第320話 第1魔王 ~絶対無敵~
なんてこった…… 龍人族は全員やられてしまった……
だいたい誰がこんな作戦考えたんだよ! 寄りにもよって最強の魔王に神様の魂を閉じ込めようなんて!
もっと弱いやつに閉じ込めろよ!
そのせいでこの大惨事だ!
もちろん理由があったんだろうさ! 他のやつじゃ無理な、止むに止まれぬ事情が……
しかし龍人族が総力を上げてもダメな奴に閉じ込めるくらいなら、それ以外の方法を考えろよ!
俺の見立てでは龍人族の総戦力は八大魔王同盟に匹敵すると思ってたのに…… それほどの大戦力でも手も足も出なかった……
もし…… 俺達がアイツと戦わざるをえない状況に追い込まれたら…… 八大魔王同盟でまともに戦える可能性があるのは二人だけだ。
時間を操れる琉架と、アイツと同じく不死身化できるアーリィ=フォレスト…… この二人だけだ。
もちろん戦えるってだけで、勝てるかどうかは別問題だが……
絶対無敵の前にはジークの不老不死の呪いも効かない可能性がある。
もし、どうしても戦わざるをえない状況になったらジークを囮にして逃げるか…… うん、もしかしたら呪いも有効かもしれないからな。
しかし今日、この世から龍人族という種族が絶滅してしまった…… 正確にはまだ一人残っているが、そいつこそが種族絶滅の原因なんだよなぁ…… 第1魔王カオス・グラン・ドラグニア……
…………
まてよ? よくよく考えたらティアマトはまだ生きてるんじゃないか?
どこ行ったアイツ? 死体が消えた?
あ、人の姿に戻ってる?
しかし既に片腕を失っており、これ以上の戦闘継続は無理そうだ…… それでも戦い続けるのだろうか?
魔王カオスも止めを刺すつもりなのだろう、アルヴァに向かってゆっくりと歩きはじめる……
しかし数歩歩いた所でその歩みは止まった。
カオスが見据える先…… そこには……
第2魔王グリム・グラム=スルトの姿があった。
とうとう動くのか?
魔王グリムは一人で立ち向かうのか…… 戦場を取り囲んでいる巨人騎士はあくまで壁役か、確かに相手が第1魔王では何の役にもたてないだろう。
むしろこんな時に主を守るために四天王が居たのだろうが、一人はさっきやられてしまった……
他の3人の内2人は今頃病院のベッドの上だろう、そして最後の1人は懲罰房かどっかに入れられてる。
あの恋愛脳筋の暴走のせいで大変なことになってしまったな…… この戦いが終わったら裁判で死刑判決受けるんじゃないか?
完全に自業自得だから助けない。
もっとも巨人四天王がいても結果は変わらなかっただろう……
如何に巨人族トップクラスの実力者でも龍人族には及ばないだろうからな。
「魔王グリムが動くってことは条件が整ったって意味か?」
つまり魔王カオスの魔力枯渇が近い……
しかしアイツは『絶対無敵』が無くても相当に強いハズ…… 少なくとも他の龍人族たちより強いことは間違いない。
…………
ちょっと不安になってきた、魔王グリムは勝てるのか?
「リリス、一つ質問がある」
「なに?」
「魔王グリムの能力って知ってるか?」
「………… えぇ…… 本質的にはカミナの『血液変数』に近い性質をもってる……」
「?」
血液変数に近い性質? 血液操作能力者って俺とマリア=ルージュの二人だけじゃ無かったのか?
「魔王グリムのギフトは『変換消滅』よ」
「『変換消滅』?」
「彼は自分の身体…… 質量をエネルギーに変換する事ができるのよ」
自分の身体? なんで質量って言い直した? 質量をエネルギーに変換って…… まさか。
「魔王グリムは自分の身体で核融合とか起こせるってコトか?」
「えぇ、そうよ……」
なるほど、確かに血液変数によく似てる、てか俺も自分の血で核融合とか起こせるもんな……
なんだろう…… すごく不安になって来た…… 確かにスゴイ能力だ、実際に俺は核融合で魔王レイドを倒してる……けど、俺に出来るってだけでショボイ能力に感じる……
こんなモノで本当に魔王カオスが倒せるのか?
「グリムの『変換消滅』のすごいトコロはエネルギーの変換効率の高さなのよ」
「なに?」
「グリムは自分の身を削ることにより、質量をほぼ100%エネルギーに変換できるわ」
「なっ!!?」
ほぼ100%!? んなアホな!! 核融合だってエネルギー変換効率は1%以下だ!
