第319話 第1魔王 ~殲滅~
マジか…… あっという間に3人やられたぞ……
これで残りの龍人族はたったの4人…… もはや世界を上げて保護しなければならない最優先保護対象だろ?
超少数種族を虐めるなよ!
…………
あれ? それを言うなら次代神族は世界にたった1人しか残って無いともいえるか……
…………
まぁロンサム・イヴェルトのコトはどうでもいいか、アイツは害獣みたいなモノだ。
その存在を知る者は少ないが、知ってる者は絶滅を望んでいる、俺に害がある存在なら滅べばいい。
それよりも問題は龍人族の方だ、バラウールの…… 確かキングズリイ・ドラグニアだったか……
要塞龍の管理人をしていたあのジーサンだ…… 別に親しかったわけではないが知り合いが死ぬのはちょっと胸に刺さるモノがある。
これでホープを管理する者がいなくなってしまったな、ペットを残して死んでしまうとは…… しかしまぁ問題無いか?
ホープの現所有者は俺達だ、つまり半不老不死の魔王だ、俺達がホープを永久に馬車馬代わりに扱き使ってやれば管理人は元々必要なかった……とも言える。
まさかホープがジーサンの忘れ形見になってしまうとは…… はぁ……
そしてもう1人、ファフニールのヴァレリア女史だ。
龍人族でありながら巨人四天王の1人でもあった彼女が逝ってしまうとは……
正直、巨人四天王で一番まとも…… 唯一の常識人だったとも言える、彼女がいなくなると今後の魔王グリムとの交渉にも影響が出てくるだろう。
彼女には生き残って欲しかったんだが…… はぁ……
あぁ、あと1人、リンドブルムの~~~…… ヴェルノ? ドラグニアだったか?
コイツは面識が無かったから…… まぁ…… な?
ぶっちゃけ全員ドラゴンの姿をしてたからあまり実感が沸かない。
しかもまだ戦いは終わっていない、実質的に魔王カオスは傷一つ負っていない状態だ。
アイツは一体どれだけの能力値を誇っているんだ? もう3日目だぞ? それだけの時間を休まず戦い続けている、気付かれないよう能力をON/OFFしていたとしても、これほど持つものだろうか?
仮に琉架に匹敵するほどの能力値を持っていたとしても、ここまでは……
何かカラクリがあるのか?
どちらにしてもこのままでは全滅必至だ、何か手を打ってくれ!
しかし事態はすぐに次の展開へと移っていく……
リヴァイアサンが濃い霧を吐き出した、中継画像はあっという間に真っ白になり何も映さなくなった。
現在はかなり遠くから撮影しているのだが、全く見えない…… 時間稼ぎだろうか?
なるほど…… 魔王カオスの『絶対無敵』は本人を無敵化する能力だ、直接的な目潰しは効かないだろう、しかしこうやって相手の視界を奪う事は出来る。
確かに有効な手段だ…… ただし相手が魔王じゃなければな……
ユラ……
一瞬、霧が揺らめいた…… 相変わらず何も見えないが、何が起こってるのかは見当が付く。
魔王カオスがリヴァイアサン目掛けて突進したんだ……
だって魔王だぜ? 緋色眼を持ってる。
こんな霧じゃ何の役にも立たない、それくらい1000年以上準備してきた龍人族なら分かりきってるハズだ。
ドドドドドドッ!!
? 何の音だ?
次第に霧は晴れていく…… 魔王カオスの姿が確認できた。
大量の氷の槍に取り囲まれている、槍はカオスを中心に半径100メートルのドーム状空間内に次々と生成され、凄まじい速度で撃ちだされている。
これは複合技か? リヴァイアサンが空気中に水分を供給し、ヴリトラが氷の槍を作り出す。
しかしカオスは意に介さず歩き続けているが、時々動きが止まる…… もしかしたら攻撃を無効化した時に自身の運動エネルギーも無効化されるのだろうか?
だとしたら弾幕を張り続けるのはかなり有効な対抗手段だ、なぜ今までやらなかった?
いや、もしそれが正しかったらアイツは一歩も動けないハズだ、何か法則があるのか?
映像を見ている限りでは『絶対無敵』に穴は見つからない、現場で、自分自身の手で試せば何か分かるかも知れないが、今のトコロは魔力切れを待つ以外の方法が思い浮かばない……
だからこっちにお鉢が回ってくるのはマジ勘弁だ、だからガンバレ龍人族! 例えお前達が今日絶滅しようとも、絶対に魔王カオスを倒せ!
代わりにお前達の遺伝子情報は俺が回収してしっかり保存しといてやる、運が良ければ未来の世界でクローン復活できるかもしれないからな。
これで後顧の憂いは無くなった! イケ! 龍の戦士たちよ!!
『グアアアァァァァァアアァァアァァ!!!!』
「!?」
魔王カオスが突然吠えた! 攻撃を受けたワケでも、断末魔の叫びでも無い、だが現場ではカオスの咆哮により氷の槍が全て吹き飛ばされていた……
今のは魔法では無い、ただの声だ……
なんという大声…… ディスプレイ越しでもこっちの空気がビリビリ震えた感じだ、当然龍人族たちの動きも止まってしまっている。
あ…… ヤバイ……
魔王カオスがお得意のタックルをかます、相手は妹であるリヴァイアサンのレビィ・グラン・ドラグニアだ!
