ張られる……
「あっち…… 弱々しいけど何人かのオーラが見える……」
おぉ! 白の『摂理の眼』はまだ相当距離があるのに死にかけドラゴン達のオーラを捕らえられるのか!
さすが俺の白! 優秀だな!
白の頭を撫でながらホープに指示を与える。
もしかしたら他にも生き残りがいるかも知れないな。