100%のエネルギー変換ができるってコトは…… 理論上、対消滅しかあり得ない、つまり……
「魔王グリムは自分の身体を反物質に変える事ができるってコトか!?」
「反物質? 悪いけど私にはそこら辺の詳しいコトまでは分からないのよね?」
何を呑気な事を言ってるんだ? 魔王グリムが「ちょっと自殺しようかな?」って思ったら星ごと道連れになるレベルだぞ!?
そんな力を今から使うっていうのか!? ちょっと待て! 俺達がデクス世界に避難するまで待ってくれ!
…………
あぁっ!! 次元トンネルが大量に開いているから逃げても意味が無い!
終わった…… 龍人族どころの話じゃ無い…… 今日世界が滅びそうだ……
世界が滅びる前にDT捨てときたかったなぁ…… いや、今からでも遅くない!
好都合にも今ココに俺の嫁達が揃ってる! オルフェイリアのコトは置いておくとして、今すぐ全員と結婚して世界終焉記念の乱交パーティーでも開催するか。
おっと、その前にジークはティマイオスから蹴り落としておかないと……
そんなことを考えてる内にグリムは戦闘を開始した、カオスに向かってまっすぐ突っ込んでいく!
あぁっ! 早いよ! この早漏ヤローめ! DTとかどうでもいいからイチャイチャさせてくれよ。
グリムと同時にカオスも飛び出した。
お互いが拳を突き出しそれがぶつかり合う!
カッ!!!! ドオオオォォォォオオーーーン!!!!
周囲の雲は消し飛び、大地は砕け、巨大な光の柱が空の彼方へ消えていく……
なんだ今の? 波動砲? 魔王グリムが拳から波動砲撃った。
放出エネルギーに指向性を持たせる事ができるのか…… 良かった…… ギリギリ世界は滅亡の危機から逃れた。
…………
それよりカオスは!? 今の攻撃は効いたのか!?
お…… おぉっ!
魔王カオスの右腕は肘の下辺りから吹き飛ばされている!
はじめてまともに攻撃が入った! とうとう魔力が切れたのか?
或いは…… グリムの反物質で対消滅を起こしたのか?
どちらでもイイ、コレはイケそうだ!
いや、油断は禁物だ、今みたいに期待させといてアッサリ敗れる奴を俺は何度も見てきた。
もはや説明するまでも無くマンガでだけどね?
『………………』
『………………!』
何か喋ってる…… 残念ながら聞こえないが、エネ・イヴェルトと魔王グリムには深い因縁がある。
2400年以上にも及ぶ長くて根深い因縁だ……
今こそ決着をつけろ! 第2魔王 “神殺し” グリム・グラム=スルト!
お前が負けたらコッチが迷惑するからな!
二人は一斉に飛び出す、この期に及んでまだ殴り合いで挑むのか?
よく見ると魔王カオスの身体を覆っていた光は消え、左腕だけに集中させている。
その状態で超接近戦の殴り合い、二人とも狙いは互いの心臓…… 或いは頭だろう……
ボッ!! ボボッ!!
連続で繰り出される一撃必殺の拳、しかし互いに相手を捉えることは出来ない。
身体のドコであろうと当たれば戦闘継続が不可能になる、その次の一撃で心臓か頭が破壊される……
そんな避ける以外に選択肢の無い戦い、二人はスウェービングが異常に上手い……
グリムのほうが身体が大きい、スピードはほぼ互角…… カオスは片腕を失っている…… 一見グリムの方が有利に見える。
そんな時だった、魔王カオスの腰の辺りからナニかが飛び出しグリムの腹を貫いた!
『!!』
尻尾だ! 先ほどの翼同様、身体の一部の変身を解除し武器としたんだ。
まるでナイフのように鋭い尻尾が一瞬の隙をついてグリムの胴体を捕らえた!
その攻撃に思わず膝をつくグリム! 頭が攻撃しやすい位置に来てしまった!
終わる! 魔王カオスがグリムの顔面目掛けて大振りのパンチを放った!
ダメだったか…… そう思った瞬間……
ズブッ!
魔王グリムの身体はさらに下へ沈み込んだ!? よく見るとグリムの足元の地面だけ腐ったように柔らかくなっている!?
「まさかっ!?」
魔王グリムの後方に、アルヴァに支えられたヴァレリア女史がいた…… 彼女がやったのか…… てか、生きてたのか。
目標が予期せぬ動きをしたため、カオスの攻撃は空を斬った……
そして…… グリムの右腕がカオスの胸に当てられる……
『『変換消滅』無限解放!!』
魔王グリムから発せられた光は、カオス・グラン・ドラグニアという存在全てを飲み込んで真っ白に塗り潰していった!