バカな……! 妹を攻撃すると後で100倍になって返ってくるコトを知らないのか? ちょっと階段でパンツが見えただけでビンタされるは、母親にチクられるは、小遣いは減らされるは…… 大変な目に遭った…… 俺が悪いワケじゃ無いのに……
あ…… そういえば中身が違うんだった。
迫りくるカオスに対し、リヴァイアサンは自分の目の前の大地を砕き、巨大な泥水の壁を作り出した。
あれで攻撃を止める事は出来ないが目暗ましにはなる、密度の高い物質を通すとオーラは見え難くなるからな…… 対魔王戦術としては勉強になる…… もう使う機会も無いだろうが。
ズバンッ!!
『ギャアアアァァア!!』
なんとか魔王カオスの攻撃をかわした…… とは言い難いか……
直撃は避けられたが長い尻尾の一部、身体の1/4くらいが千切れた。
しかもまだ攻撃は終わっていない、カオスは体勢を立て直すとすぐさま次のタックルを放つ!
対するリヴァイアサンはまともに動けない!
そんな1人と1匹の間にティアマトが身体を割り込ませる!
バカ! 庇うくらいなら突き飛ばせ! 一緒に貫かれるぞ!
『キシャァァアア!!』
ティアマトの咆哮!
すると突然、魔王カオスの足元の地面がおよそ100メートル程の真円状に陥没した。
深さはこの位置からは分からないが数十メートルはありそうだ……
急に足場を失ったカオスは為す術無く穴に落ちていった……
「あれって…… 『星の御力』かな?」
確かに見た目は近かった、しかし……
「ぅんにゃ、アレは気圧じゃ」
「気圧?」
答えを出したのは先輩魔王ウィンリーだった。
なるほど、ティアマトは空気を操っていた、瞬間的に数百倍…… 数千倍の気圧をあたえて大地ごと陥没させたんだ。
「さすがウィンリーちゃん! すごい!」
「フハハハハ♪ もっと褒めて♪ もっと褒めて♪」
さすが“風巫女”ウィンリー先輩! 大気の専門家だけあって一目で見抜いた。
だが「もっと褒めて♪」と自分で要求したやつ始めて見た……
しかしこの手はあまり良くない、ティアマトも今頃それを痛感しているコトだろう…… 絶対無敵の能力者を一瞬でも視界の外へ追いやってしまうのは危険だ。
さっきのリンドブルムと同じ目に合うぞ?
ボゴッ!!
ティアマトの目の前の地面から何かが飛び出してきた!
もはや確認するまでもない、飛び出してきた者は魔王カオスだ!
ティアマトはとっさにリヴァイアサンを庇おうとするが、距離が近すぎる。
ズドッ!! ズドン!!!!
ティアマトは肩付近を貫通され、右の前足が落ちた。
そして…… リヴァイアサンは前足の真ん中あたりの胴体に穴を開けられた……
西洋龍以上にドコに心臓があるか分かりづらい東洋龍だが、心臓があるとすればあの辺りだろう……
2頭の龍を貫いた魔王カオスはそのまま空を舞っている、その背中には……
「あ…… 羽生えてる……」
魔王カオスの羽は、ウィンリーの様な羽毛の翼ではなく、コウモリちっくな皮膜の翼だ…… 爪とかギザギザがたくさん飛び出していて実に悪魔っぽい。
魔王カオスは大きく弧を描き旋回する…… 次に狙われるのは最後の一人ヴリトラだ。
ヴリトラも迎え撃つように飛び上がる、空中戦でもするつもりか?
ヴリトラが一度羽ばたく度に周囲の天気がどんどん悪くなる、突風が発生しているようだ。
その風に吹かれるとカオスは体勢を崩す……
そういう事か…… 『絶対無敵』は自分に対する攻撃は無効化されるが、周囲の気流まで安定させる力はない。
さっきの落とし穴と同じ、周囲の環境を変化させれば多少の足止めは可能なんだ……
あくまでも多少は……だけど。
魔王カオスは大きく羽ばたくと一気に上空へと飛びあがる、そこで翼をたたみ弾丸のような勢いで真っ直ぐヴリトラ目掛けて下降を始めた。
身体を激しく回転させている…… 気流の影響を極力受け流す為か…… 飛ぶ必要が無ければ自分に掛かる厄介な風は『絶対無敵』で無効化できる……
アイツ…… 結構頭いいぞ? さすが最強の魔王と呼ばれるだけはある、いや、中身はエネ・イヴェルトなんだっけ? 実に厄介だ。
『グアアァァアア!!』
ヴリトラは身体をずらしカオスの射線から逃れる、それじゃダメだ。
カオスがヴリトラを通り過ぎる直前、翼を広げ軌道を修正した……
ズドン!!!!
魔王カオスの身体はヴリトラの頭からケツまでを真っ直ぐに貫いていった……